五等分の花嫁~盟友と僕は背中合わせ~   作:ケンドラ

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第013話 トラブルだらけのお祭り(信頼編)

「一花さん! 三玖さん! 五月さん!」

 

 だめだ、全然見つからない。

 

 もっと声を出さないと、屋台のにぎわいや花火の音にかき消されてしまう。

 

「トーヤ?」

「……え?」

 

 振り向くと1人見つけた。だけど、誰?

 待て、落ち着こう。5……4……2……

 

「三玖さん?」

「そう。髪型変えたのによく分かったね」

 

 いや、難しかった。6人目の姉妹かと思ったよ。

 

「ああ、良かった。

 そうだ! 一花さんと五月さんを見てない?」

「五月はいたよ。

 さっきフータローが探しに行った」

 

 だけど、それっきり戻ってこないらしい。

 いくら何でも遅いと顔をしかめてくる。

 

「風太郎が三玖さんを見捨てるはずないよ」

「べ、べつに私は……ただ足が痛むだけ」

 

 確かに片足に布が巻かれている。踏まれた所を風太郎が手当てしてくれたらしい。

 頼りになるレスキュー隊ってやつか。

 

「トーヤ、私は大丈夫。

 一花と五月を探して」

「でも……」

「お願い。五月は方向音痴なところがある。

 一花は、ひげのおじさんといっしょらしいし」

 

 ひ、ひげのおじさん!? 屋上から見た時はいなかったけど。

 だけど迷ってはいられない。

 

 せめて何かできることは……あっ。

 

「三玖さん、花火大会の案内を持ってる?」

「えっ? うん」

「少し貸してくれませんか」

 

 屋台の位置が分かる会場の全体図は──あった!

 

 書く物は無いかと制服のポケットを探すと、ちびた鉛筆を発見。

 よし、花火を見るビルのあたりに印を付けてと。

 

「花火を見る建物はここだから。

 一花さんか五月さんに会ったら教えてあげて」

 

 無理はしないで、と案内を返して走ろうとした時だった。

 

「待って、トーヤ」

「おっとと……な、何?」

「案内が無くて平気なの?

 携帯で撮っていったほうがいい」

 

 ありがたい、と会場の地図をしっかり撮る。

 

「助かります。じゃあまた後で」

「気を付けて」

 

 携帯を確認しながら人混みをかき分けて進む。しばらくすると見覚えのある場所に着いた。

 間違いない、みんなとはぐれた所だ。

 

「二乃さんの情報通りなら……」

 

 少なくとも五月さんは近くにいるはず。なのに姿が見えない。

 あせるな。このまま時間切れになってたまるか。

 

 待てよ、屋台で誰か2人を見た人がいるかも。

 とはいえ手あたり次第に聞く時間は無い。

 

 よく思い出せ。5姉妹は何を買っていた?

 

 四葉さんはチョコバナナ、二乃さんはリンゴ飴、三玖さんは人形焼き。

 まだ見つかっていない残る2人は?

 

『あの店主、一花だけ可愛いって──』

『五月ちゃん。これ食べて元気出して』

 

 分かった、あの店だ!

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

「可愛いっておまけ? ああ、ショートカットの嬢ちゃんだろ。さっき見たぞ」

「ほ、本当に!?」

 

 ベビーカステラそっちのけで店主に詰め寄った。

 

「背が高くてやせた少年を引っ張ってたな。

 うらやましい。おじさんももっと若ければ──」

「何だって、アンタ?」

 

 ドスのきいた声がして、僕や店主のおじさんより強そうな女の人が現れた。

 げっ、とまずそうに店主が縮こまるってことは夫婦かな?

 

 いや、それよりも確認しないと。

 

「店主さん、その少年って制服姿でした?」

「お、おう。あんちゃんと同じだったぞ」

 

 良かった、間違いなく風太郎だ。ひげのおじさんを追い払ったのか。

 だけど五月さんを探しに行ったはずなのに。

 

「あの、実はもう1人探してるんです。おまけした子といっしょにいた女の子なんだけど」

「うーん、悪いが覚えが……」

 

 そんな、ここがダメなら手あたり次第に探すしかない。

 

「ちょっとお待ち」

「……?」

「その子って、赤い浴衣で髪が跳ねてない?」

「ええ、星形の飾りも付けてます」

 

 こめかみの辺りを指さす。すると店主の奥さんが大きく頷いた。

 ぽかんとしている店主に詰め寄っていく。

 

「本当に覚えて無いのかい!?

