五等分の花嫁~盟友と僕は背中合わせ~   作:ケンドラ

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第012話 トラブルだらけのお祭り(家族編)

「三玖は上杉さんのことをす──」

 

 突然、四葉さんが黙ってしまった。屋台のにぎわいで声がかき消されたわけじゃない。

 

「す、すごい人と思っているように見えませんか」

「……? ええ、まあ」

 

 卒業試験やテスト返し、校舎の前で問題を出した時とでは風太郎を見る目が大違いだ。

 僕でも分かるくらいだから姉妹はもっとびっくりなのかも。

 

「やっぱり! 三玖は上杉さんと気が合うと思っていたんですよ」

 

 ししし、と急に歯を見せながらニッとして笑ってきた。

 いつもの笑顔だけど……何か引っかかる。

 

「ちょっと、四葉!

 なんでそいつといるのよ!」

 

 振り向かなくても、この責めるような声は分かる。予想通り、リンゴ(あめ)を持ってにらんでいる二乃さんがいた。

 ここで合流した、と言っても聞いてくれない。

 

「あんたにも言っておくわ。

 四葉に変な気を起こしたら許さないから」

「二乃、宝条さんは別に何も──」

 

 言い返す間もなく、四葉さんを引っ張って行ってしまった。

 気になることがあったんだけど……

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

「機嫌直しなよー」

「納得いきません! 同じ顔なのに」

 

 全員集まったけど、何事かと驚いた。二乃さん以外にもプンプンと怒っている人がいたからだ。

 

「あの店主、一花には『可愛い』っておまけしたのに私には何も無しだなんて!」

「い、五月ちゃんだって可愛いよ。

 ほら、食べて元気出して」

 

 どうやら屋台で不公平なことがあったらしい。

 一花さんがベビーカステラの入った紙ぶくろを差し出したけど……

 

「ごめんなさい……今はそれを見たくありません」

 

 ぷいっと五月さんは顔を背けて先に歩き出してしまった。

 食べ物を無視した、と驚いている場合じゃない。

 

「あちゃー、困ったね」

「一花さん、これを」

 

 こっそりたい焼きをふくろごと渡す。少し驚いたような様子だったけどニヤッとしてきた。

 

「良いの?」

「僕はもう食べたから大丈夫。さあ、早く」

「ふふ、ありがと」

 

 一花さんなら、お姉ちゃんからだよーとか言ってうまく渡せる気がする。

 急いで追いかける姿を見ながらホッと一安心。

 

「そっくりなのって良いことだけじゃないんだ」

「うん、本当にそう」

 

 び、びっくりした……三玖さんか。風太郎といっしょにいる。

 背後にいつの間にかいるから、大げさではなく飛び上がってしまう。

 

「何だ、橙矢。腹の調子でも悪いのか?」

 

 気持ちだけで十分、と上杉兄妹はたい焼きをえんりょしていた。

 四葉さんにもおわびできなくてどうしようと思っていた時に、こうなったという訳だ。

 

「ま、まあね。あれ、らいはちゃんは?」

「四葉と近くの屋台に行ったぞ。

 全く、三玖からも人形焼きをもらったのに……」

 

 ああ、さっき渡していたのはそれか。三玖さんもらいはちゃんの笑顔にやられたのかな。

 

「私はおわびとお礼をしただけ」

 

 ボソッとつぶやきながら、三玖さんが風太郎から顔を背ける。

 気にはなったけど、二乃を見失っちゃうと歩き始めたのであわてて後に続いた。

 

「しかし、俺には分からん。

 そんなにお前ら花火を見たいのか」

「うん、花火はお母さんとの思い出だから」

「思い出?」

「そう。今はいないけど、昔は家族で毎年見てた」

 

 じゃあ5つ子のお母さんは……いや、聞くのはよそう。

 

「場所取りや宿題をがんばったのも……」

「今日は今年最後の花火だから。

 絶対に見逃す訳にはいかない」

「なるほど、だから二乃は邪魔をするなと」

 

 さすがに、そんなひどいことをするほど風太郎は鬼じゃない。

 僕だって同じだ。家族そろって何かを見るのは思うことがあるし。

 

(僕も見れるかな。いつか、7人そろって──)

 

 そう考えていた時、アナウンスが鳴り響いた。

 いよいよ花火の打ち上げが始まるみたいだ。

 

「あいたっ!」

 

 待ってましたとばかりに大勢の人が動いたからたまらない。

 ぎゅうぎゅう詰めになるわ、足を思いきり踏まれるわで散々だ。

 

 あ、あれ? みんなどこ行った?

