俺の運命は最弱メモリのようです 作:一般メモリユーザー
ステージ上で焦っている俺だ。
モンスターエルドラド──モンラドの三周年イベントで、風祭メグの前の出番で呼ばれたわけだけど、不可抗力でやらかしたかもしれない。
今回も事件が起きるわけだけど、犯人が使うメモリがメガネウラ。彼はハイドープ一歩手前のラインにいて、翅の振動で周囲に重圧を与える能力が新たに生えた。そう、振動で重圧を与えるのである。
……ミュージックメモリで翔太郎にやったわ、それ。ちょっと今回の犯人に同情しかけたけど、口癖がなんだっけ、俺の棒をしゃぶれだかの陰キャチートゲーマーだしまあいいか。どうせ死ぬし。チート使うならこの世から絶版されても文句は言えないだろう。
ちらりと視線をステージ袖にやれば、翔太郎やときめもいた。あっちの認識からすれば、俺とときめはこの事件が初対面になる。気を付けよう。ここでボロを出すのは流石に無様だ。
さて、ひとつ問題が生じる。俺は仮面ライダーの正体が左翔太郎だと知っているわけだ。そして、彼が街を泣かせないために尽力していることも。
では、目の前にドーパントとその被害者になろうとしている人間がいて、大人しく逃げることが正解だろうか。もちろん、翔太郎がなんとかすると俺は知っている。
よって、ここでドーパントに背を向けて舞台裏へ逃げても問題なく流れは進むだろうが……
仮面ライダーに助けられた人間が、それをしていいのか。俺は罪を数えるべき人間だが、それは何もしない言い訳や理由にはならないはずだ。
風祭メグの前座で俺が歌った時にはハケられていた椅子。舞台袖にあるそれを、全力で蹴り飛ばせばいい。ハイドープ能力で靴をスニーカーに一瞬だけ変化させれば、飛んでいるメガネウラにも届くくらいの勢いはつく。ぶつかったかはどうであれ、蹴った時点で注意は引けるから舞台裏に引っ込めば被害はない。
そこまで考えた上で。
「この証拠は残せない」
どうにも不自然さが残ると結論付けてやめた。個人的な感情としては動きたいが、「幕が上がれば
これ、メモリの影響じゃないか? いや、どうだろう。純粋に保身に走る言い訳な気もする。名場面見に行くときとかはテンション上がってるからいいんだけど、なんかこういうところだと小市民メンタルになるんだよな。
あんまり派手なことはせずに、適当に隙を作り出そう。ライブ中にスタッフも逃げたから、音響はそのままだ。あとはピンマイクを踏み潰せば、大音量でノイズがスピーカーから流れる。一瞬だけでも気を逸らせればいい。
「やめろっ!」
よし、翔太郎が間に合った。戦闘はドームの上で行われるから、俺は直接見られないんだよな。いや、裏手のビルあたりでも戦ってたか。じゃあそっちに行こう。偶然逃げた方向がそっちだったってことにしとけば不自然じゃないだろうし。
っと。大きな落下音がした。マキシマムを撃ったのか?音のした方へ行けば、やはりメガネウラとWが戦っている。
「どいつもこいつも俺の神業プレイを……」
メガネウラが激昂というかイラついているというか、そういう場面だ。ドーパント、ああいう風に感情で進化するから厄介なんだよな。まあ、俺は進化の余地もないほど完全に適合しているんだが。
「邪魔するような事ばかりしやがってぇぇぇ!」
それにしても、チーターが神業とか言ってるの、なんか釈然としないな。
おっと、なんか体が重くなった。例のプレッシャーだ。そんなこんなで戦闘が進んでいるわけだけど、Wはサイクロンメタルで防御しつつ凌いでいるってところか。
「この感覚、前にどっかで……」
ヤバい。翔太郎がこの攻撃の正体に辿り着きかけてる。ただ、そろそろ……
ときめがふらふらと歩き出した。進行方向のビルに万灯がいるんだと思う。で、風祭メグがフリーになったからメガネウラがそっちを狙うと。
思い出した。Wがメタルシャフトと自分の体で攻撃を受け止めて……そんな感じのようだ。
初エンカウントの常としてドーパントは逃走。ボディサイドの翔太郎は攻撃を受け止めた時の傷で背中に深手を負っている。
今のうちに救急車呼ぶとしよう。取り調べの担当者から何かあったらってことで、G研の連絡先は貰っている。電話をかけたら偶然にも照井刑事が出たので、普通の通報みたいな感じで用件を伝えた。一応自分の名前を名乗ったから、ドーパント関連の話をしても不自然じゃない。
翔太郎がドーパントにやられて、彼が守っていた子がアイドルだから救急車を呼ぶにも……みたいなことを冷静に伝えたら、割と勢いよく電話が切れた。多分、救急車を呼びに行ったりしたんだろう。
そんな用事を済ませたら、「翔太郎!」って悲鳴が聞こえた。痩せ我慢も限界だったか。
「大丈夫ですか。……救急車、呼びました」
見るからに大丈夫じゃないが、今来た感じを装うにはそういう声掛けが大事だったりする。
風祭メグと翔太郎の方へ視線を行ったり来たりしていることから、彼女がプログラマーの人とバレるのはマズいとか考えているんだと思う。そこらへんのフォローはしておくか。
「G研……照井刑事に連絡したので」
危ない危ない。ここでG研って単語出すのは、いや、取り調べの時に聞いたし大丈夫か?
