五等分の花嫁~盟友と僕は背中合わせ~   作:ケンドラ

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第3章 中間試験
第015話 手ごわくてモテモテの5姉妹(前編)


「ふわああ……ねむ」

 

 10月になったからか少しひんやりとした朝だ。昨夜の熱気がウソみたいだよ。

 

 それにしても、冬用の制服ではなくジャージ姿で家を飛び出すはめになるなんて。

 色々あったとはいえ、自転車を花火大会の会場に置き忘れるとか。

 

(二度寝してたら危なかったな)

 

 登校する時間までかなりあるし、すぐ家に帰るのももったいない。

 そう考えてブラブラしているうちに、川沿いの土手に来ていた。

 

「体操でもするか」

 

 こうでもしないとあくびが止まらない。

 昨夜は帰ってすぐに寝たのに──

 

「やっ! 早起きとは感心だねー」

「おはよ……えっ!?」

 

 危うく土手を転がり落ちそうになったのは急に声をかけられたからじゃない。

 リボンがあったら「四葉さん、部活の朝練?」と聞いただろうけど。

 

「おっはー。ジョギング中の一花お姉さんだよ。

 むふふ、目はばっちり覚めたかな?」

「……ありがと。おかげでこの通り。

 目覚まし時計や体操より効いたよ」

「おっ? おおお!?」

 

 僕と同じく学校のジャージ姿の一花さんが目を見開いてまじまじと顔をのぞきこんでくる。

 もしかして覚めてなんかいないと否定してくると思っていたのかな。

 

 バシッ!

 

「あいたっ!」

「いいねえ、その言葉遣いを待ってたよ」

 

 ジンジンと痛む背中ではなく、思わず口元に手を当てた。

 しまった。つい花火大会の時の口調で……

 

「おっと、言い直す必要は無いからね。

 前の話し方も悪くないけど、今の方が断然いい」

「…………」

「難しく考えなくても普通にできるって。

 五月ちゃんに『対等』って言ったキミなら」

 

 説得力あるなあ。女優の圧倒的なオーラと言われればそれまでだけど。

 自分でもびっくりだ。上杉兄妹以外には敬語で話すのが当たり前だったのに。

 

「よし、せっかく会ったんだしさ。

 いっしょに散歩しない?」

「もちろん。色々話したいことがありま──」

「むむ?」

「──あ、あるから」

「うんうん、その調子!」

 

 たまには早起きするのも良いね、と笑いながら一花さんはメガネを取り出してスッとかけた。

 どうやら変装用の道具を持っているのは僕だけじゃないみたい。

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

「いやー、やっぱり見られてたんだねえ。

 フータロー君に顔パッチンされてたとこ」

 

 昨夜に何があったのかを互いに話し終えると、一花さんが両手でほっぺたに手を当てながらおもしろそうに言ってきた。

 社長さんに車の中で「大丈夫だったか」と何度も聞かれたらしい。

 

「なになにー? もしかして気になる?」

「まさか。暴力じゃなくて激励だと思っただけ」

「あはは! 社長にもそう言ってくれたらしいね」

 

 お姉さんもそう思う、と頷いてくれたので心の中でホッと息を吐く。

 これで心配事が1つ消えたな。ああ、良かった。

 

「ふふふ」

「ん? 何か?」

「いや……キミの『激励』を思い出すと……笑いが」

「!?」

 

 応援団みたいな手振りのことか、と慌てる僕の心を読んだかのように目の前で再現してきた。

 ぎこちなさも含めて正確な動きを。すごい記憶力って感心してる場合じゃない。

 

「何も今ここでしなくても」

「わっ、真っ赤っか! ごめんね。

 だけどおかげで昨日は緊張が和らいだんだよ」

 

 なら良いんだけど、と頭に手をやった。

 あの時は万策尽きてエールを送るしかなかったんだよな。

 

「仕事でも花火大会でも役立たず、って思ってた。

 そう言われると気持ちが楽になりま……なるよ」

「ふーん、役立たずねえ。

 てことは宿題の答えも分からなかった?」

 

 だとしたら残念だなー、と僕がどう出るか試すような笑顔に火が点いた。

 ようし、玉砕覚悟でやってやろうじゃないか。

 

「5人分の給料を渡してくれた理由は……」

「うんうん」

「ずばり、この1カ月で良い変化があった。

 僕の言葉遣いが変わったみたいに」

 

 一花さんが立ち止まった。見当違いな答えを口にしてしまったのかと自転車を押す手に力が入る。

 せ、正解なのかな。それとも──

 

「お見事っ!」

 

 さっきとは違う満面の笑みで拍手をしてきた。合っていたんだと安心したとたん、その場にガクリとひざをつきそうになるのを何とかこらえる。

 

「やるね! さすがトーヤ君」

「僕だけじゃ解けなかったよ」

 

 五月さんが昨夜言ってくれたことが大きいし、今思うと一花さんもヒントをにおわせていた。

 そもそも、花火大会に行かずに家で考えていたら絶対に答えは出せていないと打ち明ける。

 

「だからって、へこみはしないから。

 今月は先月以上にがんばるよ」

「よし、合格!」

 

 へっ? なんだ?

