俺の運命は最弱メモリのようです   作:一般メモリユーザー

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演じる風都生活後編です。


犯人はM/仮面と踊る

「課長! ちょうどよかった。頼まれてた資料、ちょうど翔太郎の奴も探してたみたいで……」

 

 目星をつけていたガイアメモリ密売組織の末端を潰しに出ていた照井竜は、超常犯罪捜査課の机の上に置いてある資料に注目する。それはおよそ二時間ほど前に頼んでいたものであり、十数年前に遡るような量は早々に終わるものではないと考えていたのだが……。

 

「左が?」

 

 今追っているガイアメモリ密売組織の件については、左にまだ話していなかったはずだ。主犯格と目される香川守孝がアイドル事務所のマネージャーをしていたことから、そちらとの繋がりが無いかを洗っていた。

 

「ええ。九凪水香って言やぁ、容疑者のとこのアイドルでしたよね」

 


 

 

 ミュージックドーパント──九凪水香と戦った翌日。二階にある事務所へ向かおうとした翔太郎は、ビリヤードの音を聞く。普段なら気に留めないが、その日は違った。

 

「ビリヤードか。そういえば、彼女がよくやってたな……」

 

 九凪水香という名前は知らなかったが、何度か見かけたこと自体はあった。とはいえ、一階のかもめビリヤード場でたまに会うくらいだが。

 だから、軽く覗いてみようと扉を開けた彼が驚いたのは、まさか本当に水香がビリヤードを打っているとは思っても見なかったからだ。

 昨日と同じように、シャツ一枚にズボンという服装になにか違和感を覚えつつもそれがなんなのかの実像が結ばれない。

 

 

「仮面、ライダー……っ!」

「待ってくれ。ここで戦ったりはしねぇよ」

 

 ドライバーをビリヤード台の上に置く。危険だとはわかっているが、相手に警戒されていると話もできない。

 ある程度は信用されたようで、彼女の方も逃げ出すような体勢を解いたようだ。

 

「水香ちゃん、君のマネージャーと話してくれないか」

 


 

 

「マネージャーと……」

 

 予定であるビリヤード場来訪は成功。朝から入ってくるまでビリヤードをし続けるつもりだったけど、こんなに早く来るのは予想以上だ。

 さて、ということでマネージャーと話してくれないかということだが、大方マネージャーの依頼だろう。ただ、俺がミュージックメモリを持っているのはバレているし、依存させ切っているからメモリはもう不要と考えたのか?

 

「……わかった」

 

 肩を抱くのを忘れずに。今までは素直に従っていたが、このあたりでほのめかしを多くしておこう。翔太郎の観察眼も信用しているからな!

 どこからか逃げてきたような服装も合わせて、なんとなく事件の真相を把握し始めると嬉しい。

 スタッグフォンで電話していた翔太郎がこちらを向き直る。

 

「あと10分くらいで来るそうだ。随分と君を気にかけてた」

 

 マネージャー、演技が上手いのと翔太郎が基本的に依頼人を信じているのが合わさって、上手く隠し通せているみたいだ。

 

「なんで、メモリに手を出したんだ?」

 

 ここは黙秘。()()()()()という言い方は事実に反するので答えない。嘘を吐くとばれるだろうし。

 

「……俺は、君がガイアメモリに手を出すとはどうしても思えなかった」

「わたしの何が分かって──!?」

 

 あれ? 報告書読めたのか? ……方法は分からないが、想定より話がテンポよく進んでいるみたいだ。

 

「君のことは調べさせてもらった。あの時言っていたのは、お兄さんのこと……だったんだな……」

 

 正解。報告書か、警察資料か……どちらにせよ、そこまで掴んでいるならスカルの話は飛ばしていいだろう。

 

「だからこそ、メモリに手を出さなきゃいけないような理由を──」

 

 よし! いいところで扉が開いた。香川が来たみたいだ。

 

「水香さん!」

「マネージャー……」

 

 そういえば、現在のマネージャーの目的が分からないんだよな。

 

「探偵さん、申し訳ありませんが、私と彼女だけで話をさせてください。もし無理だった時のために話は聞いてくださって結構ですが」

「任せるさ、守孝さん」

 

 まあ、失言すると即お縄につかざるを得なくなるから妥当。さて、どうくるか。

 

「水香さん……私のことが、鬱陶しかったですか……? 家族の代わりになれたらと思っていたのは思い上がりで、私は……」

 

 ここの聞き方は賢いな。嫌いかどうかだと、はいと答えられる可能性がある。メモリである程度素直になっているような状態の中でいいえという答えを引き出すなら、こういった聞き方が適切だろう。

