五等分の花嫁~盟友と僕は背中合わせ~   作:ケンドラ

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第016話 手ごわくてモテモテの5姉妹(後編)

(一花さん、いつの間に……)

 

 放課後の図書室で携帯電話を見ながら震えることになるとは。

 いくら目をこすっても、送られてきたのは筋トレを終えて汗びっしょりの僕がいる写真。

 

 悪い意味で、からかいレベルを上げてきた。

 だけどこうなったら──

 

「三玖さん、四葉さん。

 連絡先を教え合おう」

「もちろんですよ!

 断る理由なんてありません」

 

 動くしかない。断ればあの写真を他の姉妹に……いや、一花さんの友達や雇い主にまで広められてしまう。

 それだけは家庭教師の補佐役として絶対阻止だ。

 

「トーヤ君、緊張してる?」

「そ、そんなことないよ」

 

 ここが図書室じゃなくて三玖さんと四葉さんがいなかったら、はっきり問い詰めていた。

 ぐぬぬ……とはいえ、こうなった原因は僕だ。

 

「はい、トーヤも」

「え?」

 

 おもしろがっている一花さんをにらんでいると、真向かいの席からスッと携帯電話が差し出された。

 さすがに今度は朝の時のように「くれるのか」とは思わない。

 

「連絡先の交換。協力する」

「ありがとう」

 

 あれ、三玖さんって意外とあっさり。大反対してくるとまでは言わないけど、すぐに応じるとは思わなかった。

 僕が一花さんと話している間に、風太郎とテキパキと交換してたのは分かるけど。

 

「どうしたの?」

「いや、判断が早いなって」

「……反対なんてしないよ」

 

 登録を終えた僕から携帯電話を受け取ると、三玖さんは風太郎たちをちらっと見た。

 

「だって──」

「三玖、交換は終わった?」

 

 四葉さんが声をかけてきた。風太郎も後を追うように近づいてくる。

 

「おい、四葉。お前のアドレスは?」

「あれっ? 一花と交換しないんですか?」

「ごめん。言うの忘れてた。

 私はもう2人の連絡先知ってるんだ」

 

 だよねー、と明るく言いながら一花さんが風太郎と僕の肩にポンと手を置く。

 

 何て度胸をしてるんだ。風太郎の怒りオーラに全く動じていない。

 待てよ? もしかして……

 

「じゃあ、残るは二乃と五月ですね」

「いや、だから四葉。お前の──」

「あの2人なら食堂に行くって言ってましたよ。

 急ぎましょう! まだ間に合います」

「アドレスを先に教えろよ!」

 

 教室にも行かなければ、と四葉さんは先生から渡されたノートを持って出て行った。

 風太郎と頷くまでもない。今度は追いかけよう。

 

「フータロー君、トーヤ君。

 メアド交換がんばってねー」

「……覚えてろよ」

 

 これではっきりした。自称お姉さんに弱みをにぎられているのは僕だけじゃない。

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

「何だよ、これ」

 

 食堂に入ると、風太郎が僕の思っていたことを口にしてくれた。

 おかしいな、姿は見えないけど二乃さんと五月さんがいる場所が分かる。

 

「二乃さん!」

「五月さん!」

「ぜひ、俺と──」

 

 あるテーブル席の周りだけに何人もの男子生徒が群がっている。四葉さんが困ったように突っ立っていたのも無理はない。

 今日の5つ子はいったいどうしたんだ。

 

「四葉、まさか二乃と五月も……」

「ええ、上杉さん。

 私と同じだと思います」

 

 何のことだ、と聞く前に人混みの中から聞き覚えのある声がした。

 

「ごめんね!

 私も五月も決まってるの!」

 

 悲鳴や驚きの声があがったかと思うと、次々に男子生徒が離れていく。

 何事かは知らないけど話しかけやすくなったぞ。

 

「行こうよ。今がチャンスだ」

「そうだな。

 四葉、お前も来い。俺たちから離れるな」

「はい! お二人ともファイトです」

 

 周りから「無理だろ」とか「また騒動起こす気か」とか聞こえるけど、無視だ。

 文字通り今の僕らはがけっぷちなのだから。

 

「二乃、五月」

「げっ……何でここが分かったのよ」

 

 二乃さんが飲み物を置き直し、腕組みしてきた。用事というのはおやつタイムだったみたい。

 現に五月さんは肉まん……ではなくメロンパンを口にしている。

 

「細かいことはいい。

 お前ら2人に話がある」

「しつこいわね。

 勉強会には行かないって言ったじゃない」

「違うよ、二乃さん。

 連絡先の交換をしに来たんだ」

 

 ピクッと二乃さんの片方の眉がつり上がり、一瞬「おっ」と期待した。

 

「お断りよ。お・こ・と・わ・り!」

 

 まあ、そうだよね。二乃さんだけに2回断られた。

 何か手は無いのか? この2人は手ごわいぞ。

 

「あんた達、勉強できるのに想像力無いの?

