思いつきで書いたものでしたが、嬉しい感想を頂けて思わず書き連ねてしまいました。
基本不定期で、短編のつもりですが、宜しくお願い致します。
あと、基本タイトルはグーグル先生なのでご了承下さいませ。今回のは違いますけど。
ビルの非常階段を駆け上り、爆発を起こした十三階に近付くほど、耳を聾する銃声が大きくなる。合わせて爆発音も響き、より一層マズイ状況であることに拍車をかけていた。
いつもは物事を楽観的に見ていた千束も、今回ばかりは焦りに焦っていた。
「クルミ! 中はどうなってる!?」
『見えるだけでも敵は十人以上。全員が武装している。人質も確認したが、今の所は無事みたいだぞ』
階段扉の前で銃を構える。扉と壁一枚を挟んで激しい銃撃戦が響き渡る中、男と思わしき人物たちの怒号が聞こえる。そんな激戦の中で、あまりにも似つかわしくない異常な声に千束は耳を疑った。
スパイダーマンの声。怒号や悲鳴とはまた違った声色で何かを言っている。扉を僅かに開けて中を確認すれば、その光景に怪訝な表情を浮かべてしまった。
なにがおかしいのか、それは────、
「ちょっと! みんなとは初めまして? この世界にスパイダーマンはいないの?」
「なんでみんな僕のこと虫呼ばわりするのさ! クモは虫じゃなくて動物だよっ!」
「その靴かっこ良いね! この世界のトレンドになってるの?」
スパイダーマンは銃弾の雨を紙一重で回避しながら、そんな軽口を何度も口にしていた。
「ニック・フューリーとかいない? あ、やっぱり今のなし! 彼には会いたくないからできればいない方がいいんだけど」
更におかしいのは、軽口を叩く余裕っぷりを見せながら一発も当たることなく、次々と武装した相手を沈黙させていること。だが相手の数は多い。このままではスパイダーマンでも押される──故に、千束は一息ついたと同時に扉を蹴破り、まずは近くにいた一人を非殺傷弾にて沈黙させた。
「あ!」
千束の姿に気が付いたスパイダーマンは、驚きながらも銃弾を回避する。
「君っ!」
そして回避、銃にクモ糸を伸ばして即座に取り上げると、その銃を持ち主の頭に叩き付ける。
「さっきの!」
素早く相手に接近したスパイダーマンは、一蹴りで相手を吹き飛ばして、また銃弾を回避した。
「ウソ! 僕のこと手伝ってくれるの!?」
そんな軽口を叩きながらも、スパイダーマンは一発も当たることなく相手を次々と倒し続ける。その戦闘技術に目を疑いながらも、千束も負けじと眼前の敵を睨んだ。
眼前で銃口を向ける相手の視線、射線、引き金を引くタイミング、全てを一瞬で見抜き、発砲と同時に銃口を向けながら全てを避けた。
引き金を引く直前、スパイダーマンが声を荒げた。
「あ! 殺すのは無しだよっ!!」
だが叫んだ所でもう遅い。
近付きつつ二発発砲──二人の肩に命中。更に歩み寄って三発、至近距離からの発砲のおかげで全て命中。数人の相手を沈黙させた瞬間、背後にいた敵をスパイダーマンが蹴り飛ばした。
「背後にも気を配らないとね」
「ありがとう!」
「お礼はいらない、よっ!」
最後に声を力ませて、スパイダーマンはクモ糸の塊を敵に向けて発射。受けた敵は壁に叩き付けられて気絶。千束の銃に視線を落として──、
「いいね。その銃、僕も欲しいよ」
「私もそのスーツ欲しい!」
「あ、それじゃあ交換する?」
目を輝かせた千束に対して「僕はいいよ」と呟き、スパイダーマンは跳躍。壁や天井にクモ糸を伸ばして、巧みにスィングしながら銃弾を回避。振り子の勢いを乗せて敵を蹴り飛ばし、空中から何度もクモ糸の塊を放った。
「その前に、この悪者たちを倒してからねっ! ここは僕がなんとかするから、君は人質をお願いっ!」
言われて、千束は頷く。敵の銃弾を回避して、マガジンをリリース、そして直ぐ様マガジンをリロード。スライドさせながら一瞬で近付いた敵に照準を定め、非殺傷弾を浴びせる。クルミの名前を呼んだ。
