リコリス ✕ スパイディ 正義の彼岸花   作:渚 龍騎

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Today was tough all day.

 

 

 

 

 ブルートの怪力は通常の人間を遥かに凌駕している。それはスパイダーマンも同じだが、スパイダーマンですらをも超えている。拳は壁に穴を空け、床をも砕く──最早、化け物と呼ぶ他なかった。

 非殺傷弾は疎か、服の下に防弾を仕込ませているのか銃弾ですら通用しない。だがしかし、筋肉が人間の領域を超えている所為か、速度はそれほど速い訳ではなかった。

 

「ちょっと、いくら撃っても効かないんだけど!!」

 

 発砲して、その疑問を千束が叫んだ。

 非殺傷弾は効かず、それでいて通常の弾薬ですらもブルートに傷を付けることができない。本当に人間なのか疑うが、スパイダーマンがブルートの足にクモ糸を張り付け、動きを封じたと同時に転倒させた。

 

「服の下が防弾になってるんだ。僕が動きを止めるから、君たちで足を狙える?」

 

 服の下には防弾が仕込まれているなら、露出している肌を狙う他ない。取り敢えずは足を撃ち、自然と動きを鈍らせるしかない。スパイダーマンの意図を汲み取った千束とたきなは頷き、彼は即座に跳躍した。

 

「あんまり使いたくないんだけど……」

 

 スパイダーマンがポツリと呟いた直後、彼のインテグレーテッド・スーツに内蔵されたナノテクノロジーが意思を汲み取ってその形を形成。クモの如き四本のピンサーが背中から伸び、スパイダーマンは姿勢を低く構えた。

 

「なにあれっ! たきなたきな見た!? スパイダーマンの背中からクモの足が生えたよ!」

「分かってます。騒がないでください。本能では驚いていますが、理性で事実だと受け止めます」

 

 冷静に判断して、たきなと千束はスパイダーマンが齎す隙を待つ。だがそれまで何もしない訳ではない。

 スパイダーマンがブルートをの動きを封じ込める為に、できる限りの援護を行う。二人は互いに見つめてから、左右に別れて駆け出した。

 たきなと千束は同時に発砲。ブルートの気を引き、背後から飛んで来たスパイダーマンが両手から伸ばしたクモ糸を巧みに使って、空中を自由自在に動き回る。曲芸地味た芸当ではあったが、攻撃の悉くを回避していった。

 空中でスィングした勢いに乗りながら床を滑り込み、ブルートの背後に回り込むとクモ糸を伸ばした。

 

「ほら捕まえたよっ!」

 

 クモ糸はブルートの両腕を捕まえ、常人を超越した怪力によって自由を奪われる。だがしかし、スパイダーマンの怪力を以てしても、完全にはブルートを抑え込めない。クモ糸を強く握り締めて必死に引くが、ブルートの怪力によってスパイダーマンが徐々に引き摺られていった。

 

「もう暴れないでよ!!」

 

 スパイダーマンの背中から生えたピンサーが、彼の意思に呼応して地面に突き刺さり、更に強く踏ん張る。それでもじりじりと引き摺られ、脳裏にかつての戦いが過ぎった──最強のチームが敗北したあの最凶(サノス)との戦闘。サノスの方がブルートよりも遥かに強いが、あの時もこんなことがあったのを思い出した。

 思い出したくない戦いの光景に頭を振り払い、目の前のことに集中する。だが実際、ピンチであることに変わりはなかった。

 

 ────しかし、それをぼんやりと遠くから眺めている程、彼女たちもマヌケではない。

 

 正面から駆け抜けて来た千束が、残りの非殺傷弾全てを撃ち尽くす。もちろん、ブルートを倒す為に撃ったのではない。ただ()()から気を引く為に全てを撃ったのだ。

 

「──たきな!」

 

 片膝立ちになったたきながしっかりと照準を定め、ブルートの足首を狙い発砲。硝煙が吹き出て、一瞬の閃光の後に反動で銃が跳ね上がる。だがしかしその反動は抑えられ、続けて引き金を引き絞った。