 私たちが応じる訳ないじゃない」

「待って、上杉さんたちは──」

「四葉、まさかとは思うけど。

 もう交換したとか言わないわよね」

「え、えっと」

 

 あわあわとし始めた四葉さんをかばうように、風太郎が立ちはだかった。

 

「四葉のことは、今はいいだろ」

「ふん……とにかく時間の無駄よ。

 五月だって、そう思うでしょ?」

 

 全員の視線が五月さんに集中する。正直、ここで「その通りです」と即答されたらきつい。

 祈るような気持ちでいたけど、不思議なことに無言のままだ。

 

「五月?」

「……そうですね。

 私たちにメリットがありません」

 

 再びメロンパンを口にした五月さんに、二乃さんが満足そうな笑みを浮かべる。

 こうなったら、とことん交渉するのみだと動き出した時だった。

 

「待て、メリットならあるぞ」

「どういうことですか」

 

 風太郎がずいっと進み出て、携帯電話の画面を五月さんに見せた。

 ま、まさか弱みの写真を見せたんじゃ──

 

「見ろ、らいはのアドレスだ!

 今ならお値段据え置きでお買い得だぞ」

「……っ!」

「ついでに親父と橙矢のアドレスもどうだ」

「待って、風太郎。

 僕はともかく勇也さんがついでって」

「宝条さん、気にする所そこですか!?」

 

 なぜか四葉さんに突っ込まれた。だけど風太郎に文句を言いながらも「うまい」と作戦に感心中。

 その手があったか。これならいける、と様子を見ていた……が。

 

「お断りします」

「な、何でだよ!?」

 

 まさかの返事に風太郎と四葉さんが慌てたような表情になった。

 僕も手から携帯電話が滑り落ちそうになるのを何とかこらえる。

 

「らいはちゃんから直接聞きます。

 家の場所は知っているので」

「くっ、そう来たか」

 

 これはまずい流れだ。何かサポートできることは……そうだ!

 こっそりと携帯電話を操作する。お願いだ、風太郎を助けてあげて。

 

「これで分かったでしょ。

 五月もこう言ってるんだから、帰った帰った」

「悪いが、引き下がらねえぞ。

 一花や三玖とはもう交換したからな」

「はあ!? だ、だから何よ。

 2人の名前を出したって応じないから」

「俺の作戦が……って、橙矢。何やってんだ?」

 

 大丈夫だ、風太郎。まだ終わってはいない。救世主が現れた。

 任せてと頷き、狙いの人物に近づいてスッと携帯電話を差し出す。

 

「五月さん、電話を替わってほしいと」

「私に?……誰からですか」

「出てみれば分かるよ」

 

 怪しそうに見上げてきたけど、受け取って話し始めた。

 思った通り表情がだんだん変わっていく。

 

「……ありがとうございます。

 ええ、楽しみにしていますね」

 

 通話を終えると五月さんは僕に携帯電話を返してじっと静かになった。

 そのまま待つこと数秒後──

 

「上杉君、携帯電話を貸してくれませんか」

「何!? 良いのか?」

「……背に腹は代えられません」

「ちょっ、五月!?」

 

 救世主の力おそるべし。うまくいくと思ってた僕もぽかんとすることしかできない。

 何とか笑いながら、もう1人の家庭教師に親指を立てる。

 

「橙矢、お前まさか」

「後でらいはちゃんにお礼を言うよ。

 五月さんに料理を作るって話したと思う」

「なっ……いい性格してるわね!

 友達の妹を利用するなんて」

 

 許せ、二乃さん。写真を広められる訳にはいかないんだ。

 らいはちゃんも「五月さんたちと連絡先交換するのに協力できるのなら」と引き受けてくれたし。

 

「さて、あとは二乃さんだけだよ」 

「ぜっっったいに教えないから」

 

 どうする。五月さんを説得できたけど最後の1人のガードをますます堅くしてしまった。

 もう1度らいはちゃんに連絡するか?

