綺麗な言峰とか呼ばれ始めた奴 作:温めない麻婆=ちゃっぱ
カルデアの端に位置する場所。
爆発により崩壊した箇所の近く。未だにライフラインが出来ていないそこは、カルデアが活動するために必要な魔力などの心臓部から最も離れた場所ではあった。
だが、そこは裏口のような場所であり、誰かがこっそり侵入しても気づかれない程度には監視の目が行き届かない場所。最初に起きた爆破の影響もあってか、ジャックやナーサリーなどといった幼い姿をしているサーヴァントがかくれんぼ等で遊ぶ際にも滅多に来ることのない場所。寒くて薄暗くて人が住むには適していない元居住空間。
そのエリアの修復を軽く済ませつつ、管理しているサーヴァントがいた。
マスターが倒れた際のカルデアにおいての最後の武器のようなもの。カルデア全体を守るためにという理由で召喚されただけ。
どこぞの王様系サーヴァントがそれで召喚されたのだとしたらカルデア全体が酷い目に遭っていただろうが、運がいいのか悪いのか、召喚されたのはラスプーチンこと、言峰だった。
裏口のような場所から敵が来ないよう門番のごとく守ってもらうということ。
マスターが何かしら危機的な状況の場合。またはマスターたる藤丸立香と契約したサーヴァントが動けなくなった場合にのみ全体的にカルデアを守る役目を背負った。いわば最終兵器。絶体絶命の時に反撃するための一手として藤丸立香ではなく、カルデアそのものと契約状態になったようなもの。
────そう、言峰は自分自身の立ち位置を理解していた。
おそらくは例外的に協力状態のホームズや藤丸立香の生き様を見てみたい観客としてたまに手を貸すマーリンとは違う。
現時点で自分と同じく戦いの前に召喚されカルデアと契約を結んでいるダヴィンチもいつか藤丸立香と本契約を結びあの子をマスターと認める日が来るだろう。
だからある意味、言峰は自由だった。
カルデアに召喚されてはいるが、マスターと共に人理を救済するため戦っているわけではない。ただ門番のようにそこにいるだけ。それは他の者からすればサーヴァントとしてプライドが許さず屈辱であると主張してもいいぐらいのもの。
だが言峰はそれを受け入れた。
ただ門番まがいの事をしても暇なだけ。働いているわけではないと言って、言峰はカウンセリングにも似たことをするようになった。
たまに泣きながら歩いている一般職員を見たらすぐ声をかけ、部屋へ連れていき話を聞く。それだけで救われたのだと勘違いし依存する者がいるのを知っている。
弱音を吐くような状況ではない。周りすらも常に頑張っている人がいるのだから自分も頑張らなければと我慢しまくっていたことを、言峰にならば全て吐き出すことができると。
たまに言峰にしがみついて赤ん坊のように泣き、たまに人類を崩壊させた敵へ向けて怒りを吐き出し。
そうしてスッキリした状態で帰っていく。
カルデア職員全体が────世界救済へ奮闘する藤丸立香に余計なことを言ってもしょうがないと思い伝えないでいるが、ラスプーチンこと言峰が藤丸立香ではなくカルデア全体を守るためだけのサーヴァントということを知っている。
だから彼は、ダヴィンチと同じく裏切らないだろうと思われている。
言峰はそう自分自身を客観視していた。
彼の優しさによってカルデア職員は裏口を警戒することなく、またカルデア全体で謀反やらなんやらが起きても絶対に大丈夫だという安心感でもって安眠することが出来ているのだと。
自分の事を知る存在はカルデア職員とダヴィンチ、そしてロマニ・アーキマンぐらいだろうか。
彼らは全員言峰を信じている。
それを言峰は面白おかしく眺めているだけ。
忙しい生活の中で、言峰は定期的に誰も邪魔されないような時間を作るようにしていた。
それは秘匿すべきもの。
カルデアを裏切るような行為。
本を読んでいた言峰がしおりを挟み、机にかけられた魔術によってかかってきた通信をとる。
『ラスプーチン。カルデアは今どうなっている』
「なに、いつもの事だよ。あと少しすれば次の特異点へ向けて旅立つだろう」
『チッ』
裏切りといっても、言峰がやっているのはレフに向けて定期的にカルデアの状況を説明するだけ。
基本的にレフはサーヴァントを軽視している。信頼もせず、ただの道具として見なしている。だから彼はカルデアがそろそろどの特異点へ来るのかを教えるだけにしていた。
なんせカルデアは摩訶不思議な特異点に────つまり、レフが用意していないはずのよくわからない場所へ巻き込まれることもあるのだから。
いわゆる夏の無人島。サマーバケーション。
魔のハロウィン。
よくわからない日本サーヴァントたちの特異点。