 二発──銃声を撒き散らした弾丸は、空気を割いて空間を突き抜けて猛進。たきなの驚異的な集中力と射撃制度によって、狙い過たず足首を撃ち抜いた。

 

 足首の損傷で立てなくなったブルートが膝を付く。その瞬間を逃さず、スパイダーマンは即座に跳躍して、クモが獲物をクモ糸で包み込むのと同じように、ブルートの身動きをクモ糸で完全に封じ込んだ。

 完全に身動きの取れなくなったブルートは床に倒れ、最後の一推しにスパイダーマンはクモ糸を張ってブルートを床から動けなくした。

 床に転がる巨漢を見下ろし、三人は大きく息を吸い込むと一息ついた。

 

「ふう、二人とも無事?」

 

 砂礫や砂煙によって汚れたスーツを叩きながら、スパイダーマンは二人に問い掛ける。対して千束は笑顔で「もちろん」と答えるが、その表情には僅かに疲労が見える。それはたきなも同じようで、肩を上下させて息を整えようとしていた。

 

「それなら良かった。君たちいったい何者なの? 銃を撃ったり、僕が知ってる女子高生はもっと──」

「可愛げがある?」

 

 スパイダーマンの言葉を遮り、千束が冗談交じりに呟く。彼は言われて「いや、その」と口ごもった。

 慌てて言動の訂正を施そうとするが、スパイダーマンは困惑の後に肩をすくめて「ごめん」の一言。

 

「あははっ! 別に謝らなくてもいいよスパイダーマン! 助けてくれてありがとう!」

「僕の方こそ。手伝ってくれる人がいるのは、やっぱりいいね」

 

 最近は常にそうだったが、基本的に一人で戦っているスパイダーマンにとって、援護や協力してくれる仲間がいるというのはやはり新鮮なものに感じていた。

 あの日からずっと一人だった。

 だからこそ、誰かと共に戦うのは感慨深く、久しぶりな感覚でもあった。

 

「あなたは、いったい何者なんですか?」

「たきな〜、スパイダーマンは味方だってば、さっきも見てたでしょ?」

「ええ、それは分かっています。千束のように誰も殺していませんし、さっきから見ていました」

 

 「それなら」──言いかけた千束の言葉を「私が聞きたいのは」と無理やり遮って、たきなは鋭く視線をスパイダーマンに向ける。そこに欺瞞の色はなく、訝しみの色が強く滲み出ていた。

 彼女は息を吸い込んでから、強く言った。

 

「──あなたの正体です」

「僕の?」

「はい。あなたの身体能力や、その視覚外からの攻撃も回避する力、明らかに人間を超えています」

 

 ブルートの怪力にも同じことが言えるが、スパイダーマンは小柄な体格にしてブルートと同等の怪力を持っている。それでいて異常な身体能力と反射神経、カラクリは不明だが、全方位からの攻撃を避けられる予測能力。

 正体に疑問を持つのも仕方がない。なにより形は人間であっても、全てが人間の域を超えていた。

 

「だから答えてください。あなたの正体はいったい誰で、どこから来たのですか?」

 

 たきなの強い問い掛けに、スパイダーマンは口ごもる。何も答えず、視線を下げて、頭を悩ませた。

 彼には自分の正体を言えない理由がある。なによりもそれを言ってはならないと、経験が言っていた。

 

「誰かっていうのは言えないけど、どこから来たかっていうのは言えるよ」

「どこですか?」

「ニューヨーク、出身はクイーンズだよ──って言ってもこの世界とはまた〝別の世界〟だけど」

「それはいったいどういう……」

 

 そこまで言いかけ、たきなはスパイダーマンの異変に気が付いて言葉を止める。彼は辺りを見渡し、千束やたきなに視線を巡らせると、僅かに俯いて大きく深呼吸を繰り返した。

 

「どうしたのスパイダーマン?」

 

