俺の運命は最弱メモリのようです 作:一般メモリユーザー
人生を振り返ると、客観的に見て幸福とは言えないものだと思う。
家族構成は、両親と兄が一人。幸いにもスパイダードーパントによるリア充爆殺には巻き込まれていなかったようだ。それぞれの死因は、粉砕と焼死と中毒死。
母と父は共働きで帰りは遅かった。兄は小学生の頃から続けていた野球を高校でも続けていて、部活もない小学生であった俺が一番早く帰ってきていたはずだ。
当時はアントライオンドーパントを警戒して、公園には絶対に近づかない子供だった。死ぬ可能性を低くするために学校が終わればさっさと家に帰り、運動は室内で行っている、こうして振り返ってみると活発なのか暗いのかよく分からない幼女だったと思う。
父親が死んだ理由は知らない。
七月下旬の頃だ。小学校から帰ってきたら、仕事が休みだった父は身体がバラバラになって死んでいた。不思議と血は出ていなくて、鏡の破片みたいだと思ったことを覚えている。冷房を使っていたことによって家は密室で、死んでいたのが姿見の前だったことから考えると、ミラーメモリあたりが犯人のメモリじゃないかと思う。
とはいえメモリを持っていない当時の俺に何かできる力もなく。ドーパント事件だから無駄だと知りつつ警察を呼んで、殺人ということで降りた保険金の一部を持って鳴海探偵事務所へ向かった母を見送ったくらいだ。
第一発見者ということで、おやっさん──鳴海荘吉と初めて会ったのはこの時だったか。姿見と死体の状況を伝えて鏡の破片みたいだったという所感を言ったくらいの会話だったが。
依頼人である母はともかく、幼女だった俺に知らされたのは、事件は解決したという事実だけだった。
それからの母は……最も適切な表現としてはおかしくなったのだと思う。遺された子として注がれた愛情は、分かりやすく活発な兄の方に向いていた。兄が成功するのを喜ぶのはいいのだが、同じ部活の──それこそレギュラー争いをしている相手を妬み、不幸を願うような熱量を持ち始めていた。
そして、心や関心というリソースは限られている以上、兄に大半を割り振られている愛情が俺に向けられる量は極めて少ない。まあ、転生して確固たる自己を築いているので、俺としては悲しき過去というわけではないが。
それだけなら悲しき過去で歪んでしまった人妻というだけで済むのだが、兄がある日の食卓で「野球部のレギュラーになったんだ」と暗い顔になって近況を告げた時の表情がやけに明るかった辺りで、嫌な予感が最高潮に達した。
兄が話すには、レギュラー争いをしていたライバルが選手生命を絶たれたことによって繰り上がりで入れたという。曰く、全身大火傷。まず間違いなくドーパントなんだろうが、メモリの種類が特定しきれない。
母は「そう。でも、レギュラーになれてよかったじゃないの! その子の分も
その野球大会の応援には俺も連れ出されていた。蝉の声がうるさい中でメガホンや黄色い声援がそれに勝るほどの音量を出しており、無理矢理同伴させられている身としては早く帰りたいと思う要素でしかない。
そう思っても感情は表に出てこないのがこの体で、ツバ付き帽子を被って球場をただ眺めるしかすることがなかった。
白球に金属がちょうど当たった音と、フェンスの外に飛んでいくそれに付随する大歓声でマウンドを見てみれば、我が兄の喜色満面な様相が見て取れた。
「やったわね! 水樹!」
試合が終わり、メンバーが解散した後。兄に勝るとも劣らない笑みを浮かべて走っていく母に呆れながらもその背を追った俺だが、その帰り道はやけに暑かったのを覚えている。
なにせ、すぐにその原因である炎と遭遇したのだから。
──マグマドーパント。名前の通りマグマと炎で構成された怪人だ。メモリを持っていない当時の俺ではやはりどうすることもできず、近くの柱など遮蔽物に見当をつけて逃げるルートを探っていたのだが。兄と母はこの街の裏を知らない故に風都に生きるという覚悟はできていなかったようで、腰を抜かして怯えていた。問題はそこではなく。
「どうして──まさかあの女、逆恨みで……!」
と母上殿が言っていることだ。まさかとは思うが、このドーパントに頼んで兄のライバルを燃やさせたのか? それで一家全滅はシャレにならないんだけど……