「人質はいまどこ!?」
『真っ直ぐ進んで三つ目の扉だ。気を付けろ、中に三人いるぞ』
「正確な位置を教えて!」
ドローンを見ていたクルミから部屋内の情報を詳しく聞き、駆け抜けながら思考を巡らせた。
扉の正面に二人、入って右側に一人。人質は正面の二人が捕えている。正面から入れば、自分は無事であっても、人質がどうなるか分からない。
強行突破は朗らかに無謀の策とも言える。
「奴らの背後は全面窓なんだよね!?」
『ああ、そうだ。あいつらは扉しか見ていないから、ドローンに全く気付いていない。滑稽だぞ』
「十四階に敵は?」
『いない。今は千束たちの階だけだ』
よし、と呟いて千束は思考の隅で作戦を決めた。
あとは一つだけ問題がある。しかしそれは後にして、まずは階段を駆け上った。
十四階に上がって、人質のいる部屋の真上まで来ると、千束は廊下の消火栓を開いてホースを手に握り締めた。
「クルミ、ドローンを窓から離しておいて!」
『分かったが、何をする気だ?』
「私もスパイダーマンみたいなことするから」
クルミの『は?』という困惑する声を聞き、千束は一息ついてから、勢い良く駆け出して、非殺傷弾を窓に放つ。そしてヒビの入った窓ガラスに身体をぶつけてぶち破った。
ガラスが粉々に破壊され、破砕音と同時に身体を外へ投げ出す。スパイダーマンがスィングしていたように、走りと跳躍の勢いを乗せて、振り子の要領でホースを頼りに、十四階から十三階の窓をぶち破って人質の部屋に突入。転がりながらも姿勢を立て直して照準を合わせた。
「──っ!」
突然の強襲に一斉に千束の方向へと視線を向けるが、先に照準を定めていた千束の方が断然速い。人質の近くにいた二人へと、容赦なく引き金を引き絞り、非殺傷弾が炸裂──ゴムが弾けて赤い粉塵が撒き散り、敵が叫びながら吹っ飛んだ。
直ぐに態勢を立て直して照準を合わせる──発砲の後に非殺傷弾が放たれるが、真っ直ぐに飛ばない性質がここで現れ、背後にあった壁を撃ち抜いた。
「──てめぇっ!」
敵は憤慨を叫びながら、両手で握っていたアサルトライフルの引き金を引き絞った。
千束の舌打ちが漏れる──瞬間、銃口から耳を聾するほどの発砲音と共に嵐の如き銃弾が放たれた。
だが既に遅い。放たれる直前で、相手の筋肉の動き、視線、射線、銃口、あらゆる動きを視界で捉え、脳内で一瞬にして全ての弾道を予測──照準を合わせながら、千束はアサルトライフルの掃射を全て回避。
至近距離からの一発。非殺傷弾は肩に命中して、あまりの激痛に相手は呻きながら銃を手から離す。そして更にもう一発を放ち、命中直後に相手は気絶した。
「ふう……ひやひやした」
『ひやひやしたのはこっちだ』
「えへへ、ごめん」
クルミの言葉に、ぺろっと舌を出しながら謝罪を呟く。こいつまたやるな、と呆れながらに思ったのはクルミだけではない。
千束は辺りを見渡して危険がないことを確認すると、人質の方へと視線を向ける。部屋の隅で男性が、娘を庇うようにして覆い被さっている。男性は戦闘音が消えたことを疑問に思って振り返った。
「あなたは……」
「もう大丈夫ですよ。あとは、私たちに任せてください。必ず二人を守ります」
「ありがとう」
感謝を述べられて、二人の不安を煽がぬ為に千束は笑顔を浮かべる。そして十三階から、二人を安全に家に帰す為の思考を巡らせた。
まずは十三階から一階に降りる必要がある。安全な経路はクルミに任せるとして、後は安全に辿り着けるかどうか。たきなはまだ来ていないが、スパイダーマンが今は味方にいる。彼に状況さえ伝えれば、あとはなんとかなるかもしれない。
「取り敢えず階段まで行きましょう」
そう言って踵を返した直後──轟音が鳴り響き、壁を突き破ってスパイダーマンが飛んで来た。