 千束が歩み寄ろうと一歩を踏み出した途端──スパイダーマンが顔を上げ、たきなに向けてクモ糸を伸ばし天井と繋げる。更には千束の手を取って跳躍した。

 一瞬の出来事に千束とたきなも状況を理解できず、困惑をする暇もなく目を見開く瞬間──ガラスを突き破り、一つのロケット弾が火炎を吹きながら猛進。床に衝突すると同時に一瞬の閃光。後に轟音を巻き上げて大爆発を起こす。床を構築していた全てを吹き飛ばし、崩壊しかけていた十三階が一気に崩れ始めた。

 耳を聾する爆発音──爆発によって辺りの大気が一気に吹き飛ばされ、竜巻の如き爆風を巻き起こし、全員が顔を覆って風が吹き止むのを待った。

 

「なになになにが起こってんのー!?」

 

 声を荒らげる千束を抱き締め、スパイダーマンは暴風によって勢い良く揺られていたたきなのクモ糸を一気に引き寄せる。その間、彼の背中から生えたピンサーが天井を掴み、自分の足の如く意のままに動いた。

 爆風が鳴りを潜め、ようやく静かになった空間に、プロペラが高速で風を切る音が、辺りの大気を吹き飛ばしながら荒れ狂う。それは徐々に近づいて行き、窓の外から姿を見せた。

 

「──今度はヘリコプター!?」

「千束あの人っ!」

 

 たきなが指差す先──ヘリコプターのスライドドアからRPGを担いだ男が、深緑の髪を風に靡かせながら不敵な笑みを浮かべて、こちらを見つめていた。

 

「あいつまた来たの!?」

「え!! あの物騒な人知り合いなの?」

 

 無雑作に伸び切った深緑の髪。その不敵かつ不気味な表情と、射抜くような鋭い瞳────真島は鷹揚と腕を広げ、耽溺の喜びに千束を差して叫び散らした。

 

「──見つけたぞ、アランリコリスッ!!」

 

 薄汚れた黒いコートが、プロペラの巻き起こす風によって強く靡き、真島はその中でロケットランチャーを構えた──もちろん、狙いはただ一人。

 

「ロケットランチャー持ってくるなんて、随分と熱烈な人なんだね! 愛が重すぎるんじゃない?」

「そんなこと言ってる場合じゃありませんよ!」

 

 そんな大変な状況であるにも関わらず、スパイダーマンは軽口を叩き、たきなが叱咤の声を荒げた。

 ピンサーの補助で三人とも十三階から落ちずにいられているが、状況は芳しくない。スパイダーマンは片腕で千束を抱き締め、空いた手でたきなのぶら下がったクモ糸を掴んでいた。

 両腕の塞がった状態で、二人をロケットランチャーから守るのは難しい。ピンサーがあれど──、

 

《 アーム損傷 》

 

 スパイダーマンは機械らしさの混ざった声が聞こえ、彼は「マズイ」と目を細めて呟いた。

 更にマズイ状況なのは──視線を下ろした先でスパイダーマンが目を見開いた。

 クモ糸によって拘束されていたブルートが、床の崩壊によって落下しそうになっていた。

 

「ねえ! 二人の中で銃が上手いのはどっち!?」

「え、急になにを──」

「──たきなの方が上手い!」

 

 考えるよりもはやく千束が答え、たきなは意味も分からずにスパイダーマンを見上げる。そしてスパイダーマン「よし」と呟きながら、たきなに視線を下ろして、聞こえるように声を上げた。

 

「本当に申し訳ないんだけど! 君を向こう側の床に投げるよ!」

「──は? え、ちょっと!」

「大丈夫! あっちはもう一発撃ち込まれない限り壊れないから!」

「そういうことじゃ──っ!」

 

 言い終えるよりも前に、スパイダーマンは「それじゃあ行くよ」と掛け声を上げる。瞬間、たきなのぶら下がるクモ糸を勢い良く振り上げ、彼女は弧を描いて床の方へと飛んで行った。

 その彼女の姿を見つめていた千束は、思わず声を漏らして眺めていたが、スパイダーマンの「次は君だよ」の言葉に耳を疑った。

 

