五等分の花嫁~盟友と僕は背中合わせ~   作:ケンドラ

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お久しぶりです。投稿が遅くなって大変申し訳ありません。
今回で花火大会編は完結となります。


第014話 意外な反応と選んだ花火

「どうしてトーヤを怒らないといけないの?」

「……えっ?」

 

 聞き間違えたんだ。周りは花火大会が終わって興奮したような人たちでにぎわっているし。

 一花さんがいないことに怒って当然なのに。

 

「五月、悪いけど手を貸して」

「足は大丈夫ですか?

 無理してはいけませんよ」

 

 座って話を聞いていた三玖さんがゆっくりと立ち上がると、じっとこっちを見てきた。

 こんな状況じゃなかったら、ひょっとこのお面に口元が緩んだだろう。

  

「話を聞いて安心した。

 花火のことだけど心配はいらない」

「だけど、大会はもう──」

 

 完全に終わってしまった、と夜空を見上げた時だった。

 バタバタと足音がして元気な声が周囲に響く。

 

「宝条さん、一花が女優って本当ですか!?」

 

 あれ、何で四葉さんが? らいはちゃんと手をつないでいるけど。

 もしかして三玖さんたちに呼ばれて花火を見るビルからここに来たのか。

 

「う、うん。間違いないよ。

 オーディションの会場には風太郎が──」

「ちょっと、どうしてくれんのよ!」

 

 周りの花火客がこっちを見るくらいの大声で、5姉妹の最後の1人が足音を荒げて近づいてくる。

 当然の反応だ。色々言われるだろうが、風太郎たちに向く怒りを少しでも減らさないと。

 

「言い訳はしない。

 一花さんを連れ戻せなくて本当にご──」

「そっちじゃない!

 あんたのせいで、このザマなんですけど!」

 

 二乃さんが急に自分の顔を指さしたから、一瞬訳が分からなかった。

 だけどよく見ると目の周りにメガネのような線が……あっ。

 

「も、もしかして」

「返すわよっ! 

 まったく、あんたって意味分かんない!」

 

 双眼鏡を押し付けると、腕組みして横を向いてしまった。

 治療費を出す、と言おうとしたまさにその時。

 

「落ち着いてください、二乃」

「同感。トーヤだけのせいじゃない」

「二乃だって屋上で必死に探して……むぐっ!?」

 

 最後に四葉さんが言い終わる前に、素早く手で口をふさがれてしまった。

 

「二乃さん、お願い。

 お兄ちゃんと橙矢さんを怒らないで」

「うっ」

 

 らいはちゃんの言葉に、二乃さんが急に大人しくなって手を離す。

 無言の状態が続いたが、息が整って復活した四葉さんが口を開いた。

 

「大丈夫ですよ、宝条さん。

 私に良い考えがありますから!」

 

 い、いったい何だ?

 らいはちゃんと顔を見合わせて笑ってるけど。

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 歩いているうちに花火大会のにぎわいが小さくなっていく。何が何だかさっぱりだけど、今は2人について行くしかない。

 それよりも気になるのが……

 

「五月、そいつと何話してんのよ!?」

「一花のことを聞いているだけです。

 決して他意はありません」

 

 この状況だ。何となく気まずくて1人で少し遅れて歩いていたが、いつの間にか五月さんがすぐ近くにいた。

 確かに最初は姉のことで質問してきたけど。

 

「何も、あなたが謝ることは無いと思いますよ。

 もちろん一花や上杉君を責める気も皆無です」

 

 思っていた反応と違う、とぽかんとする僕に笑顔を向けている。

 分からない。二乃さんでさえ双眼鏡の件しか責めてこなかった。

 

「でも花火はお母さんとの思い出だって」

「……! どうしてそれを?」

「三玖さんが風太郎に教えてた」

 

 そんなことまで話していたなんてと五月さんがつぶやいた。

 少しの間無言で歩いていたけど、ポツリとした声が沈黙を破る。

 

「そういえば言ってましたよね」

「何を?」

「私たちを探すのに協力した理由を後で話すと」

「あっ」

 

 まずい、母親との思い出という言葉に心を動かされたと簡単には言えない。

 親友の個人情報にかかわるし他の理由を……

 

 プルルルル!

