五等分の花嫁~盟友と僕は背中合わせ~   作:ケンドラ

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第017話 友の手帳と僕の採点

「それで何て答えたのっ!?」

 

 目をランランと輝かせてらいはちゃんが迫ってきた。夕食を机に並べてる場合じゃない、って感じ。

 どうして、こうなった。お礼を言いに風太郎の家に来ただけなのに。

 

「五月さんには『いいよ』って言ったよ」

「……! お母さん、橙矢さんがやりました」

 

 むしろ、僕が「娘さんのおかげで連絡先交換ができました」と写真に手を合わさないと。

 目を閉じて祈っていると──

 

「お前って変わってるよな」

「何が?」

「五月の連絡先。

 俺か四葉に聞けば良かっただろ」

「あっ」

 

 風太郎の言うことにも一理ある。確かにその方が早い。 

 どうして考え付かなかったのか不思議だ。

 

「でも、2人とも良かったね!

 五月さんたちとメアド交換できて」

「らいはちゃんのおかげだよ」

「まったくだ。

 それにしても、一花め……」

 

 あの写真は、とブツブツつぶやきながら風太郎が携帯電話をいじっている。

 まあ気持ちは分かる。僕だってやられっ放しなのはいやだ。

 

「やっぱり怒ってる?」

「ああ。お前も(おど)されたんだろ。

 五月も誘えなかったんじゃないのか」

 

 校門で五月さんに選択授業のペアの件で返事をしたまでは良かった。

 だけど勉強会には誘えなかった。なぜなら──

 

「さすがに予想外だったよ。

 一花さんと三玖さんが飛び出してきたのは」

「図書室に残ってると期待してたんだがな」

 

 物陰から2人が現れた時はびっくりなんてものじゃなかった。

 自称お姉さんはからかうし、末っ子はなぜか慌てた様子で走り去るし。

 

「引き止められなくて、ごめん」

「おいおい、折り(づる)は助かったぞ。

 お陰で四葉と勉強できたからな」

 

 どのみち俺がいると分かったら五月は参加しねーよ、と風太郎が小声で言ってきた。

 大丈夫、花火大会の頑張りはきっと伝わっていると言おうとした時。

 

「それより、連絡先が分かったんだ。

 活かさない手はないだろ」

 

 見ろ、と得意げに携帯電話の画面を見せてきた。よく見ると……これって問題文?

 データ量がとんでもないことだけは分かる。

 

「あいつらに宿題だ。

 何ならお前もメールしてやれ」

 

 5つ子がどう反応するか、予想できる気がした。

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

「……いない、か」

 

 翌朝、昨日と同じく1人でジョギング。もし一花さんと再び会ったら、写真の件でガツンと言ってやると思いながら。

 とはいえ2日連続で鉢合わせは無かった──が。

 

 プルルル!

 

 あれっ、風太郎から電話だ。こんな朝早くにかけてくるなんて(めずら)しい。

 中間テストが近いし、朝勉の誘いかな。

 

「もしもし」

『おっはー、今朝も走ってる?

 昨日はメアド交換おつかれー♪』

 

 一瞬、耳がおかしくなったのかと思った。携帯電話の画面には風太郎の名前。

 だけど明らかに違う。声もテンションも。

 

「おはよう、一花さん。

 今日はジョギングしてないんだね」

『おっ、なになにー?

 もしかしてお姉さんに会いたかった?』

「どうだろうね。

 それより、どうして風太郎の携帯電話を?」

 

 昨日のことを聞きたいところだけど、今のおかしな状況を整理したほうがいい。

 何か嫌な予感がする。

 

『ふっふっふ……よくぞ聞いてくれたね。

 フータロー君の身柄は預かっているよ』

「え!?」

『返して欲しければ、私たちの家においでー』

 

 どういうことだ、と通話が終わった携帯電話をまじまじと眺める。

 何かのドッキリ? いや、そうとは思えない。

 

「待ってろ、風太郎!」

 

 汗がダラダラ流れようが、ペンダントが揺れようが関係ない。

 しばらくしてタワーマンションの最上階にある部屋に飛び込むと──

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

「まったく、最悪の目覚めよっ!」

 

 タイミングが良いのか悪いのか、明らかに怒っている声がした。

 風太郎が無事か確かめたいけど……息が。

 

「ちょ……何よ、宝条。

 あいさつもしないで」

「まあまあ、二乃。

 息ぐらいつかせてあげなって」

 

 両手をひざに当てて下を向くことしかできない。さすがに飛ばしすぎた。

 早く息を整えないと。静まってくれ、心臓。

 

「宝条さん、お水ですっ!」

「……ありがとう」

 

