綺麗な言峰とか呼ばれ始めた奴 作:温めない麻婆=ちゃっぱ
ちなみにシドゥリリィさんの状態ですが、このままギルガメッシュが動かなければ言峰憑依主の眷属として座に登録確定されます。
酷い男だと、キングゥは考える。
奴がしてきたことは、全ての人や女神たちの願いを歪ませるものだった。
死にかけていたシドゥリにすら、酷く歪んだ生を与えた。
それがどんなに酷い事なのか────シドゥリにも分かっているのだろう。しかし彼女はウルクのためにと自らの歪まされた命を投げ出す覚悟を決めた。
だから、キングゥは何も言えなかった。
この男に対して攻撃的にもなれなかった。
シドゥリが『そういう運命』であると受け入れているのなら、キングゥに止める権利はない。
たとえその先どんな酷い目に遭おうとも、キングゥは止めることができない。だからそれは、ギルガメッシュに期待するしかないのだ。
何故この男に聖杯なんかを分け与えてしまったのか。
そうキングゥは歯ぎしりをする。
麻婆聖杯とは名ばかりの、純粋すぎる願い。
たかが麻婆と考えてはいけない。
聖杯に満ちていた麻婆なのだから。
麻婆によって歪まされたのは、このウルク全土だけではないのだから。
「……いったい何がしたいんだ」
「ふむ。まずは現状をひっくり返そうと思っているが」
「現状を?」
「ギルガメッシュに味方すると決めているのでな。このままウルクをティアマト神に好きなようにさせたくないだけだ」
それは嘘だとキングゥはとっさに思ってしまった。
どうせ最後にはギルガメッシュを裏切るつもりだろう。
それと、ウルクを好きなように蹂躙しまくっていたのは誰だったのかと、キングゥは思わずというように言峰の方を見た。
この男、麻婆でどれだけの被害を出したのか本当に分かっていないのかと。
それにシドゥリは何も言わない。
ただキングゥと言峰の会話を聞いているだけである。
キングゥはシドゥリをチラリと見て、そうしてまた言峰の方を見た。
周りにいるラフムたちは倒されていた。その道中服を発見しようやく着こむことに成功したが、それでも上半身は裸だった。ウルク国民がそういう服装なのだから仕方がないとキングゥは諦めた。
「ラフムを解放するには聖杯の力が必要だ」
「……はい。承りました」
そうして言峰は、幼い姿をしたシドゥリを見た。
キングゥは理解する。奴が何を言っているのかを。
彼女の命は言峰によって救われた。
聖杯の力によって、彼女は麻婆聖杯と一体化したようなもの。疑似的に人でなくなった状態だ。
聖杯の魔力はまだ残っている。
麻婆聖杯というには『麻婆』の香りも何もかもぶっ飛んでいてまさしく『シドゥリ聖杯』として新しく生まれ変わったようなものだろうけれど……。
「救った命は……彼女の命は、このために使う気か……言峰ッ!」
そのせいで麻婆が溢れた川は、その泥はティアマトのケイオスタイドに飲み込まれつつある。まだ聖杯の力は失われていないので防波堤の役割をきちんとしているが……。
ティアマトは女神だ。それも原初の神である。
そんな母さんがラフムに指示して、キングゥ自身の持っていた麻婆とは全く関係ない聖杯を奪い力をため続けている。
まだ大丈夫だろうけれど、ウルクに来るのも時間の問題────ならば、それを止めるのがシドゥリの役割だろうと。
そう思ったキングゥは言峰を怒鳴りつけたのに、男は首を小さく傾けた。
「何を言っている。私はただひっくり返したいだけと言っただろう」
「……はっ?」
「お前の命はここで消すつもりはない。それをすればギルガメッシュが許さないだろうからな。……さて、ティアマト神とやらに麻婆の美味さを教え込む時間だぞ」
「はぁっ?」
────キングゥはシドゥリのためにその命を使う気があった。自分を救おうとしてくれた彼女に対して、恩を仇で返すつもりはなかった。
そして、その身体に残るエルキドゥとしての感情が、ウルクを裏切ることが難しくなった。
だからキングゥは言峰を信用しない。彼がシドゥリに対して酷いことをして、それを彼女が抵抗するなら言峰と敵対する気があった。
言峰が何をしようとしているのか、キングゥには分からない。分かりたくもない。
ただウルクに対してティアマト神より酷いことをするのだろうかと戦慄しただけだ。
ティアマト神の事を完全に切り捨てるには、少しだけ遅かったようだ。同情なんてする立場じゃないけれど、とキングゥは思う。
(母さん……僕はともかく、味方につける人を間違えたみたいだよ……)
キングゥはこの先で起き得るであろう惨状に、死んだ目になった。
この言峰憑依主だったらこんな行動するだろうなって自由気ままに書いてたせいでなんかまた麻婆が出てきてしまったんだが、どうしよう……。
いや、シリアスにはなりますがね!
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追記
今日はちょっとお休みしますね。また明日(九月六日)、頑張って書きます。