俺の運命は最弱メモリのようです 作:一般メモリユーザー
「ガイアメモリって知ってるかい?」
マネージャーに呼び出され、何かに巻き込まれたのだろうと察する。思い出すのは、バイオレンスドーパントの事件だ。マネージャーが風都の女に利用され、ストーカーになってしまったそれの類かと考え、メモリをすぐに出せるよう懐へ意識を向ける。まさか俺が所持しているのがバレたわけじゃないだろうし……
「超人になれる道具なんだけど、大事なのは中毒性があるってことなんだ」
まあ、知ってる。表情には出ないが、今更言われるまでもない。なんなら俺には縁がない。
「そしてこれ。なんだと思う?」
そう言ってマネージャーが取り出したのは、一本のガイアメモリだ。音符を象ったM。となるとミュージックか。
『MUSIC』
ガイアウィスパーが鳴るが、マネージャーの体のどこにもコネクタが見当たらない。袖口や首、手の平を見てみるが、それも同じだ。
「胸元だよ」
……まさか。そう思って自分の胸を見てみると、生体コネクタが浮かび上がっていた。
「……なんで」
メモリ複数本使用はリスクが高いというか、マスカレイドを使って負けたら死ぬとはいえ井坂みたいな末路はごめんだ。一応、コックローチとクラブの二本は使っていたヒカルがメモリブレイクされても生存していたから大丈夫だとは思うが、ヒカルは耐久性が凄いからって可能性もあるし……
利点は、ウェザーのようにマスカレイドが強化されることくらいだ。結局負けたら死ぬのは変わらないし、無料でアップグレードされたと考えればいいか。ネガティブに考えても仕方ない。負けなければいいだけだ。仮面ライダーに。
──無理では?
「おやおや、心ここにあらずといった感じですねぇ」
どうやって探偵を切り抜けるか考えてたんだよ。幸いマスカレイドと同じ黒系メモリだから、ある程度は保証されているのだろうけど……。
なんとなく話の流れが読めてきたぞ。存在しない本来の話なら、メモリのせいでマネージャーの言いなりになっている俺が毒素の影響で理性を失って脱走。「自分の目の前でメモリを使っていた。名の売れているアイドルなので、警察沙汰になる前に連れ戻したい」と偽ってマネージャーが鳴海探偵事務所に依頼を持ち込む感じだろう。ミュージックメモリだから、『Mの○○/』みたいなタイトルのはずだ。後々になって万が一マスカレイドの方がバレた時に、同じMのメモリだったという伏線になるし。
で、最終的に俺はメモリブレイクされてマネージャーは探偵から顔面を殴られるオチになると思われる。
……もしかして、話のメインは鳴海荘吉になるんじゃないか? しょうがないとはいえ、骸骨男──スカルが兄を殺したようにも見える。もちろんメモリの毒素が原因だと理解しているが、それを知る由もない"水香"からすれば、仮面ライダーが兄を殺したように思えるわけだ。
実際は死なないが、メモリブレイクで殺されると錯覚した恐怖心でメモリが進化して逃げられる感じだろう。「仮面ライダーは……人を、殺すから」とか言い残して。なんかアームズの偽仮面ライダーの流れを思い出すかもしれないが、こっちは本物の"仮面ライダースカル"の話だから差別化はできているだろう。……おやっさんにはすまないと思ってる。
で、人殺し呼ばわりされた翔太郎はフィリップに検索を頼もうとするが、この時期はまだ復活していない。とはいえ翔太郎が思い至る"仮面ライダー"はエターナルかスカルだ。偽仮面ライダーのアームズドーパントの可能性もあるが、おそらく本来の"水香"は『骸骨男』とか言ったのだろう。それで"仮面ライダースカル"──鳴海荘吉の報告書を探して読み始めると、我が兄が初期型のメモリを使って死んだことが書かれているとかになるんじゃないか? で、ミュージックドーパントはメモリの被害者である"水香"を救うという精神によってバフのかかった"仮面ライダージョーカー"に倒される。
