コロルサイド 鋼鉄翼の屠龍機   作:桜エビ

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ヒトならざる人

 「ようこそ。オーエンさん、よくいらっしゃいました」

 

 オーエンはボレベインの沿岸部にあるガリオン・フリス工廠の工場の1つに来ていた。

 本社に聞いたところ、ここは独立性が高くここ最近モノや金の動きに不審なものが見られ、近いうちに査察を入れる予定と教えてもらえた。

 おおよそ、ここがシュールに航空機を提供しているだろう。他の工場やライセンス生産している会社では、不思議な動きは確認できなかったのも大きい。

 

「こちらこそ取材に応じていただきありがとうございます」

 

 そう、あくまで体裁としては取材である。

 ボレベイン政府も絡んだ査察より前に会社を調べ、国ぐるみのもみ消しに抗うつもりだ。

 もちろん、私が先日までシュールで取材を行っていたことを向こうは知っているだろうし、もうとっくにもみ消し作業は終わった後かもしれない。

 だが、依頼された以上は私のできる範囲で仕事をするだけだ。

 

「オーエンさんは先日までシュールにいらしたんですよね。本日の取材した要件は……」

「シュールで戦果を挙げている貴社製品、Gf-54の能力です」

「我が社が提供したと思われているのです?」

「そう思っていない、と言えば嘘になります。ですが、今回私が取材したいのはそこではありません。私にそこまでの権限などはないですし」

 

 半分は嘘だ。国連からはここから供与ないし販売されたものではないかという疑いを精査することである。

 だが私個人の興味は、スペックがかなり秘匿されているGf-54という機体だ。

 私は彼の後ろについていきながら、話を続ける。本来なら見ることはないだろう、戦闘機の生産ラインが時々窓から見える。

 

「私の手元にはGf-54のデータはあまりありません。今回の戦争で飛んでいる姿を見て興味が湧いたのです」

「実物を見て初めて、興味を持たれる。確かにあり得る話ですね」

 

 応接間は思いのほか入口より遠いのだろうか。

 どんどん奥に進んでいく。こういうのは、そこそこ入り口から近いところに設けると思うのだが、彼は事務所すら過ぎて奥へと歩みを続ける。

 ……思いのほか、歩くのが速い。

 

「何より……あなたは実戦で我が社の製品が交戦するのを見たのではないですか?」

「え?」

 

 なぜ知っているのだろう。私がクリスファー大尉の後ろに乗って取材をしていたことを、彼はどのルートで知った?

 国連軍の企画したこととはいえ、たかが一企業の社員が知る機会のない情報のはずだ。なぜだ。

 オーエンは僅かに身構える。情報戦だ。どうやらここも戦場で、私はこの内戦の始まりの時のように、奇襲を受けてしまった。油断していれば、そのままいいようにされて命はないかもしれない。

 撤退は選択肢に入る。相手は私がそういう狙いであることをもう知っていてもおかしくはない。この取材で私を捕らえて歴史の闇に葬ろうとしているのかもしれない。

 

「……なぜ知っているのです?」

 

 平静を装いながら素直に問いかける。とぼけたり誤魔化すのは直感的によくない気がした。

 それにここであからさまに狼狽えれば完全に相手に乗せられ、あっという間に詰んでしまう。逃げもまだ駄目だ。会話の流れ的に帰るのはまだ不自然すぎるし、敵の隙を伺わずに全力逃走でも背中から撃たれるかもしれない。2度目の死が、あまりにも無様な逃げ方をして殺された、なのでは、たまったものではない。

 

「意外と動揺なさらないのですね。思いのほか肝が据わってらっしゃる」

「先日の件で、鍛えられましたから」

「なるほど」

 

 あくまでも自然を装い、彼についていく。

 思えば、こんな奥まで案内しているのがまず罠だった。この工場は、今の私にとっては罠が張り巡らされた迷宮だ。奥に行けば行くほど、私の生存確率は低くなる。

 引き返すなら早い方がいいが、タイミングを窺わなければ彼直々に殺される。殺す気がなくとも、私は彼らに都合のいい事を言わされる人形になるかもしれない。

 

「そうですね……なぜ知ったかと言いますと……」

「……うっ!」

 

 彼が立ち止まり横にある何かを見つめたので、私もそれを、おぞましいものを見ることになる。

 龍人だ。一目でわかる。人への変化が控えめな状態で、シルエットこそ人型だが、鱗が全身を覆い顔は龍らしい風格を残している。

 その龍人の頭部には大型の機器が取り付けられている。龍人の表情は完全に理性も力もなく、完全に破壊された廃人のような状態であった。そこまで露骨にグロテスクな状況でもないのに、吐き気が少しせりあがってきた。