 

「違う。マネージャーとは、ずっと一緒に仕事してた。その後だって……」

 

 なら、こう答えるかな。おそらく、依頼の時点でマネージャーはプライベートでも俺と関わっているとか説明しているはずだ。そこは肯定したが、何をしていたかは話さない。

 

「そうでないなら、私の考えられる理由は一つです……自分で言うのは自意識過剰と思われるかもしれませんが、好意……でしょうか。だとしたら、メモリを使って無理に迫らなくとも、私はそれに応えました! 担当アイドルに手を出すのが問題となるなら、マネージャーを辞めたっていい! ですから……ですから、水香さん……メモリを、こちらに渡してください……」

 

 ホントにコイツ話術が上手いな。最終的に好意についてじゃなく、メモリを渡すかどうかに論点をすり替えている。こうなると、俺もこう答えるしかなくなるが……

 

「わたしは、これを渡すつもりはない」

 

 マネージャーにメモリを渡すのは、脱走した目的に反する。だからマネージャー視点でも、これは絶対に成立しない交渉になった。それはこちらとしてもありがたいが、これからどうするのか……そう注視していると、マネージャーは俺の近くによって頭を撫でた。その後は肩から指先へと撫で下ろす。メモリを俺に挿入する前の動作? なんで今……

 

「今日の午後六時、風吹峠で待っています」

 

 大体わかった。こいつメモリの密売やってやがる。おそらく、取引が風都湾付近の倉庫街あたりであるのだろう。その陽動に俺を使う気だ。おそらく風吹峠の方でもメモリか銃の取引あたりがあると推測できる。このまま逃げるつもりだろう。

 

「守孝さん!」

「私のやれることはやりました。──少し、私も堪えてるみたいで……すいません、一人にしてくれませんか?」

 

 そう言ってマネージャーは去っていく。これは、照井君に捕まるパターンだな。じゃあもうほっといてヨシ!

 あとは、翔太郎が俺の用意した違和感を見つけてくれれば完璧だ。真犯人が香川だと気づけば、間違いなく警察に連絡を取るだろう。街を泣かせているにも程があるし。

 翔太郎は心持ちがハーフボイルドである以外に欠点がない、というかハーフボイルドとして完成されているから欠点がないのと同義だから、間違いなく事件の真相に辿り着く。あとは俺がジョーカーにボコられて終わりだな!

 


 

 

 説得は失敗。そのことに胸を痛めている翔太郎が事務所の扉を開けると、そこにいたのは所長だった。

 

「ああ、亜樹子か」

 

 奥のデスクに座り、天井を見上げる。調査は手詰まり。彼女が風吹峠に来てくれるなら、仮面ライダーとしてドーパントを倒す事はできるだろう。ただ、事情も知らずに殴って解決するというのは、どうにも納得がいかない。

 

「水香ちゃんだっけ。メモリを使うくらいにまで思い詰めなきゃいけないこと、誰も気づけなかったのかな……」

 

 落ち込んでいる翔太郎にコーヒーを持ってきた亜樹子がそう呟く。その瞬間、かけていたピースが埋まったような感覚を翔太郎は覚えた。

 

「それだ亜樹子!」

 

 考えてみると、おかしいことはいくつもあった。まず、依頼されるまでドーパントの話が翔太郎に伝わってこなかったということだ。それ自体は不思議じゃない。何かを企んでいる相手は街の闇に巧妙に潜むものだからだ。重要なのはそうじゃない。

 十代後半の女の子が、あんなに薄い服装で何日も出歩くだろうか。シャツ一枚にズボンというのは、それこそ"逃げてきた"という印象の方が強い。

 それに、ガイアメモリの毒素で理性が弱まっているなら、金が無いので服を奪うという結論に辿り着いてもおかしくはないはずだ。それが、あのドーパントがどこかを襲った話を一つも聞かない。マネージャーをすらもだ。つまり、動機が見えてこないのではなく、存在しないと考えるべきではないか。翔太郎はその考えに思い至った。

 

「目的なくメモリを使った……いや、使わされた?」

 

 前例はある。野鳥園やバイオレンスメモリの事件のように、他人にメモリの使用を強要される場合は存在した。

 

「それにあのとき、時間って……」

 

 なにかの待ち合わせかと思っていたが、そういった支援者がいるならあんな目立つ格好はさせないはずだ。テレビに出るような有名人があんな格好をしていれば、やましいことが無いとしても疑われるのは確実だろう。つまり、あれは自分の意志でそうしていると推測できる。

 机の上から、水香がキャンセルした番組を纏めた表を取り出す。はじめは番組の内容がカギだと思っていたが。

 

