コロルサイド 鋼鉄翼の屠龍機   作:桜エビ

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天空の要塞

 ――蜂起の数か月前。

 

 「兵器に頼るだと?ふざけるな!!あんなものに頼らずとも!!」

 

 赤い体躯の巨龍が怒声を上げる。屈辱的な内容だったかのように。

 

「貴様は、海の向こうでの戦いに染められたか!!」

 

 巨大な、龍のための会議場と思える場所、その中央に人の姿をしたグレアはいた。

 

「無論、我々の体も知能も人間を遥かに凌いでおります……が、それゆえに兵器たちが泣いているのが見えるのです」

 

 そのグレアの言葉に多くの龍がどよめいた。いや、困惑や呆れという部分が強いか。

 これは、海外に赴いたグレアの意見を、クーデター軍首脳部が聴取するために開かれた会議。

 そこでグレアは、上層部の保守的な考えに真っ向から反対する兵器推進派の立場を取ったのだ。

 

「どういうことだ?」

「現代の兵器、特に航空機などはもうすでに、貧弱な人間の手に余る存在となっているのです。我々強靭なる肉体を持つ龍が使ってこそあれらはその全力を発揮できるのです」

 

 そこで回りの様子を見るために一呼吸を入れる。グレイは怪訝な顔をしている会場中の龍の視線を浴びることになった。

 だが怯むわけにはいかない。いや、まず怯むはずがない。

 今の戦場で必死に戦う人間たちの殺意を肌で受けて戦ってきた。その時の殺気と比べてしまえば大したことはなかった。

 

「もちろん、そのような兵器に身を預けること自体屈辱的、という価値観があることは理解しています。ですが、彼らの土俵でもって彼らをねじ伏せることができるのならば」

「貧弱な人間どもに最大級の否定を叩きつけられるというわけか」

 

 

 持ち帰る、という塩梅で会議は終わった。

 

 今のは方便だ。

 会議室から部下とともに出たグレイは、苛立ちを隠しながら廊下を歩く。

 

 今の龍は音速を超えて飛ぶことはできないし、優れた視力をもってしてもレーダーの索敵範囲には敵わない。

 かつての名だたる強者の龍ならできただろう。だが、今は違う。そんな強大な力を持つ龍は今の時代の軍にいない上、それをカバー出来るほど圧倒的な数がいるわけでもない。その程度の者達が龍の体に戻ろうとも、兵器で対応できてしまう。射程も、防御力も、速度も、上回るものが兵器として存在しているのだから。

 そんな戦いをすれば、ただ敗戦するだけではない。龍の懐古主義者たちは現実を見ていない愚か者であり、山に籠って威張っているだけのトカゲとして、今後長きにわたって後ろ指を指され続けるに違いない。それだけは何としても避けなければ。

 

 だが、人間は兵器に呑まれつつある。先ほどの人間の手に余る存在となっている、というのは事実だ。MF-15の時点で、人間の貧弱な体では耐えられない戦闘機動が行えるようになってきているのだ。これを飲まれているといわずしてどうする。それ以外にも、人間という脆弱なパーツを乗せなければいけないという制約が、多くの兵器に足かせを嵌めている。

 

 ならば、その枷を龍という強靭な肉体を以って外せばいいのだ。

 遠距離ミサイル戦に移行しつつあるのは認めよう。だが、そこからの回避、そして格闘戦において龍がパイロットを務めていた方が圧倒的に有利なのだ。人間は8Gで機動をすれば精密検査行きだが、龍人ならば10G以上で機動しようともそのような必要性が発生しない。

 何より持って帰って来たGf-54に、龍の圧倒的量を誇る魔力を使ってステルス魔術を行えば、レーダーからほとんど探知ができなくなる程なのだ。MECエンジンを介すならば楽に。介さずとも問題なく発動できる。それで近距離に潜り込み、龍の肉体を以って貧弱な人間を乗せたノロい敵機を格闘戦で叩き潰す。戦闘機の性能を十二分に引き出した素晴らしい戦法だと思うのだが。

 

 自分が空軍だったために空戦でのたとえになったが、他の部分でも同じことが言えるはずだ。それをわざわざ龍至上主義としてのプライドのため、無意味にするのは無駄が過ぎる。