 

 び、びっくりした。風太郎から電話かな? ちらっと質問者を見ると「私に構わず、どうぞ」と言ってくれたので礼を言って通話ボタンを押す。

 

「もしもし」

『中野だ。さっきの連絡は何事だい?』

 

 げっ、と息が止まった。

 

 そう言えば、屋上にいた時に姉妹の連絡先を聞こうとして電話したんだった。

 やばい! ここで「娘さんたちの電話番号を知りたくて」なんて伝えたら話がややこしくなる。

 

 ピンチと思った瞬間、五月さんが視界に入った。

 

「き、給料……ありがとうございました!」

『それを言うためだけに、わざわざ電話を?』

「そうです」

 

 電話の向こうで雇い主が静かになった。無理があったかな? 完全にでたらめな理由という訳じゃないんだけど。

 

『当然のことをしたまでだ。

 悪いが、今後は緊急以外で連絡はしないでくれ』

「はっ、はい」

『物分かりが良くて結構。

 では仕事が忙しいので失礼する』

 

 電話を切ると、五月さんが「まさか」とつぶやくのが聞こえた。

 暗くて表情はよく見えないけどびっくりしているのは何となく分かる。

 

「これが協力した理由です。

 僕は5人分の給料とそれに……」

「それに?」

「追加分のお金ももらったから。

 中野さんに伝えたのは、五月さんだったんだ」

 

 何も言ってこないけど確信はある。家庭教師の日以外で勉強を教えたのは、図書館や学校で五月さんといた時だけだ。他に心当たりはない。

 

「……気付いていたのですね」

「だけど伝えた理由までは、分からなくて」

 

 遊び気分で五月さんと勉強した訳じゃない。でも、追加分の給料を受け取るに値するかとなると答えはノーだ。

 テストの点が上がったとか目に見える結果が出たならともかく。

 

「宝条君も思っているのですね?

 家庭教師の仕事で私たちに何もしていないと」

「思うも何も、そうとしか。

 中野さんが様子を見ていたら給料ゼロかと」

 

 あの感情の無さそうな声で「何をやっているのかね」と言われてもおかしくない。

 

「同じことを上杉君からも言われました。

 でも、この半月だけでも色々あったでしょう?」

「僕は……怒ったりマンションを飛び出したり……」

「そうですね。

 連れ去りや写真の件も忘れてはいません」

「うっ」

 

 あれ、色々やらかしてる。5つ子裁判待ったなしじゃないか。

 

「とはいえ、あなたは──」

 

 五月さんが突然黙ってしまった。何だか急に落ち着きが無くなった感じに見えるけど。

 

「僕が何か?」

「な、何でもありません! 秘密ですっ!」

 

 えっと驚くひまもなく、みんなの所にバタバタと行ってしまった。

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

「四葉さん、バケツここに置いとくから」

「ありがとうございます!

 こっちも準備はばっちりです」

 

 公園に着いた時には何をするのかと思ったけど、こういうことだったのか。

 らいはちゃんにプレゼントされていた花火セットの存在を忘れてた。

 

「どうします?

 一花と上杉君がまだですが」

「五月、それなら大丈夫だよっ。

 私とらいはちゃんが電話したから」

 

 ほっ、風太郎たちにも話が伝わっていたんだ。

 四葉さんいわく、もうすぐここに来るらしい。

 

(オーディション、うまくいったかな)

 

 変だな、まるで自分の合格発表を気にしているみたいじゃないか。

 ぼんやりと考えていると声が割り込んできた。

 

「宝条、聞いてんの!?」

「……え?」

「何よ、ボーッとして。

 眠たいなら妹ちゃんの見張りついでに寝たら?」

 

 むしろ寝てくれたほうが姉妹でたくさん花火ができる、と思っていそうな笑みを浮かべている。

 らいはちゃんはというと、近くのベンチで横になっているのが見えた。

 

「何年ぶりかの花火だから、やりたい」

「あんた、何を言って──」

「好きなだけやっちゃってください、宝条さん!」

「感謝します」

「四葉……ああもう!