壁の破片を撒き散らして、スパイダーマンは背中から向かいの壁に叩き付けられる。そのまま床に転がり、彼は呻きながら仰向けになった。
「スパイダーマン! 大丈夫っ!?」
慌ててスパイダーマンの側に駆け寄れば、彼は苦しげに咳をしながら軽く手を振った。
「これ以上にないくらい元気だよ。舌を飲み込んだかもしれないけど……」
「それだけ軽口を叩けるなら大丈夫だね。でも舌を飲み込んだら喋れないから。いったいなにがあったの?」
いったい何が起こったのか理解できない千束が、スパイダーマンに問い掛けると、彼は脇腹を抑えながら起き上がり、破壊された壁の奥へと視線を向けた。
スパイダーマンの視線の先、千束は辿って同じ場所を見つめ、驚きのあまりに目を見開いた。
「なにあれ……」
そこにいたのは、規格外の巨躯をした男だった。
上腕二頭筋は千束の横幅よりも大きく、体格はまるで岩石のように巨大で、身長だけでも二メートル以上はある。そんな恰幅の人間がゆっくりと歩み寄って来ていた。
「なんだろうね。ハルクでも目指してるのかな」
「は、はるく……?」
「ごめん、気にしないで。
相変わらず彼が何を言っているのか分からないが、陽気で愉快な人間である事には間違いない。
千束はリリースしたマガジンを捨ててリロード。残り少ない弾数を確認しながら、ブルートを一瞥した。
敵はスパイダーマンも圧倒する。それに対して、こちらは守るべき対象が二人もいる。守りながらでは到底勝てない──どうするべきか、思考を巡らせた。
『おい千束、いまミズキが到着した。どうにかして護衛対象を連れてこい』
「どうにかしてって無理やり過ぎでしょ」
ブルートを相手しながら護衛を守り抜くのは無理がある。それも十三階から一階までなんて無理難題が過ぎる。完全に八方塞がりになっていた。
ふと飛び込んで来た窓を見つめ、千束は一つ思い付く。かなり危険な賭けにはなるが、ここから護衛を守る為には、それしか方法は思い付かなかった。
「スパイダーマン、一つ頼んでもいい?」
「なに?」
「その二人を連れて先に下に降りてほしいの。私の仲間が下で待ってるから」
そう言われて、どういう原理なのかスパイダーマンはその白い瞳を見開いた。
「その場合、君はどうするの?」
「私があいつの相手をする」
「無茶だよ」
────当然だ。
一人でブルートの相手をするのは無理がある。だが千束はスパイダーマンに向けて笑みを浮かべた。
「だから、なるべく早く帰ってきて」
スパイダーマンは千束を見つめて沈黙する。やがて、何度か頷いてから「分かったよ」と答えた。
「けど、無茶はしないで」
「あいつと戦うこと自体が無茶だよ」
「そうかも。じゃあここは任せたよ」
スパイダーマンは怯える二人のもとに駆け寄り、明るい声色で何やら説明してから窓の側に立った。
まずは君から、と女の子を抱えてクモ糸を床に伸ばす。しっかりと握り締めてから飛び降りて行った。
「あなたは隠れてて」
ブルートを睨みながら男に向けてそう言い、拳銃を握り締める。相手は武器を持っていない故に、千束の超人的な洞察力はあまり役に立たない。
相手の筋肉の動きからおおよその予測はできるが、あれほどまでの巨躯を持った人間を相手に、どれだけその予測能力が役に立つか分からない。だがしかし倒すことは考えなくていい。今はただ時間稼ぎだけで。
「さて……」
一息だけ吐き捨てた。
珍しく緊張しているのかもしれないが、心臓の鼓動は落ち着いている。否、元より鼓動なんてものはない。だが、そう考えるほどに手に汗握っていた。
今あるのは、ずっと使っているM1911を小型改良化したデトニック・コンバットマスターだけ。残りの弾数はマガジン内にある七発と一つのマガジンのみ。
瞬間、ブルートが千束を睨んで駆け出した。