 

「……彼はシュール内戦の初戦にて撃墜され、ベイルアウトしたパイロットです。無様だと思いませんか?人間より上位だと信じてやまないはずだった龍の末路が、これですよ?」

「彼に何をしたのです?」

「記憶を隅から隅まで覗かせていただきました。さすがは龍。目がいいのであなたの姿が記憶の中にしっかりと入っていましたよ」

 

 彼は平然と壊れてしまった龍人のことを語りながらこちらを振り返る。

 そこまでして彼の記憶を確認したかったのか。最新の生理魔術と科学医療の結集であった記憶抽出は、今のところ脳に非常に高い負荷がかかるため、人道的な見地から違法となっている。名目上では兵器工場であるここに、そんな非人道的な脳干渉装置があるのはおかしい。元から覚悟していたこととはいえ、この工場が異常であることを本格的に確認できた。このままではまずい。

 

「……神を斬ったのは過ちだった。我々はあるべき姿を失い、堕落の道を進みつつある」

「何?」

「この世界の知恵あるものは、その知恵を過信して自らのあるべき姿から逸脱した。そして逸脱しないかった者たちが苦しむ。おかしいと思わないか」

 

 彼の見た目が少しずつ変化する。少しづつ爪が鋭く伸びる。表皮が硬化して分化していき、鈍い光沢を放つ鱗として変質していった。

 龍人だ。彼は龍だった。窓の向こう側にいる、悲惨な目に会っている龍に対しての態度から彼は龍ではないと思っていたが、違う。彼は同族を見下しているのか、失望しているのか。同族に対しても容赦がない。

 それはつまり、人間である私に対しても同等の残虐性を発揮できること言い換えられる。つまり、彼はここで私を殺すか捕まえるつもりだ。確率的に考えて、おそらく後者。

 私は咄嗟にポーチの中に手を入れて、卵よりひとまわり小さいユニットのボタンを押す。軍から渡されていた、非常事態を知らせる通信機だ。一方的に録音した情報をリアルタイムで送信する上、位置情報やわたしのバイタルデータを発信し続ける。死ねば、分かる。多くの電波帯域や魔術通信帯域に発信するため、妨害も難しい。私がここで何らかのアクシデントに襲われたことは何とか分かるということだ。

 

 そのことに気づいた彼が飛び掛かってくる。龍としての身体能力を十全に生かした素早い動きだ。

 何かあることは探った。ここからは生存を目指す。私はそのままポーチから、【お守り】を引き抜いた。

 

 □

 

「来たね。定刻より早いけど、今回の作戦は君達だけだから早速……おっと、君たちとは初対面だったね」

 

 ブリーフィングルームに来ると、いつもと違う男がスクリーンの前に立っていた。

 少々砕けた感じに接してくるが、醸し出す雰囲気は実戦でのたたき上げという風格を失っていない。

 

「ホブ首長国所属、第3多目的特技騎士団団長、ロイド・ガルスだ。階級で言うならば大佐だ」

「失礼ながら……ガルス大佐がなぜ今回のブリーフィングを?」

 

 リヒテルが問いかける。こういった質問は礼儀を保ったままで社交的な会話ができるリヒテルから切り出すことが多い。

 その質問にガルス大佐は眉1つ動かさず答えてくれる。

 

「理由は2つ。まずは准将が更迭されたこと。第2に今回の作戦が陸軍からの要望を強く含んでいること。これで大丈夫か?」

「問題ありません。了解いたしました」

 

 ああ、更迭は避けられなかったか。クリスは静かに心の中で遺憾の意を抱いた。確かにいい指揮官とは言えなかったが、彼なりに頑張ったのだと思うと少し残念だった。だが、結果は結果だったのでそこらへんをどうこう言うつもりはない。

 そして次に、クリスは目の前の男のことに意識を向ける。通称ガルス多目的特技騎士団。

 ホブ首長国連合において騎士団とは基本、貴族の生まれでかつ頭首になれなかった次男坊などが、今後に備えて軍歴を残すため、とい古き因習により存在する国防主体の部隊のことを指す。

