五等分の花嫁~盟友と僕は背中合わせ~   作:ケンドラ

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第1章 家庭教師と宝物
第001話 ドキドキの出会いと尾行作戦


「はじめまして、宝条橙矢です。よろしく」

「こちらこそ! 私は四葉(よつば)です」

 

 席をゆずってくれた子が、横からのぞきこむように身を乗り出してきた。

 ちょっ、近いって。そんな笑顔は反則だよ。

 

「あはは、はしゃぎすぎだよ。ところで、さっき言ってた落とし物って?」

「それがすごいの、一花。満点のテストだよ!」

 

 食堂にそんな答案を落とす人……たぶん中野さんも気づいている。心当たりの場所を教えると、四葉さんは急いで向かっていった。

 

「ふーん、五月が昨日話してた子ってキミなのね。ちょっと聞くけど、なんで一花といっしょだったの?」

「それが、話を聞きたいって強引に……」

 

 チョウのようなリボンをつけた長い髪の女の子が、腕を組みながら聞いてきた。明らかに怪しんでいる。

 ヘッドホンの子は──表情からは何も分からない。片目が髪で隠れているのが僕と同じだ。

 

「確かに。一花は人付き合いが上手だから納得」

「あれー、二乃(にの)三玖(みく)だって本当は気になっているんじゃないの。あの五月ちゃんに男子の知り合いが2人だよ。まさに三角関──」

「へ、変なこと言わないでください。不純です!」

 

 ニヤニヤする一花さんに対し、中野さんはそっぽを向いてしまった。

 

 三角関? ああ、三角関数のことか。

 数学は苦手だ……というか話って何だろう。

 

「まあまあ、怒らないでよ。五月ちゃんの言ってた子が、どんな人か確かめたくてさ」

「えっ、もしかしてそのために僕をここに?」

 

 バイトの面接よりも緊張するこの場にどうして連れてこられたのか分からなかったけど、そういうことだったのか。

 

「そうだよー。初対面なのに勉強を教えてくれたらしいじゃん。五月ちゃんてば、それはもう嬉しそうに──」

「いっ、一花!」

 

 あわてたように中野さんがこちらを見てきた。もはや髪の色と顔のどちらが真っ赤なのか判断が難しい。

 からかいすぎちゃったかーと笑う一花さんを、二乃と三玖と呼ばれた2人が何がおもしろいのかという目で見ている。

 

「あはは、だったら話題を変えようか。あの優等生くんについても君に聞きたいことがあるんだけど……答えにくいかな?」

 

 昨日のことらしい。僕の口からは言えないと頭を下げる。あの男らしいセリフを聞いた後では、なおさらだ。

 

「じゃあ、トーヤ君。私たちに何か聞きたいことはないかな? お姉さんのわがままに付き合ってくれたお礼に何でも答えるよ」

「本当ですか!?」

 

 何でも答える、と言われたんだ。

 だったら今ここで聞くしかない。

 

「おっ、急にテンション上げてきたね。いいよ、話してごらん」

「じゃあ質問。

 失礼ですが、皆さんはもしかして──」

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

「……は? あいつらが5つ子だと!?」

「びっくりしたよ。

 イスから転げ落ちるところだった」

 

 放課後、教室を出ようとする風太郎に急いで話した。何だかそっくり、親せきかなと思って質問した結果がこれだ。

 

「バカな、5つ子とかどんな確率だよ。お前は素直だから、あの年上ぶった女子の冗談を真に受けたんだろ」

 

 あの、風太郎。こいつ何を言ってるんだ、みたいな目で見ないで。

 

「じゃあ、たまたま顔が似ている女子が5人集まったとでも?」

「似ていたか? まあ、五月が友達と食べていたのは驚いたが。悪いが、俺は行くからな。くそ……もう帰り道しかチャンスが無い」

 

 五月を見失うと終わりだ、と風太郎は教室を飛び出していった。

 追いかけようか。いや、ちょっと待った。

 

 食堂で一花さんに言っていたじゃないか。

 

『余計なお世話だ。

 自分のことは自分で何とかする』

 

 自業自得なのは間違いない。五月さんへの謝罪も、高給バイトの話を無かったことにしたくないからだろう。

   

 だけど、風太郎は頭を抱えながらずっと悩んでいた。勉強に全力集中、人付き合いは面倒で嫌だと言っていた男がだ。

 

 このまま教室で「うまくいくように」と祈りながら復習なんて無理だ。かといって風太郎や五月さんがいる所にしゃしゃり出るわけにもいかない。

 

 となると、こっそり動くしかないか。せめて五月さんの家に着くまで、様子を見届けよう。

 

(バレなきゃいいんだ。変装はこうすれば──)

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 これはストーカーじゃない。下校する親友を追っているだけだ。

 身を隠し、離れた場所にいる風太郎を見ながら言い聞かせる。

 

「弱ったな……1人っきりじゃないじゃん。二乃さんや三玖さんといっしょだなんて」

 

 謝るのは難しそうだ。だからって風太郎……顔出しパネルから女子を間近で見るのはまずいよ。人のことは言えないが。

 

「一花さんと四葉さんだったらな──」

「私と四葉だったら、何だって?」

 

 あれ、おかしいなあ。五月さんといっしょだったらと思った人の声が、なんで後ろから聞こえる? ゆっくり振り返ると……

 

「やっほー、トーヤ君。1人で何してるのかな?」

「メガネが似合ってますね、宝条さん!」

 

 やばい、尾行だけじゃなく変装までバレた。伊達メガネでは不十分なのか?