 

「まずいな……」

 

 バッグとペンダントを揺らしながら、人混みをかきわけて走る。

 ひとまず、二乃さんがいた方を目指そう。みんなもそっちに向かっているかもしれないし。

 

 人混みを抜けたら全員いる──なんてことはなかった。

 せめて1人くらい誰かいてほしかったのに。

 

 落ち着け。こういう時こそ携帯電話だ。

 

「もしもし、風太郎? 今どこに──」

『お前の後ろにいるぞ』

 

 えっ、と振り向くと本当にいた。

 一瞬、1人かと思ったけど誰かを連れている。

 

「げ、よりにもよって……」

「二乃さん、先に行ってたんじゃ」

「上杉が道を間違えたのよ!」

「何言ってんだ。

 お前が歩くのが遅かったからだろ」

 

 あわてて、花火を見る場所はどこなのかと聞くと2人が口論をやめた。

 言い争っている場合じゃないと二乃さんが目の前のビルに向かって駆け出す。

 

「ここの屋上よ。きっとみんな集まってるわ」

「階段か。風太郎、競走する?」

「ふん、お前腹痛だろ。

 30階まで駆け上がった俺をなめるな」

 

 とんでもない言葉を聞いた気がするけど、それならそれで競いがいがある。

 結局、屋上に着いたのは3人同時。花火は──

 

 ヒュウウウ……ドォォン!!

 

 良かった、間に合った。さすが借り切っているだけあって他に人はいない……いない?

 

「やば、どうしよ」

「おい、二乃。あいつら来てないぞ」

「私しか知らないわ。花火を見るお店の場所って」

 

 な、なんだって!?

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 ぼーっとしていたのは夜空に次々と輝く花火を見ていたから、だけじゃない。

 

「そもそも花火は戦国武将とも関わりがあってな。例えば徳川家康や伊達政宗は……」

 

 何を思ったのか、さっきから学年トップの優等生が花火にまつわる解説をしている。

 三玖さんだったら目を輝かせたかもだけど──

 

「全然つまんない!

 あんた達と花火を見るなんて何の罰ゲームよ!」

「お前が悪いんだろ!

 場所くらい姉妹に教えておけよ」

 

 これはもう、らいはちゃんと4姉妹を探しにいくしかない。

 1時間以内で間に合うか、なんて考えは無しだ。

 

「ちょっと黙ってて……もしもし、四葉?

 花火始まっているけど、今どこ?」

 

 良いタイミングで二乃さんの携帯に電話がかかってきた。

 もし5人全員いっしょなら話は一気に解決する。

 

「妹ちゃんと時計台? 他には……そう。

 分かった、迎えに行くからそこにいて」

 

 ダメか。でも、5人中2人の場所が分かっただけでもありがたい。

 

「あんたたち、何ボサッとしてんの。

 時間が無いんだから電話くらいしなさいよ」

「仕方ねえな……あ、無理だ」

「何でよ」

「親父とらいはと橙矢の番号しか無い」

 

 少しの沈黙の後、「何よそれ、使えない!」と二乃さんが心底あきれたようにわめいてきた。

 僕の携帯も似たり寄ったりだけど、望みはある。

 

「宝条、あんたはどうなのよ?」

「番号は分からないけど、これで何とか」

 

 携帯の画面を2人に見せた。

 あ、あれ? 何で無言?

 

「お前、その連絡先でどうしろと」

「上杉の家族に……『施設長』!?

 怪しさしかしないんですけど」

 

 げっ、間違えた。今の無し、ノーカウントで。

 

「ごめん、違った! 忘れて!