 

「橙矢、今度は俺に任せろ」

「え?」

 

 攻略の手があるのかと見ていると、風太郎は二乃さんに近づいて高みから見下ろした。

 

「良いのか、二乃。

 お前だけ話の輪に入れなくなるぞ」

「う、うるさいわね!

 余計なお世話よ」

 

 あっ、何となく作戦が読めた。しかし意地悪な表情してるなあ。

 裁判で三玖さんが「悪人顔」って言ってたけど。

 

「メールなら簡単に無視できるのになー。

 お前が連絡先を教えてくれないなら──」

「……何よ」

「俺は勉強しろと直接言いに行くぞ。

 橙矢もノートを手渡そうとするだろ」

 

 これはかなり効いたのか、二乃さんがうつむいてしまった。

 連絡先交換をしたほうがまし、と思わせる気だ。

 

「……さい」

「ん?」

「か、書く物よこしなさい!」

 

 どうだ、と言わんばかりの笑みを浮かべる風太郎。味方で良かったと心から思いながら、笑顔を返す。

 携帯電話が五月さんの手にあるからか、先にやれと言ってきた。

 

「はい、二乃さん。生徒手帳」

「……しかたないわね」

 

 何で私が、とブツブツつぶやきながらも連絡先を書いて手帳を返してきた。

 風太郎の手帳も受け取ったのを見て一安心。

 

「上杉さん、宝条さん!

 これで全員分そろいましたね」

「何言ってんだ?

 あと1人いるだろ」

 

 きょとんとした顔で四葉さんが「一花、三玖、五月、二乃……」と指を折って数え始めた。

 早く気付いて、とじっと待つこと数秒後。

 

「あーっ! 四葉! 私です」

「……」

 

 何とも言えない表情をする風太郎。大丈夫、写真流出の心配は無いって。

 ほら、携帯電話の画面を見せてきたし。

 

「こちらが私のアドレスです」

「ありがとう……ん?

 バスケ部部長ホンゴーさん?」

 

 ずいぶん変わった連絡先だな、と思いながら手帳にメモしようとした。

 その瞬間ゴツンと頭に何かが当たる。

 

「バカ、着信音鳴ってるだろ。

 それは四葉に電話してきた相手だ」

 

 タイミングがすごい、とたたかれた所に手をあてていると──

 

「お二人とも、ごめんなさい!

 私もう1つ頼まれ事があったんでした」

「は?」

「失礼しますね」

 

 再びあっという間にいなくなってしまった。

 こんな時に呼び出しとはね、と風太郎に言おうとした瞬間。

 

「追うぞ!」

「え……ぐ!?」

 

 急に動いたと思ったら、制服の首根っこをむんずとつかまれた。

 ちょ、息が……!

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢ 

 

「バスケ部の助っ人? 四葉さんが?」

「ああ、5つ子裁判の時も行ってたぞ」

 

 確かにジャージ姿だった、と初めて来た部室棟でポンと手を打つ。

 風太郎はというと、部屋の前に立つ四葉さんから目を離さない。

 

「もしかして、入部する気なんじゃ」

「そう言ったら全力で止めるぞ」

 

 一花でも勉強との両立が心配なのに、あいつは……とブツブツつぶやいてきた。

 心配ない。四葉さんが「勉強やーめた」なんて言うはずが──

 

「中野さん、この前はありがとね。

 それで入部の件は考えてくれた?」

「はい。誘ってくれてうれしいです」

「ほんと!? 良かった、じゃあ──」

 

 勉強なんかしない、ととらえたのか風太郎が動き出した。

 残念だけど心を鬼にするしかないと後に続く。

 

「でも、ごめんなさい。

 お断りさせてください」

 

 突進しかけた風太郎がよろめいたので、ガシッと肩に手を当てた。

 何とか気づかれずに物陰に戻る。

 

「皆さんが大変なのは重々承知の上です」

「じゃあ、どうして?」

「放課後には大切な約束がありますから」

 

 それが何なのかは飛び出して聞くまでもない。良かったな、と肩をポンポンと叩いたけど仲間は動かなかった。

 四葉さんも部長を気遣ったのか、助っ人で試合に出るのはいつでもと答えている。

 

