リコリス ✕ スパイディ 正義の彼岸花   作:渚 龍騎

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スパイダーマンがやってることと千束がやってることって殆ど同じだよぁなあ、と思って書いたものです。
リコリコは最近見たばかりなので、間違った解釈や設定もらあるかもしれません。できる限りの配慮はしていきますが、不備があってもそこら辺は気にしないって方は気軽に楽しんでいただければと思います。
この作品は息抜きで書いているものなので、クオリティの高いものは体力的に厳しく、できる限りの努力はしますがかなり出来の悪いものになってしまうので、その辺りはご了承下さい。

誰スパイダーマンなのか気になる方は四話の後書きをご覧下さい。


I can dodge bullets too

 

 

 

 

 

 それは、本来あり得ない邂逅だった。

 

 

 

 時が止まる、とはこのことを言うのだろう。だが、実際に時が止まっている訳ではない。雑踏の喧騒は未だに流れて、自動車の走行音が遠退いて行った。

 なぜ時が止まったのか──それは三人の間だけである。厳密には二人の少女と一人の男。少女たちは、その華奢な体躯と、幼さがまだ残る顔には似つかわしくない拳銃をその手に握り、対して男はトランクス一枚のほぼ全裸。

 

「あ」

「あ」

 

 一言、いや一文字だけその声が路地裏に響く。

 拳銃を持った少女たちと、ほぼ全裸の男。彼はズボンを履いている途中であり、その下には赤色のコスチュームが脱ぎ捨てられていた。

 まるでそれは、今朝見た()()()()()()()のスーツと全く同じものだった。

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

『ここ一ヶ月の間、世間は()()()()()()()の話題で持ちきりです』

 

 

 

 カウンターの直ぐ上に設置された小型のテレビ。その映像には、一般の市民が撮ったであろう動画が流されていた。

 画質は悪いが、そこに映し出されていたのは、真っ赤な全身タイツのコスチュームで駆け抜ける人間の姿。一見ただのコスプレに見えるが、異常なのは走っている場所──そこは、高層ビルの壁だった。

 綺麗に磨かれた窓は光を反射して、向かいの景色すら映している。壁を走り抜けるタイツ男には、命綱がある訳でも、なにかを掴んでいる訳でもない。()()()()()()()()()()()()

 

「凄いねえ、今時こんな人もいるんだ……」

 

 美しく白い髪をボブカットにした少女。カウンターに肘をついて頬杖をする彼女は、飴を口の中で転がしながらそんなことを口にしていた。

 特徴的な髪色に赤いリボンを付けた彼女──錦木(にしきぎ) 千束(ちさと)は目を輝かせていた。

 

「私も会ってみたいなー! 本物のヒーローみたいな人って本当にいるんだねー!」

 

 興奮気味に話す千束に対して、隣でそれを眺めていた少女は呆れながらに呟いた。

 

「そんな訳ありません。掴む場所なんてないビルの(かべ)を走るなんて、普通は有り得ません」

「でもでもっ、この人は実際に走ってるよ?」

 

 千束に言われ、少女は口ごもる。顔を背けて、彼女の長い黒髪が僅かに揺れた。

 いつもは合理的に事を判断している彼女──井ノ上(いのうえ) たきながなにも答えられないのは珍しかった。

 実際、人間が壁や天井を走るなど有り得ない。それだけでなく、テレビや他の情報を見る限り、朗らかに人間の成し得る業とは思えなかった。

 

 一つ、暴走した車を素手で止めた。

 二つ、クモ糸のようなものを出した。

 三つ、銃弾を避けていた。

 四つ、リコリスではない。

 五つ、軽口が多い。

 

 暴走した車は時速100kmにも及ぶ速度で走行していたが、スパイダーマンは颯爽とクモ糸のようなものを出しながら車の天井へと降り立ち、軽い身のこなしで前に立っては素手で受け止めた。

 普通の人間では絶対に有り得ない力。更に、防犯カメラの映像に映っていたのは、四方八方から撃たれる銃弾を軽い身のこなしで避けていた。

 