 調子に乗ってたくさんやらないでよね」

 

 心の中でガッツポーズをしながら花火を一本手に取る。

 こうして点火してみると、まるで魔法の杖を持った気分だ。

 

「あっ、一花に上杉さん!」

 

 良かった、これで全員集合だ。ちょうど手持ちの花火が消えたので、急ぎ足で駆け寄る。

 見た感じは、そこまで暗い表情じゃない。

 

「2人とも、お疲れ」

「ああ。これサンキューな」

 

 そういえば、生徒手帳に地図を書いて渡してた。

 なぜか風太郎がじっと見てくる気がするけど。

 

「こっちも大丈夫。できる限り説明はしたから」

「そうか。一花、良かったな」

「ありがと、トーヤ君」

 

 いいってこと、と返したけど妹たちが気になるのか心配そうだ。

 

「一花、待ってたよ! 早く早く!」

「四葉」

 

 ぐいぐいと一花さんが引っ張られていく。それを見た風太郎が「俺たちも行くか」と小声で言ってきたので後に続いた。

 ゆっくり歩いて花火の場所に戻ると──

 

「みんな……本当にごめん。

 私の勝手でこんなことになっちゃって」

「まったくよ」

 

 まさかの反応に驚く僕を、風太郎が「おい!?」とあせったような顔で見てきた。

 このままお叱りが続くなら黙ってはいない。

 

「あんたにも事情があったんだろうけど。

 何も言わないなんてあんまりじゃない」

「二乃……」

「せっかく貸し切りで場所を確保したのに。

 はっきり言わせてもらうけど──」

 

 さすがにまずい空気と考えたのか、二乃さん以外の全員が一花さんに寄り添うように近づく。

 

「今回の原因の一端はあんたにあるわ。

 だけど私にだって非はあんのよ」

「え?」

「上杉に言われたのはむかつくけど。

 花火を見る場所を伝えなかった私も悪い」

 

 びっくりしたように黙る姉に対して二乃さんはぷいっと視線を反らした。

 ピリピリした空気じゃなくなったからか、他の姉妹も声をかける。

 

「一花、私もその……迷子になったので。今回ばかりは自分の方向音痴に嫌気が差しました」

「私も失敗ばかり。足を痛めて迷惑かけちゃった」

「よく分からないけど私も悪いよ。そもそも屋台につられて最初にはぐれちゃったし」

 

 どうやら心配することは無さそう、と風太郎に目配せした。

 もっともそう安心できた時間はほんの少しだけだったけど。

 

「さて、次は……」

「な、何だよ。二乃」

 

 嫌な予感。賭けてもいいけど、良くやったとは言わない気がする。

 

「まずは上杉!

 三玖と五月を置いて行ったそうじゃない」

「そ、それは……悪い」

「宝条、あんたは四葉と長く居すぎよっ!」

「ごめん、二乃さん」

 

 容赦ない言葉に風太郎もたじたじだ。

 八つ当たりかと思ったけど痛い所を突いてくる。

 

「ふん、言いたいことはまだあるわよ」

「今度は何だよ」

 

 身構える風太郎と僕に二乃さんが近づいてきた。

 まさか、一発かましてくる気なんじゃ──

 

「……お」

「ん?」

「お! つ! か! れ!」

 

 何を言われたか分かるのに少し時間がかかった。

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

「良かった。うまくいったんだ」

「あの社長が一花をほめていたからな」

 

 少し離れた所から5人のにぎやかな声と花火の音が聞こえる。

 風太郎と僕は互いに何があったかを話し中だ。

 

「それにしても、お前……」

「ん?」

「俺が口先だけじゃないと信じたのはいい。

 だが、二乃に宝物を渡したのは無茶だろ」

 

 そんなに双眼鏡を預けたのが意外なのか。

 

「強気に言われて、つい」

「もし俺があいつらを探さなかったらどうする気だったんだ」

「全然考えなかったよ、そんなこと」

「理由は?」

「給料、宿題をがんばった5人、母親との思い出」

 

 もっと説明しろ、と迫ってくるかと思ったけど意外にも風太郎は無言で頭をかいただけだった。

 

「……らいはを置いて帰れなかったんだ」

「今、僕が言った理由は?」

「さあな」

 

 ごまかすようにあくびをしてきた。まあ無理に聞くつもりはないけど。

 僕の考えが間違っていることを論理的に言わないということは、そういうことだ。

 

「それより聞いたか? 橙矢」

「ごめん、何を?」

「あいつら、5人で幸福も不幸も分かち合うとよ」

 

 聞き逃したけど、五月さんが姉妹に言っていたらしい。

 失敗を5人で乗り超えて喜怒哀楽を共有すると。

 

「名言じゃん」

「花火がしょぼいが、そうだな」

 

 一言多いって、と注意しながら花火を眺める。不思議な事に風太郎は「勉強したいから帰る」とも言わずに黙って長いこと座り続けていた。

 話すなら、今だと深呼吸をする。

 

「あのさ、風太郎。家庭教師と補佐役として最初の月が終わったけど」

「…………」

「来月は中間テストもあるし気合入れるよ。

 まだまだ風太郎に遠く及ばないけど」

「…………」

「髪も切ってもらったし。

 臆病な僕だけど、これからも──」

 

 バッと風太郎のほうを見る。だけど……

 

(ねっ、寝てるし。大切な話だったのに)

 

 しかもバッチリ目を開けて鼻ちょうちん。こんな寝顔初めて見たよ。

 顔の前で手をひらひらしても全く反応しない。

 

「うーえすーぎさーん!

