俺の運命は最弱メモリのようです   作:一般メモリユーザー

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ハーフボイルドがなにもわからない……
演じる風都生活です。


犯人はM/ミッシングリンク

 この事件は、最初から犯人と手口が分かっていた。ただ、その動機だけは、本当に複雑怪奇な事情が含まれていたんだ。

 

 

「あの……骨のような装飾のされている……USB? みたいなのって知っていますか?」

 

 依頼人──香川守孝(もりたか)は、アイドル事務所の名刺を差し出すとまず、守秘義務について確認を取り始めた。おそらくアイドル関連の何かだろうということは、探偵事務所の現メンバー──左翔太郎と所長の亜樹子も推測できる。そして、まず尋ねられたのが先ほどのことだった。

 

「ガイアメモリ……」

 

 鳴海探偵事務所は、常識を超えた犯罪も扱っている。所長が言うところの「ガイアメモリ駆け込み寺」だ。翔太郎と亜樹子が反応を示したことで、香川は解決の見込みがあると判断したのか詳しくことを話し始めた。

 

「そのガイアメモリというのを使っていたのが、私の担当アイドルである、九凪(くなぎ)水香(すいか)なんです」

 

 その名前には翔太郎も聞き覚えがある。風都タワー倒壊の翌日に出した新曲『W』の収益を風都タワー修復のために寄付したことは有名な話だ。

 

「あんたのことを疑うわけじゃないが、コトが本当なら警察にも相談した方がいい。こいつは、精神まで怪物にしちまうんだ」

 

 メモリを使えば、体内に毒素が逆流して精神が蝕まれてしまう。特殊なドライバーを通したりメモリ自体が特殊であれば別だが、一般に流通している──それもミュージアム崩壊後であればそれはない。

 毒素の侵蝕が比較的軽いうちに警察病院での治療を行った方がいいだろう。

 

「それでも()()()()()()()()()()()ってのは変わらないのか? こればっかりは、訳ありだから気にしないとは言えねえ」

 

 『思いが消えてしまったとしても、いつか風都を愛していた人へ』。本人の手書きで寄せられたメッセージを目にしたことがあるが、そこに嘘があるとは思えなかった。それなのに街を泣かせるドーパントになってしまうのには必ず理由があるはずだ。

 

「知らなかったのはしょうがない。そのうえでそうしない理由(わけ)があるなら、教えてくれ」

 

 相手は未成年だ。成人よりガイアメモリの毒素が回りやすいのは、以前のバードメモリ事件で把握している。

 

「それが……」

 

 香川は言い澱む。それは不都合というより、話していいのかと逡巡しているようだった。目を閉じ、深呼吸をする姿が目に入る。それだけのことを話そうとしているのだろう。

 

「事務所としても、話題のアイドルが逮捕というのは外聞が悪く……それと、これは個人的な理由ですが──彼女を説得したいんです」

「説得、か」

 

 メモリの害を知っている探偵さんからすれば無謀で無駄に思えるかもしれませんが。そう言った香川の表情は深刻さと決意に満ちたものだ。

 

「水香の家族は皆死んでいます。それで、彼女をアイドルにスカウトしてからはほとんどの時間を私と接していて……親代わりではないですが、仕事上の付き合いというだけでなく料理を食べに行ったり……。だから、聞き入れてくれる可能性は存在している。──そう思いたいだけかもしれないですけれど」

 

 ずっと無表情ではあったが、最近はなんとなく彼女が何を思っているか分かってきた。そう話す香川は時々ハンカチで目を抑えていた。

 

「もしかしたら、私と彼女の思いは決定的に違ったのかもしれません。干渉してくる私を鬱陶しく思って……っ」

「いや、それは違うはずだぜ」

 

 クイーンやエリザベスとカラオケに行ったときとかに、何回か彼女のことが話題になったことがある。曲を入力する前の広告画面で彼女の曲が流れていたことから始まったその話だが、マネージャーとの仲は悪くなさそうに見えたらしい。あくまで他人の意見ではあるが、翔太郎は女の勘を舐めたことはなかった。

 

「俺が言っても慰めにならないとは思うが、真意を確かめるためにも九凪水香は捕まえなきゃいけねえ。──その依頼、お受けしましょう」

 

 ただ、説得が無理だったら強引な手段になるかもしれない。その確認にそれでもいいと香川は頷き、表情が明るくなる。

 

「そうだ。役に立つ情報かは分からないんですが、そのメモリを挿す前、『ミュージック』という音声が聞こえました」

「メモリの名前……! それなら──フィリッ……あぁ、いや」

 

 半年ほど前なら、メモリの使用者とそのメモリの正体が判明した途端に翔太郎の相棒が事件の全貌を検索していた。しかし、今は違う。相棒──フィリップは、左翔太郎にロストドライバーとメッセージを遺して消滅したのだ。

 