 おまけした時に表情が暗くなってた子だよ!」

「そ、そう言われてもな……」

 

 売るのに忙しくて注意できなかった自分も悪いが、どうして2人ともおまけしなかったのかと容赦ない。

 あまりの迫力に店主もたじたじだ。

 

「もしかして見かけたんですか?」

「ついさっき、あっちの方に行ったよ。 

 1人で何だか慌ててたね」

「ありがとうございます!」

「坊やの友達かい? 早く見つけておやり」

 

 こっちは心配いらない、と笑った奥さんに頭を下げてダッシュする。

 人混みをよけて、しばらく進むと──見えた。

 

「五月さん!」

 

 声がかすれたけど、何とか聞こえたのか立ち止まってくれた。

 ゆっくり振り返ってきたけど──

 

「えっ」

 

 赤い。目元も鼻も真っ赤だ。

 さっき怒っていた時とは、似ているようで違う。

 

「……どうぞ」

「ぐす……すみません」

 

 バッグから出したハンカチを渡して、そのまま待つことにした。

 さすがに泣き顔は予想外。

 

「ありがとうございます。

 私としたことが……取り乱してしまって」

「合流できて良かった。もう平気?」

「ええ、お陰様で」

 

 ホッと息をつき、花火を見るビルに急ごうとすると「場所が分からない」と目を伏せてしまった。

 二乃さんから聞いたと伝えると、驚いたのか質問攻めで迫ってくる。

 

「ど、どうやって二乃から聞いたのです!? 

 そもそも、なぜ私たちのために──」

「後で話すから。

 急がないと花火が終わってしまう」

 

 聞きたそうだったけど、何とか頷いてくれた。

 よし、と歩きかけた瞬間「待った」がかかる。

 

「あの、宝条君」

「はい」

「さっき上杉君とはぐれたんです。

 また迷うのは嫌で……その……」

 

 何だろう、もじもじしてるけど。

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 さっきから五月さんが静かだ。

 

 歩きながらチラッと横を見ると、うつむきながら僕のバッグのベルトを片手でつかんでいる。

 

「あの……歩くの速い?」

「えっ!? だ、大丈夫です。

 一花が行方不明なのが気がかりで」

 

 風太郎がいっしょにいる、と言うと五月さんは首をかしげた。

 

「どうして、そう断言できるのです?

 上杉君は気づいたらいなくなっていたのに」

「それは──」

 

 屋台での聞きこみで得た情報について話すことにした。

 ただし、ベビーカステラの店で聞いたという点は伏せる。

 

「間違いないよ。

 やせた制服姿の少年といっしょって聞いたから」

「彼がそこまで協力的になるとは思えません」

 

 決して置いて行かれた私怨(しえん)ではない、とキッとした目で五月さんが見てきた。

 バッグをつかむ手の力が強くなったような。

 

「花火を見る場所で風太郎が二乃さんに言ってた。

 俺が一花を探してくる、って」

「う、上杉君が!?」

 

 風太郎が黙っていなくなったことにはガツンと言っていい。

 だけど本気で探している、と力強く伝える。

 

「あなたは変わっています。

 勉強で彼に恩があるのは分かりますが」

 

 参ったな、ばれてるよ。もっとも風太郎とはいつか肩を並べてみせるけど。

 勉強で追いついてこそ恩返し──あれ?

 

「宝条君!」

「な、何?」

「あれって上杉君では……」

 

 指さすほうに目をこらして見ると確かにいた。

 一花さんといっしょ……いや、様子がおかしい。

 

「急ごう!」

「えっ」

 

 知らない男性と言い争っている。

 

 五月さんの手を引っ張りながら人混みを押しのけていく。

 もう少しという所で風太郎の声が聞こえた。

 

「俺はこいつの……こいつらの『パートナー』だ。

 返してもらいたい」

 

 よくぞ言った、と感激したいところだけど男性には意味不明だったらしい。

 一花ちゃんから離れろと手を伸ばしてきた。

 

 ガシッ

 

「な、なんだ君は!? 