「千束のその洞察力もおかしいですが、あのスパイダーマンと呼ばれる人も普通ではないのは確かです」

 

 一体どんな人間であるのか、そもそも人間なのかすらも危うい。至近距離から放たれる銃弾を容易に回避する千束も、大分超人的であるのに変わりはないが、このスパイダーマンは千束の能力とプラスして超人過ぎるのだ。

 民間人を救い、悪人をも殺していないことから、ヒーローと称されてはいるが、DAはその存在を危険視している。だが、その存在は未だに謎とされていた。

 

「千束、たきな、そろそろ時間だぞ」

 

 カウンターの奥から和装をした黒人──喫茶リコリコの店長であるミカが姿を見せた。

 杖を突き、黒い眼鏡の奥から柔らかな瞳に二人を映す。すると、たきなは機敏な動きで立ち上がり、淡々とした口調で「はい」と答えたが、横にいる千束は「もうかー」と声を漏らしていた。

 

 『リコリス』──和名ヒガンバナ。

 たきなと千束のみならず、孤児となった少女に教育を施して、犯罪者及び犯罪を行おうとする人物の抹殺を請け負う少女(エージェント)たちの名。

 たきなと千束もリコリスではあるが、抹殺を目的とするリコリスとは明確にその目的が変わっていた。

 

 今回の依頼も、抹殺ではない。

 特定人物の護衛。対象はIT企業の社長とそのご令嬢。ご令嬢の年齢は七歳。東京の街を自由に観光させたいが、過去に妻を殺害されたこと故に、警戒して今回の護衛を依頼したらしい。

 

「たきな〜、私もスパイダーマンみたくババッて壁を走ってみたい」

「無理ですよ。人間はクモのように壁や天井を掴める能力なんてありません。あれも何かのカラクリがあるはずです」

 

 でもでも、と顔を近付けて、千束はたきなを真っ直ぐに見つめながら目を輝かせていた。

 世間に溶け込んだ女子高生の姿。街中で目的の場所に向かいながら、千束はまさに興奮気味だった。

 

「かっこいいよね! 名前も正体も明かさずに悪をバッタバッタと倒しちゃうんだから!」

「姿を大々的に明かしている以外は、私たちとやっていることは変わらないのでは……」

 

 リコリスは秘密裏に活動する。その名前も姿も、世間でニュースに取り上げられることもない。だがスパイダーマンは、その姿を世間一般に見せ続けて、東京の街を飛び回る姿も目撃されている。

 一ヶ月前から突如として現れた謎の存在。なにが目的で、誰がスパイダーマンなのか、全くわからない。

 

「ですが、用心しなければなりません。まだ味方と分かったわけではありませんから」

「いやいやいや、あの人は絶対に味方だよー」

「なにか根拠があるのですか?」

 

 うーん、と顎に手を置いた千束は何度か頷いて「それはズバリ」と切り出してから──、

 

「──私の直感が言ってるから!」

「あ、この花かなり綺麗ですね」

 

 ドヤ顔で決めた千束の発言。聞いた直後に、その発言を予測していたたきなは、期待もしていなかった様子で道端に咲く花を見つめていた。

 

「おいコラ! 人に聞いておいてなんだそれは!」

 

 少しの憤りを見せた千束に対して、たきなはそれほど興味を示さずに溜め息を漏らした。

 千束の実力については尊敬するものがあるが、彼女の言動や性格については考えるものがある。冷静な判断こそできているものの、あまりに楽観的。

 

「スパイダーマン。今の所、体型や名前から男性の可能性が高いです」

「リコリスかリリベルか……でも、もしそうだったならDAが問題視しないはずがないよねー」

 

 もし、と千束は空を見上げながら続けて、

 

「女の人だったらスパイダーウーマン? それともスパイダーガールかな!?」

「千束……どれにせよ、あの常人を逸脱した能力は現実では考えられません。もしもスパイダーマンが敵だった可能性を考えて、日頃常に警戒を怠るべきではないと考えます」

 