「この街は俺の庭だ。すぐに見つけ出してみせるさ」

 

 黒い帽子を帽子掛けから取り、翔太郎は早速依頼をこなし始めた。

 バイクに乗って街を巡り、翔太郎は彼自身の仲間から情報を聞いて回る。やはりというか、有名アイドルと似た人を見かけたという話は女子高生の噂に上がりやすく、クイーンやエリザベスから提供された情報は有力だった。

 

「ここ数週間は、番組のロケも断ってる、だったか」

 

 フーティックアイドルに出たことがきっかけでCDデビューした者同士ということで共演することが多いらしいのだが、おおよそ二週間前からロケを休んでいたらしい。外出を避けていると例えられる生活スタイルで、業界でも何かあったんじゃないかと心配されていたそうだ。

 とはいえ歌番組や生放送には出ていたから、それらの共通点が見つからない。

 

「その二週間前にメモリを使い始めたとして……あー、どうなってんだ」

 

 情報が足りないのだと、翔太郎は水香に話を聞くことをひとまずの優先にする。

 彼女の服装はシャツ一枚とズボンだけらしく、似ているだけの別人かと思われて噂にしかとどまっていないが。

 

「なんで、んな服装で……」

 

 そして、目撃情報を辿って目星をつけた場所は、野球場近くの道だった。バイクを停め、周辺を歩いて探す。白い柱が並び、それが支えている天井が歩行者から直射日光を防ぐだろうそこに、日中だということを差し引いても目立つ"白い少女"がいる。

 

「探偵……」

 

 気付いたのはあちらも同じようで、先に口を開いたのは水香の方だった。

 


 

「探偵……」

 

 かもめビリヤード場で何度か会ったけど、シリアスな感じの翔太郎と会うのは初めてだ。ここからが本当の大一番。俺にカメラが向き始めた瞬間になる。

 

「水香ちゃん……君の──」

「目的は、これ?」

 

 ズボンの腰に挟んでいたメモリを取り出す。言葉を遮ったのは申し訳ないが、メモリの危険性がどうのという話へさっさと辿り着かせなければならない。

 

「そいつは危険なんだ。だれかを傷つけるだけじゃない。君自身も傷つくことになる」

「……知ってる。正気じゃなくなって、それで──」

 

 メモリを強く握って言葉を止める。こういう匂わせが大事だ。フィリップがいない今、割と証拠を多めに出していくスタイルでいいと思う。

 

「時間。もういい。そこを退いて、探偵」

「いや、ここで止めるさ」

 

『MUSIC』

 

 メモリのスイッチを押し、胸元のコネクタに挿入する。マスカレイドを使っている時と違って異物感が多少あるが、無事にドーパントに変貌した。頭部はユートピアのそれにある程度意匠が似ており、顔の半分を覆うのはオルガンのパイプへ変わっている。他にも弦楽器を思わせる腕部の線に、身体の真ん中はドラムのように円の部品があった。

 音符のような鎌を手に持ち、翔太郎を間に置くようにV字の斬撃を放つ。

 

『JOKER』

 

 煙が晴れた時、そこには仮面ライダーが、"仮面ライダージョーカー"がいた。

 

「仮面……ライダー……!」

「ああ、いくぜ」

 

 とはいえ、ジョーカー最大の利点にして弱点は気持ちに左右されるということだ。今の翔太郎はなんで俺がメモリを使っているのかも、メモリの副作用を知っているのかも知らない。端的に言ってしまえば、テンションが上がっていないのだ。

 

「探偵が、仮面ライダーなら……あの時も……!」

 

 重低音によって周囲にプレッシャーを与えるというちょうどいい能力もあって、翔太郎は結構苦戦している。それでも前に進んで来るのは、流石は仮面ライダーというか。

 それは俺としても歓迎すべきことというか、もっと近づいてほしい。具体的に言うとマキシマムドライブを撃てる距離まで。

 

「いや……っ! やめて、来ないでっ!」

 

 ちょっと攻撃速度を早くしよう。その分エイムをブレさせれば演出としてちょうどいいか?

 すごい爆発してる。音による衝撃波だから爆発するのも不思議じゃないが、これはVシネじゃなきゃ許されない量の爆発だ。

 

「待ってな、すぐ助ける」

 

 ジョーカーメモリがドライバーから抜かれ、マキシマムスロットに装填される。

 

「──ライダーキック」

 

 ここだ!