 邪魔しないでくれ!」

「風太郎、今のうちに!」

「すまん、助かる!」

 

 口ひげが目立つ男性の手を何とか止めることができた。

 風太郎は一花さん──ではなく髪型を変えた三玖さんをガードしている。

 

 ケガは無さそうで、一安心したのもつかの間。

 

「宝条君……急に……走らないで……ください」

「あ……ごめん、五月さん!」

 

 あわてて手を離したけど息も絶え絶えだ。

 気のせいか、風太郎たちの視線が痛い。

 

「なっ、一花ちゃんが2人!?」

 

 僕のもう片方の手を振りほどいた男性が、三玖さんと五月さんを交互に見ている。

 この人が『ひげのおじさん』か。

 

「違う、よく見てくれ。

 こいつらは一花じゃない」

「な、何を訳の分からないことを。

 どちらかは一花ちゃんのはずだ」

 

 全然聞いてくれないんだけど。

 そもそも、この人は誰?

 

「とにかく、返したまえ。

 うちの大切な『若手女優』を!」

「え?」

 

 おじさん以外の全員の声が重なった。風太郎は動かないし、三玖さんと五月さんは顔を見合わせている。

 女優って……あの女優?

 

「おい、一花! どういうことだ。

 撮影ってカメラマンの助手じゃないのかよ」

 

 風太郎の視線の先にいたのは、本物の一花さん。

 質問を見事に無視して、ひげのおじさんのほうにゆっくりと歩いていく。

 

「ごめんなさい、社長」

「一花ちゃん? これはいったい……」

 

 一花さんの説明のおかげで、何とか話が進んだ。

 でも、社長となると僕も大変な勘違いをしていたというわけで。

 

「その……すみませんでした。

 怪しい人と間違えてしまって」

「いやなに、私こそ悪かったね。

 人違いしたうえに話も聞かないとは」

 

 お互いに頭を下げる僕と社長さんに、風太郎は「何でお前が謝るんだよ」と突っこんできた。

 

「さあ、一花ちゃん。急ごう。

 オーディションに遅れちゃうよ」

「ちょっと待て!」

 

 風太郎もあせったらしい。そりゃそうだ、オーディションなんて聞いてない。

 

「止めないでくれ。人違いの件なら、後日あらためておわびするから」

「その件はいい。姉妹で花火を見る約束が先だ」

 

 芸能プロダクション社長だろうと関係ない、と風太郎が近づく。

 にらみ合う2人もだけど、一花さんを見る三玖さんと五月さんも心配だ。

 

「一花、お前も何か言えよ。

 何のために浴衣を着て宿題を終わらせたんだ」

「一花さん、本当にオーディションに?」

「……フータロー君、トーヤ君。

 二乃と四葉にもよろしくね」

 

 なんで笑って行けるんだ。このまま何もせずに行かせるのは、後味が悪いにもほどがある。

 

「フータロー、トーヤ。一花をお願い」

「三玖さん……」

 

 そうは言っても、と風太郎が時計台を見上げる。あと10分で花火が終わってしまう。

 

「一花ちゃん、駐車場に行こう。

 そうすれば間に合うからね」

 

 少し離れた所から聞き逃せない言葉が耳に入ってきた。

 一花さんが車に乗ってしまったらアウトだ。

 

「風太郎、何とか話す時間だけでも」

「分かってる! だが、どうしろと」

「任せて。僕が頼んでみる」

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

「お願いします、この通りです」

「ダメだ。また逃げられてはかなわない」

 

 追いついて社長さんに必死に頼みこんだけど、このありさまだ。

 この分からず屋、と風太郎が動きそうだったので何とか押しとどめる。

 

 こうなったら最終手段だと両ひざを地面につく。

 

「橙矢、何を──」

「待って!」

 

 全身の動きが止まるくらい一花さんが声を張り上げた。

 土下座しかけた僕から社長さんに視線を向ける。

 

「社長、誓って私はもう逃げないから。

 フータロー君とトーヤ君に何を言われても」

「一花、お前!」

 

 風太郎が何か言いかけたけど、一花さんに見られて急に黙ってしまった。

 社長さんは少し考え込んで、ため息をつく。

 

「しかたない。私が車を取りに行くから。

 一花ちゃんは、あそこの乗り場で待ってて」

「ありがとう、社長」

「ただし!」

 

 急に風太郎と僕に目を向けてきた。品定めするかのように見てくる。

 正直、あまり良い気分じゃない。

 

「君、ちょっとついてきてくれないか」

「えっ……分かりました」

 

 大丈夫か、という表情の風太郎と一花さんに「心配ない」と手を振って後に続いた。

 車に乗るまでは無言だったけど……

 

「君たちは、一花ちゃんの何なんだ?」

 

 駐車場から車を出したとたん、いきなり質問してきた。

 風太郎みたいに『パートナー』と言えたらかっこいいのに。

 