 

 一瞬、オーディションに受かったことを言ってるのかと思ったけど1日で結果が出るわけない。

 じゃあ一体なんのことを言っているのか。

 

「学校でも勉強会やるんだよね。

 仕事の日以外なら空いてるから」

「え……え?」

「いやあ、お姉さんびっくりしちゃったよ。

 ここまで真剣に宿題を考えてくれるとはね」

 

 実は一花さんに試されていたらしい。

 

 僕が「家庭教師に宿題なんて生意気」とか「すぐに答えを教えろ」とか言ってこないか確かめようとしてたとか。

 急なネタ晴らしにぽかんとするしかなかった。

 

「追加分の給料も五月ちゃんだと見抜いたし。

 何より正直に話してくれたのはえらい」

「あ、ありがと」

 

 頭にかぶったヘルメットをポンポンとたたいてくる一花さんを見ながら思った。

 風太郎と僕はとんでもなく手ごわい人たちと会ったんじゃないかと。

 

「よーし、がんばったキミに努力賞だ」

「僕は給料で十分……」

「まあそう言わないで。はいこれ」

 

 スッと差し出されたのは全く予想すらしていない物だった。

 

「ありがたいけど、携帯電話なら持ってるよ」

「もー、違う違う。メアド交換だよっ」

 

 連絡先か。不思議だな、以前の自分だったら警戒して身構えていたのに。

 

「僕からもお願い」

「そうこなくっちゃ! 

 うん、ちゃんと登録されて……あれっ?」

 

 僕の携帯画面をのぞきこんでいた一花さんが驚いたような声を出した。

 別におかしなところは無いはず。

 

「五月ちゃんの連絡先が無いよ」

「まだ交換してない」

「ええーっ!?」

 

 あまりの絶叫に携帯電話を手から落としそうになった。

 何の冗談だ、と言いそうな表情で自称お姉さんが携帯電話と僕を交互に見てくる。

 

「待って、ウソでしょ?

 なら昨日どうやって五月ちゃんを見つけたの?」

 

 本人には言わないでという約束で話すことにした。二乃さんや三玖さん、例の店主さんたちが教えてくれたおかげだと。

 納得はしてくれたけど、これはよろしくないとつぶやいてきた。

 

「トーヤ君、今日って勉強会ある?」

「うん、放課後に。

 風太郎にも確認してみるといいよ」

「ありがと、そうするね。

 今日もいっしょに登校するんでしょ」

「えーっと……」

 

 病院に行くから学校に行くのは午後からになる、と答えるとまたびっくりされた。

 うつる病気じゃないし重症でもないと説明する。

 

「お大事にね」

「うん。一花さんも女優の仕事がんばって」

「おっ、うれしいねー。じゃあ放課後に」

 

 分かれ道で「またねー」と手を振りながら一花さんは離れていった。

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

「宝条君、今お時間よろしいですか?」

 

 午後の授業が終わって教室で「う~ん」と体を伸ばしていた時だった。

 解けない問題でもあったのか、五月さんが話しかけてきたのは。

 

「うん、大丈夫」

「ありがとうございます。実は……」

 

 後の言葉は聞こえなかった。教室のドアがガラッと開いて──

 

「なあ、お前も来いよ。

 一花も三玖も四葉もいるんだぞ」

「いつまでついてくんのよ。

 用事があるって言ってるでしょ」

 

 風太郎と二乃さんが入ってきたと思うとピタッと会話が止まった。

 前者は「おっ、橙矢も五月を説得か」と顔が輝いたけど後者は違う。

 

「五月、何してんの。早く行くわよ」

「そ、そうですね」

「待て、お前ら。用事って何だ?」

「あんたたちには関係ないわよっ!」

 

 問答無用という感じで妹を引っ張りながら二乃さんが出て行った。

 僕としては、五月さんが言いかけたことのほうが気になる。

 

「風太郎、追いかけようか」

「いや……時間が惜しい。

 最優先なのは勉強会だ」

 

 図書室に急ぐぞ、と勢いよく教室を飛び出した風太郎の後に続く。

 勉強会に参加する3人の復習ノートを歩きながらかばんから探していると──

 