 

「来ないで──人殺しっ!」

 

 キックの軌道が逸れた。……怖かったー! 怯える演技の都合上仕方ないが、防御姿勢を取らないのは本当に心臓に悪い。

 

「人殺しって、どういう──ぐぅっ!」

 

 動揺でジョーカーメモリの出力が落ちた。下から上へと鎌を振るい、五線譜を足元に走らせる。これは触れた相手に強い衝撃波をぶつけて拘束するのだ。つまり、電車斬りと同じ要領といえる。……流石に紋章ハメほど便利な技じゃない。

 ギターのような音とともに、ジョーカーの装甲に鎌が当たる。その勢いで吹き飛ばされた翔太郎は変身が解け、生身のままで道路を転がった。

 

「仮面ライダーが……お兄ちゃんを、殺したから……」

 

 もう一度鎌を振って周囲の道や柱を削り、その塵でこちらの姿を見えなくさせる。あとは急いで遠くまで走るだけだ。ウェザーみたいに風に乗って遠くまで行くことができれば楽だが、一般ドーパントには難しい。

 

「なんとかなった」

 

 顔見せと強さを示すフェイズが終了。……あれ? そういえば、おやっさんってガイアメモリ絡みの時に欧文タイプライターを使ってたんだっけ。それも他人に見られないよう数ヵ国語を組み合わせて。……読める人、いる? フィリップはいないし、もしかして、詰んだ……?

 


 

「仮面ライダーが……」

 

 ふらつきながらも事務所に戻ってきた翔太郎は、ベッドに倒れこんだ。考えるのはただ一つ、ミュージックドーパント──九凪水香の言っていた言葉だった。

 頭にまずよぎったのは、アームズドーパントのような偽仮面ライダー。しかし、それを否定する材料も存在していた。彼女は翔太郎が変身した姿を見て"仮面ライダー"と呼んだのだ。つまり、仮面ライダーはああいった姿──

 

「ロストドライバーか?」

 

 傷を負ったことによる脱力と疲労で余計なことを考えない頭は、極めて近い答えを弾きだした。Wとアクセル以外の仮面ライダーは、全てロストドライバーを着けている。そして、マネージャーが付いた時には既に両親や兄が死んでいたのでその時期にはいなかったエターナルが除外され──

 

「……おやっさん?」

 

 彼女の兄を殺したという"仮面ライダー"は、スカル──鳴海荘吉ということになってしまう。痛む傷にも構わず飛び起きて、デスクの方へ向かう翔太郎。探すのはデスクの後ろ、天井に近い棚にある資料のファイルだ。猫探しなど分類されて段ボールに入れられたそれらから、鳴海荘吉の書いた資料を探す。

 翔太郎は、鳴海荘吉の相棒であるマツ──松井誠一郎が辿った顛末を知っていた。だから、おやっさんがそんなことをするはずがないと盲信しているわけではない。

 

「俺は自分の罪を数えた、か」

 

 完璧な人間なんていない。それは鳴海荘吉もそうだったのだろう。

 

「資料が多いな……。おやっさんは、そんだけ戦い続けてたのか……」

 

 翔太郎が小学生の頃から、始まりの夜(ビギンズナイト)の直前まで。それまで戦い続けてきた重みがそこにはある。

 そうして棚から下ろした資料には、二種類のものがあった。一つは日本語だけで書かれた一般的な事件報告書。もう一つは数ヵ国語が混ぜて書かれた、事務所に置いてある欧文タイプライターで打刻されたものだ。

 

「マジ、かぁ……」

 

 ここにきて最大の問題。それが、資料を読めないということである。図書館でいくつもの辞書を使えばいつかは解読できるかもしれない。ただ、そのいつかまでの間にも水香はメモリに蝕まれていく。

 仮面ライダーのことを知っている人たちに協力を頼んで……そう考えていると、メモリガジェットの内一体──ゴーグル型のデンデンセンサーが目に付いた。

 

「高性能ゴーグル……まあ、やってみるか」

 

 それは思い付きの発想でしかない。分析結果の表示は日本語以外でも出ていたことから、翻訳機能が付いていないか、なんて。

 そして、それは正解する。

 

「……また、フィリップに助けられたな」

 

 離れてしまったが、二人で一人の探偵でもあることにまだ変わらないようだ。

 最大の難所だった言語は解決した。後は、膨大な資料から必要な一枚を探す作業になる。

 

「資料──! もしかして、ジンさんなら!」

 

 権力には靡かないのがハードボイルド探偵としての主義の一つだ。ただ、そのために街を泣かせていいわけじゃない。

 

 頼み事は承諾してもらえた。超常犯罪課に纏められている、過去に発生したガイアメモリ犯罪と目される事件。その中から九凪という名字の人間が死んでいるものを教えてほしい。

 思ったよりスムーズに事が進んだというか、「ちょうどその資料が」と言っていたことから警察でも何かあったのかもしれないと推測できた。

 そして、その資料は三件だった。父、母、兄。死んだ家族は皆、ガイアメモリによって死んでいる可能性が高いと判断されていたのだ。

 そして、それに近い日付の資料を翻訳して読むと……彼女があそこまで恐怖を抱いていた理由もまた知ることができた。




次回、マネージャー逮捕。初期プロットより有能になっていく翔太郎。

日刊ランキングで6位とかになっていました。皆様のおかげです。ありがとうございます。
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