 

 このグレアの考えが上層部に理解されるまで、もう少し時間を要した。だが、それが国連を序盤にて叩き潰すことになる。

 

 □

 

「集まったな。ブリーフィングを始める」

 

 集められ、いつも通りの切り出し方で准将がブリーフィングを始めた。

 

「こちらの対空レーダー網が回復してきたことにより、敵の大規模空輸団の動きを察知できた。先の作戦での陸軍戦力を補充するものと思われる。これに対して我々は、レーダー探知の面から襲撃機3飛行隊を用いて奇襲を仕掛け、その後戦闘機隊を用いて混乱した残存兵力を確実に撃墜する」

 

 敵の予想される飛行ルートが表示される、山腹からガリオンの北東に向けて飛行をしているらしい。

 それをインターセプトする形で空輸団を攻撃することになる。

 

「敵はすでに行動中だ。スクランブルのつもりで迅速に事に移れ。質問がなければ解散とする……ないな、解散!」

 

 襲撃機での先制攻撃に選ばれたのは、スワロー隊、クリオネ隊、キラービー隊。

 襲撃機を主として運用している隊だ。

 襲撃機はそもそものサイズが小さいためレーダーに映りづらく、特に工夫をしなくても奇襲しやすい。

 しかし搭載量も低いため、大部隊を襲うとなると火力が足りなくなる。そこで後詰に戦闘機がたんまりミサイルを持ってきて弱った敵を叩くのだ。

 これが空の敵に対する奇襲作戦においてメジャーになる戦法の1つになっている。今回ランサー隊は後詰をする役回りだ。

 

 □

 

 作戦空域に向かうランサー隊。すでに襲撃機たち先行攻撃隊は作戦空域に足を踏み入れている頃合いだろう。

 空域は大きな雲が立ち込め、まるで迷路なのではないかと思ってしまうほどだった。

 襲撃機たちがしっかり暴れられてるなら、敵はこちらの接近に気づいてるか問わずこちらに牽制もまともにできないだろう。

 中距離ミサイルでこちらを狙撃しようにも、その体勢を取ればその背後から襲撃機に襲われることとなるのだから。

 

 『イビルアイよりランサー隊。よく聞け、襲撃機隊との連絡が取れない。撃墜されたのではなく、ノイズが酷くて話にならないという方面だ。レーダーでは生きている。おそらく強力なジャミングが掛かっている。データリンクもノイズで使えたものではないから、先行部隊とのデータリンクをあてにせず狙撃しろ』

 

 冷ややかでめんどくさそうにしている声が無線から響く。

 データリンクを構築するのはAWCSであるイビルアイの仕事だ。できないからと言ってサボることは許されず、相手が健在であるならば連絡を定期的に行い可能になった時点で構築にかかる。

 戦闘中に回線が復帰したなら、戦闘管制を行いながらその業務を行うことになる。

 イビルアイの管制業務を行っているのはアクローエ・スカルト中尉という女性で、他人の4割増しの視野とそれを処理しきれる情報処理能力を持つという魔眼所持者なのだが、そんな彼女とて戦闘中のデータリンク構築は面倒くさいことに違いないのだ。そもそも面倒くさがりなのもあるが。

 

 ちなみにイビルアイはランサー隊とともに行動している。AWCSはいくら高高度を飛んだところで発見される確率は低くなく、奇襲効果が減る可能性を否定できないのだ。

 ゆえに通信中継が可能なギリギリの距離で待機して、ランサー隊の到着を待って空域に接近することとなった。

 だからだろう、ジャミングで簡単に交信不能になってしまった。減衰した遠距離通信電波がジャミング電波に勝てる道理がなかったのだ。

 

「了解、イビルアイからのレーダー情報をもとに先制攻撃を行う。聞いてたな。中距離ミサイルの準備をしろ。射程には入ってるがあと少しだけ近づく」

『コピー』

『コピー』

 

