綺麗な言峰とか呼ばれ始めた奴 作:温めない麻婆=ちゃっぱ
その女神は苦労していた。
自らはウルクのためにと日々動いており、全てはウルクに住まう民に絶望を感じさせないよう安らかな眠りにつかせるため。
しかしそれは、ある日を境に全てがひっくり返る。
三度も死にかけたギルガメッシュはそれを知っている。女神がたった一つの麻婆によってウルク地下にいたガルラ霊が異様な汚染を受けて赤く染まったことを。ほのかに麻婆の匂いがすることも。
普通の料理だったらそんなことはなかったが、聖杯を受けた麻婆による影響なのだからそれは計り知れない。
ギルガメッシュが笑うのも仕方がないこと。何度も笑い死にかけてシドゥリに呆れたような顔で小さく溜息を吐かれても何も思うことはない。
あの男は偽物であるが、そうではない。本物よりもある意味厄介な男であった。
なんせあの言峰綺礼は、無自覚に場を荒らす介入者。
マーリンから見れば珍妙な生き物。物語へ意図的に介入するメアリー・スーであればやりようもあったが、彼はそういう輩ではなかった。
ただ真剣に、麻婆を食べたいと願っていた。
ただそれだけでここまで事態が悪化したのだ。
いつの間にか愉悦から外れて、敵を裏切るか味方を裏切るか、そういう大事なことを忘れる馬鹿者であった。
笑い死にかけるのもしかたがないことだろう。
冥府の女神は麻婆に翻弄され、とある別の女神は麻婆に困惑しつつも受け入れ始め、元凶に与する女神は次第に染まってきている。
イシュタルなんて麻婆を作るための料理器具をエビフ山からかっぱらってきた物を加工して作られたのだからある意味被害者だ。ギルガメッシュにとっては愉悦以外の何物でもないが。
あの男、よもや女神特攻でも入っているのではないだろうか。
スキル麻婆で女神が麻婆汚染するような感じのものかもしれぬな。
そう馬鹿な冗談を言えるぐらいにはギルガメッシュは上機嫌であった。
何故ギルガメッシュが冥府にいるのか。
なぜこうなったのかと言えば、まあそれは敵のせい。麻婆の元凶たるあの男を取り込んでしまったが故の被害。しかし敵も甚大な被害を被っているのだから自業自得なのだが……。
「もう、なんでこうなったのだわ!? やっぱり私が……わたしが、ちゃんと見張ってなかったからなのかしら……!?」
「フハハハハハ!!」
「笑ってないで手伝いなさい!」
「断る! 何故我が冥府の雑用をする必要があるというのだ。貴様はウルクを攻め入ろうとした女神。我が手を動かす道理もないわたわけ! フハハハハハ!!」
「もう! ウルクが麻婆まみれになっても知らないのだわ!!」
「たわけ! 我がウルクを舐めるな。あれは一過性に過ぎん。このような事態だからこそ許容できる範囲のもの。あ奴らはそれに翻弄されウルクは力を得ているがな! ……ふ、フハハハハハ!! 我が見ていたアレよりも酷く、麻婆一つでここまで未来が変わるとは、もはや笑うしかないではないか!!」
「笑うなぁ!!」
女神は涙目になりながらもギルガメッシュに向かって怒鳴る。
しかしギルガメッシュはそれを愉悦しながら眺めていた。
通常の未来ではそんなことはあり得ない。
何が起きるのかある程度分かっているからこそ、こんなカオスな事態はあり得ない。
しかし、言峰という男が介入してから────何もかも、まあ良い意味でも悪い意味でも変わってきてはいるのだ。可哀そうなのは敵側だとギルガメッシュは考える。
冥府すらも多少は赤くなったところで色合いが鮮やかになったのだから良い方ではないか。哀れではあるがなと笑う。あのエビフ山でもこんな事態になっていたならばとギルガメッシュは笑う。嗤う。
もはや上機嫌王でしかないぐらいには、面白い事態にしてくれたものだと理解する。
ウルクは危機に瀕しているが、己自身が予想するほどではない。
おそらくは、あの男が来る以前は確定していたであろう未来よりマシになるはずだと理解している。だからギルガメッシュは天草に多少の無理を言った。やるべきことがあったがそれはそのままにしてやったのだ。
天草には、言峰を殺す役割を持たせなくてはならない。
だからギルガメッシュは彼を残した。
ああしかし────と、元凶に関していくらか文句を付けてやりたいところだと彼は嗤う。あの言峰を食べようとするとは本当に何をしでかしてくれたのかと、多少は怒りを込み上げながらだが。
「アレは異様さを凝縮したような男だぞ。否、愉悦さを見出された男とも言うがな。────故に、奴らは失敗したのだ。あれを自由にさせこのウルクへ入らせたせいで麻婆まみれになったともいえるがなぁフハハハハハ!!」
「うぅ……そんなの知らないわよぉ……」
ついでにあの麻婆の匂いしかしない残念な聖杯についても思うところがあった。
もしもこのウルクであの言峰が消滅した場合、あの残念な聖杯を中身が本物の『言峰綺礼』が持っていく可能性もあると、ギルガメッシュは理解し懸念していたからである。
聖杯とはいえ、あの残念な聖杯を宝物庫に入れるのもな……と、ギルガメッシュは悩む。
まあそれは、これから先を乗り越えるために考えよう。
周りは太陽のない薄暗い世界。
ガルラ霊たちがうようよ彷徨う冥府そのもの。
しかしそこに一滴の麻婆が流れ込んだせいで汚染が始まった。
ガルラ霊はほのかに赤く、麻婆の匂いがする。
土は一部が麻婆に浸食されている。
もう何だこれと思っていても、麻婆としか言いようがない。
何故こうなったのかと言えば、言峰のせいであり彼を飲み込み食べようとした元凶のせいともいえる。
「あああもう! どうでもいいから早くこの匂いをどうにかするのだわ! こんな真っ赤に濡れた冥府なんて見たくないのに!!」
「フハハハハハハハハハ!!!!」
「笑うなぁ!!」
笑い声は冥府に響く。
それは、天草が藤丸達を連れてやってくるまで続いたのだった────。
こっから先はギルガメッシュと藤丸達のターン。
『麻婆な言峰とか呼ばれ始めた奴』……にタイトルを改名した方がいいかと思えるぐらいには麻婆に汚染されてますが、もう少しお待ちください。綺麗な言峰のお話はやってきます、必ず……!!
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