せっかく用意して待っていたのに何故かそんな変な特異点に行っていて自分は待ちぼうけという状況にレフは何度地団駄を踏んでいたのだろうかと言峰は嗤いそうになった。
一度「藤丸立香はハロウィンを成敗しに行った」という報告にレフが『はっ? 嘘をついていないか。正気か貴様?』とこちらを全く信じていない言動しかせず、それが本当だと理解できて呆然としていたのは噴き出しそうになったと言峰は思い出し、肩を震わせる。
言峰は自由だ。
だからレフに道具と見なされ、侮辱的な言動をされても全て聞き流した。
なんせそれは、どうでもいいことだったから。
レフが何を言おうとも、最後には殺されてしまう運命しか残っていない相手と向かい合うのは疲れるだけだと。
それにレフは扱いやすかった。
プライドが高く、こちらを軽視する行為。
何時でもカルデアごと殺せるのだぞという慢心があったせいだろうか。
一度言峰がカルデア内部にいるのだからと『カルデアを滅ぼせ!』といってきたこともあったが、その命令には「ほう? 貴殿には出来ない行為だと認め、この私に協力を求めるというのだな?」という挑発にキレて、その怒りが藤丸立香へ向けられ特異点で悪役っぷりを見せたが最終的にレフは八つ裂きされたという結果が残った。まあ八つ裂きされたのはほんの一部。すぐ逃げたし屈辱的な結果を言峰に伝えて嘲笑われるというのはレフのプライドでもって許さないだろうと言峰は判断しているが。
つまりだ、レフがカルデアの協力者な言峰自身に対し命令するのならそれは相手を信じ『貴様ならカルデアを滅ぼせるであろう』という言動そのもの。自分ではできなかったと認めているようなもの。
そこを指摘すればレフは二度と言峰に命令はしない。
ただ藤丸立香がどの特異点に行くのかだけは注視しなくてはならないと理解しているようだった。そう言峰はレフの心境を理解する。
カルデアを倒すためにと用意したものだったというのに、気が付いたら夏の無人島で藤丸立香が遊びつくしていましたとか後からそういう結果が出てきたら面白おかしい。実際に面白かったものだと言峰はまた肩を震わせる。
『いいか、次の特異点までに────』
「ああ、留意しておこう」
『ふん』
レフは一方的な通信を切った。
机に出てきたはずの魔術要素は消えている。カルデアがその通信魔術のようなものを使っていると理解しにくいだろうと言峰は理解していた。
だから裏切り行為はまだ、カルデアに漏れていないのだ。
なんせここは裏口に最も近い場所。心臓部分とは違う、カルデアが把握するには難しい位置で通信するように心がけているのだからと、言峰は考える。
カルデアがそれを把握していたとしても、裏切り行為をしていたと思われないだろう。奴らがカルデアに攻めてきたかもしれないと誤解されるかもしれない。まあホームズにはいつかバレるかもだが、その時までには決着をつけてやろうかと言峰は考えていた。
「……哀れなものだな」
部屋の中で呟いた言葉は誰にも聞かれず消えていった。
しかし不意にコンコンと、誰かが扉を叩く音が聞こえて言峰は意識を切り替える。
ゆっくりと扉を開ければ────そこにいたのは不安げな様子の藤丸立香だった。
「……言峰さん、いつもの……いいかな?」
「もちろんだとも藤丸立香。さあ中へ」
「うん」
言峰は楽し気に藤丸立香を出迎えたのだった。
そうして彼は話を聞く。
特異点で協力してくれたサーヴァントのこと。勝ち進んでいったこと。不安なこと。泣きそうなこと。マシュのこと。
「あのね、言峰さん。特異点Fで立ちはだかったサーヴァントがいたんだけど、アーサー王……アルトリア・ペンドラゴンの……そのオルタの方がね、カルデアに召喚されたんだ」
「ほう?」
アルトリア・ペンドラゴンのオルタ。
食いしん坊で、赤いアーチャーがまだ来ないのかと何かを言っていたこと。あの特異点Fでの怖かった思い出が消えていくようだと話してくれた。
「そうか。トラウマを乗り越えたということか。頑張ったようだな、藤丸立香」
「うん!」
ただ一言、それを伝えるだけ。
言峰がいつものように褒めると藤丸は破顔したのだった。
とても楽しそうに、言峰に依存する藤丸立香がそこにいた。
ちなみにこれ言峰(憑依主)視点だから悪役たっぷりな感じになっているだけであって、第三者から見たらちょっと違う光景になってます(愉悦)
藤丸立香は男か女か
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男主人公
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女主人公