 見せたいのはこっちです」

「……『中野父』!?」

 

 見事に風太郎と二乃さんの声がハモった。

 

 僕らの雇い主で5つ子の父親でもある中野さんに電話番号を教えてもらう。

 いやあ、補佐役の依頼があった時に登録しておいて良かった。

 

「バカなの? パパに連絡先を聞くつもり?」

「ご名答。バカでも何でも試してみます」

「ま、待ちなさい!」

 

 構うもんかとスッと通話ボタンに触れて、携帯を耳に当てた。

 しばらく呼び出し音が鳴っていたけど、全く応答無し。

 

「ダメでした」

「だから言ったじゃない! 何考えてんのよ」

「悪いが俺も同感だ。

 だいたい、番号なら二乃に聞いた方が早い」

 

 ヒューッと風が吹き抜けていった気がした。本当だ、言われてみれば……何をやっているんだか。

 

「というわけだ、二乃。

 連絡先を教えてくれたら電話するぞ」

「お断りよ!」

 

 だったら電話しろなんて言うなよ、と頭を振りながら風太郎は手すりに近づいた。

 きっと上から探すつもりなんだ。まだ居場所が分からない他の3人を。

 

「おい、あそこにいるの一花じゃないか?」

「え!?……間違いないわ。

 だけど、なんで電話に出ないのよ」

「携帯で誰かと話してる」

 

 バッグから双眼鏡を取り出して目に当てると、はっきりと姿が見えた。

 風太郎に渡して確認してもらおうとしたけど……

 

「ちょっと、そんな物で一花を見ないで!」

 

 いや、緊急事態なんだから今は許して。

 

「しょうがねえな、俺が一花を連れてくる」

「あんたが?」

「お前の相手をしても話が進まない。

 橙矢、手分けして探すぞ」

「……ふん、何よ」

 

 風太郎が屋上からいなくなった。まあ、電話番号が分かる望みも無いし双眼鏡も使えないんだ。

 となると、ここにいる意味は無い。

 

「僕も、みんなを探してきます」

「どうだか。口では何とでも言えるわよ。

 上杉もすぐに諦めるか逃げるに決まってる」

 

 そう言ってくるのか。だったら、僕に今できることはただひとつ。

 今だけ許して──()()()

 

「じゃあ、これを預けます」

「は!? 何のつもり?」

 

 双眼鏡を差し出すと、とてつもなく嫌そうな顔をされた。

 気が利くわね、ありがとうなんて期待はしてなかったけどさ。

 

「風太郎が口先だけ、って言われるのは嫌なんだ。

 それに、今は二乃さんが使う方が役立つでしょ」

「い、いらな……」

 

 汚れものを見るような目で後ずさりしたけど、下にいる大勢の人を眺めて無言になった。

 

「そ、その辺に置いときなさいよ」

「了解」

「言っとくけど、あんたが変なことに使わないようにしたいだけなんだから!」

 

 近くのテーブルに双眼鏡をそっと置いて屋上の階段を駆け下りる。

 見てろ、風太郎と僕で全員探し出してみせる。

 

 とりあえず、行方不明の姉妹を探しながら四葉さんたちがいる時計台に向かおう。

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

「四葉さん! らいはちゃん!」

 

 結局、他の姉妹は誰も見つけられず時計台に着いちゃったよ。

 もしかして風太郎が全員発見したのかな。

 

「ややっ、宝条さん」

「お兄ちゃんは……って、すごい汗! 大丈夫?」

 

 半袖とはいえ、制服で人混みの熱気の中を走ったからか。

 汗びっしょりで(のど)がカラカラたけど、どうってことない。

 

「僕は平気。それより急ごう!

 二乃さんから花火を見る場所を聞いたから」

「おおっ、助かります」

 

 みんなで花火を見れる、とうれしそうな2人に一瞬和みかけた。

 だけど、のんびりはしていられない。風太郎に『2人を連れていく』とメールをしておいてと。

 

「案内するので、ついてきてください。

 らいはちゃんは制服の袖でもつかんで──」

 

 ギュッ

 

 風太郎を見習って、はぐれないようにしなければと思った時だった。

 

「えっ……あの、らいはちゃん?」

「あははっ、手をつないだほうがいいよ。

 四葉さんも、はいっ!」

「~~っ! やっぱりかわいすぎます!」

 

 もしかして服の袖がのびることを気にしたのかな。別に平気なのに。

 でも、はぐれたら最悪か。らいはちゃんと手をつないで四葉さんも大喜びだし。

 

「らいはちゃん、歩きにくかったら言ってよ」

「大丈夫! こうしてると楽しいから」

 

 あれ、なんでだろ。両手がふさがってるのにニコニコ顔だ。

 

「えへへ、実はお兄ちゃんや五月さんともこうしたんだよねー」

「えっ、五月とですか?」

 

 ゲームセンターでプリクラを撮った、とらいはちゃんが歩きながらはしゃいだ。

 何だっけ、それ。撮った、ということは写真みたいなものかな。

 

 そうか、3人で行ってたんだ。これで風太郎に対する五月さんの見方が変われば嬉しい。

 

「それは良かったね。楽しかった?」

「うん、こんなふうに手をつないだの!