合わせて、千束は構えながら駆け出す。照準を合わせながら二発発砲。一発はブルートに命中したが、奴は両腕で
眼前まで迫り、ブルートはその豪腕を振り上げる。それに合わせて、千束は態勢を低く
ブルートの足の間をスライディングで抜け、豪腕が床に振り下ろされる。直後に、人間が起こしたとは思えないような轟音が響き、そこにはクレーターが生まれていた。
もし当たっていたと思うとゾッとする。背筋に悪寒が走り、千束は息を呑んで固唾を飲んだ。
「もうなんなのよ……」
文句を垂れて、再び拳銃を構えた。
かなり絶望的な状況であることに変わりはないが、ここはなんとしてでもこの状況を切り抜けるしかない。幸いなことに相手は素手による攻撃のみ。銃のような遠距離に対応できる武器は持っていない。
それならば、相手の動きを見極めて素手の
「──うわちょちょちょっ!!」
慌てて横に飛んで回避──さっきまで立っていた場所に、瓦礫が投げ飛ばされていた。
視線を戻して、更に目を見開く。考えるよりも速く横に飛ぶと、破砕音が次々と響き、投げられた瓦礫が床で粉々になる。息をする間もなく、次々へと瓦礫が投げられ、中にはデスクや扉をあった。
当たればただでは済まないが、千束は一歩後退りして唇を噛み締めた。
「……これはマズイかも」
考える暇もなく投げられ続け、千束はいつの間にかに部屋の隅へと追い込まれていた。
ブルートがゆっくりと歩み寄りながら、爆発によって崩壊した壁の一部を持ち上げた。
銃を撃つにしても、マガジンを
痛みを覚悟した直後──三発の銃声が鳴り響き、誰かに抱き締められると宙に飛び上がった。
自分を抱き締める相手に視線を向けると、その視界に赤を基調としたスーツが映り込む。黒縁の白い瞳が千束を見つめて、
「大丈夫? 怪我はない?」
千束をゆっくりと降ろして、怪我がないことを確認すると「良かった」と声を漏らした。
「──千束っ!」
聞き慣れた声に銃声が連鎖して、千束は彼女の姿に思わず笑みを浮かべた。
「──たきなっ!」
ブルートから投げられた瓦礫を躱して、たきなは転がり込むように千束の横に駆け並んだ。
「下に行った時にその娘がいたから連れて来たんだけど……そんなに僕を睨まないでよ……」
「早くここまで来れた事には感謝しますが、あんな事はもう金輪際お断りです」
肩を落とすスパイダーマンに対して、たきなは苛立ちをその表情に滲ませていた。
今にもスパイダーマンへ向けて発砲するような勢いで睨み、彼は肩を落としながら謝罪をしていたが一発の発砲音。スパイダーマンと千束が驚愕してたきなの銃へと目線を向けた。
銃口から硝煙が立ち昇り、彼女の銃から発砲があったのは確かだった。撃たれた場所と言えば、スパイダーマンの足下。銃弾が床へとめり込んでいた。
「なにがあったの……?」
「いやただ僕は、その娘を抱えてこの階まで飛んで来ただけだよ」
「えーっ! 超楽しそうじゃん!」
スパイダーマンはただ良かれと思って行ったことだが、たきなからより一層敵意を向けられる羽目になってしまい、昔もこんなことあったなと思い馳せた。
目を輝かせて羨ましがる千束だったが、たきなは首を振って否定した。
「いえ、楽しくありません。あれの所為で酔うかと思いました。というより、酔いました」
「ちょっとちょっと前前!!」
千束とたきなのやり取りに無理やり入り込み、スパイダーマンが突然叫ぶ。視線を戻せば、ブルートが瓦礫を投げ飛ばして来ていた。
それぞれ別の方向に慌てて回避して三人が構える。ブルートを三方向から囲むようにして、相手の出方を伺い、強く床を踏み締めた。
「取り敢えず、こいつを倒してから話さない? 僕も君たちに聞きたいことがいっぱいあるしさ」
「私もあなたに聞きたいことだらけですが、今はここを切り抜ける事が最優先です」
「よし、じゃあいっちょやったろう!」
千束の声と共に、瞬間──三人は駆け出した。