綺麗な言峰とか呼ばれ始めた奴   作:温めない麻婆=ちゃっぱ

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感想にて掲示板は合わないということだったので削除しました。ご指摘ありがとうございます。
掲示板関連については別作品にて投稿しようかと思います。よろしくお願いいたします。

追記
あらすじにも記載してある通り、掲示板に関する番外編は別作品として取り扱うことに決めました。なのでチラシの裏にて投稿しております。短いですが、現在IFのFate/Accel ゼロ Orderイベ関連も投稿しているのでよければどうぞ。感想や高評価など頂けたら嬉しくなっていっぱい投稿しちゃいます。

綺麗な言峰とか呼ばれ始めた奴、番外編
https://syosetu.org/novel/295088/






第六話 彼はライナスの毛布である

 

 

 

 

 

 ────それは、少し前に遡る。

 

 ロマニ・アーキマンが言峰に対して出し忘れていた書類、それを渡しに向かった部屋で見てしまったのは、カルデアを裏切ったレフと通信している言峰の姿。

 

 それに彼は目を見開き驚愕した。

 そこから起きたのは上を下への大騒ぎ。なんせレフとの通信を切った言峰が涼しげな顔で「どうかしたのかね、ロマニ・アーキマン」といつものごとく声をかけてきたのだから。

 

 普通だったら取り繕うぐらいはするんじゃないか。

 慌てもせずに何故いつもと同じように声をかけるのか。

 いや、少し笑っているように見えるが、気のせいか?

 

 混乱しきったロマニは、言峰に対し恐怖を覚える。「体調でも悪いのかね」とふざけたことを言いながら一歩近づいて来た彼に対し悲鳴を上げた。

 女性が出すような甲高いものだった。

 

 それに驚いたカルデア中の人たちが悲鳴を上げた場所へ駆けつけてきた。

 そうして事態が明かされる。

 

 部屋の中心にいる言峰を数人のサーヴァントが警戒しながら囲む。キャスターのクー・フーリン、アルトリア・ペンドラゴン・オルタは当然ながらいろいろ複雑そうに男を見つめている。

 子供の姿のギルガメッシュは周りより少し後ろから眺めつつ、壁に背中を寄りかからせながら傍観しているようだった。

 

 それ以外には、部屋の外側からだが言峰に世話になったことのあるマリー達が心配そうに彼を見つめ、作家系のアンデルセンらはペンを片手に「まさにありきたりだ。駄作過ぎる展開だな!」と酷評しながらも何かをメモしている様子。

 

 

「……信じられない」

 

「立香ちゃん」

 

「だって、さっきまで一緒に居て、話もしてて……なのにそんなこと。ドクターが寝ぼけて言峰さんが裏切ったような白昼夢を見たっていう方が信じられるぐらいだよ!」

 

「立香ちゃん!?」

 

「あっ、ごめんなさいドクター……でも本当に、信じられなくて……」

 

「はい、先輩の言う通りです。私も、言峰さんが敵と通信していただなんて信じられません……」

 

「……残念だけど本当だよ。僕はちゃんとこの目で見たんだ」

 

 

 落ち込んだ様子の立香とマシュにロマニは何も言えなくなってしまった。

 ロマニ自身もまた驚きを隠せないでいるから。

 

 ダ・ヴィンチは何かを考え込んでいる様子だったが、ロマニもまた考えたいことがあった。

 

 

「言峰綺礼……いや、疑似サーヴァントのラスプーチン。何か弁明したいことはあるかい?」

 

「いいや、全く」

 

 

 ロマニの言葉に言峰は首を横に振る。

 冷静に周りを観察するような彼に対し、本当は何もやってないのではないかと錯覚させられる。犯人として扱われているというのに。いや、魔術師によってはこれぐらいの裏切り行為。非道さなんてものが欠片も感じられない時点でまだマシな方だろうが……。

 

 不意に、ダ・ヴィンチが言峰に向かって話しかけた。

 

 

「……じゃあ何でかな、ラスプーチン。君は周りをよく見ている方だ。ロマンが書類を出し忘れていたことも、だいたいどのくらいの時間に部屋へやってくるのかもわかっていたはずだろ?」

 

「えっ」

 

 

 ロマニが首を傾けるが────すぐさまハッと思い返した。

 そういえば以前、言峰に出し忘れていた書類を持って部屋へ駆けつけたことがあった。その時に甘いココアを作り終えたばかりの言峰がいて「来ると思っていたぞ」と少しだけ微笑みかけてきたことがあった。

 それは一度や二度だけじゃない。ロマニ自身もどうにかしなきゃいけないとは思うが……書類だけではなく報告忘れなどで言峰の元へ向かった際も必ずと言っていいほどココアを作って待っていてくれる。まるで千里眼でも持っているかのように……。

 

 

 