 しかし、このロイド・ガルスと言う男は前線志望であった。よって騎士団という名前を持ちながらこのような熾烈な前線に投入され、自分たちと同じ便利屋として活動している部隊になっている。違いと言えばその規模で、実戦の成果をもって規模を拡大し続けた結果、陸上戦力と航空戦力の双方を装備している。内陸国の小規模な紛争であれば、この騎士団だけで戦争を遂行できると言わしめるほどだ。

 おそらく陸軍から【航空戦力を所持しているから、空軍を説得できる指揮官】として使い走りにされたのだろう。少し同情する。

 

「さて、作戦の説明に移るぞ。」

 

 画面が起動する。

 人が変わろうとも、画面の表示が変わることはない。厳しい山岳を持つシュールの大地が表示され、これから攻め入る場所が示されている。

 拡大表示されるのは、山の東側にある洞窟だった。

 

「んんッ!正直に言うと型破りなミッションだ。君たちにはイグニサンク山の東にあるトンネル型基地を攻撃してもらう。」

 

 ふむ、本当に頭のネジが外れているミッションだ。航路図をどう見てもトンネルの中に入ってから攻撃のマークが入っている。

 つまり、どこかで見たようなトンネルくぐりをやれと言われている。

 

「この基地は天然のトンネル型の巨大な洞窟を拡張して作られており、襲撃機なら問題なく飛べる規模を誇っている。ここを通り過ぎながら攻撃してもらいたい」

「また、爆装の増加に関しては先日作戦能力を得たP-16のXLブースターユニットを貸与する。もちろん無理はしなくていい、通りながらカットラスを適当に垂れ流して帰ってきてくれれば十分だ。何か質問はあるか?」

 

 リヒテルが挙手をする。

 

「そのXLブースター装備での運動性は、洞窟の通過には問題ないですか?」

「うむ、洞窟は見ての通りあまり曲がっていない。実は以前ドローンと侵入させたんだが、内部も複雑な構造をしていないことが分かっている。内部にあるクレーンだけ気をつけてくれば問題ないだろう」

 

 了解です、とリヒテルが言って質問が終わる。ブリーフィングも締めだ。

 

「国連司令部が君たちを指名して立案された、正直言って無茶振りだ。このような作戦を伝えることが心苦しいが、無事の帰還を祈る」

 

 

「まあ、人柄は悪くなかったね」

「それはそれ、これはこれですよ。まーた変な任務が来てしまいましたね。陸軍の仕事でしょう、これ」

「まあ、今の状況でイグニサンク山の裏側に機甲戦力を回すのは無理だからね」

 

 XLブースターを装備している様子を見ながら雑談に興じる。

 先ほどシミュレーターで軽い習熟訓練をしていたのだが、このブースターは小型補助エンジンを翼中央に搭載し、ストレーキを外付け拡張して疑似デルタ翼にするP-16のカスタムパッケージのようだ。噂では、グレイワールドで試作機終わりだった機体を、外部装備で再現するものなんだとか。

 補助エンジンの追加出力で慣性制御補助が入っているので、不思議と乗り心地はあまり変わらないまま搭載量と魔術出力の増加の恩恵を得られている。重くなる分若干運動性は不安だが。

 

「まあ、作戦の細部を確認すると、俺たちならできるだろうという計算がされてるから、まあ何とかしよう」

「それがランサー隊、ね」

「いつも通り任務をやれるだけやる、というだけですね」

 

 取付作業は間もなく終わる。

 

 □

 

『作戦空域に到達。これより無線封鎖を解除する。と言っても、トンネルに入れば圏外になって私とは交信できなくなるがな。引きこもりどものケツをひっぱたいてこい』

 

 トンネルが目視できる距離まで接近し、イビルアイからの無線が機内に響く。

 今のところXLブースターの様子は良好。推力と魔力を適度に供給してくれる上に、機体の安定性を上げてくれている。トンネル内部の構造に問題がなければこの機体で十分通れるだろう。搭載装備は小型の無誘導爆弾4発と短距離対空ミサイル2発。爆弾はもっと強力なものを搭載できるが、トンネルを崩壊させて自滅するため使えなかった。

 

 幸い先日SAM、レーダー陣地を別の航空隊が空爆してくれていたため、高度を落とすだけで敵から捕捉されずに済んだ。全体的な作戦立案、遂行能力を見るとやはり以前より幾分かマシになっているようだ。

 

「コールサイン順で内部に突入する。いいな」

『ウィルコ』

『ウィルコ』

 

