私達の世直し計画!   作:Calく

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~楽園を取り戻すために~

突然だが、俺はエルフが嫌いだ。

その理由は……今語る程でもないか。今は仕事の最中だからな。俺については後で語ろう。

それは兎も角、問題は俺の隣にいる女だろう。

俺もエルフ嫌いだが、俺の隣の女はもっと嫌いーーいや、憎んでいると言えるだろうな。まぁその理由は、俺の倍は辛い理由だ。何せーー、

 

……ん? アンタ、エルフを知らないのか?

 

 

……へぇ、アンタ、エルフ……いや、この世界のー森妖精(エルフ)ーについては知らないのか。……そっち側ってのは、また俺達とは違うらしいな。まぁいいか。

森妖精と書いてエルフと読むこの種族は、まぁ文字通り森とともに暮らし森を大事にする、異世界モノでよく語られる種族そのものと言える。容姿端麗ながら他種族を見下す傲慢知己な性格でありながらも、森を敬い森を神格化し、森に侵入する者は容赦なく殺してしまう一方で、身内の結束は固く、必ず集団で活動しており、また滅多に森から出ることは無い。それが森妖精だ。

……ちなみにこのエルフと言う呼称は、あくまでも俺達人間が勝手に名付けたものであり、理由としては実にくだらないが、森妖精(エルフ)ーー奴らが、俺達の世界の伝承に出てくるエルフとよく似た姿をしているからだ。その見た目も、今まで観測されてきたその生態も、驚くほどそっくりだった。だから人間は、突然顕れたその生き物を、森妖精と名付けた。

森妖精達は森の中で暮らし、森の外に出ることは殆ど無いように見られた。

だから人間はこう結論づけた。監視は必要だろうが、彼等はそのテリトリーから出ることも、その外に出ることも無いだろうと。

 

 

それが後でどれほどの悲劇をもたらすか、など考えもせずってな。

 

 

……っと。まぁ、これでエルフについては大体分かっただろうよ。

……続きが気になる? まぁ、俺達とは違う███にいるアンタだもんな。……ん? あぁ、分かってる。けどなぁ、こっから先は███が居るからなぁ。こうしてアンタと会話出来てることも、偶然の産物に過ぎないわけで。

なんて言ったって、俺達はアンタの███の███なわけで……それに俺達は孤独だからな。誰でもいいから見てくれる奴がいると、多少は気が楽だろう。███が終わればここでの会話も、記憶もなかったことになるだろう。……ただの勘だがな。……そんなに続きが気になるか? はっ、アンタはこれから、嫌でも見れるだろうよ。俺達の過去についても、これからについても。

まぁ、こうして話せたのも何かの縁だ。

精々、そうして俺達の姿を眺めているといいさ。

じゃあな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い火の粉が舞い上がる。視界一面に広がる赤は、全てを飲み込む焔。

まるでそれは、全てを焼き尽くす地獄の業火だ。樹々が真っ赤に燃え上がる。人も獣もあらゆるものを巻き込みながら。

かつて雄大な美を誇った世界樹の森。その大自然は、今やその全てが赤く染まり、煙を吐き出す焔に包まれていた。空に舞いあがる火の粉。延々と吐き出される黒煙。

何処かで何かがーー或いは誰かが叫んでいる。吠えている。どこか遠くからなのか、或いは近くだろうか。慟哭。その意味は分からない。理解する必要も無い。

燃え上がる森の中を私たちは進む。皮膚を蝕む熱気を感じる。道中見かける死骸はどれも、この焔に巻き込まれた哀れな犠牲者ばかり……おっと。ひとつ訂正しよう。哀れな犠牲者に混じる死骸には、忌々しい【ムシ共】の姿もある。

その死骸を目にする度に、口角が上がる。なんて素晴らしいのだろう。

やはり、害虫退治にはバルサン……ではなく、燃やして燻してしまうのが最適だろう。あぁ、やはり、こうしてみればーー私の行動は間違っていないと再確認出来た。

「あの日」から目覚めて潜伏してから数十年…或いは数百年か。

初めてこの森を見た時、それは酷く驚いた。この森で暮らす生き物が、獣だけではないーー私の最も嫌いな生き物【ムシ共】が、世界樹と呼ぶ巨樹の下でーー冷凍睡眠で眠りについていたわたし達の存在を、奴らが伝承を通しながらも認識していた上ーー自分達の上位種族として扱っていたことを知った時から。森と共に暮らす、森妖精などと名付けられたムシ共の姿には、ハッキリ言って虫唾が走った。私の、私達の全てを奪った存在の癖に。