「午後六時! ここから二時間は絶対に空くように予定が組まれてる……」

 

 そして、それは──

 

「予定を管理してるマネージャーが無関係とは思えない」

 

 一つ溜息を吐く。風吹峠に行くのは決まりとして、その前にマネージャーにもう一度話を聞くべきか。そう考えて電話をするが……

 

「出ない?」

「あ、竜くん」

 

 ドライブモードになっているのか、その電話がつながることがない。そんな時、事務所のドアが開く音に目を遣れば、照井竜が入ってきた。

 

「所長、今日は仕事で来た」

 

 そう言うと、照井は腕を組んで話を始める。彼の纏う雰囲気はどこか鬼気迫る感じであり、最初に出会った時ほどではないが、なにか抱えているのだと気付くのは容易かった。

 

「香川守孝。彼がこの事務所に来なかったか?」

「ああ。来てたぜ」

 

 そう言って翔太郎は事情を説明する。といっても推測は除いてだが。依頼人について話すことについては、仕事としてきたということからただならない事態だと判断した。

 

「左、推測も含めてすべて話してくれ」

 

 その言葉に、マネージャーも何か関係があるのは間違いなさそうだということやこの事件の違和感について付け足す。

 

「……おそらくその推理が正しい。香川守孝は、メモリ密売組織と繋がりがある可能性があった」

「なら!」

 

 ドンッと音がする。それは照井が事務所の壁を強くたたいた音だった。

 

「ああ。香川守孝は間違いなくクロだ。そして、九凪水香はメモリを使ったんじゃない。使()()()()()()()!」

 

 ウェザードーパントと相対した時のような情念が滲み出ているのは、彼女の家庭環境や境遇に思うところがあったのか。

 

「風都湾の倉庫街に不審な人物が集まっていると情報が入っていた。おそらく風吹峠に彼女を呼んだのは、囮に使うつもりだろう」

「そっちに警察を割かせてってわけか……」

 

 電話が通じないのも、そうして補足されたりしないようにということだろう。説得というのは本心ではなく、最後まで使い潰すために話をしたかったのだ。

 

「左、俺は香川の自宅に向かう。奴に必ず、法の報いを受けさせてやる……ッ!」

 

 

 香川がメモリを所持や使用している可能性を考え、照井と翔太郎の二人で彼の家へ向かう。都市部よりは山に近い一軒家で、近くには他の家が見当たらない。

 念のためにインターフォンを鳴らしてみるが反応はなし。バットショットやスタッグフォンに窓を見張らせていたが、そちらから逃げる人影もいない。

 

「行くぞ」

 

 ドアをビートルフォンで破壊し、中へと入る。物音はなく、もぬけの殻のようだ。

 

「パソコンか。えっと……」

 

 スリープモードを解除すると、パスワードの入力画面が表示される。フィリップがいれば、検索で入力すべき単語が分かるのだが……

 

「だよなぁ」

 

 当然、事件の黒幕と目される人物がパソコンのパスワードを推測できる手がかりを置いているはずがなく。

 

「左、少しいいか」

 

 翔太郎だけでは手詰まりとなる状況で、照井はUSBを取り出してデスクトップのパソコンに差し込んだ。

 

「特殊研から借りてきた。使い方もな」

 

 G.R.Iと書かれたプログラムが立ち上がり、照井はキーボードをタイプしていくつかの情報を打ち込む。数秒後には暗号解析の進行を示す数字が100%に到達し、解析完了の文字と共にデスクトップ画面へ辿り着いた。

 

「すごいな……」

「俺だけの力じゃないさ」

 

 全ファイルを表示し、まず目に付いたのはメモリと題された表計算のショートカット。開いてみればアノマロカリスやエッジといった単語と金額が書かれている。

 

「メモリの密売については証拠が見つかったな」

 

 そう言った照井はアナログのビデオカメラを回していた。証拠の改竄をしないためというのもあるのだろう。確実に罪を裁かせる執念が見て取れた。

 次に、二週間前の日付でコンピュータ内に検索をかける。表示されたのは画像と動画のファイル。確認のために開いたそれを見てパソコンを叩き壊さないよう自分の右腕をとっさに抑えた照井は、すぐさまそれを閉じた。

 

「左、証拠は十分に掴んだ。刃野刑事に説明しておいてくれ」

 

 カメラを止め、それを翔太郎に渡した照井は足早に香川の家を去ろうとする。

 

「ガイアメモリに家族を奪われ、遺された自分もまた理不尽に遭わされる。そんな中で力を手に入れた時、それでも復讐を選ばないというのは……どんな気持ちだったんだろうな……」