「ごめん! 君もあっちに送りたいけど、流石に二人の衝撃は耐えられないから──」

「え、から?」

「少しの間、落ちてもらうよ!」

「ちょちょちょちょっ!!」

 

 千束が否定するより前に、スパイダーマンは彼女と天井をクモ糸で繋げ、手を離した──直後、千束が驚愕した顔を浮かべて叫びながら落下。その瞬間に真島が狙いを定めた。

 だが、引き金を引くと同時に、真島の肩を一発の銃弾が撃ち抜いた。そして放たれたロケット弾が狙いを外す──不満を募らせるたきなが、驚くべき命中精度で真島の肩を狙った。

 大気を焦がして、火を吹き上げながら直進するロケット弾。スパイダーマンは天井を蹴ることで、落下に勢いを付けて跳躍した。

 転瞬、ロケット弾が天井を撃ち抜く。大気の声なき絶叫。轟という音が強烈な爆風と共に辺りを吹き飛ばして、それの衝撃波すらも利用したスパイダーマンは高速で落下していった。

 

「みんな! いまなんとかするから!」

 

 完全に落下するまで数秒──まずは、身動きの取れないブルートと天井に向けてクモ糸を伸ばす。天井に伸びたクモ糸が限界まで引かれ、ブルートの重さも相まって、身体が引き千切れるような痛みが巡った。

 

「おお、重過ぎだって……っ! もう少し、ダイエットしたら?」

 

 ブルートのクモ糸を天井と繋げ、休む隙もなしに落下して来る千束を見上げた。

 

「いまいくよ!」

 

 天井に向けて腕を伸ばし、その手首に装着されたウェブ・シューターのスイッチを押し込む。瞬間、クモ糸(ウェブ)が勢い良く射出──されなかった。

 困惑して何度もスイッチを押し込むが、いつものようにウェブが射出されることはなかった。

 

《 クモ糸(ウェブ)液残量無し 》

「ウソだろ……なんで作っておかないんだよ僕!」

 

 自分にはいつも呆れる。だが今回は仕方がなかったとも思い込みたい。

 思い返して見れば作る時間も、ウェブを作れる施設もなかった。いつも持っている予備も、この世界に来た時、元の世界に置いてきてしまった。

 ナノテクノロジーで形成されるピンサーも、()()()()でスーツを損傷してそれっきり。スーツを直せる機械も今はない故に、インテグレーテッド・スーツで代用していたが、それも限界が近い。

 

「ああったくっ!」

 

 自分に苛立ちながら、千束の落下地点を視界で予測。タイミングを見計らって勢い良く壁を蹴った。

 視界から千束を外さず、視覚外から降り落ちる瓦礫を回避して、必死に手を伸ばす。絶対に助ける──その意志だけを席巻させ、唇を噛み締めた。

 

 ────絶対に絶対に絶対にッ!!

 

 あの時、あの場所、あの決戦の夜──僕は落ちる彼女に手が届かなかった。

 もしもあの時に()()がいなかったら、彼女は助けられなかった。僕一人では誰も救えず、誰も守れない。もう決して誰かを死なせたりなんかしない。

 

 手を伸ばした──落下する千束と視線が交じり、彼女の紅に染まる宝石の瞳に、自分自身の姿が映り込む。伸ばされた手が、掴み取ろうとした指が、あと数センチ届かない。目の前で一人の少女が落ちて行く。

 視界の端から瓦礫が落下して、上空から降り注ぐ辺りの砂塵がスローモーションで視界に映じる。降り注ぐ砂塵のシャワーの中、千束と眼があった。

 

 ────まだ、届くッ!!