 クルミがハッキングした防犯カメラの映像に映っていた武器取引の現場。そこには複数人の男たちが武器を持っていたが、スパイダーマンは特に苦戦する訳でもなく全員を沈黙させた──殺すのではなく、気絶させる形で。

 

「現場には指紋も何も残っていません。商人たちを捕えていたクモ糸のようなものも、スパイダーマンが現れてから二時間程度で消えていました」

 

 よく考えて見れば、スパイダーマンは朝からずっと活動を続けている。街中では高層ビルの間を、高速でスィングしている姿も目撃されていた。

 スィングの際には手からクモ糸を射出し、振り子のようにぶら下がり、それを素早く繰り返しながら移動をしている。クモ糸が消えないなら、今頃街はクモ糸だらけになっているはずだ。

 そんなことが起こっていないということは、クモ糸は何らかの形で自然に消えるようになっているとしか考えられない。

 

「本当に謎だらけなんだねー。映像見せてもらったけど、あの動きかっこよかったなぁー!」

 

 防犯カメラで見たスパイダーマンの動きに口で効果音をつけながら、真似をする千束。たきなは彼女の行動に半ば呆れながらに溜め息を漏らして、その映像を思い出していた。

 千束は相手の照準と射線を瞬時に読み取り、卓越した反射神経と洞察力で弾を全て回避する。だがスパイダーマンは、視覚外から至近距離で放たれた銃弾ですらも躱して見せた。それも千束のように必要最低限の動きでなく、大胆な動きで。

 

「千束はそればっかりですね」

「たきなこそ、スパイダーマンを危険視し過ぎなんじゃない?」

 

 ふとそう言いながらたきなに視線を向けると、彼女は空を見上げて目を見開いていた。

 

「たきな?」

「千束、あれ……」

 

 あれ、と言われて指を指される訳でもなく、千束はたきなが向けていた視線の先を辿った。

 見つめる先──もう少し厳密にいうならば、二人が歩く方向とは反対。六時の方向に、疑問を蝟集させていた張本人が、そこを飛んでいた。

 振り子のように揺れ、飛び、そしてまた勢い良く揺られて飛ぶ。その速度は目視しただけでもかなり速い。自由自在に飛び回るその正体は、赤と金を基調としたコスチュームの人間だった。

 

「あ、スパイダーマンッ!!」

 

 指を指して千束がその名を叫んだ直後──スパイダーマンは空中で態勢を変えて、二人に視線を向けると軽く手を振り、まだ若い男性の声が響いた。

 

「ごめん! いま僕急いでるからっ! サインならまた今度ね!!」

 

 何かを聞くことすら叶わず、スパイダーマンはそう言って颯爽と抜けて行った。

 声からして男。それもかなり若い。スパイダーマンは言葉通りに急いでいる様子で、車の速度をも超える速さでスィングをしていて、ビルの間を抜けて行くと直ぐ様その姿をくらました。

 

「たきな、あの方向って……」

「ええ、私たちの護衛対象がいるビルです」

 

 たきなは目を眇めて先を訝しんだ。

 そのビルに向かっているのか分からないが、漠然とした不安が二人の脳裏に過った。

 スパイダーマンの目的こそ不明だが、彼が慌てて向かう場所といえば、そこは危険な所ばかり。その情報をどうやって得ているのかも分からない。もしもスパイダーマンが何かを危険視して、そのビルへと向かったのならマズイ。

 

『千束、たきな』

 

 二人は聞こえた声に耳を傾け、手を当てる。ミカの声が耳に響き、彼は二人の応答を待たずに『マズイ状況になった』と切り出して、声が切り替わるとクルミが答えた。

 

『護衛対象のいるビルが狙われている。どうやら社長たちを誘拐した後に爆破するつもりだぞ』

「爆破ぁ!?」

 