「そっか。なら仕方ないね。

 せっかくの才能がもったいない気もするけど」

「……才能はありません」

「え?」

「でも、そんな私を応援してくれて……頑張ろうって気持ちにさせてくれる人がいるんです」

 

 聞いたか、風太郎! やったじゃんとツンツンと指で突いた。

 俺にかかれば当然だと言ってくると思ったが──

 

「バカ、早とちりすんなよ。

 お前のことかもしれねえだろ」

「照れなくていいじゃん」

「そっちこそ照れ隠しじゃねえのか」

 

 どう考えても風太郎だ、いやお前のことだと指さし合い続けた。

 そんなことをしていると曲がり角の向こうからリボン登場。

 

「ぬわっ!? 上杉さんに宝条さん!?

 なんで、ここに……」

「四葉さん、いいところに! 実は──」

 

 後の言葉は風太郎に手で口をふさがれて出てこなかった。

 何でもない、散歩していて今ここに来たと四葉さんに説明している。

 

「だよな、橙矢」

「……ふぉうだよ」

「そ、そうだったんですかー」

 

 ホッとしたような様子の四葉さんに風太郎が「おい、交換するぞ」と迫る。

 まあ何回も機会を逃していたから無理もない。

 

「あ……はいっ。

 よろしくお願いします!」

 

 携帯電話を合わせる2人に見えないように後ろ手でガッツポーズ。

 これで風太郎の写真流出は無くなった。ああ、部室棟に差し込む夕日がきれいだよ。

 

「宝条さんも、どうぞ!」

「ありがとう」

 

 よーし、交換完了。長かった放課後のドタバタ劇もついに決着だ。

 どれどれ、連絡先一覧はと……あ。

 

「しまったーっ!!」

 

 部室棟にこだまする自分の声。急にどうしたと見てくる風太郎と四葉さん。

 

「何だよ、橙矢。いきなり」

「ほ、宝条さん?」

「ごめん、2人とも先に図書館に行ってて」

 

 説明するヒマもなく全速力で駆け出した。天国から地獄とはまさにこのこと。

 今まで気づいていなかった。連絡先交換を済ませていない人がまだ1人いたことに。

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

「遅かった……」

 

 正門前の階段。最後の望みだった場所にも姿は無い。

 食堂にいなかった時点で覚悟はしてたけど……詰めが甘かった。

 

(いや、あきらめるのは早い)

 

 夕日は沈んでいない。時間的に学校を出てまだ間もないはずだ。

 走ればきっと追いつける。

 

 こんな階段の途中で座り込んでいる場合じゃない、と駆け出した瞬間。

 

「宝条君」

「……!?」

 

 な、なんで後ろから声が? バッと振り返ると──いた。

 いつの間にと混乱していたけど、ゆっくりと階段をおりてくる。

 

「五月さん、帰ったんじゃ……」

「いえ。これをお返ししないといけないので」

「あ、昨日の」

 

 そうだった、花火大会でハンカチを渡していたのを忘れてた。

 もしかして教室で言いかけたのも、このことか。

 

「わざわざ、ありがとう」

「私の方こそ。

 遅くなって申し訳ありません」

 

 ま、まじめだなあ。僕だって午前中は学校にいなかったし、今の今まで忘れてたのに。

 というかたたみ方のきれいさよ。くずさないようにしなきゃ。

 

「あの、実はお話が」

「……? あ、連絡先交換のこと?」

「それもありますけど……わ、私と……」

 

 ハンカチをそっとポケットに入れると、じっと見てくる五月さんと目が合った。

 え? ええ? 何この感じ……

 

「情報の授業でペアを組んでいただけませんか?」

 

 しばらく思考停止。情報の授業? ペア?

 

 だけど、少しずつ分かってくる感じがした。

 言われたことの意味と5つ子が今日どうして声をかけられまくっていたのかが。

 




 お久しぶりです。選択授業(美術・音楽・書道・工芸・情報)の2人一組のペア決めで5つ子に声をかける生徒続出……という展開でした。

 自分だったらどの授業で誰と組みたい~という意見があれば教えて頂けると幸いです。


 次回は風太郎の生徒手帳をめぐる騒動、そして採点者5つ子VS解答者橙矢の戦いとなります。
 不定期更新で申し訳ありません。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
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