 射程圏内まであと僅か。ジャミングが掛かっていることも考慮して射程距離より少し踏み込んで撃とうとクリスは考えた。

 搭載量が多いといっても、短距離ミサイル2発を含めて合計12発。無駄撃ちすればいくらかの輸送機を逃すことになるかもしれない。

 スフィアは決して高火力とは言えない。戦闘機相手ならともかく、巨大である程度防御性能を持つ輸送機相手になると若干心もとない。中距離ミサイルは外すわけにはいかないのだ。

 雲で視界が通っていないが問題ない。見えてなかろうと雲の向こうだろうと、イビルアイのレーダー情報を頼りに初期誘導は行えるはず。

 

『……とうしろ!!イビ……イ!!!こちらキラービー1!!!』

『今聞こえた、キラービー1。どうした』

 

 タイミングが悪かった。

 ランサー隊は各機2つづつ、計6機の敵の反応に対してロックオンし、トリガーを引いた直後だった。

 6発のミサイルが作戦空域を引き裂いていく。

 

『緊急事態だ!敵はガンシップを出してきた!』

「ガンシップだ?」

 

 ガンシップ。大型の対地攻撃機。

 普通の攻撃機や爆撃機と違うのは、ミサイルや爆弾ではなく文字通りガン、つまり弾丸としての砲弾を発射して地面の軽装甲目標に対して攻撃することを主眼に開発された機体だ。

 基本的にベースは輸送機であり、大型で機動力はなく攻撃力も中途半端だ。

 問題は、それでなんでキラービー1が慌てているかだ。戦闘機や襲撃機に対して、そこまでの攻撃力はないはずなのだから。

 

『すまない……とっさにガンシップと言ったが、あれが正確にガンシップなのかは自信がない。まるでハリネズミだ』

 

 そこでクリスも異変に気付いた。

 ミサイルは2発命中し、輸送機らしき反応が2つ消えた。残り4発はというと、手前の航空機の前で消されてしまった。

 迎撃されたのか?

 

『ミサイルもかなりが叩き落されるし、油断すればミサイルが飛んでくる。手に余ってるんだ、助けてくれ!』

『だ、そうだ。ランサー隊、警戒して接近せよ。回避できる状態を維持してな』

 

 雲に突入し、突き抜ける。

 一層迷宮の中に迷い込んだと思える、そんな空間の中に奴はいた。

 

 異形。

 

 その言葉が似合う機体であった。

 輸送機より一回り大きい全翼機。大きなエンジンと翼を持ち、そこら中に円盤状のパーツがついている。

 後方に伸びるように対空ミサイル(SAM)ポッドらしきユニットが伸びている。

 その手前の方のパーツが展開した。

 

「――全機ブレイク!!!」

 

 とっさにクリスは言い放ち、操縦桿を右に倒す。ランサー隊の二人もそれに倣って散開した。

 直後、展開した部分から複数の光球がランサー隊の方に向かって発射され、ランサー隊に殺到する。

 

 スフィアだ。ランサー隊たちの迎撃を開始したのだろう。

 

 回避機動を始めていたランサー隊は被弾を免れた。

 左に回避したイオンはガンシップ――正確には違うだろうが、そう呼ぶことにした――に機首を向けるべく右に旋回して、狙いを定める。

 

「ランサー3、スフィア」

 

 射程圏内ぎりぎり。小手調べとして実体ミサイルを消耗するのを控えるため、火力が出ずとも消耗なく敵の見方を伺えるスフィアをイオンは発射した。

 スフィアが的確に敵ガンシップのエンジン部に突き進む。

 ほかの機体も狙われないようにしながらその様子を観察していた。

 

 そして、スフィアは撃墜された。円盤状のパーツから単純な物理衝撃を与えるタイプと思われる魔道弾を対空機関砲として連射し、スフィアを粉砕した。

 もう言葉も出ない。

 先の作戦で遭遇した変態戦闘機といい、シュールは奇人変人の寄り合い所帯なのか?とクリスは邪推するほどであった。まあ、あの大型機が少数の龍で運用されているのならば、少しは合理的な運用方法かもしれない、とクリス思考に付け加える。

 

 MECドライブはその性質上、複数人で運用すると効率が低下するという特性がある。

 違う魔力波長がその機械の系内の中にあると、何十、何百回と繰り返すMECドライブの増幅サイクルすべてに干渉して無視できないエネルギーロスが発生するらしい。詳しいことは魔術力学者に聞かねばならないが。