 ほーじょーさーん!」

「……!?」

 

 ビクッとしたけど、近づいてきたのはうさ耳リボン──四葉さんだった。

 慌てて「しっ!」と口の前で人差し指を立てる。

 

「上杉さん、寝ちゃったんですか?」

「うん、今日1日色々あったから。

 そっちは花火が終わったの?」

「あっ、それなんですけど。

 ちょっと来てくれませんか」

 

 別々のベンチで寝ている2人が気になったけど、四葉さんがらいはちゃんを抱きかかえて風太郎に寄りかからせた。

 ニコッとしたので「ありがと」とつぶやく。

 

「いえいえ。じゃあ急ぎましょう」

 

 何事かと四葉さんの後に続く。しばらく歩くと、輪になってしゃがんだ姉妹が地面を見ていた。

 

「トーヤ、フータローは?」

「寝ちゃった。さっきまで起きてたんだけど」

「そう……」

「あんたも寝ていれば良かったのに。

 まあいいわ。これで人数的にはOKね」

 

 地面には6本の花火。

 今ここにいるのも6人。つまり……

 

「言っとくけど、宝条。

 選ぶ順番はあんたが最後よ」

「それはもちろん。

 先に選ばせろ、なんて言わないから」

「ふん、分かってるじゃない」

 

 さあ、残り物になるのはどれかなときょろきょろしていると「待った」がかかった。

 

「はいはい、はーい!

 じゃあ、全員『せーの』で選ぼうよ!」

「は? 宝条も含めるの?」

「異議なし。一花と五月は?」

「いいよー」

「私も構いません」

 

 もし選んだ花火が私と被ったら、と二乃さんがカッと目を見開いてきた。

 こっわ。だけど自由に選ばせてもらうよ。こういうのは深く考えないほうが良いな。

 

「みんな、決まったー?

 じゃあいくよ。せーの」

 

 バッと6本のうちの1本に指を乗せた。

 どうだ、僕と同じ花火を選んだ人は……あっ。

 

「ややっ! 宝条さんもこれですか」

 

 うーん、残念。四葉さんと被ってしまったか。

 ここは引こう、とすぐに手を放す。

 

「どうぞどうぞ。私は別の花火にしますから」

 

 一瞬、じゃあお言葉に甘えてと受け取りかけた。

 だけど違う。この花火を手にするべきなのは──

 

「いや、僕はいいです。

 四葉さんのおかげで花火ができたから」

「えっ、でも……」

「いいから。チョコバナナを台無しにしたし」

 

 スッと花火を差し出すと手に取ってくれた。

 さて、余った花火はっと。ああ、あったあった。

 

「トーヤ? どこ行くの?」

「ちょっと席を外します」

 

 姉妹で花火を楽しんで、と手を振りながら風太郎たちの所に向かう。

 相も変わらず目を開けて寝ている兄と、すやすやと寝息をたてている妹がいた。

 

 きょうだいっていいな、と思いながら風太郎の手に花火をにぎらせる。

 

「……仕事仲間として、今後ともよろしく」

 

 さっき言いかけたセリフを口にすると不思議とすっきり。

 花火が終わったら兄妹を家に送る手を考えなきゃ、と5つ子のほうに戻っていった。




 次回からは「中間試験編」となります。

 花火大会の翌日、朝に橙矢がばったり会った人物は? そして学校で急にモテモテになった5姉妹に家庭教師コンビはどう動くのか?
 さらに第10話で橙矢がやらかしたことが、まさかの展開! 5つ子のメールアドレスを入手できなければ大変なことに……

 今年1年、作品を読んでくださった方、感想やメッセージ送信をしてくださった方、評価をしてくださった方、本当にありがとうございました。
 来年も、どうぞよろしくお願いいたします。
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