いくら私達の「この姿」がそうさせたとしても。私はそれを許せなかった。

それに、果たすべき使命もある。

だから私は、私達はムシ共の集落に降り立った後、神のように振る舞い、頃合いを見て、ムシ共を真似た技術ーー魔術でこの世界樹の森に火を放った。

火を放ち、広がるのは一瞬だった。

アリの巣のように繋がった集落を世界樹を中心に、森全体に構築していたムシ共は、瞬く間に焔に包まれていった。

ヒトの姿をしながらも、人間では無い憎い生き物が火達磨になってもがいて死んで行くのはなぜだか異様に面白かった。

やがて充分に火が回り始めたのをきっかけに、こうして赤く染る森の中を散策している。この肉体は無駄に頑丈で、焼け死ぬことは無い。生き残ったムシがいれば、惨たらしく死ぬように細工をして。或いは気まぐれに助けるふりをして、不運な事故で潰れてもらったり。

悲鳴とすら呼べぬそれらの音を、私は全て雑音として処理していたが、その様を見るのはひどく心が踊った。

私の連れはそれを、無表情で見つめていたが。

「どうしたの、イヴ。……もしかして楽しくない?」

「……いいや。お前がまた、無駄なことをしていると思ってな」

確かに、私のこれは無駄だろう。いくら使命があるとはいえ、こんなに「遊ぶ」必要はない。

「本当にイヴはせっかちだよね。……はぁ、分かったよ。そろそろ飽きてきてたしね」

そんな言い訳をしながら、次はどんな風にしてムシ共を使おうかと考える。

不意に、ムシ共の集落があっただろう広く開けた場所へとたどり着く。

焼け焦げた木材。瓦礫の下のその中にそれはいた。目を向けて思わず驚く。

「人間……?」

男の子、だろうか。幼い顔つきをした、耳の尖っていない、普通の人間。目を覚ましてから今まで、初めて見た、この世界の人間。

何処か冷えていた心に熱が灯る。使命を果たせるかもしれない。そんな期待。

思わず駆け寄り、瓦礫に半分身体を埋めてられているその子供?に手を伸ばす。しかしどこにそんなな力が残っていたのか、強い力で振りほどかれる、いやはたかれた。

「がはっ…アンタら……アンタらの際で…!」

「お、落ち着いて…わたしたちは…」

そこで覗き込んだ瞳に、悟る。

あぁ、これは駄目だ。この人間は駄目だ。

ムシ共とは違う。けれど、このニンゲンもまた、違う。私達とは違う。

ハズレであることに気付くと同時に、感情で熱くなった心が冷えていくのを感じた。

その間にも、子供……いや、ニンゲンモドキは喚き続ける。

先程まで言葉として処理されていたはずのそれは、今ではムシ共と同じ雑音になっていた。

殺そう。ムシ共とは違うけど、こいつは、ニンゲンでは無いから。

私達の求める人間に値せず。

使命を果たせないのなら、要らない。

「ッ、なぁ、教えろ、教えてくれよ。あんたら、なんでこんなことすんだよった!! なぁ、なんでーー」

 

「うるさいなぁ」

 

「こんなことをする理由? あはっ、決まってるじゃない」

 

「不快な虫は殺すでしょ?」

 

「それと同じだよ」

 

パンッ。

 

それが弾け飛んだのを見届けてから、連れに目を向ける。

「ごめんね、イヴ……折角使命をはたせると思ったのにね。ワタシが遊びすぎたからかなぁ」

「……気にするな。使命を果たすのは最優先だが、こればかりは仕方ない。

それに、まだ俺達の求める「人間」がいるかもしれないしな」

「そう、そうだよね。さっきのはハズレだったけど…あんなのが人間なわけ、ないよね。機械の鑑定だと、あんなのが新人類ってことになってるけど」

「楽園を創るには、アダムとイヴ(わたしたち)が必要だから」

「……いや、違うか……種は撒いた筈。だから、あんなのがこんな世界に蔓延ってる訳が無い。新人類なんかじゃない……あれは、あれは偽物だもの……私達が、本物だから…」

「…おい、…そろそろ行くぞ、アダム」

「あ、うん」

「そうだね、こんな所で立ち止まってたら、世界を救えないもの」

「世界をより良くするために、私達の善を成さなきゃ……楽園を取り戻すために」

「私達の世直し計画を、始めよう……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




殺された人間
昔エルフの集落に迷い込み、殺すのも忍びないとされ元集落跡に建てられた家での暮らしを余儀なくされていた人間族。瓦礫に巻き込まれるも辛うじて生きていた。「人間」と言えばこの種族を指す。



【挿絵表示】

「楽園」を取り戻すために世直しを計画する。見た目はエルフの上位種族である上位森妖精の姿をしている。
アダムとイヴの名は、本名ではなくコードネーム。もっとも本名を名乗る機会は失われて久しい。
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