「恨みの炎だ、よく燃えるぞ」
その言葉と共にドーパントが炎を放った時、俺は近くの柱へと転がり込んだ。母は咄嗟に兄を庇い、そのまま燃え尽きて灰になった。炎は全て母が受けたようで、兄の被害といえば頬に煤が付いたくらいだろう。幸運にも近くの建物には消火器があり、目晦ましの代わりにはなりそうだ。おかげで傷もなく逃げ切ることができた俺たちだが、兄の表情は暗かった。
「なんで……なんで母さんが……!」
そりゃ風都の女に目覚めてしまったからだが? 状況証拠を鑑みると、先に超えてはならない一線を超えたのは母の方だ。正直自業自得の面が強い気がする。
「
泣こうと思っても、どうにもこの体は泣けない。なんとなく運命のメモリが存在しているだろうことは直感しているのだが、どんなメモリならこんなことになるんだと不思議に思っていた。感情がないからゼロメモリかなとか、ゴールドメモリの毒素に適合するために感情のリソースが生まれつき少ないのかもしれないとか考えていたものだ。まさかマスカレイドだったなんて思いもしなかった。言われてみれば"仮面"だけどさ……。
スポーツ推薦で大学入試を終わらせた兄は、図書館で資料を探すことが多くなった。大方、自分たちを襲った怪物──ドーパントについて調べているのだろう。俺の方は大して変わらない。死なないように早く帰って体を鍛える。幸いにも顔がいいおかげである程度の交友関係は築けているが……
そうして時が過ぎ、大学に入った兄は成人した数日後に失踪した。時を同じくして連続圧死事件が報道され、加害者か被害者のどちらか──おそらくは加害者だろうと当たりをつければ予想通り。
学校から帰ってきた俺に対して「悲しまなかったお前も同罪だ」と述べ、俺の目の前で兄はメモリを使った。その目は明らかに正気を失い紫色の輝きを湛えており、知識のある人間が見れば、メモリに呑まれていると分かるだろう。
そして彼が変貌したのはマンモスドーパント。鼻で打ち据えて、足で踏みつけるというシンプルに強力な力を持つメモリとなっている。何が厄介かって、古代種系メモリだからかただでさえ大きいのが更にデカくなる可能性だ。おあつらえ向きに憎しみはこの数年間で熟成されているようだし。
突進によって角で肩を貫かれたのに悲鳴の一つも出ない自分の体に驚いていた俺だが、急に発生した横方向のベクトルに吹き飛ばされた。
髑髏の意匠を持ったモンスターマシン──スカルギャリーがマンモスドーパントに突っ込んだのだ。巨大な車体が急制動をかけるために甲高いブレーキ音を響かせる。そして、その装甲車が開いたその場に立っていたのは、骸骨男──仮面ライダースカルだった。
ガイアメモリと縁がある以上仕方ないが、こうも事件で会うことがあると、鳴海荘吉の内心が気になってくるところだ。ドーパントの正体が兄だということも調べているはずだし、ガイアメモリ事件の被害者遺族が復讐のためにガイアメモリに手を出すのは悲劇といえるだろう。仮面は涙を隠すためにあるというのも間違いじゃないのかもしれない。
まあ仮面ライダーを相手に正体の割れた暴走ドーパントが勝てるはずもなく、兄はメモリブレイクされたことで毒素による中毒死を遂げた。
ただ、憎悪に駆られて進化した兄のメモリの様子を観察していたのだろうか。スーツを着たメモリの売人の姿を見かけたのだ。
その瞬間、あの人を追わなければならないという直感が訪れる。欲しいだとか手に入れるだとかの感情じゃない、呼びかけに答えるような感覚だった。それから起きたことは簡単だ。すっかり日が落ちたあの時は残った最後の家族と死別した悪夢の夜ではなく、俺にとって運命のメモリと邂逅する『
そういえば、俺の使うマスカレイドは改造品らしく、常人が使うと一回で消滅するレベルの毒素の強さにされているらしい。それを井坂から言われたとき、確かにミュージアムは悪の組織だと実感した。ちなみに自爆装置は健在のようだ。せっかくなら外してほしかった。
「M」IRRORに父を殺されて「M」AGMAに母を焼かれ、 「M」AMMOTHを使い復讐の果てに死んだ兄の妹が「M」ASQUERADEと完全に適合する姿を見ると、浮き立つような気持ちになりませぬか兄上。