 

 それは、ある意味では照井の逆とも言えた。メモリによって家族を失い、残ったのは兄妹の片割れ。そして、他者によってメモリの力を手に入れた。彼女は彼女で、自分は自分だ。妹と重ねるのは違うと分かっている。ただ、それを強いる外道への怒りが更に強くなったというだけだ。

 

「……? なあ、照井。こういうパソコンって──」

 

 その時に翔太郎があることに気づいたのは、最大の幸運といえるだろう。

 

 

 倉庫街に着いた照井は、ある程度は警戒されていたのか、コンテナの影からぞろぞろと現れたドーパントに囲まれる。

 

「げっへっへ……誰だか知らねぇが、この数に勝てると思ってんのかよぉ!」

 

アームズ、コックローチ、シャーク……そういった数々の怪物が攻撃態勢を取るなか、照井は懐からドライバーとメモリを取り出した。

 

「俺に……質問をするなっ!」

『ACCELE』

「……変ッ!………身ッッッ!」

 

 排気音と共に、照井は仮面ライダーアクセルへと変わる。一斉に襲い掛かるドーパントだが、足の車輪に削られたり手に持ったエンジンブレードで斬られたりと、次々に隙を晒していく。

 

「振り切るぜ」

 

 ベルトを操作し、マキシマムドライブを発動。その場でスピンする要領で回転するように回し蹴りを放つと、防御を取れないドーパントたちはそのメモリを砕かれて倒れ伏した。

 

「絶望がお前たちのゴールだ」

 

 そして照井は倒れているうちの一人の襟を掴むと、取引の場所を聞き出す。倉庫の内一つだと聞くと、変身を解いて駆け出した。

 ドーパントは倉庫内にいないと確認を取り、固く閉ざされたドアをエンジンブレードで斬り割く。電気が落ち、外からの明かり以外では暗い中で照井はそこへ踏み込んだ。

 

「全員動くなっ! ガイアメモリ不法所持及び密売容疑で逮捕する」

 

 倉庫の中には、やはり香川守孝の姿もあった。他にそこにいたガラの悪い連中はナイフや拳で照井の方へ向かってくる。しかしその攻撃は当たることなく、照井は的確に彼らを気絶させていった。

 

「香川守孝だな。おまえには九凪水香に取った行為で罪が無数に存在する」

 

 逃げられないよう壁に押し付け、襟を掴んで言ったその言葉は怒りに満ちていて、自制を心掛けなければ赫怒のままに暴力を振るいそうだった。

 

「なるほど……水香が話すとは思えませんし、私の家を漁りましたか……ならばどうしようもありませんね。大人しく捕まるとしましょうか」

 

 そう言った彼の顔には、歪な笑みが浮かんでいた。

 

「何が可笑しい!」

「ここで私が捕まるのは仕方がありません。だーけーど! 私が撮影した彼女のあられもない姿は! 今しがた公式アカウントで送信を終えましたァ! 彼女が躍る最期の見世物、その時に浮かべる顔を直に見れないのは残念ですが……まあいいでしょう」

 

 そう高らかに宣言して取り出したスマートフォンは、黒一色を映し出していた。

 

「貴様ァ! この私に何をしたんだ!」

「倉庫の電気を落としたのは、おまえに足掻きをさせないためだ。自宅のネット回線も既に落としてある」

 

 翔太郎がパソコンのネット回線に気付いていなければ、これを予期することも難しかっただろう。エレクトリックの電気を倉庫全体に流し、電子機器を故障させたのだ。

 

「な、なら! こんな乱暴な捜査、私は怯えて嘘の自白をせざるを得ませんねぇ! メモリを担当アイドルに使わされ、そんな彼女を解放するためにやむなく従っていたというのに!」

「自白の強要をされたというつもりか……いいか、法律というのは人間のためにある。おまえのような外道はもはや人ではない! メモリを使い、人の人生を踏みにじる最低の悪魔には──」

 

 照井は全力で香川の顔を殴りつける。

 

「……俺が掟だ!」

 


 

 

 というわけで風吹峠に来て、ヤのつく自由業と思しき連中をボコった。殺してはいない。ただ鼓膜の無事は保証できないが。

 そうだ。ここで『W』でも歌っておけばいいんじゃないか? 大道克己が死んだから世に出ないだろうとはいえ、俺名義で曲を出した申し訳なさから風都タワー修復のために全額寄付した曲だ。

 そうだ。クラブドーパントの事件の時に、『cod-E』歌おうかな? もちろん他人の曲なので、CDの収益は風都に全額寄付するけど。

 ……誰か来た。翔太郎だろう。

 

「一つ。俺は……君を怯えさせて、涙を流させた」

 

 俺に声をかけてこない。それにこれは……まさか……!