「何でこんなあからさまに裏切っているのだと見せた?」

 

「言っている意味が分からないな」

 

 

 ダ・ヴィンチの言葉に言峰はふざけたことを言う。

 何が何でも言わないつもりだろうかと────ロマニが歯ぎしりした時だった。

 

 

「もう止めようよ……」

 

 

 喉を震わせた藤丸が、言峰を背に庇い周りを見てきたのだ。

 

 

「言峰さんのことを責めるのは止めよう。裏切ったかもしれないけれど……でもカルデアはまだ被害を被ってないでしょ?」

 

「立香ちゃん。たぶんそれはまだ表に出てないだけでもしかしたら……」

 

「でも! 私は、わたしは……!!」

 

「先輩……」

 

 

 敵を前にした藤丸立香は諦めず立ち向かう。

 いや、絶体絶命な状況である場合は分からないことも多いが、様々なサーヴァントたちと共に協力し修羅場を経験しここまで生きてきた。

 

 キャスターのクー・フーリン達から聞いていたからこその覚悟はあったはずだ。

 それはロマニも分かっていた。それでも立香はきっと立ち上がれると────。

 

 

 ロマニ・アーキマンは分かったのだ。

 誰もが心の弱さを持っている。

 絶対に折れてしまうような弱点を抱えて生きている。

 

 必死に抱えて、不安などを全て心の中に詰め込んで生きてきた立香のことをロマニは知っていた。でも自分は立香を前線へ向かわせた責任がある。

 

 だからこそ、言えないこともあった。

 隠していたこともあった。

 

 言峰は立香に寄り添い、不安を全て消してくれた存在だ。

 だからこそ、立香は言峰に依存していた。彼が居たからここまで立ち上がれたのだと思えた部分もあったかもしれないと、いわゆる幼少期に手放せないライナスの毛布のような役割を彼が持っていたのではと、ロマニは察してしまい表情を曇らせた。

 

 それはマシュも同じく、立香の気持ちを理解しているからこそ言峰を責め立てたくはないと思ってしまったんだろう。

 

 ダ・ヴィンチはまだ何かを考えている様子だったが……。

 

 

「はぁ……マスター。警戒していても仕方がないだろう。この男を庇い立てするな」

 

「で、でも……」

 

 

 何も言えないでいる立香に対し、アルトリア・ペンドラゴン・オルタは言峰を睨みながら言った。

 それに賛同したのはキャスターのクー・フーリンだ。

 

 

「こいつの言う通りだぜ嬢ちゃん。裏切ったのは事実だろ。何を企んでいるのかは知らねえが……やったことを庇い立てしても何の得にもなりはしねえよ。そんなことをして得するのは言峰の野郎だけだ」

 

 

 立香は何も言わない。

 でもそれでもと、言峰を背に庇ったまま。言峰は何もしてはいない。こんなにも人類最後のマスターが無防備に背を向けているというのに────いや、アルトリア・ペンドラゴン・オルタなどがいるせいだろうか。攻撃すればきっとすぐ反撃されると理解していて何もしないのか。

 

 ロマニは言峰を観察する。

 彼の考えていることが分からないのだ。何故こんな騒動を引き起こしたのかすらも理解できない。

 

 彼が何をしたいのか、ロマニ・アーキマンは想像がつかない。

 

 言峰がこの場に居て、何も言わないというのに場を引っかきまわしているような違和感があるせいだろうか。それとも彼が何をしたいのか理解できずにいるからか。

 

 知らないというのは怖い事ばかりだ。

 だからロマニは選択した。甘く優しい決断を。

 

 

「……しばらくはここに待機してもらおう。後で尋問はするからね、言峰綺礼」

 

 

 しょうがないからと一度部屋から離れることになった。

 風魔小太郎に彼の見張りを任せてもらいながらも────と、立香たちに納得してもらいつつ一度言峰から離れて部屋を出た。

 

 

「……少し休もう。それからもう一度話をしよう。その方がいい。僕たちは今、冷静でいられないだろうから」

 

「……はい」

 

「何ともまあ甘ったるいな。そんなんじゃ奴に隙を作るだけだぜ」

 

「じゃあどうしようって言うんだい。キャスターのクー・フーリン。彼はここから逃げられるわけじゃないよ。隙なんてどこにもない。今やるべきことは僕たちが冷静になることだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時はまだ、理解していなかったのだろう。

 ────ある意味、キャスターのクー・フーリンが言っていた内容は当たっていたのだ。

 

 ここはカルデア。

 密閉空間でもある場所。ならばどこかへ逃げられるわけじゃない。アサシンのサーヴァントが見張りについてくれている。それならば大丈夫だろうという甘えがあった。

 

 何よりも、カルデアで積極的に協力してくれていた言峰が派手にやらかすとは思っていなかったのだから。

 

 

 

「言峰が消えた!?」

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 


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