「あれれー? どうしたの、宝条。
手が全然動いてないじゃない」
「くっ……これからだよ」
やばい、また汗が出てきた。決して5つ子の家だからと緊張なんかしていないし、室内が暑い訳でもない。
原因は手元にあるアルバムだ。正確に言えば1枚の写真だけど。
(こ、これを見分ける……だって!?)
つい数分前に「間違い探しには自信がある」と得意げだったのは、どこのどいつだ。
まさか、昔の5つ子が今以上に似ていたなんて。
「さっさと降参したら?
あんたに見分けられっこないわ」
二乃さんが勝ち誇るのも分かる。何しろ残像かと思うくらい髪型も服装も表情まで全く同じ。
身に付けている物の違いは無い。トランプの柄でのイメージ判断も無理だ。
万事休すと音が鳴るお腹に手を当てた時だった。
「あっ」
そうだ、写真だったら……僕のペンダントにもあるじゃないか。
今まで何度勇気づけられたことか。
『──を大切にしなさい。
あなたにはあなたの良さがあります』
『はいっ、先生!』
何年も前に病院で交わした会話。僕と同じく先生もきっと退院して、どこかの学校で今も教えているはずだ。
難問にぶつかったからって弱気になるな。
「……よしっ」
もう一度、5つ子の写真に視線を向ける。僕から見て仮に写真の右側から1番、2番……として、メモ用紙にも同じように右端から番号を書いてと。
うん、これならいつものテストみたいで良い。
「番号なんか書いて、どうしようってのよ」
「これで全員正解してみせるから」
周りの5人と見比べながら、用紙に答えを書きこんでいく。不思議だ、いつものテストと同じと考えるとかなり気が楽になる。
最後の1人を書き、5枚の解答用紙が完成。
「できたっ! 採点お願い」
「おつかれー」
「遅いわよ」
「うん、漢字は合ってる」
「頑張りましたね! 宝条さん」
「……お手並み拝見といきましょう」
やれるだけのことはやった。満点なら7人全員そろって勉強できるという天国だが、0点だと……
いや、きっと大丈夫だ。自信はあるのだから。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「採点終わったよ!」
ベランダに出て深呼吸していると、一花さんの呼ぶ声がした。
自分としては堂々と室内に戻ったつもりだけど、内心はドキドキ。
(……ん?)
5つ子の様子が変だ。互いに目配せしてるし、ひそひそ声も聞こえる。
表情を見ても目を反らすか真顔になるし……
「こほん。それでは結果を発表しまーす」
二乃さんが何か言いたそうだったけど、長女か裁判長の特権なのか自称お姉さんが口を開いた。
やれることは、ただ祈るだけ。
「すごいよ、トーヤ君」
「な、何が?」
「なんとなんと……100点っ!!」
息が止まった。だけど聞き間違いじゃない。確かに狙っていた点数を言ってきたよ。
風太郎が三玖さんの説得に成功した時のように、はしゃごうとした瞬間──
「せーのっ!」
「……へっ?」
「5人全員合わせて!!!!!」
一瞬、卒業試験で風太郎が5つ子に言い放った場面がよみがえった。
だけど採点結果を言われているのは……僕。ということは?
「20点……ってこと?」
「ぷっ、もうダメ……っ」
今まで表情に出さないようにがまんしていたのが限界にきたのか、二乃さんが笑い出した。
くそー、風太郎に点数で負けた時以上に悔しい。
「やってくれたね。
だけど……完敗だよ」
自信がある、授業を受けてと言っておいて全員正解できず。
しかも風太郎の『5人で満点』を返されるとは思わなかった。
「宝条さん、落ちこむことありませんよ!