 侵入体制を整え、マスターアームをオンにする。武装のセーフティーが外され、あらゆる攻撃手段が目を覚ました。

 洞窟の入り口は大分整備されている。というか、あれは滑走路だ。かなり余裕のある設計であり、よく見るとカタパルトまでついている。艦載機や短距離離陸が可能な機ならあそこから出撃できるという寸法か。

 

『こう見ると相当広そうですね』

『こんな作戦も立案されるわけだ。事前にレーダーを潰してもらってなければ迎撃されてたかも』

 

 リヒテルとイオンが関心しながら、各機と前後の間隔を大きく保って、一切のブレなく侵入コースを取っている。クリスもまた、内部で変な隔壁でも建てられていなければ通れるだろう、と思いながら精神をトンネルに集中させた。速度を絞りながらトンネル内に突入。一気に暗くなり、機体のコースは制限される。

 

「早速投下する。撃てるだけ撃て。逆に言うなら無茶はするな」

 

 そういいながら、さらっと爆弾2発を滑走路に落としていく。ここなら爆炎が発生してもそう妨げにならないだろうとクリスは思ったからだ。激しい爆音とともにカタパルト構造が破壊される。対爆仕様の滑走路自体へのダメージはさしてないだろうが、艦載用の機体が出せなくなるだけ後が楽だろう。

 滑走路を過ぎると戦闘機や襲撃機ずらりと並んでおり、ここの戦力が思いのほか高いということを実感させられる。どおりでこんな無茶な作戦が立案されるわけだ。ここの戦力が後々の決戦で投入されたら、こちらもたまったものではないだろう。

 

 クリスはデータリンクシステムをチェックすると同時に、後方から爆音が聞こえる。どうやら確認するまでもなく正常に稼働しているようだ。

 今回の作戦において、クリス機は先頭を飛んでデータを収集する役割も担っている。そのデータを用いてリヒテルとイオンが重要そうな対象を優先的に破壊する戦法だ。

 一方クリスは、ロックオンで来た相手を無作為に攻撃する。対象を認識しようと意識を割いてたら壁やクレーンに衝突しかねない。幸いXLブースターで魔道弾の使用制限がある程度緩和されているため、手あたり次第の攻撃でも悲しい結果にはならないはずだ。

 

 クリスはロックオンに対して反射的にトリガーを引きながら、トンネル内の飛行に専念した。クリスの飛行データが後続2人の飛行をアシストする形になっているので、墜落でもすれば二人の生存率は下がってしまう。

 しかしトンネルの外壁に施設を作り、中央は大通りとしてそのまま広めに残してあるため飛行は言うほど苦ではない。

 

「これほどVMTを保有していたのか」

 

 勝手に機体COMがロックオン対象を一瞬見る。VMTだ。スエントヴィート(TT-89)が素体状態で壁にずらりと並んでいる。それが反射的に発射したカットラスで破壊された。

 苦労して手に入れた最新鋭VMTだろうが、こちらとしては著しい障害なので取り除くしかない。飛行ルートの邪魔ではなく、今後の紛争を有利に進めるにあたって、である。

 

「今動き出したか」

 

 トンネルも残り3分の1程度になってきたころ、武装状態であったスエントヴィートが起動して、こちらに手持ちの主兵装である30㎜チェーンガンを向けてきた。事態を把握したVMTのランナーたちが、スクランブル的にVMTを起動し対処に当たろうとしているのだろう。

 

「練度としては悪くないが……今回は作戦負けだ。諦めろ」

 

 カットラスがロックオン。トリガーを引く。

 真っすぐ鋭い光弾が飛んでいき、回避が間に合わないスエントヴィートは胸部にそれをモロに喰らってしまう。装甲を食い破られ内部機構を破壊されたスエントヴィートは、吹き飛ばされて仰向けになり、動かなくなった。ちょくちょく動き出しているVMTを、対処可能な範囲で迎撃しながら進んでいく。

 出口が見えた。逆光がまぶしいが、飛ぶのには問題ないし、隔壁が閉じていく様子もない。

 

「ランサー1、トンネルを突破する」

『了解、隊長の航路を辿れば問題なさそうですね』

 

 光の中に飛び込み、クリスはトンネルからの脱出に成功する。

 少し間を開けて、リヒテル、イオンも突破に成功。無茶した割にはかなり戦力を削れたのではないだろうか。

 

『こちらイビルアイ。全機の健在を確認した。RTB、長居は不要だ』

 

 今回も無事に、そして戦果を挙げて帰ることができる。無茶振りなのは腹立たしいが、こう、いつもうまくいってほしいものだ、と思わざるを得ないクリスだった。

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