綺麗な言峰とか呼ばれ始めた奴   作:温めない麻婆=ちゃっぱ

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夜まで放置していたのですが、続き書くために作品見てびっくりしました。ランキングも一位に載っていて驚いてます。ここまで読んでいただきありがとうございます。

アンケートをやらない方がいいんじゃないかという件、了解しました。アンケートについては今後やらない方針でいきますね。
少数も取り入れてやろうとした結果、掲示板については後でたっぷり書いてから投稿しようと思っていたので、多数の意見をないがしろにしたわけではないです。後で書こうとは思ってましたが、止めるという書き方は違いました。私が間違ってました。申し訳ありません。

追記
他の危険サーヴァントを無視して言峰だけを危険視しているのは違和感があるとのご指摘がありましたので、少し修正をしました!





第四話 私のサーヴァントにする

 

 

 

 

 藤丸立香にとって言峰綺礼は自分の心の支えだ。

 マシュにすら明かすことのできない不安。弱み。それら全てをさらけ出しても呆れることなく静かに聞いてくれる。

 だから藤丸立香はどうしようもなくなった時に彼の元へ訪れる。それをよく思っていないサーヴァントは複数いた。

 

 あのアルトリア・ペンドラゴン・オルタは「どうなっても知らないぞ」と言い、キャスターのクー・フーリンは「あの野郎がサーヴァントになったことで少しマシになったかと思ったが……ありゃあ違うな。近づかねえほうがいいぞ」と忠告する。もちろん他の危険そうなサーヴァントに関しても言及し、必要なら一人で近づかない。自分等も呼べなど、藤丸にとっては二人は特に仲良くなったという自覚があるからか、藤丸自身に対してお節介を焼いてくれることもしばしば。

 

 二人は第五次聖杯戦争に召喚されたサーヴァントの別側面。

 しかし彼らは言峰綺礼のことを「奴は生前、第五次にて悪党っぷりを見せた奴」と評価する。他の敵対していたことのあるサーヴァント、狂化の入ってそうな危険人物などには注意するよう言うが、それと同じく言峰も危険だという。

 

 絶対に目を離してはならない人物でもあり、危険な男であるのだと。

 

 それは、藤丸立香にとって理解できない言葉だった。

 

 

 だって、言峰がいなかったらずっとこの重たくも苦しい感情を抱え我慢し最後まで走り抜いていただろうから。

 これが当たり前のことだと思って、いつか誰かと交代するような代役マスターだと分かっていてもなおその不安を押し潰し理想的なマスターとして生き抜く決意をする。

 

 不安を口にしてはいけない。

 嫌なことも全て飲み込んで、前線へ立つのだと。

 生き残らなきゃいけないから諦めるわけにはいかない。だから立ち続けなきゃいけない。

 

 そう思っていた心を殺したのが────我慢しなければと耐え続けていた藤丸立香のことを褒めてくれた。同情なんてものはなく、それが至極当然というように「休んでもいいんだぞ」と言ってくれたのが言峰だったから。

 

 だからカルデアの守護を任すのならもっと別のサーヴァントにした方がいいとお節介染みた忠告を言った彼らの言葉に首を傾けるしかない。

 特異点を歩いて、経験して。そうして見えた様々な人の悪い部分。それは藤丸と協力し召喚に応じてくれたサーヴァント達。忠告してくれた二人だって同じなのに。

 

 ジル・ド・レェがセイバークラスとキャスタークラスの両方が召喚された時、彼らも言峰に対するものと似たことを言う。注意しろと言うけれど、あっさりしたもの。一人になるなといって忠告し、気にかけるだけ。殺そうとはしない。

 絆が深まっているためいろいろ気にかけてくれてるからなのか。

 

 イアソンが来てもそうだろう。

 他のサーヴァントだって、きっと彼らは藤丸が一人で応対する時にさりげなく注意しながらも受け入れる。

 

 そういったことが、言峰に対しては出来ないのだと藤丸は気がついた。

 

 見て見ぬふりはできない。

 特異点に居たときに悪役だったサーヴァントがいてもそこまで警戒しなかったのに、何もしていない言峰には「どうなっても知らないぞ」と、確実に裏切るようなことを言う。

 

 裏切るのが当然のサーヴァントだと、そう思われているということか。

 でも、話を聞いてもどれだけ悪いのか教えてくれても藤丸はそれが言峰さんのやったことなのかと結び付くことが出来ない。言峰さんに似た他人なのではないかと思ってしまうぐらいだ。なんせ言峰さんはラスプーチンの疑似サーヴァントなのだから。

 ────そう、藤丸は考える。二人が説明してくれた内容を思い出しながらも首を傾ける。

 

 言峰さんは悪い人か、それとも良い人か。

 

 

(うーん……言峰さん以外にも、そういう警戒しなきゃ系のサーヴァントはいるとか言ってたけどなぁ……まだ召喚されてないからかな。キャスターのクー・フーリンが言ってた金ぴか? 英雄王?)