0点じゃなかったんですから」
「同感。二乃も本当はトーヤの点数に驚いてる」
「はあー!?」
そんな訳ない、と一瞬で二乃さんの表情が変わった。確かに「残念だったわね、宝条! 0点よ」と言われなかったのは良かった。
5つ子の言うことを1つずつ聞くというのも回避できたし。
「あっ、そういえばおにぎり……っ!?」
せめて四葉さんが作ってくれたおにぎりだけでも、とテーブルを見たけど時すでに遅し。
お皿だけになっていて、料理勝負の時と同じくほっぺたをふくらませた人がいた。
「ちょ……あんた、また!」
「五月っ!」
「むぐぐっ!」
1人で食べるなんて、と一花さん以外の3人が五月さんに詰め寄った。
驚いたことに自称お姉さんは気にして無さそう。
「ん? ああ、お姉さんは気にしないよ。
朝ごはんは食べない派だから」
「えっ、そうなんだ」
「それよりさ」
僕が渡した解答用紙をヒラヒラと振りながら、にやりと笑ってきた。
あ、これ良からぬことを考えている時の顔だ。
「トーヤ君は気にならない?
20点ってことは、誰か1人正解してたんだよ」
「あっ」
確かに、それは気になるな。点数だけに気を取られてた。次こそは全員正解したいし、ぜひ知っておきたい。
一花さんの言葉が聞こえたのか、4姉妹も口論をやめて静かになった。
「それで……誰が正解してたの?」
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
5つ子のことだから、「当ててみて」とか「全員正解できたら教える」と言ってくるだろうと思っていた。
ところが次から次へと予想外のことが起こる。
「ふっふっふ。
まさかお姉さんを当ててくれるなんてね」
ウインクしながら、意外にもあっさりと教えてくれたのは一花さん。
ここまでだったら少しびっくりするだけだったんだけど──
「えへへ、違いますよっ!
宝条さんが当てたのは私です」
まさかの対抗が出てきた。とはいえ、まだまだ慌てることはない。
この2人なら言動から考えれば──
「違う。トーヤが見抜いたのは私」
三玖さんまで名乗りをあげたから大混乱。いや、落ち着くんだ。
5つ子を見分けるのに比べたらこのくらい──
「だっ、だまされてはいけませんよっ!」
「五月さん?」
「宝条君が正解したのは……私ですから」
よ、4人目!? さっきまで満面の笑みでおにぎりを口にしていた五月さんまで。
どうなっているんだ、と残る1人に目を向けた。
「何よ、ジロジロ見て」
「……」
大丈夫だ、二乃さんまでそう言ってくるとは限らないだろう。
この際きつい言葉遣いだって構いやしない。
「ぜんっぜん嬉しくないんですけど。
あんたに当てられるなんて」
この場にウソ発見器か心が読める人がいたら、と今ほど思った時はない。5人全員が「正解したのは自分」だと言ってきた。
いや、待て。はっきりしていることもある。
(この中に……正直者が1人いるっ)
とはいえ、それが誰なのかは分からない。結果は20点だったけど、正直全員合ってると思っていたから。
いや、ここは玉砕覚悟で答えを言お──
「ふん、答えは教えないし聞く気も無いわ。
もう用は済んだでしょ。帰った帰った!」
えーっと声をあげた一花さんと四葉さんを無視して、二乃さんが背中を押してきた。
ぶうぶう言う2人に「朝ごはんも化粧もまだなのよっ!」と一喝。
あっという間に、僕も追い出されてしまった。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「……それがお前の罰だったのか」
焼肉定食の焼肉抜きから、みそ汁のお椀を僕に渡しながら風太郎が食堂の席に座った。
朝のおにぎりが食べられなかった分、昼食のこれが本当に嬉しい。
「悪かったな、またトラブルに巻き込んで」
「僕は大丈夫。こっちこそごめん」
風太郎の生徒手帳に気付かなかったし、今朝に至っては全員そろって勉強できるチャンスを潰してしまった。
今でも20点しか取れなかったのが悔しい。
「気にしすぎだ。お前の悪いところだぞ。
