雄と雌の声が響き渡りその二人から放出された液体が部屋の湿度を上げ、来たものを狂わせるような空気を作り出す。
熱を帯びだんだんと激しさを増し発せられる声も大きくなっていく、そろそろ限界を迎えようとしたときに盛り上がりをぶち壊すような着信音が部屋に響き渡る。
ルドルフは男の腕をほどきスマホに手を掛けその名前を見て少々顔を顰める、しかし出ないわけにもいかず通話ボタンに指をかけ耳に当てる。
「お疲れ様です、理事長」
『ご苦労!今時間は大丈夫か?』
「えぇまぁ少しなら……」
『君に伝えなくてはならい事があってな』
「なんでしょうか?」
勿体ぶりながらもどこか話しにくそうに切り出してきた。
『君のトレーナー君が亡くなった……』
……え?
『今日、海岸で亡くなっているのが見つかったらしい、身分証から本人であることは確認できたそうだ。』
「……」
『まだ、親族の方は来てない、君も顔を見るくらいは出来るだろう、どうだ?』
「いえ、私は結構です、ではこれで失礼します」
『あぁ待ってくれ!』
「何か?」
『彼の遺品を遺族に渡してあげて欲しいんだ、頼めないだろうか?』
「分かりました、後程届けます」
『ありがとう、よろしく頼むよ』
電話を切りルドルフはため息をつく、そして先ほどまで求めあっていた相手ルドルフの伴侶である男のもとへ戻った
。
「聞いてたかい?」
男は虚ろな目をしながらコクリとうなずく、ルドルフ表情からは怒りなど色々な感情が入り混じっているように見える。しかしその中には悲しみなどの系統の表情が読み取れない、怒りのみだった。
「すまない、なんてことない電話だったよ」
「本当にそうなのか?」
男はかなりの量の疑念をその言葉に込め口に出した、それもそうだ明らかにルドルフの反応がおかしい。
「死んだのは君の担当だった人なんだろう?君たちには特別な絆みたいなものがあると思ったんだけどな」
その言葉を耳にしたルドルフは少し悲しそうな顔をしながら男との距離を詰めた、いいままでの親しい関係のような詰め方ではなくある意味教師と生徒、上司と部下のような絶対的な関係の隔たりを感じるような溝を保ちながら。
「君ならわかってくれると思っていたんだがな、やはり話さないと伝わらないものだな」
ルドルフの言葉には一切の迷いがなく確信を持っているように聞こえた。
男の背筋には冷たいものが走り鳥肌が立つ、恐怖を感じたのだ、目の前にいる少女が急に変わったことに。
そして同時に疑問を抱いた、なぜ彼女はここまではっきりと言い切れるのか、と。
ルドルフは続ける。
「私のトレーナーは知っての通り駆け出しの新人君だったわけだ、知識も技量も他のトレーナーに比べたら劣るがなんでも貪欲に吸収する姿には多少感心したがそれが様々な才能が跳梁跋扈するトレセンでは特別惹かれるものではなかったんだ。
今考えるとそうなんだが当時はそうじゃなかったんだ、まだデビュー前だった私にベテランを押しのけスカウトしに来た彼に勘違いをしてしまったのだろう」
ルドルフの顔はまるで自分の過ちを悔いているようであった。
しかし、彼女の口はまだ止まらない。
彼女の口から紡ぎ出される言葉は懺悔のようでいて、後悔や自責の念よりも喜びを感じ取れるものであった。
まるで、今まで言えなかったことを吐き出しているかのように。
「私は彼と出会ってからすぐに彼に好意を抱いてしまったんだよ、彼が私を選んでくれた時はとても嬉しかったさ、でも私はそれに気づかぬふりをして彼に接していた、その時は彼を愛していたはずなんだ、だがね、最近になって思うことがあるんだ。あの時の感情は果たして本物だったのだろうか、ってね」
ルドルフの声音はどんどんと低くなり、そしてそれは冷たくなっていく。
「彼はよく言ってくれたよ、『君は皇帝だ、俺はそんな君を支える存在になりたい』とね、私はそれを真に受けて信じてしまっていたんだ、そんな実績も功績も何もない新人についていくなんて今では考えられない。
今でも公開しているよ、あの時彼の手を取っていなければジャパンカップでのあんな失態は犯さなかった、的を絞りすぎたんだ、だから十番人気の彼女に出し抜かれたんだ!シービーばかりに気を取られ過ぎた!」
ルドルフは激昂する、普段冷静沈着な彼女がこんなにも声を荒らげることは珍しいことだった。
そこまで言うと彼女は息を落ち着かせて再び語りだす。
今度はゆっくりと、一言一句しっかりと聞こえるように。
先ほどまでの激情を抑えつけるように。
「ふぅ、すまない少々昂ぶりすぎた、久々にこうも正直に胸の内を吐露出来たものだから吐き出し過ぎたようだ。」
「君の胸の内を知れたのはうれしいが少し複雑だな、こうもストレートだと反応に困るね」
男は苦笑いを浮かべるしかなかった。
しかしルドルフは微笑みながら続ける。
トレーナーが死んだことに対して悲しんでいる様子はなかった。
むしろ喜ばしいと言わんばかりの表情だ。
その笑みはどこか狂気を感じさせるような美しさがあった。
「彼と私とはそもそも関係の認識に齟齬があったんだ、私はただのビジネスパートナーとしか見てなかったんだが彼はそうじゃなかったんだ、確かに最初こそただの新人トレーナーであったが共に駆け抜ける中で実力もかなりのものになり卒業後もこの関係を続けてもいいんじゃないかと思ったんだが彼は卒業式の日に告白してきたんだ。」
ルドルフは懐かしむように話す、しかしその目には暗い影が見える、きっと彼女の目にはその時のことが見えているのだろう。
トレーナーはルドルフに恋をしていた、そしてルドルフもトレーナーのことを憎からず思っていた。
しかし、ルドルフの恋愛観はひどく歪んでいた。
「私はトレーナーとウマ娘の関係は健全であるべきだと考えているんだ」
「でもエアグルーヴさんだって彼女のトレーナーとくっついたんだろ?」
彼女の話を遮るように話した、するとルドルフはクスリと笑う。
まるでわかっているじゃないか、という風に。
「彼女の場合は相思相愛だからいいんだ、私の夢はすべてのウマ娘に幸福を、だから私の思想は押しつけはしない。幸福は人によって様々あるものなんだ。」
ルドルフは少し悲しそうな表情をする、何かを噛み締めているような表情だった。
その表情は男に何かを訴えかけるようなものだった。
ルドルフは話を続ける。
ルドルフの思想では男女間の関係性というのは必ずしも恋人同士になる必要はないと思っているらしい、あくまでお互いがお互いに好意を持っている関係であれば問題ないという考えだ。
「それに彼の顔はお世辞にも整っているものとは言えないものだったんだ、君とは比べ物にならものさ」
そう言うとルドルフは男の頬に手を掛けこちらに抱き寄せ唇を奪う。ルドルフの舌が男の口の中に侵入し男の歯列をなぞる。
ルドルフの唾液が口内に流れ込んでくる、男がそれを飲み込んだのを確認すると満足そうに離れる。
男は呆然としていた。
ルドルフはそんな様子を見てクツクツと笑う。
ルドルフは満足そうに言う。
まるで、自分の理論が完璧であることを証明するように。
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