 そのため、一般的にMECドライブ、およびMECエンジンを実用的に運用できる最大人数は4~10人と言われている。それを超えると出力は目に見えて低下するとかなんとか。

 ちなみに人をエンジン扱いすることになる、という屁理屈で、条約でも10人以上の乗り物にMECドライブやそれに準じた魔道永久機関の利用、応用をすることを禁止している。

 

 相手は龍だ。魔力量は人間のそれを遥かに凌ぐ。脳構造も違うだろう。

 だが、あれだけ派手に魔術行使をしているとなるとMECエンジンでないと説明できない。永久機関でない魔力増幅機関であのような性能は龍でも無理だ。ゆえに少人数。

 魔力投入によるエンジンブーストと、魔術的リンクに起因した思考制御による火器管制が、あの異常な戦闘能力を実現させているのかもしれない。

 

『この状態を知った上層部から通達だ。こいつは脅威になる。撃墜、ないし打撃を与えるようオーダーが来ている』

「やり方はひらめいた、イビルアイに働いてもらう。」

『ほう、聞かせてもらおうか』

「単純だ、15機による同時飽和攻撃。先ほどまでの12機での散発的な飽和攻撃はあっただろうが、今の数で完全に同時ならきついだろう」

『その管制をやれということか』

「複数発撃つ機体に関して、軌道を散らすこともやってもらう」

『やれやれ、人使いが荒い』

 

 そういって彼女はその準備にかかる。

 その間まで、こちらは墜とされるわけにはいかなくなった。

 そんなクリス達の思惑に気づかれたかのように、敵ガンシップから対空ミサイルが発射される。

 一機につき2発だろうか。確実に墜としに来ている。

 

「チャフ、フレア」

 

 敵の対空ミサイルがどっちの誘導方式か確認していないため、どちらも放出しながら回避機動を取る。

 イビルアイのことだ、時間を取らずに用意を終わらせるはずだ。そうクリスは思いながら操縦桿をひねった。

 

『クリオネ4被弾!尾翼を掠めただけだ!まだ飛べる!』

『墜ちるなよ!誰か墜ちたら勝てなくなるかもしれん!』

 

 ランサー隊ならこの弾幕程度で墜ちるようなダメージを食らうと思いたくないが、味方は別だ。

 練度は分からない。国連軍の一般水準程度は期待したいもの。だが、このような派兵に乗り気ではない国が、腕の良くないパイロットを送ることもありえないことではないのだ。

 幸い致命的な損傷を受けた機体いないが、このまま攻撃を受け続ければリスクは上がる。腕の悪さにも比例して。

 俺たちだけ生き残っても仕方がない。それに本来の任務は輸送機の撃墜、手間をかけすぎるわけにはいかない。

 再び敵は攻撃してくる。

 

「敵、スフィアを発射。SAMでの時差攻撃に注意」

 

 今度はスフィアによる同時攻撃。SAMは撃ち尽くしたのかもしれないとクリスは推理する。なにせさっきは15発も撃ったのだ。それまでの使用数を考えると先ほどのようなこちらに対しての制圧攻撃はできないだろう。

 だが、思い込んで墜とされないようSAMの存在を脳内から削除することはしないし、味方にも伝えない。伝えればそれを意識して油断させてしまう可能性があるため、伝えるのはSAMを忘れるなという遠回しの警告だけ。

 

 スフィアはそれ自身に敵の認識能力はなく、戦闘機から魔術的に遠隔誘導をして敵を追尾させている。

 となると、この距離であればレーダー誘導だろう。襲撃機はともかく(クリス)の居る位置は中距離の間合い。センサーがミサイルとともに接近するミサイルは、途中で赤外線探知などでの再ロックオンが効く。しかし母機のセンサーに頼っているスフィアは母機と敵機の距離に合ったセンサーしか使えない。

 つまり、この中距離という間合いではまともに機載赤外線センサーに頼れない。敵はレーダーで誘導している。

 