──読めたな。本来の流れが。マネージャーがなんか喋ってるので、これからの行動を考えておこう。とりあえず一週間くらいは従うふりをして、いい感じの時に脱走する。そこからは、なんか家族と関連しそうなルートを辿ればいいか。マグマに襲われた道と……実家は張られてるだろうから避けて、最後に倒される場所は兄が死んだ場所──一話でマグマドーパントと戦っていたあそこがいいな。一回目の戦闘後にビリヤード場にいれば、必要な情報の断片は渡せるはずだ。
「メモリ……それ、ください……」
なので、俺はその筋書きをなぞるとしよう。あって裸を見られるくらいだろう。問題ないな。
そんなこんなで仕事をしつつマネージャーにメモリを使わされる日々を続けていたが、メモリの挿入直前に手を握ったり頭を撫でたりと、依存先に自分を刷り込むのが上手い。まあ、俺は正気だから関係ないが。
もともと無表情であまり話すこともないせいか、演技が楽だ。メモリも決まった時間に使用されるから急なアドリブが要求されることもなく進んでいる。彼が言うところの"おあずけ"をより効果的にするためだろう。毎日決まった時間に依存性のあるものが与えられていたら、それが無いときの喪失感が強くなるとかそんな感じで。
それにしても、メモリを挿入するって時に裸にされるのはマネージャーの趣味だろうか。本人からしてみればプライドとか恥とかを捨てさせている優越感を得ているのかもしれないが、俺としては霧彦さんが尻彦さんになってるあの場面を想像して笑いそうになってくる。裸にメモリというと、そっちを連想するのだ。
複雑な思いを抱えて二週間。そろそろ逃げようと思う。服を脱がせているのは万が一逃げられても、ドーパントへの変貌を解いたら裸になるという心理的抵抗を持たせるためだとは理解しているが、マスカレイドのハイドープ能力がここで役に立つとは想定外だった。
ということで、ミュージックドーパントになったと同時にマネージャーを突き飛ばして脱走。この日はマネージャーの家でやっていたので、嫌がらせも兼ねて最後のガラスをブチ破る感じの脱出方法だ。
ドーパント体の能力としては、ミュージックというだけあって音による衝撃波が出せたりする。あとはメガネウラの羽の振動波みたいに周囲に動きが鈍る重圧を与えたり。主兵装は音符みたいな鎌だ。今は出していないが。
適当な場所で変貌を解除し、即座にハイドープ能力で服を着る。とっさに逃げてきた感じを出すために、服装はシャツとズボンだけで上着はなし。こういった聞き込みで出そうな特徴も残すことで、翔太郎の捜査が初動から行き詰まることはないだろう。
さあ賽は投げられた。……マネージャーが探偵に依頼しなきゃ何も始まらないが、そこは信じるしかないだろう。最悪の場合は俺がドーパントとして暴れるが、人死にが出ると街を泣かせることになるから加減しないといけない。マスカレイドメモリを使ったり後々のメモリ事件の芽を摘まなかったりと余罪は色々あるが、超えてはならない一線はあると思う。
「幕は上がった、とでも言うべき……?」
園咲邸爆散や天文台の爆発──フィリップの消滅から半年。"仮面ライダージョーカー"のVシネマ作品的な……それは思い上がりすぎか。いい感じの話になれば幸いだ。やることは大体決めてある。
マネージャーが探偵事務所に依頼をするまでは数時間、もしかしたら一日ほどあるだろうし一度家に帰ろう。食事したり、当分は無理だろうからシャワーを浴びたりしておきたい。
「さあ、罪を作り始めようか」
いい感じに証拠を残しつつ仮面ライダー(特にアクセル)にやられないように気を付ける。それでいて翔太郎が一人の時に接触して"骸骨男の仮面ライダーは人殺し"とかそれっぽいことを伝えて最後はジョーカーに倒されなきゃいけない。やることが……やることが多い……!