俺の生徒手帳も無事だったんだからな」
「よっぽど大切なんだね」
僕のペンダントとか双眼鏡とかビー玉みたいなものか。幸せ者だな、風太郎の生徒手帳は。
「……そうだな。
お前には、いつか話すかもしれない」
「……? うん」
ポツリと気になることをつぶやく風太郎。何が何だかさっぱりだけど……その時を待つか。
しばらく、黙って食べていたけど気になることが1つ出てきた。
「風太郎、聞いてもいい?」
「何だ? 勉強したいから手短に頼む」
「その……二乃さんの部屋に行ってた時だけど」
暴力はふるっていないだろうけど、何があったか知りたい。
そう思いながら、質問した瞬間だった。
「……私も聞きたい。トーヤ、隣いい?」
「三玖!?」
「三玖さん!?」
さすがに予想外だったのか風太郎もあわてているみたい。
怒ってはいないけど、相変わらずの無表情だ。
「……仕方ねえな。
他のやつらには言うなよ。三玖、橙矢」
「うん」
「もちろん」
結論から言うと、二乃さんが「耳にピアスをしたいから穴をあけてほしい」と頼んできたらしい。
一花さんから借りていた装置が何だったのか、謎が解けた。
「痛そう……それで、穴あけたの?」
「いや。気が変わったのかやめるってよ」
一瞬、風太郎が残念そうな顔になった気がした。まさか眠り薬や普段のきっつい言い方の仕返しをするチャンスがと思ったんじゃないだろうな。
それはともかく三玖さんは納得してくれたのか。
「……フータロー、二乃とはそれだけ?」
「ああ。生徒手帳も返してくれたぞ」
そう、と言って抹茶ソーダを飲み始めた。勉強するかと思いきや、風太郎は「水のおかわりを」と言って席を立って離れて行く。
き、気まずい。何か話題は……あ、そうだ。
「み、三玖さんって姉想いなんだね」
「え……」
確かに料理勝負や5つ子裁判では二乃さんと言い争ってはいたよ。
だけど、今の様子を見る限り姉に危害が無かったか心配してるんだなと思えた。
「そう見えたの?」
「うん」
むしろ、驚いたように目を見開いた三玖さんにびっくり。
とんでもない見当違いなことを言ったのかと思っていると──
「……ふふ」
「えっ」
「ごめん、気にしないで」
さっぱり分からなくてぽかんとするしかなかったけど、まあいいかと冷めたみそ汁を口にした。
僕としては風太郎のイメージが悪くならなければそれでいい。
「トーヤ、聞いてもいい?」
「うん」
「今朝のことだけど……誰が正解か分かった?」
昔の5つ子見分けテストのことか。ここだけの話、気になりすぎて午前中の授業にも集中できなかったよ。
風太郎に言ったら「くだらん」と一蹴されそう。
「分からないよ。
全員合ってるって自信あったから」
「そう」
「ただ──」
そう言いかけた時、風太郎が水の入ったコップを片手に戻ってきた。
まずい。話は中断だ。
「何を話してたんだ?」
「えーっと……」
「日本史の問題を出し合ってた」
三玖さんが機転をきかせてくれて助かった。学年トップの優等生も満足したように「良い心がけだ」と頷いているし。
ホッとしながら、中間テストについて話す2人を眺める。さっきは言えなかったけど──
「……正解だったらいいな、って人はいたけどね」
ポツリとつぶやいた僕の声は、誰にも聞こえていなかったに違いない。
お久しぶりです! 全員正解、全員不正解の展開も考えましたが1人だけ正解にしてみました。
果たして正解していたのは、橙矢が「正解していたら」と思った人物は……
次回も、どうぞお楽しみに!
次回についてですが……1話完結で学園祭か、複数話で中間試験かで考えています。どちらが先に読みたいですか?
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①学園祭
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②中間試験
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③その他(日常オリジナル話)