照井刑事の名前を出したので、その嫁が反応した。
「あれ、水香ちゃん?」
「はい。その節はそちらに迷惑をかけてしまい……」
電話については誤解……まあしようがないけど念のために、ガイアメモリ関連の部署に連絡したら照井刑事が出ただけとは伝えておく。Vシネアクセル再びとか冗談じゃない。
そうこうしていると、静かに救急車が来た。一応呼んだのが俺なので、搬送する人がどこにいるかとかは話したくらいか。あとは照井刑事が色々としたみたいだ。
さて、今頃は万灯と犯人が接触しているだろうか。不謹慎枠に入るかもしれないが、初エンカウントの時の掛け合いは楽しかった。落ちてきたから降って来るのくだりは、咄嗟に考えたにしてはだいぶ良かった気がする。
で、なんかドーパントとしての体質改善サプリを渡されるんだったか。サプリ、サプリか……渡されなかったな。まあ100%適合は改善のしようもないから妥当。
この後の展開は……ああ、そうだ。なんかメイクチームのチーフが犯人に情報を流してたんだっけ。動機が、嫉妬? やる気のないメグがステージに立っていて、アイドル志望の自分が立ててないとかそこらへんだった気がする。
──理解できないな。化粧っ気のないプログラマーをアイドルとして万全にできる程度には技術があるんだから、それで納得すればいいだろう。
そんなわけで、今はマックスソフト──モンラドの会社に来ている。というのも、この後にネット生中継の番組があるからだ。中止になるが。会社の人間がドーパントに協力していたのはだいぶ不祥事だろう。なんならプロデューサーや風祭メグと会社の関係が不仲だし。なので。
「メインは風祭メグ。わたしが決めることじゃない」
ドーパントに狙われている中で生中継番組に出演するのはどうかという話の時、俺としてはこういう意見を表明するしかないわけだ。こればかりは俺の──舞台に立つアイドルとしての考えでもある。共演者の意志は尊重しなきゃ、不出来なクオリティにしかならないだろう。そんなものを出すのは
彼女に出てくれないかと聞いたプロデューサーの右手を見れば、血を流していた。無茶を言ってきた上司のパソコンを殴ったんだったか。そんなことを知る由もない風祭メグ──もな子は部屋から駆け出した。
あっちはときめや翔太郎が説得するだろうから、俺は俺でやった方がいいことを済ませよう。
「あなたが、翔太郎の言っていた……」
屋上の扉を開くと、白紙の本を開いて目を閉じているフィリップがいた。星の本棚にいるんだろう。俺、というより九凪水香はそのことを知らないから、ある程度遠慮なく声をかければいい。
彼は目を開けて、こっちを見る。
「君が九凪水香か。話には聞いているよ」
検索中に声をかけたからか、少し機嫌を損ねたかもしれない。
「わたしも知ってる。翔太郎に街を託した、彼の相棒だって」
フィリップは少し照れくさそうに笑った。まあ、それを否定する理由もないからだろう。さて、答え合わせもとい本題だ。
「それで、伝えたいことがある。……あのドーパントの能力」
そう聞くと、フィリップは少しこちらに歩を進めてきた。翔太郎はきっと直感とかで気づいているだろうから、ここで言っても大丈夫だろう。
「ミュージックメモリでもできた。多分、音かなにか。翔太郎に、それをやったことがあるから」
あとは羽音とかで検索したら振動波に辿り着くだろう。本題は、ここで俺とフィリップの間に面識を確保しておくことだ。
実のところ、俺は大人になるまで生きられるとは思っていない。いつかはメモリの使用がバレて、マスカレイドで仮面ライダーと戦うことになるだろう。そして死ぬ。悪くない終わり方だ。……こういう時は、よき終末とでも言った方がいいか?
その時に戦うのは、きっとフィリップだ。翔太郎ともう一度、今度は俺が死ぬ戦いってのは流石にアレだし。なので、ある程度話しておいて自己紹介を省こうという魂胆だ。共通認識を語る時間は無駄だし。
「恩は返した。"仮面ライダー"」
二人で一人の仮面ライダーだ。一人への感謝をもう一人に返しても文句は言われないだろう。
屋上を去って、外に出る。風都タワーを見上げたところで星は見えないが、メガネウラドーパントともな子、それを逃がすまいと尻尾ともな子にしがみついているときめがいた。
近くにいたということで、ようやく堂々と仮面ライダーの戦いを見られる。今までは隠れてみさせてもらっていたからな。
ときめに謝ったフィリップが、ファングジョーカーに変身する。すかさずソウルサイドの翔太郎が声をかけたのは、敵ドーパントの能力についてだ。やっぱり一回俺がやったからな。似たようなものだと気づいたんだろう。
能力のタネも割れたメガネウラは、ショルダーファングで小さい翅を斬られた後メモリブレイクされていた。まあそんなものでしょ。
流石に会社が生中継をやれる状態じゃないということで、番組は中止となった。結局、三周年イベントを最後にモンラドは中核スタッフ二名を失うことになるワケだけど、それは俺と関係ないことだ。
こうして、俺も自分の目的を果たして事件は終わったのだが……
「仮面夜会?」
翔太郎が猫探しに奔走している間。万灯から再度の接触を受けた。それも、関わらないだろうと思っていた
「そう。屋敷の主人の花嫁を決める因習でね」
分かってる。アルコールドーパントの適合者探しだろう。雪山密室と印象的だったので、割と詳細まで覚えている。
「……適合者探し」
「理解が早くて助かるよ。詳細は追って連絡する」
帰っていった。変に話すとこっちのボロが出そうというか、マスカレイド由来の知識と原作の知識、九凪水香の知識がどれかと考えながら話すのはカロリーをだいぶ使う。
そんなわけで、顔が全部隠れる仮面を着けて雪の屋敷へ向かうこととなった。
なんとかして、裏風都幹部集合シーンには混ざらないようにしよう。アレに加わるのはなんか違う。
できることをやっているだけなら、決断する必要なんてないんですよね。