あるところに女がいた。女は孤独であった。数年前に両親を失い、唯一の家族だった弟もこの世を去ってしまった。女は途方に暮れた。自分にはもう何もない。女は死を選んだが死にきれなかった。そこで、いっそのこと綺麗な海に入って死にたい、そう思って浜辺を歩いていた。
そう思って歩いている最中、浜辺に一つの人の影が横たわっていた。
なぜこんな所に人が?
普通であればそう思うだろうが、女はもっと別のことに驚いた。横たわっていた男は髪、瞳、背丈、どれをとっても亡くなった弟に瓜二つであった。女は驚きながらも横たわっていた男を抱え家まで連れて帰って介抱した。
男が目を覚ましてからも女は驚いた。声、仕草、あらゆるものが弟にそっくりなのだ。女は思った。これは天からの贈り物なのだと。彼女はその男に愛情と愛情を与え、一族に伝わる魔法を教えた。そして女はその男にディオールという名前を与えた。
「起きなさい、ディオール!」
姉の声で目が覚めた。ああ、また稽古が始まるのだ、と少しうなだれてしまいそうな体を何とか起こし服を着替え、剣を持って外に出る。すると横からいきなり剣が振り下ろされた。
「うわっ!?」
「ボケっとしないの!敵はいつ襲ってくるか分からないのよ!」
このような厳しい言葉を投げかけてくるのは僕の姉ベネラだ。
「早く剣を構えなさい!」
「わ、わかったよ。」
そうしてお互いに剣を構えた後、けたたましい金属音が森の中で響き渡った。
剣の練習の後は魔法の練習だ。今日は少し高度な魔術を練習するらしい。
「いいディオール?よく見てなさい。」
そう言って机の上に置いてあるパンの一部をちぎると呪文を唱えた。すると手に紋章が現れ、たちまちちぎったパンのかけらが元のパンほどの大きさになった。
「今のは複製魔法と言って、複製したい物の一部を使って元の物とまったく同じものを作る魔法よ。」
「さあやってみて。」
そう言われて見よう見真似でやってみるもののできたのは腐ったパンだった。
「もうちょっと練習が必要ね。」
姉はそういうと立ち上がり、
「いいディオール?今まであまりやって来なかったけど、良い魔法を正しく使うには危険な魔法も学ばなきゃいけないの。」
そう言って彼女は鳥を指差して呪文を唱える。すると鳥は硬直し、そのまま木から落ちて動かなくなってしまった。しかし、姉がもう一度その呪文を唱えると鳥は意識を取り戻し飛び去っていった。
「今使ったのは、肉体と魂を強制的に分離させる魔法よ。」
姉は僕の目を見ながら言葉を続けた。
「ディオール、あなたは特別な力を持ってる。その力を正しく使うには、良いことも悪いことも知っておかなくちゃいけないの。わかった?」
「ああ、分かったよ。姉さん。」
「さてと、難しい話ばっかりで疲れちゃったし、ご飯にしましょうか。」