 あー生き返る。そう思えたのも短かった。なぜなら、部屋の中央に正座している風太郎がいたから。

 れ、冷静になろう。とりあえず四葉さんにコップを返してと。

 

「お、おはよう。

 朝早くに失礼」

「うん。落ち着いた?」

「ふん」

「……おはよう」

「おはようございまーす!」

「おはようございます、宝条君」

 

 制服、寝間着、ジャージと色々な服装に目が行きそうになる。

 とはいえ今は黙り続けている親友が最優先だ。

 

「風太郎、何があった?」

「教えてあげるわ。

 そいつは私の部屋に押し入ったのよ」

「え!?」

「橙矢、聞いてくれ。

 生徒手帳を返してほしかっただけなんだ」

 

 生徒手帳? 確か昨日、連絡先を聞いた時に風太郎が二乃さんに渡してたよな。

 その後は……そうだよ! 四葉さんの後を追ったから……

 

「三玖さんが通してくれて……なるほど。

 とはいえ、これは……」

 

 急に足の力が抜けてその場に座り込む。風太郎が誘拐(ゆうかい)されたと思ったら、別の意味でピンチが待ち受けていようとは。

 何とかしないと。『5つ子裁判』で重罪決定なんてことになったら……

 

「二乃さん」

「何よ、あらたまって。

 上杉を許してと言いたいんでしょうけど──」

「違う。罰するなら僕も罰して」

 

 風太郎の生徒手帳が二乃さんの手元にあった。昨日、このことに気付かなかった僕にも非はある。

 思い出していれば、何か手は打てたのだからと説明する。

 

「橙矢、お前……」

「関係ない、とは言わせないよ。

 僕は風太郎の補佐役なんだから」

 

 そう言った瞬間、パチパチと音がした。

 音の出どころは──僕をここに来させた張本人だった。

 

「いやー、青春だねえ。

 これは『5つ子裁判』の必要は無いね」

「一花!?」

 

 裁判長の言葉に二乃さんと五月さんが驚いたように反応した。

 確かに、この2人は風太郎を厳しい目でずっと見てたけど。

 

「もちろん、裁判も考えたよ?

 フータロー君たちの態度次第では」

「俺たちの……?」

 

 ところが風太郎は素直に謝るし、僕は責任を共に負おうとするしで考えが変わったみたい。

 それは嬉しいけど、このまま無事に終わるかな。

 

「くっ、でもタダで手帳は返さないわよ。

 この2人に()()()()()くらいは良いでしょ」

 

 言い方が不安だけど、逆らえない。裁判にかけられ、家庭教師をクビになるよりはマシだ。

 それより、風太郎がそわそわしている気が。あの手帳に何かあるのかな。

 

「さーて、二乃。どうする?

 2人まとめて可愛がってあげちゃう?」

「ば、バカな言い方やめて!

 今考えてるから黙ってて、一花!」

 

 何故か顔を赤くしながらも、二乃さんが腕組みをして見下ろしてきた。

 罰は何だ? デコピンとかビンタか? それとも鉄拳制裁(てっけんせいさい)

 

「……そうだわ。

 一花、昨日言ってた物は?」

「もう持ってきてるよ。はいこれ」

 

 何だろう、あの針が付いた装置は。数字の6か9みたいな形をしてるけど。

 

「上杉、ついてきなさい。

 手帳を返してほしいのなら」

「あ、ああ」

「あんたたちは宝条を見張ってて」

 

 良く分からない装置を持って、二乃さんは風太郎と2階に上がっていく。

 んん? 自分の部屋に連れ込んで、どうするつもりなんだ?

 

「むふふ、部屋で2人っきりとは。

 お姉さん気になっちゃいますなー」

 

 怪しげな笑みを浮かべながら、一花さんが抜き足差し足で階段に向かう。

 明らかにこっそりドア越しに聞くようにしか見えないな。

 

「……一花、私も」

「あっ、待ってください! 三玖!」

 

 み、三玖さんと五月さんまで。やっぱり風太郎が乱暴なことをすると思われてるのか。

 仕方ないとはいえ、僕としては複雑。残った最後の1人も後に続く……あれ?

 

「四葉さんは、様子を見に行かないの?」

「はいっ! ここにいます!

 上杉さんと宝条さんを信じてますから」

 

 正座でしびれた両足とは違う意味でじーんとした。涙が出かけたのをごまかそうと2階を見上げると、3姉妹がドアに耳をくっつけている。

 ひそひそ話しているけど、室内で異常事態は起こっていないみたい。

 

「宝条さん、どうかしましたか?」

「えっ……いや、何でもな──」

 

 そう口にした瞬間、「嘘をつくな」と抗議の声をあげるかのようにグーッとお腹が鳴ってしまった。

 確かにまだ何も食べてないけど、ここで鳴る!?