 旋回し続け、一周してSAMの回避を始めたところの少し下あたりに戻ってくる。

 すでにそこには先ほどチャフが散布されている。時間があまり経ってない今なら有効な状態のチャフの雲が残っているはずだ。

 当たりだったのか、スフィアは見失ったかのようにチャフの雲に突っ込み、あらぬ方向へ飛んで行った。魔力が拡散しきって消滅する。

 ほかの機体も回避したか致命傷を避けたようだ。

 フレアを撒けば確かに万全だっただろうが、時間稼ぎがしたい今、目立つ行動はあまりしたくない。

 

『イビルアイ、準備で来たぞ。カウントダウンを始める。こちらから送られてきたデータをインストールしつつ各機指定したポイントに向かえ』

 

 仕事が早すぎるな、これではガンシップの方がかわいそうに思えてきた。

 クリスはそう頭の中で呟きながら進路を指定されたポイントに向ける。移動中に受信したデータの処理も怠らない。

 

『敵ガンシップ、スフィアを発射!』

「チッ」

 

 タイミングがずれるのを嫌って、回避は最低限にしてチャフを再度散布した。

 しかし、衝撃。

 

「ランサー1被弾」

『隊長!?』

「安心しろランサー3、右尾翼にダメージ、飛行に支障はない」

 

 チャフの効果が出切る前にスフィアが至近で炸裂した。

 防壁を張らなかったのが仇になったが、致命傷ではないしガンシップ相手にドッグファイトする予定もない。これからの作戦に問題はない。

 敵の護衛戦闘機や襲撃機が襲ってくる様子もないので、そこはしっかり先行部隊が仕事をしたのだろうとクリスは静かに感謝の念を抱く。

 

『同時攻撃カウントダウン、20、19、18』

 

 友軍総がかりで、少し高度差が出るようにガンシップの360度を囲む。

 大量の対空ミサイルを未だに積んでいるランサー隊は、ばらして配置された。

 ガンシップを墜とせと言われているのだ、輸送機を多少見逃すことになっても実体ミサイルは撃ち切るつもりでイビルアイは計画を立てているのだろう。

 

『……10、9、8、7、6』

『敵反撃を確認、各自注意』

 

 散発的にスフィアを撃ち始めた。敵が混乱するのも当然だ。

 ほぼ一斉に全方位から、攻撃態勢を維持したまま中距離より間合いを踏み込んで接近し続けているのだ。優先順位が分からない。

 全機を同時に攻撃するあれも、それなりに優先順位をつけて発射しているのだろう。それこそ、今全機に対して攻撃を行って撃ち漏らしが出れば即座に反撃の弾が飛んでくる。迎撃にも魔術機銃を用いているので、魔力を使い過ぎてじり貧になりたくないという思いとの板挟みになっているのかもしれない。

 そしてその悩みは、ガンシップ優位の状態だから許されるものであって、戦闘機や襲撃機が主導権を持っている流動的な状態では許されない。空戦は、その一瞬が生死を分ける。

 

『3、2、1、攻撃』

「ランサー1、FOX3」

 

 インストールされたプログラムは驚くべきもので、トリガーを引くことで作動するらしく、一瞬で複数発が発射された。

 ロック対象は1機なので、普段はあり得ない現象だ。

 襲撃機からも、連射限界ぎりぎりでスフィアを何発も発射して回避、離脱機動を取る。

 本来ならスフィアの誘導のためにロックオンを維持しなければいけないのだが、データリンクとイビルアイの誘導によってコントロールされているため、今はそのことを考えなくてもいい。

 俺もそれに倣い、左に旋回して距離を取るコースを取る。

 対空ミサイルはまだ抱えている。万が一を考え、念のためだ。

 

 どの誘導弾も、イビルアイのプログラムとリアルタイム操作で複雑な回避機動を取りながら接近する。

 あの円盤型対空機銃(本来の用途は違うかもしれない)が迎撃を開始するが、向かう弾に対して基数が足りていない上、かなリが回避されている。

 必死にチャフとフレアも放出しているが、あの数だ、確率論的に全弾を無効化できるはずがない。

 数発が手前で迎撃されたのち、ガンシップがいくつもの爆発に包まれた。命中だ。

 

『よっしゃぁあ!』

『やったぞ!!』

『助かったぞ!!ランサー隊!イビルアイ!!!』

 