「家庭教師です。僕は補佐役だけど」

「だ、だが一花ちゃんと年はそう変わらないだろ」

「ええ。僕は宝条といいます。

 一花さんと同じ旭高校の2年生です」

 

 疑っているのか沈黙が少し続いた。助手席に座ったから、チラチラと見てくる視線が痛い。

 カーナビの地図を見て、やり過ごそうっと。

 

「まあいい。今はそういうことにしよう。

 正直1秒でも早く会場に着きたいのでね」

 

 ほんのわずかな時間だけでも、と頼んだが社長さんは首を横に振ってきた。

 

「残念だが、彼女の未来がかかっている。

 映画の役を決める重要なものなんだ」

 

 花火を見てオーディションにも間に合う方法は無いのか。必死に考えても名案が浮かばない。

 そうこうしているうちに乗り場が見えてきた。

 

「よし、一花ちゃんも逃げては……なっ!?」

「あっ」

 

 間の抜けた声が出た。風太郎が、一花さんの顔のあたりを両手でがっちりとはさんでいる。

 社長さんにとっては笑い事ではない。

 

「う、うちの有望な若手女優の顔に!

 しかもオーディション前に何てことを!」

「社長さん、落ち着いてください!

 暴力じゃなくて応援だと思うんです」

「もし、演技に響いたら……」

 

 風太郎と僕を一生恨むと社長さんが怖い顔をしながら車を停めた。

 覚悟はできている、とドアを開けて出たとたんクラクションが鳴り響く。

 

「一花ちゃん、早く乗って!」

「……! じゃあね、フータロー君」

 

 一花さんの様子に変なところはない、とすれ違う時に感じた。

 はっきり言って勘だけど。

 

「トーヤ君、その──」

「大丈夫」

 

 両腕を上げて、前後に左右に上下にぶんぶんと動かす。自分でもよく分からない。いつから僕は応援団になったんだ。

 めちゃくちゃであっと言う間だったけど──

 

「ぷっ、あははは」

「緊張が和らいだなら何より」

 

 だんだん顔が熱くなってくるのが分かった。だけど笑われたって別にいい、とも感じる。

 

「ありがとね。

 君のエール、確かに受け取ったよ」

「どういたしまして。

 二乃さんと四葉さんにはうまく言っておくから」

 

 うん、と頷いて一花さんは車に乗り込んで行ってしまった。

 やけに静かだと思ったら、花火が打ち上がっていない。終わったか。

 

「橙矢、何やってるんだ。急ぐぞ」

「そうだね。三玖さんと五月さんの所に──」

「バカ、一花を追うんだよ」

 

 えっ、と驚く僕などお構いなしで風太郎が走り出した。

 あわてて後ろから腕をむんずとつかむ。

 

「何だよ、このまま戻る訳にはいかねえだろ」

「オーディション会場の場所、知ってるの?」

「あっ……」

 

 この様子だと知らないみたい。

 だけど、心配ご無用だ。

 

「大丈夫。場所なら知ってるから。

 地図書くから少し待ってて」

「どうしてお前が知ってるんだ?」

「社長さんの車でカーナビを見たのさ」

 

 鉛筆はあるけど紙が無いな。生徒手帳のメモ欄を使うか。

 破るのも嫌だし手帳ごと渡そう。

 

「任せたよ。手帳は無くさないでね」

「ああ……って、お前は行かないのか?」

「そうしたいのは、やまやまだけど。

 僕は戻るよ。みんなに説明して怒られてくる」

 

 特に二乃さんと四葉さんは何も知らずに花火を見るビルにいるんだ。

 事情を説明するのは早いほうがいい。

 

「分かった。俺と一花が戻るまで頼むぞ」

「うん、待ってるよ」

 

 手帳を受け取ると風太郎は車が去った方にダッシュしていった。僕も戻ろう、と歩きかけた時に足が止まる。

 

「あ、手帳に入れたまま……まあいいか」

 

 二乃さんに電話帳を見せた時といい、うっかりが多すぎる。

 だからテストでも満点が遠いんだよなあ。

 

 頭を振りながら再び歩き出した。この後、まさかの出迎えと提案がされるとは知らずに……




 思ったより長くなったので、花火大会編の完結は次回になります。

 果たして「まさかの出迎えと提案」とは……?

 気づけば初投稿から1年が過ぎていました。投稿ペースが遅くて特別企画も無くて申し訳ありません。
 今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
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