「あいつ、何やってんだ?」

 

 急に立ち止まった風太郎の肩越しに見ると、少し離れた所に四葉さんがいた。

 知らない男子生徒と何か話している。

 

「お話って何ですか?」

「中野さん、もし良ければ俺と……」

 

 立ち聞きはまずい、と何となく感じてその場を離れようとした。

 ところがもう1人の家庭教師は違う考えだったらしい。

 

「橙矢、悪いが先に図書室に行け。

 何なら一花と三玖を先に教えてろ」

「う、うん」

 

 勉強会行きを邪魔するヤツは許さん、という様子で風太郎が突進していった。

 急に冷静じゃなくなったみたいだけど……気のせいかな。

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 1人で図書室に向かっていたけど、ふと足が止まった。

 

『たとえ勉強を教えるためだとしてもです。

 周りに誤解される迫り方は感心しません』

 

 料理勝負でマンションを飛び出した後、公園で五月さんに言われたことだ。

 今後は注意すると約束したのも覚えている。

 

(引き返そうか)

 

 いや、ここで戻るのは親友を疑い逆らうことと同じだ。

 勉強会がある、と男子生徒に説明してきっと四葉さんを連れてくる。

 

 もう迷わない、と復習ノートを持って勢いよく角を曲がろうとした──

 

「え!?」

「……っ!?」

 

 目の前に何か現れたと思った瞬間、ドンとぶつかってしまった。

 何とか尻もちだけで済んだけど「まずい」と慌てて相手を見る。

 

「……トーヤ」

「み、三玖さん?」

 

 息が上がっていて様子がおかしい。風太郎と戦国武将しりとりをしていた時と同じだ。

 とはいえ謝るのが先だ、と謝罪の言葉をかける。

 

「ハァ、ハァ……私は大丈夫。

 それより助けて……追われてる」

「!?」

 

 訳が分からないけど、この必死そうな表情はただ事じゃない。

 耳をすませると足音や声が近づいてくる。

 

 でも隠れそうな空き教室もスペースもないぞ。逃げようにも三玖さんは足を痛めているし。

 こ、こうなったらやるしかない。

 

「これを被って顔を隠して!」

「わ、分かった」

 

 制服の上着を脱ぎだした時にはギョッとした様子だったけど、受け取ってくれた。

 風太郎ほど高くないけど、僕の背丈でも壁にはなるはず。

 

「あ、あれ? 中野さんは……」

「何やってんだよ。怖がってたぞ」

「お前こそ、しつこくお願いしてただろ」

 

 復習ノートを見るフリをしている僕に目もくれず、数人の男子生徒が現れて口論を始めた。

 早く行ってくれ、と念を送る。何しろ後ろに三玖さんが隠れているから。

 

「仕方ないな、今日はあきらめよう」

「俺は昇降口で待つぜ」

「マジかよ」

 

 よし、狙い通り。誰も「後ろにいる人は?」と聞くことなく通り過ぎていく。

 周りの安全を確認して、制服を被って縮こまっている三玖さんに声をかけた。

 

「もう大丈夫」

「……助かった」

 

 いったい何事だろう、と返された制服を着直す。四葉さんも声をかけられていたし。

 まさか他の3人も……?

 

「気づかれると思ってた。

 よくバレなかったね」

「話しかけられないって分かってたから」

「えっ」

 

 ハッと気づいたけど遅かった。あわてて「図書室に避難しよう」とごまかす。

 頷いてくれたけど、目的地につくまで無言でじーっと見てきた。

 

「え、えーと。もう皆いるんじゃないかな」

 

 ガラッと戸を開けたけど、誰も来ていなかった。風太郎も一花さんも四葉さんも。

 先に勉強を始めようと声をかけて、近くの机に向かい合って座る。

 

(三玖さんと勉強するのは初めてだな)

 

 どの教科にしようかと復習ノートを見ていると、驚いたことに早速話しかけてきた。

 

「トーヤ」

「何?」

 

 宿題か、それとも授業で分からないことかと目線を向ける。

 どんな質問かと待っていると、スッと復習ノートを指さしてきた。

 

「そのトランプのカードは?」

「ああ、これ? 目印」

 

 ノートの色が同じだから、と5冊全てを目の前に並べた。

 別に深い意味は無いし隠すことでもないだろう。

 

「私は……クラブ」

 

 一花さんのジョーカー、二乃さんのスペードと順番に眺めていた三玖さんがポツリとつぶやく。

 まさか葉っぱが苦手なのかと思っていると──

 

「ダイヤじゃないんだ」

 

 なぜか、ぷく顔でこっちを見てきた。ダイヤに思い入れがあるって感じだけど。

 よく考えろ。ダイヤ──ひし形──はっ!