 無線内は歓声に呑まれる。死地に追いやられ、苦しい時間を必死に凌いだ結果得られた勝利だ。理解できなくはない。

 一方、同時に全く理解できない現象も起きていた。

 

 リヒテルが回避機動を取らずガンシップに向かい続けている。

 データリンクによる終末誘導管制のためかと思ったが、今も向かい続ける必要はないはずだ。

 

『全機!!瀕死だがガンシップはまだ飛んでいる!!生きてるぞ!!!』

『やれやれ、念のためが活きるとは』

 

 呑気な味方に腹をたてたイビルアイの罵声。

 レーダー上では反応こそ僅かに小さくなっているが、ガンシップの存在が未だにそこにあった。

 そうか、リヒテルは保険を掛けたのか。そこからならさらに短距離ミサイルとスフィアで追撃できる。隊長とイビルアイに無断とはいい度胸だが。

 

『ランサー2、FOX2、FOX2……まだっ!』

「……おい、無理をするな!」

 

 謎の焦りを見せるリヒテルに、クリスは声を荒らげる。

 リヒテルは追撃のミサイルを発射しつつなおもガンシップに接近を続ける。万が一何か機能が生きていたとすれば危険だ。迎撃される可能性がある。

 俺は急いで引き返す。リヒテルが攻撃された際のカバーと、墜とし損ねた時の追撃として。

 あのガンシップは思っているより頑丈のようだ。あれだけ実弾、魔術弾問わず直撃したにもかかわらず高度を何とか維持している。

 

「一旦引き返してアプローチしなおせ!無茶だぞ!」

『隊長!!これは死んだふりです!私は見ました、やつが防壁を張るのを!』

「なんだと!!」

『ダメージこそありますが、見た目よりこいつは喰らってません!魔力が充填されれば息を吹き返します!!』

 

 なんてことだ、今こいつが黙っているのはバッテリーを使い果たしたからで、機能が破壊されたわけではない可能性があるということになる。

 迎撃兵装のどれだけを破壊できたか確認していないが、もしそれなりに生きてたら今まで以上に苦戦する。こちらも兵装を大分使ったのだから。

 

『ランサー2、ロックされているぞ!』

 

 イビルアイの警告。

 もし対空赤外線センサーがついているのなら、赤外線センサーでスフィアを誘導するだろう。

 近距離ではレーダーより信頼性があるうえ、あの巨体ならば近年研究中の画像解析技術を搭載していて、高精度ロックオンができるかもしれない。

 ミサイルや戦闘機に積める状態には出来ていないらしいが、あのサイズの母機ならどうだ?そうだとしたら、フレアでの回避は絶望的になる。

 エンジンだけでなく、それに影響された機体の熱もサーモグラフィ画像として認識しロックオンするシステム。これが、エンジン熱を模しただけの火の玉に引っかかるはずがないのだ。

 

「ランサー2、ブレイク!!」

 

 叫んだ瞬間にランサー2の発射した対空ミサイルがガンシップに命中し、同時に反撃のスフィアも発射された。

 とっさに右旋回するリヒテル。

 

 『グッ……!!』

 

 被弾、かなりの近距離。

 衝撃に苦しむリヒテルの声が通信機越しに聞こえた。

 

「この……ッ!!FOX2!!」

 

 俺からも近距離ミサイルを発射する。

 敵は先ほどのチャフに加えてフレアも未だに放出している。だから、誘導装置は切った。それに頼ると逆に弾が逸れる。

 近接信管のみ生きているミサイルは誘導せず、しかしクリスの狙い通り真っすぐガンシップに向かった。コックピットの付近で近接信管が作動する。

 航空機の頭脳であるパイロットを失い、被弾のかさんだガンシップは爆炎を上げながら墜ちていった。

 

「ランサー2、無事か?」

『左エンジンをやられましたが消火できました。戦闘には参加できませんけど、帰るくらいなら何とか』

「今すぐ基地に引き返せ。いいな」

『ウィルコ』

 

 ランサー2が抱えたままの対空ミサイルは少し惜しいが、そんなもリヒテル自身の命に比べたらなんてことはない。

 何より敵は迎撃手段を失っている。消化試合だ。

 

 実際その後、何一つ問題なく、作戦は完了した。

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