綺麗な言峰とか呼ばれ始めた奴   作:温めない麻婆=ちゃっぱ

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第一話 夜中に蜂蜜ミルクを添えて

 

 

 

 人類史が消失。マスターも藤丸立香を残して全員がほぼ瀕死状態。流されるように特異点Fの攻略を進めてきた藤丸立香は、深夜ともいえる時間帯に目が覚めた。

 あれだけ大騒ぎしていたカルデアだったというのに、夜中は別世界かと思えるような静寂さが襲いかかる。

 

 これから先何が起きるのか不安があった。

 藤丸立香にとっては一般的な魔術師にも劣る奇跡的に見つかった一般人。自分の代わりがいるのなら、きっとすぐ交代してしまうような頼りない存在。それでも自分が必要なんだと言ってくれた後輩がいるからと、藤丸立香は前へ進む決意をした。

 

 悲しい決別も、敵への怒りも。

 これから先の戦いで自分は勝てるのかという不安すら押し込めてやるべきことをやる。第一特異点となった時代でも藤丸立香は協力してくれたサーヴァントたちと共に戦った。その後縁が出来たのかカルデアへ召喚されてくれた彼ら、彼女らに感謝しつつ、生き残るために足掻いている最中だった。

 

 そう、藤丸立香はつい数日前まで戦っていた出来事を思い出しながら歩く。パジャマではなく、有事の際すぐ動けるよう運動服を着ているが、少しだけ肌寒い。

 廊下の電灯は節電モードにしているのか一部薄暗かった。

 

 眠くもない。

 お腹もすいていない。

 少しだけ薄暗く寒い廊下を何の目的もなく突き進む。

 

 次は第二特異点。

 それが終わったら次は────。

 

 

「おや、人類最後のマスターがこんな場所までやってくるとは……」

 

「えっ?」

 

 

 聞こえてきた声に藤丸立香は顔を上げる。

 そこにいたのは神父服を身にまとった男だった。長身かつ服の上からでも鍛え上げられていると分かる身体をしている。

 

 一般人ではない。

 でもカルデアに生活していて誰も何も言わないということは、彼は関係者だろう。

 

 

「あなたは……」

 

「ラスプーチン────いや、言峰綺礼と呼んでくれたまえ」

 

「言峰……さん?」

 

 

 ラスプーチンとは、確か過去の有名な人の名前ではなかっただろうか。

 つまり英霊、サーヴァントということだろうか。

 

 藤丸立香はダヴィンチちゃんの顔を思い浮かべながらも、彼がカルデアに召喚され協力してくれている協力者だと理解した。

 

 

「何故ここに来た。藤丸立香。君は忙しい身であろう。このような時間にカルデア内を徘徊するような行動を取っていい身ではないはずだが?」

 

「うっ……それは、そうなんですが……」

 

 

 顔を引き攣らせつつ、うまい言い訳が思い付かず、藤丸立香は顔を背けた。

 なんせ自分以外は成すことの出来ない人類最後のマスターとしての自覚はまだなかったから。たぶんもっと特異点を攻略していって、いろんなことを経験していけば理解できるとは思うけれどと藤丸はそう思う。しかし思うだけであって、言うつもりはない。

 

 説教されるのも嫌だと、なんとなく思ったから。

 これが怒られるような行動だというのは分かっている。

 

 肌寒い夜だった。

 薄着で廊下を歩いていくという行為は風邪をひくかもしれない。ロマンやマシュがここに居たとしたらきっと悲しませてしまうな……と、藤丸は理解していたから。

 

 

「……ふむ」

 

 

 何かを思い至ったのか、言峰が藤丸に「ついてきなさい」とどこかへ歩いていく。少し先を歩いてもついてこない藤丸に振り返り、待っている様子だったので藤丸も慌てて追いかけた。

 

 

「あ、の……」

 

 

 彼は何も言わない。

 藤丸が無言でついてくるのを確認する以外は後ろを振り向いて話しかけようともしない。

 

 微笑んでくれたけれど、それが自分を案じてくれているのかすら分からない。

 死んでいるかのような目は、敵意か否か。それは自分を害する者じゃないのか。藤丸には言峰という存在が分からない。

 

 言峰さんは、自分のサーヴァントじゃないけれど、カルデアに協力してくれている人なんだろうかと────少しだけ不安になった時だった。

 

 

「飲むといい」

 

「えっ」

 

 

 考え事をし過ぎていたのか、気が付いたらキッチンの中にいた。

 そこで出されたのはホットミルク。怪しむ間もなく一口飲むと蜂蜜のような甘さが喉を通っていく。

 

 息をついて言峰を見た。

 彼はこちらを見下ろしながら真顔で言う。

 

 

「泣きたい時は、泣きなさい」

 

 

 それは冷めているようで温かな言葉。

 

 

「背負わなくてはならない業というのは、不意に己の身に降り注ぐことがある。まるで英雄が神託を受け取った時のように。……だが藤丸立香、君は一般人だ。人類最後のマスターなんぞという業を背負うには少しばかり重苦しいものがあるだろう」

 

 

 その声は、慰めを含めたものじゃない。

 ごく普通に、真っ当に。己自身を評価するもの。

 

 

「よく頑張ったな、藤丸立香」

 

 

 その衝撃は、きっと計り知れないものだっただろう。

 人類が崩壊したと言われた時に似たもの。何処かに落とされたように、藤丸立香は自覚したのだ。

 

 自分は頑張ったのだと。

 頑張らなくてはならない。我慢しなくてはならないのではなく、頑張ったのだと。

 

 

「うっ……ぐすっ……」

 

 

 蜂蜜のような香りが辺りに漂う。

 一口飲んだのに、それは少しだけしょっぱかった。塩辛かった。

 

 藤丸立香は、己が泣いていることを受け入れた。

 それを言峰はじっと見つめているだけ。何も言わず、慰めることもなくただ静かに寄り添う。

 

 それだけでよかった。

 ただ一言、褒めてくれるだけで。

 

 マシュ達は仲間だ。弱気な顔を見せることはできない。そう藤丸立香は理解している。

 でも────ここで初めて会った言峰さんは、なんとなく弱い部分を見せてもいいような気がした。

 

 一目見て看破されたせいだろうか。

 それとも、今の藤丸立香にとって最も欲しい言葉をくれた人物だからだろうか。

 

 

「こ、とみねさん……」

 

「なにかね?」

 

「貴方は一体何ですか?」

 

「さて、神父として活動……といいたいところだが、今の私は雑用を任された身。いわゆるカウンセリングなどを担当しているしがないサーヴァントだ」

 

「カウンセリング……」

 

「辛かったらいつでも聞こう。それが私のやるべき事だ」

 

 

 死んだような目の中に驚愕と楽し気な色が混じったように見えた。

 

 

 そんな言峰がどういう本性をしているのかを知るには、少しばかり遅かったのだ。

 真夜中に何度も言峰と会い様々な会話をし泣きながら弱い部分を曝け出す藤丸が、いつか召喚されるであろう第五次のサーヴァントたちに言う時まで続く。

 

 

 

 

 

 

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