 千束とたきなは互いに見合わせて、直ぐに駆け出す。呼吸が荒くなる中で一歩を踏み締める度に、背中のカバンが金属同士のぶつかる音と共に揺れた

 

『いまミズキを向かわせた』

「クルミ! そっちにスパイダーマンが行ってないか見てくれない!?」

『分かった。ドローンも向かわせる。経路を割り出して、辺りの防犯カメラで見れないか調べてみる』

 

 瞬間、ビルの一部が轟音を撒き散らして爆発した。窓ガラスとコンクリートの壁が一瞬で吹き飛び、炎が吹き出る。一瞬の爆発の後に辺りで悲鳴と怒号が連鎖。爆発したビルからは黒煙が昇った。

 

「うそっ! あれかなりヤバイよ!」

 

 走ってもまだ二分は掛かる。見上げた先で、爆炎の中から黒煙を身に纏って一人が飛び出た。

 およそビルの十三階。数十メートルの高さから落下する一人は、あまりに無防備の態勢で落下していく。千束とたきなは目を見開き、おおよその落下地点へと向かって駆け抜けたが、その瞬間に()は態勢を立て直すなり、クモ糸を伸ばして緩やかに地面へと着地した──それもなんの因果か、千束とたきなの前に。

 

「スパイダーマン……」

 

 目の前に降り立った彼は黒煙で真っ黒になり、僅かに咳込みながら「あーしんどい」等と口にしていた。

 汚れたスーツに視線を落とし、僅かに愚痴を溢しながら汚れを軽く払った直後──銃声が響き渡った。

 

「──あぶなっ!」

「ちょっとたきな!」

 

 慌ててたきなの銃を無理やり下げ、振り返ったスパイダーマンと視線が交じる。銃を持って普通に発砲する女子高生と、全身タイツで爆発に巻き込まれて平然としている男。その空間は、静謐でありながらなによりも精悍な眼差しで相手を見つめていた。

 たきなはスパイダーマンを見つめながら、決して銃口を彼から外さずに口を開く。

 

「あなたは何者ですか?」

 

 背後からの完全な視覚外から撃った──だがスパイダーマンは、こちらを一瞥する訳でもなく、必要最低限の動きで回避して、更には一瞬で腕を向けて攻撃の態勢に入っていた。

 朗らかに人間の成し得る業ではない。

 

「僕はスパイダーマ──っうわぁ!」

「そういうことではありません!」

 

 引き金が引き絞られて拳銃──S&W M&Pによる容赦のない発砲。だがスパイダーマンは容易く回避して、腕を向けるなりパシュッと何かが吹き出て、たきなの足と拳銃に命中。拳銃は一瞬にして取り上げられ、視線を下ろすと、足はクモの巣状に展開されたクモ糸がたきなの足を地面から離れなくしていた。

 

「なんで女の子が銃持ってるのか色々気になるけど、僕はあの人たちを助けないとっ!」

 

 そう言うと、スパイダーマンは建物にクモ糸を伸ばして、華麗に跳躍を繰り返すと、重力を無視して壁を駆け抜けて行った。

 

「なにこれ! たきな外れないよこのクモ糸!」

 

 たきなの足に張り付いたクモ糸を、千束がナイフで切り取ろうとするが、クモ糸は完全に地面に張り付いて(くっついて)いて、引き剥がすことも切り取ることも簡単にできない。

 

「千束、私のことよりもスパイダーマンを追ってください! 私も後で追いかけます」

「分かった!」

 

 千束は拳銃を取り出して駆け出す。その背中を見つめて、たきなは眼前にそびえ立つビルに視線を向けた。

 スパイダーマン──彼は敵なのか味方なのか。考えれば考えるほどに謎が深まる。目的も、力の根源も、なにもかもが分からない。それでいて、銃弾を完璧に避ける反射神経。

 完全に視覚外から発砲。それを見る訳でもなく、いったいどうやって避けたというのか分からない。

 

「スパイダーマン……」

 

 たきなは、ぼんやりと彼の名を呟いた。




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