 

「二つ。街を……君を泣かせていたのは誰か、気付いてやれなかった」

 

 黙って聞こう。これは、やっぱりそうだ……!

 

「俺は、俺の罪を数えた。君が街を泣かせる前に、この事件を終わらせる……!」

 

 翔太郎が自分の罪を数えた! おやっさんがやってたアレだ!なら、こう答えるか。

 

「ドーパントは、もう人ではない。倒す事以外では救えない。骸骨男は……鳴海荘吉は言っていた。彼でも無理だったのに、半人前(あなた)ができるの?」

『MUSIC』

 

 正確には心を捨てて街を泣かせた悪党が対象だが、俺という九凪水香にとってはドーパント全般のことだと誤解していてもおかしくはないだろう。

 ミュージックメモリを起動。ドーパントに変貌しつつ、こうして煽る! とはいえこれは精神ダメージを狙うものじゃない。というか、今の彼はハイパームテキメンタルだ。いい感じのマイクパフォーマンスになるといいな……

 

「できるさ! なにせ俺は、相棒からこの街を託された──」

 

 翔太郎は懐からメモリを取り出す。黒いそれの起動スイッチを押した。

 

『JOKER』

 

「"仮面ライダー"だ!」

 

 ロストドライバーのメモリスロットに、ジョーカーメモリが装填される。

 

「変身!」

 

 ジョーカーメモリのあの音とともに、黒い生体強化装甲が生成された"仮面ライダー"である仮面ライダージョーカーへと変身を遂げた翔太郎。

 

 あとはもう言うまでもないだろう。斬撃を飛ばしたり重低音で拘束しようとする俺だが、メンタル最高潮のジョーカーに勝てるわけがなく。感情バフの恐ろしさを味わいつつボコられた。なんかおもむろにデンデンセンサーを取り出したのは意味が分からなかったけど。

 

「メモリブレイクだ」

 

 いつもの指の構えをした後、マキシマムドライブを発動させるジョーカー。

 

「ライダーパンチ」

 

 そうして繰り出された拳は、正確に一点を狙っていた。なるほど。バードメモリのあれもあるから、メモリだけを打ち抜く狙いか。ナスカのアレをデンデンで代用した感じだろう。さて、問題は俺の後遺症がどうなるかだ。廃人になったら幕を下ろせない。意識不明で眠り続けるのも困る。イエスタデイのような記憶喪失もあり得るとなると、どうなるかは見当もつかない。

 まあ、今の俺は高校に上がりたての子供だ。危ない橋を渡る若さも悪くはないだろう。

 

「……信じる」

 

 ミュージックメモリが排出され、空中で割れる。いい舞台だった。運命のメモリじゃないとはいえ、今までありがとう……!

 

「あれ……わたし、生きてる……?」

 

 流石にマキシマムドライブを受けたら体への負担が大きい。アルコールドーパントの時みたいにプリズムメモリを使ったならともかく、ジョーカーはパンチかキックだけだ。

 身体の力が抜けたところを、ジョーカーに抱き留められる。……仮面ライダーに支えられるの、すごいレアな経験じゃないか?

 なんか、テンション上がって余計なことをしゃべりそうなので、大人しく目を閉じて気絶しておこう。マスカレイドメモリは家に放置しているので、このまま病院でも問題ないな。

 

 

 賭けには勝った。二週間に渡る個室入院生活、中毒症状で苦しむようなことはなかったが、カウンセリングがとにかく多い。毒素の影響が薄かったことから、リハビリは一日様子を見て問題ないと判断されたが、そりゃ俺の来歴からしてカウンセリング必須だろう。親しい人みんなに裏切られてて草生える。父死亡後は母ネグレクトで兄が殺しに来る、マネージャーには脅されるでロクなヤツがいねぇ……

 そりゃ一週間くらい外には出せないよな。これで人間不信になってなかったら、心が死んでるとしか思えないって。

 とりあえず、趣味の一つでも作ったらメンタルが回復したとみられるかもしれない。ということで、『モンスターエルドラド』をやることにした。

 

 最後に、退院した俺はビリヤード場に向かう。二階への階段を上り、ドアを叩いた。

 

「お礼を、言いに来た」

 

 

 依頼人の笑顔は見られなかっただろうから、代わりに救われた人からなにかあった方がいいだろう。笑顔ができないのは御愛嬌ということで。

 

「ありがとう。仮面ライダー」




もう出番が無い人物の紹介
■香川守孝
嘘吐きの卑怯者。余罪が多い。
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