 

「武田信玄っ!」

 

 思わず立ち上がった。周囲から「うるさい」という冷たい視線を向けられたけど。

 例外は目の前にいる戦国武将好きの人だった。

 

「当たり。武田菱」

「確かにぴったりだ」

 

 とはいえ、絵柄を決めたのは三玖さんが武将好きだと分かる前だった。

 クラブには『知識』の意味があるし、『三』つ葉だったからと伝える。

 

「そういう理由なら納得」

 

 おもしろそうにほほ笑んできたので、良かったと一安心。

 いやあ、心の広い人で本当に──

 

「えっ?」

 

 ゴシゴシと目をこする。何だ? 三玖さんが一瞬『あの人』に見えた気が。

 疲れてるのかな。ここ数日いろいろあったし。

 

「大丈夫?」

「平気。じゃあさっそく始め──」

 

 そう言いかけた時、ドアが開いてお待ちかねの人たちが入ってきた。

 1人は笑顔、1人は紙の束持ち、そして最後の1人はイライラしている。

 

「フータロー君ってば、ヤキモチ?

 お姉さんは女の子と組んだから安心して」

「上杉さん、すぐ終わりますから!」

「まったく、お前らは……」

 

 何事だと驚く僕に風太郎が近づくと、ドサッと正方形の紙の束を目の前の机に置いた。

 四葉さんが持っていたけど、これはまさか。

 

「わっ、折り紙。なつかしいなあ。

 もしかして勉強の教材?」

「そうだったら良かったんだがな。

 橙矢、千羽鶴折るの手伝ってくれ」

「いいよ」

 

 復習ノートをかばんに入れて、場所を確保する。

 それにしても風太郎が折り紙に目覚めたとはおっどろき。

 

「言っとくが遊びたい訳じゃないぞ」

「上杉さん、宝条さん、助かります!

 友達の友達が入院したので贈りたいんです」

「他人だろ、それ。

 さっさと終わらせて勉強するからな」

「もー、フータロー君ってば。

 メアド交換の件も忘れちゃだめだよ」

 

 なぜか三玖さん、そして僕に謎の笑顔を向けてくる一花さん。

 朝も思ったけど、やけに連絡先に関心を持っているような。

 

「そうですよ、上杉さん。

 私も交換は大賛成ですから」

「四葉、頼むから手を動かせ」

 

 まずいな、風太郎のイライラが伝わってくる。折るスピードを上げて機嫌を直してもらうしかない。

 まあ3人で折ればギリギリ何とかなるはず。

 

「おう、中野。ここにいたか」

「何ですか、先生」

「すまん。君たちも中野だったな。

 四葉、このノートを皆の机に頼む」

「はーい」

 

 ピタッと手が止まって、おそるおそる家庭教師に目を向ける。

 思った通り、怒りのオーラを放っていた。

 

「ふん、そもそもだな。

 連絡先なんて俺じゃなく橙矢と──」

 

 プルルル!

 

 風太郎が会話を中断し、携帯電話に視線を向けた。らいはちゃんからのメールってとこかな。

 ならいいかと折り紙を再開した……が。

 

「みんなのメアド知りたいなー」

 

 ビリッと折り紙が破れた。聞き間違いかと思ったけど、中野姉妹の声ではない。

 何があったと風太郎を見ても、携帯電話をいじる一花さんに変な笑顔を向けている。

 

 洗脳でもされたのか、と混乱していると──

 

 プルルル!

 

 今度は僕の携帯電話に着信あり。頭を落ち着かせようと画面を見たけど、メールの内容に背中が凍り付いた。

 送信者はすぐ近くにいる一花さん。そして問題なのは題名。

 

〈昨日の筋トレ写真だよー♡〉

 

 まさか、と画面を操作する指が急に震え出した。

 四葉さんが折り鶴ではしゃいでいるけど、それどころじゃない。

 

〈他の4人のメアドをゲットしてね。

 ただし敬語と頭下げはダメだぞ〉

 

 本文の下に付けられた写真の人物は間違いない。

 ダンベルを片手に、汗で透け透けのTシャツ・短パン姿の……僕だった。




 お久しぶりです。今回で5人中3人のトランプの絵柄が判明。残る2人の絵柄は……?

 果たして風太郎と橙矢の家庭教師コンビは、無事に連絡先をゲットして自称お姉さんの企みを阻止できるのか。
 そして姉妹が急に人気になった理由とは……後編に続きます!
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