綺麗な言峰とか呼ばれ始めた奴   作:温めない麻婆=ちゃっぱ

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第二十五話 言峰は麻婆聖杯を抹消した

 

 

 

「まにあった」

 

 

 それは尊い犠牲となるべきヒトだった。

 

 人にとっては悪しき泥。しかし何故か麻婆が特効薬みたいに人の中で駆け巡り、泥の影響を少なくしたせいだろうか。

 言峰には分かったのだ。これは麻婆のおかげだと。

 

 どうして麻婆なのかは知らない。

 ただ本能的にケイオスタイドが純粋な水ならば、麻婆が粘り気のある不純物。つまりどっちも個性を持っていてどちらも人の中で主張し続けていたというだけのこと。

 麻婆の力が何故ティアマトの泥に勝るのかについては────言峰自身がやらかしたのではなく、誰かのせいだろう……主にギルガメッシュ王とかがやったんだろうと、言峰自身はそう思っている。

 

 

「……なんで?」

 

 

 血濡れで倒れていたキングゥに、ラフムは近づいて来た。

 

 

「とても、きれいな────みどりのひと。あなたがたすかってよかった」

 

「ありがとう。ありがとう」

 

 

 これはきっと、原作の一場面だろう。

 

 

 ただの純粋な願い。

 助かってよかったという、綺麗な声。

 

 それら全てにキングゥは救われたのだろう。嬉しかったのだろう。

 その人形は────緑の人と呼ばれた彼は、涙を一筋流した。

 

 それはとても綺麗な色だった。

 きっと藤丸が見たら感動するような場面のはずだ。

 

 言峰にとっては、それはあまりにもつまらない色だったが。

 

 このまま放置していれば消えそうな様子。

 それを言峰がただ黙って見ているわけはない。

 

 

「面倒だな……さて……」

 

 

 無意識的に懐を探せば、何故か出てきた麻婆の香りがする聖杯。

 

 

「……ふむ」

 

 

 言峰は聖杯を手に持ったまま。

 きっとこの衝動は本能────ラスプーチンとしての核。言峰綺礼そのものがやろうとしていることかもしれない。ラスプーチンの、言峰綺礼の身体に入っていても魂は三つとも存在しているようなものだと、『彼』はちゃんと理解しているから。

 キングゥに泥の中へ蹴り入れられた後、消化されずにプカプカ揺れていた合間に知ることが出来たのだから。

 

 言峰に憑依している『彼』としては、もう楽しければ何でもいいかとやらかすことにしたのだ。

 

 

「っ────!」

 

 

 特に何かを考えるまでもなく。

 ────えいや、とその麻婆の香りがする聖杯をラフムにぶち込んだ。

 

 それに悲鳴なき声を上げたのはラフムだった。

 肉がちょっとだけ削られ、血が噴き出た。そうして埋め込まれた聖杯が徐々に形を変えていく。麻婆の香りはまだしている。

 

 

「んなっ!?」 

 

 

 キングゥがびっくりしたような声を上げてきた。

 その顔はギャグとかで見るようなギョッとしたようなもの。「まさか彼女を麻婆に変える気か!?」と叫んでいたが、キングゥが何を言っているのか言峰自身は分かっていないような態度を示した。

 

 麻婆が死した肉を作り替える。

 ケイオスタイドによって変異した細胞を、元に戻すかのように動く。麻婆の香りはゆっくりと、大地と草木のようなものに変わっているような気がした。いや、言峰達の鼻がもう狂っていて、麻婆にハーブの香りを足したようなカオスな匂いかもしれないが。

 

 

「どうせ感謝するならば、生きて態度で示してやれ」

 

「あっ……うっ……」

 

「その姿であれば、まだ生き続けられるだろう」

 

 

 いや、言峰風に言うならば────この地獄をもっと長く生きて見せろとでも言い放つかのように。

 しかしそれを理解しているのはきっと言峰自身以外だと第五次勢ぐらいだろうなと思いながらも、言峰は聖杯によって身体が変わり続けたラフム……否、幼い姿をしたシドゥリに目を向けた。

 聖杯はちゃんと元の身体に戻せなかった。それはきっと、麻婆としての願いを使ったせいで魔力が枯渇したのか否か。それとも女神の泥に変質した細胞を完璧に治すには奇跡が足りなかったか。

 

 もしかしたら聖杯か女神の泥────つまり女神の性癖でシドゥリを幼女にした可能性もあるが……。

 

 

「貴方が……なぜ……?」

 

「やりたいことがあった。そのためには味方がいるだけだ」

 

 

 言峰の声に反応したのはキングゥだった。

 

 

「……僕も巻き込む気か?」

 

「むしろお前は何もやらないつもりか?」

 

「くっ……」

 

 

 キングゥが睨んでくるが、それは言峰の愉悦成分として吸収されただけ。無意味な抵抗でもあった。

 状況を静かに眺めていたシドゥリ……いや、シドゥリリリィ。略してシドゥリリィは覚悟を決めて小さな口を開く。

 

 

 

「私にできることなら何でも、喜んでやります……」

 

 

 喉がかすれたような声で、小さなシドゥリリィがこちらを見上げる。

 その目はぱっちりとしていて、可愛らしい容姿をしていた。

 しかし聖杯は服を作らなかったのかシドゥリリィは裸だったので────キングゥがとっさに自分の服を彼女にあげた。キングゥは男型の姿をしていたらしく、言峰とキングゥは揃って半裸の状態。そしてシドゥリリィは肩をはだけさせた彼Tシャツみたいな状態だった。

 

 

 きっとここにマシュがいたら叫ぶだろう。事案だと────。

 

 

 

 

 

 




つまり、もしもここにカルデア側がいたのなら、ムキムキほぼ全裸な一人と中性的なほぼ全裸なキングゥ一人が、半裸な幼女を取り囲んでいる状況です。
服さえあればきっとシリアスになるはず……!



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