楽しんで頂けたら幸いです。
二人で駆け抜けたトゥインクルシリーズはとても充実したものであり実績も思い出もこれ以上ないほど積み重ねてきた。
俺とルドルフの仲は生半可な言葉では語りつくすことが出来ないような関係である。
そう思っていたのは俺だけだったみたいだ。
「すまないトレーナー君、君の言葉には答えることは出来ない」
「……え?」
ルドルフから放たれた言葉を聞き取ることが出来なかった、音として耳に入ってきてはいるのだが脳がその言葉を意味として受け入れることを拒んでいるのだ。
だってそんなことあるわけがないじゃないか、俺はこの数年間彼女と過ごしてきて一度たりとも彼女の気持ちを疑ったことなどなかった。
だから今回も何かの間違いで聞き間違えているんだと思ってしまった。
でも彼女はその美しい顔を歪めながら俺に再度同じ言葉をぶつけてくる。
そして今度はハッキリとした口調でこう告げる。
―――私は君とは付き合えないと。
それはまるで死刑宣告のような響きを持っていた。
今まで感じたことの無いような絶望感が全身を襲う。
目の前が真っ暗になり呼吸の仕方さえ忘れてしまうほどの衝撃だった。
「温泉で言ってくれたあの言葉は嘘だったのか?」
(君を離すつもりは毛頭ないのでね)
あの時のルドルフの顔を思い出してみる。
普段とは違う真剣な表情をしていたように思う。
あれは冗談なんかじゃなく本心からの告白だったって事なのか? だとしたらどうして今更こんな事を言ってくるんだよ……。
「それは愛の告白でも何でもないんだ、ただ卒業しても良きビジネスパートナーとして共に歩んでいこうという私の想いを伝えただけだよ」
「…………」
もう何も言う気が起きなかった。
ただ黙っているしかできなかった。
いや、それすらも許されなかったのかもしれない。
彼女が続ける言葉を聞いてしまうと本当に立ち直れなくなる気がしたからだ。
「君は私にとってかけがいのない存在であり大切な人でもある。でもそれは信頼であり恋愛感情では無かったんだ。当然君もそうだと思ったんだが……」
「……」
「違ったようだね、どうやら私の勘違いだったみたいだ」
「……ッ!!」
俺は何も言い返す事が出来なかった。
それが答えだというかのように。
彼女の顔を見ることが出来ず俯いたまま拳を強く握りしめる。
「まぁそういう訳なんだ、これからは良きビジネスパートナーとしてよろしく頼むよ」
「……」
「大丈夫かい?」
「……ああ」
「……今日のことは無かったことにしよう、明日からも頼むよ?トレーナー君」
それだけ言うとルドルフはその場から立ち去ってしまった。
一人残された俺はしばらくその場で呆然としていたがやがて力尽きたようにその場に崩れ落ちた。
涙も出てこなかった。
それからどうやって帰ったかもよく覚えていない。
気づいた時には自宅のベッドの上で天井を見つめていた。
何もやる気が起きず食事を取る気にもならずそのまま眠りにつくことにした。
翌朝目を覚ますと昨日のことが夢であったかのようないつも通りの朝を迎えていた。
しかしスマホを確認するとそこにはルドルフからのメッセージが入っていた。
『昨日はすまなかった』
たった一言だけの簡素な文章だったがこれが彼女なりの精一杯の謝罪なんだろうと感じた。
原因はこちらにあるというのにこっちの心配をするなんて、こんなところに俺は惹かれたんだったな……
と改めて実感する。
それからは表面上は何事もなかったかのように接していたがはたから見たらどうかはわからない、メディアに顔を出す場面もありそこで関係性を聞かれる場面もあった。
その時は当たり障りの無い回答をしておいたが内心は冷や汗ものだった。
そんな日々が続きいよいよルドルフが卒業する時を迎えた、彼女はすでにURAの上層部に席を用意されているらしい。
トゥインクルシリーズでの実績や生徒会での活動実績などもろもろを考慮したらまぁ妥当だろうなとは考えていた。これで彼女と会う機会も少なくなっていくと思うと少し寂しく感じるがもう彼女に会わなくて済むと感じると少し気持ちが楽になっている自分に嫌気がさした。
「卒業おめでとう、ルドルフならURAでもうまくやっていけるな」
「ありがとう、でもまだまだこれからさ。もっと上に登っていくつもりだよ」
「君ならどこまでもいけるさ」
「ふっ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
そうして別れの時がやってきた。
最後に何か伝えておくべきことがあるだろうかと考えるがフラれたことがずっと頭に残り続けていていい言葉が出てこなかった。
「じゃあねルドルフ、元気でな」
トレーナー君も達者でね、またどこかで」
こうして俺たちしばしの別れをした。
まさか次会うのが彼女の結婚式だとは思わなかった……
卒業式から数年後新しい担当も何人か受け持ち彼女の事も何とか吹っ切れつつあるといったときに結婚式の招待状が届いた。
泣きそうだった。まだ自分にもいくらかチャンスがあると浅ましく考えていた俺の思考は儚くも砕け散った。
膝に力を入れて何とか結婚式に出る準備をした、欠席も考えたが担当トレーナーが担当の晴れ舞台に出ないとなると社会に与える印象が悪くなる、これからの事もあるなんとしても出なくては。
「トレーナーさん大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
担当バに心配される程酷い顔をしていたなんて、自分に喝を入れ結婚式までの数日を過ごした。
結婚式当日、ルドルフとタキシードを着た男性が腕を組んで入場してきた。
その光景を見ただけで涙が出てきそうになる。
しかし必死に耐えて笑顔を作った。もうこの空間に入れなかった、エゴだってことはわかっていた、彼女が自分に振り向かないことなんて百も承知だった。
でもダメだった、知らない男と幸せそうな彼女の顔。
それを見ているのは辛かった。
俺は式の間中泣いていた。
帰り道、空を見上げながら思う。
やはり彼女は皇帝なのだと。
どれだけ足掻いても届かない存在なんだと。
だからせめてもの抵抗として俺も自分の道を進もうと思った。
それからの行動ははやかった、後任を見つけ引継ぎ資料を作り辞表を理事長に渡し家財道具の一切も処分した、当然ルドルフとの思い出なんかも全部捨てた。
写真を捨てるとき写真の中の彼女と目が合った気がしてまた泣いた。
部屋を引き払い車を走らせること数時間、そこは断崖絶壁だった。
下には海が見える。
遺書は書かなかった、ただ彼女の事を思って死ねるなら本望だ。
崖の縁に立ち、一歩踏み出せばそれで終わり。
「さよなら」
それだけ呟いて俺は飛び降りた。
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