 

 ヒュオッという風の音が耳から吹き抜け、時間の流れが戻った。

 スパイダーマンは勢い良く身体を捻り、落ちて行く千束の腕をがっしりと掴む。一気に抱き寄せてから、空中で態勢を立て直すと四本のピンサーを壁に突き刺した。コンクリートの壁が削れ、抉れ、落下の勢いを殺して、最後に壁際の縁に指を掛けた。

 

「と、届いた……はぁ、良かった。大丈夫?」

「……だ、大丈夫、大丈夫。結構やばかったけど、大丈夫。内臓がひっくり返った気がする……」

「僕も。僕がやったことだけど、それでも大分ヤバかった。もう金輪際やらない……」

 

 互いに肩を大きく上下させながら息をする。ゆっくりと壁を降りていき、スパイダーマンは頑丈な床を探して降り立つ。千束を下ろして上空を見上げれば、たきなが下を覗いて千束の名前を呼んでいた。

 

「たきなー! そっちはだいじょーぶ!?」

「はい! ですが真島が!」

 

 たきなが叫びながら指を指した方向──辿って視線を向けると、真島の乗ったヘリコプターが傾いていき、ビルから離れて行こうとしていた。

 真島は千束たちとは別の方向へと顔を向けて、誰かに怒鳴り散らしている。なにを言っているのかまでは聞こえないが、真島の意志とは関係なくヘリコプターは徐々にビルから遠ざかって行った。

 

「ちょっとちょっと逃げるつもり!? スパイダーマンあのヘリコプター追って!」

 

 ロケットランチャーを撃たれた恨みを怒りに任せ、千束はそう言ってスパイダーマンを見つめたが、彼は肩をすくめて「ごめん」と申し訳なさそうに謝罪した。

 

「もうウェブが切れちゃったから追えないんだ」

 

 それを聞いた千束は悔しげに声を漏らして、遠退いて行くヘリをただ見つめることしかできなかった。

 辺りを見渡し、空を見上げると十三階から全て吹き抜けとなった天井がある。幾多の爆破によって壁も床も、殆どが破壊されており、最早このビルを直せるのかすらも怪しいものだった。

 

「これは楠木さんも苦労しそうだね」

 

 事件を事故に隠蔽するDAであっても、この事件だけはそう簡単に隠すことはできない。だが逃げた真島やその仲間も、ヘリコプターで逃げている以上すぐに捕まるだろう。辺りにパトカーや救急車、他のリコリスも来ているのが見えた。

 

「私たちもはやくここから逃げないと」

 

 訥々と呟き、千束はたきなを見上げた。

 

「たきなー! 頑張って降りてきてー!」

「階段も何もない場所から、どうやって降りればいいんですか!?」

 

 たきなの叫びが、崩壊寸前のビルに響き渡った。

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

「いやー、それにしても大変な事件だったね」

「もう散々な目に会いました」

 

 疲れ切った様子で肩を落とすたきな。千束は笑いながら彼女に視線を向けた。

 制服だけでなく身体中も傷だらけ。生きているのが不思議なくらいだったが、それもスパイダーマンのおかげと言える。護衛対象はミズキが確保して、真島を捕まえることはできなかったが、ヘリコプターを逃がすほどDAも無能ではない。

 

「せっかくスパイダーマンに会えたのに、結局あの人の正体も分からなかったし……」

 

 マスクの下にある素顔が気になって仕方がない。隙あらばマスクを取ってやろうとも考えていたが、それどころではない事態が起こり、結局正体を暴くことはできなかった。

 正体を知ることができず、千束は「あーあ!」と不満の声を漏らすと、無線機からクルミの声が響いた。

 

『いや、そうとも言えないぞ』

「え、どういうこと?」

『千束たちが目を離した瞬間に消えたスパイダーマンを、今は僕のドローンが追いかけてる』

 

 当然の如く言ったクルミに、千束とたきなは驚きのあまりに思わず「え!?」と声を上げた。

 

「ナイスっ! 今スパイダーマンはどこにいるの?」

『位置情報を送った。急げ、今スパイダーマンはその場所から動いてないぞ』

「よっしゃ! ほらはやく行くよたきな!」

 

 駆け出した千束に遅れてたきなも「はい!」と、返事をしてから疲労困憊の身体で無理やり駆け出した。




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