 

 

 トコトコと、藤丸は廊下を歩きながら考える。

 

 カルデアにいるサーヴァントはまだ少ない。

 部屋の修復と機械の復旧が出来てきたからそろそろ大規模な召喚でもしようといわれているが……と、藤丸はこれから先のことを思い浮かべた。

 

 召喚する時に奇跡が起きて、英雄王が来れば分かるだろうか。

 生前の言峰綺礼がどれだけ悪い人だったのか。警戒しなくてはならないサーヴァントかを。

 

 藤丸立香は分からない。

 真正面から言峰に裏切るか聞いたとしても「君がそう思うのならそうなんだろう」と、曖昧なことしか言わない。

 

 それでも、藤丸は信じたいのだ。

 裏切るのなら、いつものように倒してまた連れ戻すだけ。ずっとずっと、そうやって前へ進んできたのだから。

 

 様々な悲しいことがあっても絶対に言峰綺礼を離したくはない。

 それだけ言峰に依存しまくっている。

 

 それはマシュだって同じだ。マシュにとってはロマニ・アーキマンやダヴィンチと同じく傍にいてくれたサーヴァント。

 話していた時間は短くとも、藤丸立香と同じく忘れてはならない大切な思い出だと認識しているようだと、藤丸立香はマシュについてそう理解する。

 

 マシュもまた、藤丸と同じく何か救われるような言葉を言ってくれたのではないかと思えたから。

 

 

「……あれ?」

 

 

 考えながら歩いていた時だった。

 不意に廊下の先にジャンヌ・オルタの後姿が見えたのだ。

 

 藤丸は少し考えてから彼女に向かって駆けた。

 

 

「ジャンヌ・オルタ! ちょっといいかな?」

 

「……はぁ、急に何よマスター。アンタこれからあの疑似神父の元に行くんじゃなかったの?」

 

「言峰さんの所に行く前にやることがあって……それが終わったら行こうと思ってるの!」

 

「やること?」

 

「カルデアに少し余裕が出てきたから一人か二人召喚することになったんだ。できればいろいろ知ってそうな英雄王がいいなって思ってる」

 

「へぇ、そう……まあ、私には関係のないことですが……」

 

「それでね、ジャンヌ・オルタに聞きたいことがあって……」

 

「聞きたいこと?」

 

「言峰さんについて」

 

 

 何でこんなにも言峰を信じられるのかと藤丸立香は考えたことがあった。

 そうして出た答えは複数ある。

 

 言峰綺礼は、最も欲しい言葉をくれて救ってくれる人。

 自分が前を向いて共に戦ってくれる仲間ではない、カルデアの守護を任されたサーヴァント────いわば、自分たちの家を守ってくれる頼もしいサーヴァントだからだろう。

 

 自分は言峰さんが大好きだ。そう堂々と言えるぐらいには信じているのだから。

 でもアルトリア・ペンドラゴン・オルタとキャスターのクー・フーリンは違う。

 

 肯定と否定。ならば彼を全く知らない人なら?

 

 

「どうでもいいわ……と、言いたいですけど。いいわ、答えてあげる。あのコトミネって男はあれね」

 

「あれ?」

 

「ジルに似てるわ。あの男」

 

 

 その言葉に、藤丸は目を見開いた。

 

 

「何かに依存して、何かのために動いて。それで、どうでもいいものの為に己の身すら崩壊させてしまう。そんな雰囲気を感じるわ」

 

「……そっか」

 

 

 藤丸は目を閉じた。

 関わりの少ないジャンヌ・オルタもそう言った。二人と同じようなことを説明した。だから少しは警戒した方がいいかもしれない。

 

 それでも、やっぱり無理だと────藤丸は首を横に振った。

 

 

「ありがとう、ジャンヌ・オルタ。やっぱり私は、言峰さんを信じる。それで本当に何かをしでかして、カルデアを裏切ったとしても絶対に連れ戻す。それで私のサーヴァントにする。そう決めたよ!」

 

 

 そもそも裏切らなければ起きない決意だから大丈夫だろうと藤丸は笑う。サーヴァントとなる前は違っても、今の言峰さんはジャンヌ・オルタの言うように危ういとしても、それでも信じたいのだと。

 

 まさか複数のサーヴァントにここまで警戒されているのに、裏切るわけはないだろうという気持ちもあった。

 

 それを、ジャンヌ・オルタは鼻で笑う。

 

 

 

 

「じゃあ私、召喚してくるね! 新しいサーヴァントが来ても仲良くするんだよ。ジャンヌ・オルタ!」

 

「正規の私みたいなこと言ってんじゃないわよ!」

 

 

 出来れば来て欲しいのはキャスターのクー・フーリンが警戒しろと言った、言峰を知っていそうな英雄王。

 そのアーチャークラスの召喚を願って、藤丸は駆けた。

 

 

 

 

 


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