 まるで『家族』みたいな気分だったよ」

「家族!?」

 

 四葉さんと声が同時に出た。思わずらいはちゃんとつないでいる右手を見てしまう。

 たぶん左手をまじまじと見つめている四葉さんもとまどっているに違い──

 

「聞きましたか、宝条さん。

 家族ですよ、家族!」

 

 急に目を輝かせたと思ったら、ギュッとらいはちゃんにくっついた。

 さっきも見た光景だ。なるほど、そういう事か。

 

「そういえば、妹にしたいって言ってたっけ」

「二乃と五月には怒られちゃいましたけど」

「じゃあ橙矢さんは──」

 

 わくわくしたような顔でらいはちゃんが見上げてきた。

 いや、そんなふうに見られても答えようが……

 

「姉、妹とくれば宝条さんは真ん中ですね!」

「えっ、真ん中!?」

 

 きょうだい路線でいくなら一番上と言われると思っていたよ。

 長男にはあこがれがあったんだけどな。

 

「はいっ、私は5月生まれで結構早いですよー。

 宝条さんは何月生まれですか?」

「……7月です」

 

 じゃあ決まりですね、と四葉さんがえっへんとドヤ顔をしてきた。

 むう、風太郎みたいに4月と言えればな……しかたないか。

 

「じゃあ真ん中としてきっちり案内するから」

「うん! よろしくね、橙矢さん」

「ししし、四葉お姉さんと呼んでも良いですよ」 

 

 後が怖いからやめよう。一花さんにからかいのネタを提供するだけだし。

 二乃さんにバレたら抹殺されてもおかしくない。

 

「橙矢さん、照れることないよ!」

「べ、別にそういうわけじゃ……」

「四葉さんは授業を特に熱心に受けてくれる良い人、ってほめてたよね?」

 

 歩きながら「これは参ったな」と頭をかくしかなかった。

 言ったけど、本人がいる前だとさすがに……

 

「宝条さん……!」

 

 よ、四葉さんの目の輝きが半端じゃない。ここまでくると宝石レベルだ。

 花火を見る建物にも近づいたし、そろそろ──

 

「四葉さん、何か聞こえるけど携帯鳴ってる?」

「えっ……あ、二乃からですね。

 らいはちゃん、ありがとうございます」

 

 おっ、ちょうど良かった。もう目の前まで来てるから心配ないって伝えられるよ。

 

「宝条さん、二乃が電話を代わってほしいと」

「僕に?」

 

 らいはちゃんとつないでいた手を放して、携帯電話を受け取る。

 あれ、四葉さんに用があるんじゃないのか。

 

「もしも──」

『あんた、いつまで四葉とくっついてんのよ!

 さっさと一花や三玖、五月を探しなさい!』

 

 思わずひっくり返りそうになった。耳と頭がクラクラしながらも、何て大声なんだと目の前の建物を見上げる。

 

「こ、声の音量下げて。

 その3人と連絡は?」

『ぎりぎり話せたのは五月だけよ。場所は──』

 

 どうやら、五月さんは僕がみんなとはぐれたあたりの所にいるらしい。

 

『ぼやぼやしてないで急いで! 五月はすぐ迷うから早く向かわないと手遅れになるわ!』

「分かりました」

 

 後は二乃さんが案内してくれる、と携帯を四葉さんに返した。

 さて、もうひとっ走りといこうか。

 

「橙矢さん、五月さんたちを見つけてあげてね」

「うん! 何かあったら電話して」

 

 花火大会が終わるまで40分を切ってる。だけど不安になっている場合じゃない。

 3人を見つける、これだけに全力集中するんだ!




 また投稿に時間がかかってしまい、大変申し訳ありません。
 
 次回で花火大会編を書ききることができれば、と考えています。
 姉妹を全員見つけられるのか、そして橙矢の決死の突撃をお楽しみに!
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