 

「あはは、お腹空いてたんですね。

 ちょっと待っていてくださいっ!」

 

 四葉さんが台所に向かったのと同時に、2階にいた3人が慌てたように階段を下りてきた。少しして部屋から出てきたのは二乃さんだけ。

 さっきの装置と分厚い本のような物を持っているけど……風太郎は?

 

「二乃、上杉君はどうしたんです?」

「すぐに来るわよ」

「フータローと何してたの?」

「別に。何でもいいでしょ」

 

 確かに風太郎が部屋から出てきた。ちゃんと手帳を持って安心しているみたい。

 良かった、と思うのはまだ早かった。僕への罰がまだ終わっていないのだから。

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 生徒手帳を返してもらうという目的を達成した以上、長居は無用と思ったのか風太郎はリビングから出て行った。

 僕に向かって「今日の学食で、みそ汁をやる」と礼を言い残して。

 

「よーし、何か元気出てきた!」

「……やっぱり宝条君は変わっています」

 

 トラブルに巻き込まれたうえに、お礼がそれだけで納得できるのかと五月さんが不思議そうに聞いてきた。

 まあ勝手に部屋に入ったのはともかく、罰の件は僕が言いだしたことだし。

 

「それで、何をすればいいの?」

「決めたわ。宝条、あんたには──」

 

 二乃さんが言いかけた瞬間、台所から「お待たせしました!」と四葉さんが現れた。お盆には大きなおにぎりが皿にのっている。

 ごくりと喉が鳴り、狙いの食べ物に手を伸ばしたまさにその時。

 

「まっ、待ちなさい!

 罰も受けずに何してんのよっ!」

 

 通せんぼされた。腹が減っては何もできない、と抗議しても全く聞いてくれない。

 自分たち5人も朝ごはんがまだ、と言われてはぐうの音も出なかった。

 

「宝条、これ何だか分かる?」

「何って……アルバムって書いてあるけど」

「そう、5人で並んだ昔の写真よ。

 あんたに見分けてもらうわ」

 

 さっき部屋から持ち出していたのは写真集だったのか。

 なるほど、要は5つ子当てゲームという訳だ。

 

「間違い探しなら自信があるよ」

「ハッ、なかなか言うじゃない。

 だけど後で恥をかくだけよ」

 

 二乃さんいわく、5姉妹以外で正解できた人物は2人しかいないそうだ。

 たぶん、というか間違いなくご両親だ。

 

「じゃあ、もし全員不正解だったら?」

「罰を与えるに決まってるじゃない。

 私たちの言うことを1つずつ聞いてもらうわ」

 

 他の4姉妹がそれぞれ違う反応を見せてきたけど、今はそれどころじゃない。

 とにかく0点を取るわけにはいかなくなった。

 

「分かった、受けて立つ。

 もし全員当てた時は……」

「そんな奇跡起こる訳ないでしょ。

 ま、聞いてあげるから言ってみなさい」

「5人全員で受けてもらうよ。

 風太郎の授業をきちんと」

 

 5姉妹が互いに目線を送っていたが──

 

「お・こ・と・わ・り!」

「ええっ!?」

「……と言いたい所だけど、良いわ。

 あんたに0点と言えるなんて最高じゃない」

 

 ムカっ! 言ってくれたな!

 ここまで言われたら、満点取ってぎゃふんと言わせてやるしかない。

 

「じゃあ、二乃さん。

 採点をお願いしたいんだけど」

「どういう意味よ」

 

 ポケットからメモ帳を取り出して、二乃さんに見せた。

 テストみたいに答えを書く方が、口で言うよりやる気が出る。

 

「おもしろいじゃない。

 せいぜい、あがくといいわ」

「おおっ、お姉さんも交ぜてよ。

 そうだ! 5人で採点するのはどう?」

 

 良い考えだ。メモ用紙5枚に書いた答えを、5姉妹に1枚ずつ渡せばいいんだな。

 少し手間がかかるけど、大したことじゃない。

 

「三玖、四葉、五月ちゃんもいいよね?」

「……うん」

「もちろん! 宝条さんファイトです!」

「おにぎり……はっ、失礼しました。

 私も構いません」

 

 ようし、話は決まった。何としてでも満点を取ってみせる。

 目指すは5姉妹の授業参加と、おにぎりだっ!




 お久しぶりです! 採点勝負が終わるまで書く予定でしたが、ここで区切ることにしました。
 
 果たして勝負の結果は? 見事5人全員見抜いて満点を取るのか、1人も当てられずに0点+5つ子の言いなり……になってしまうのか、それとも……?
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