 やらかした。だけど、こうなったらもう正直に言うしかない。

 

「実は……風太郎の後をつけていたんです。メガネは変装のために」

「優等生くんを? 変だね、五月ちゃんたちしかいないけど」

「えっ、上杉さんどこにいるんですか!?」

 

 ああ、そうか。風太郎がしばらく前に隠れたけど、この2人は見ていないのだ。だから僕が五月さんたちを追っていると思ったのか。

 

 一花さんは「やっぱり君も五月ちゃん狙い? このこの~」と突っついてくる。風太郎の居場所を教えるしかないか、と通学カバンに手を伸ばした。

 

「ややっ、上杉さんです! 一花、宝条さんの言う通りだよ」

「どこ? 全然分からなかったよ。

 すごいね、四葉」

「えへへ」

 

 顔だけしか見えないのによく見つけられたなあ、四葉さん。

 だけど、今度は隠れている風太郎がストーカーだと思われてしまう。

 

「う~ん、でも健全な男の子とはいえ女子高生をジロジロ見るのはまずいねえ」

「ごめんなさい。僕はどう言われてもいいから、風太郎は許してあげて。今日から五月さんの家庭教師なんだ」

「ええ~っ!?」

 

 ちょっ、2人とも静かに! 離れているとはいえ、風太郎たちに聞こえたらまずい。

 

「一花、じゃあ今日から来る先生って──」

「あはは、これはおもしろくなってきたかも」

 

 おもしろい? どういうことだろう。同級生が家庭教師ということに驚くのは分かるけど。

 

 というか、つい言ってしまった。風太郎が五月さんを見ていても仕方ない事情を何とか伝えようとしたけど。

 

「トーヤ君、今言ったことは本当だね?」

「もちろん」

 

 一花さんの目を見ながらハッキリ答えた。四葉さんは風太郎たちがいる方をチラチラと見ている。よほど気になるようだ。

 

「君が五月ちゃんたちじゃなく、優等生くんの後を追っていたのも?」

「うん、本当です」

「メガネで変装していたって言ってたことも?」

「それもウソじゃないです」

 

 なぜかは分からないけど、質問するごとに一花さんは顔を近づけてくる。

 堂々としていればいい。だって全部本当──

 

「えいっ」

「え……うわ!?」

 

 一花さんが手を伸ばしてきたと思った次の瞬間、急に目の前が明るくなった。メガネを取られ、前髪を払いのけられたことに少し遅れて気づく。

 

「ふむ、真っすぐできれいな目だね。隠さなくてもいいのに」

「なっ、何ですか急に。それより返してください。

 形見……じゃなかった、大切な宝物の1つなので」

「ごめんね。言葉だけじゃ信じられなくてさ」

 

 確かにそうだ。風太郎が心配だったとはいえ、周りから見れば明らかに僕の行動はあやしい。むしろ話を聞いてくれること自体ありがたい。

 

「僕の方こそごめんなさい。どう見られるか考えるべきでした」

「うん、よろしい。君と優等生くんの友情に免じて許してあげるよ。そうだ、何か気になるし私たちもまぜてくれるかな」

 

 一花さんは、食堂でも見た笑顔でウインクしてきた。

 

 つまり、いっしょに風太郎たちを追いかけようということか。変なことになったけど、ここは断る理由は全くない。

 

「いいね、そうこなくっちゃ。四葉、五月ちゃんたちや優等生くんの様子はどう?」

「それが……三玖が上杉さんに気付いたみたい」

「えっ!?」

 

 考えるより先に手が動いていた。さっきカバンから取り出しかけた宝物の1つをむんずとつかんで両目に当てる。確かに四葉さんの言う通りだ。

 

「あっ、宝条さんずるいです!

 後で私にも貸してください」

「四葉は双眼鏡がなくてもいいでしょ。私が先ね」

 

 順番どころじゃない。何か言っている風太郎に対し、三玖さんが携帯電話で誰かと話している。嫌な予感がした。ま、まさか警察に──

 

「あれ? 三玖……行っちゃった」

「優等生くん、命拾いしたね。でも、そう思わせて二乃や五月ちゃんに知らせちゃったりして」

 

 考えたくもないけど、十分あり得る。でも風太郎は尾行を再開したし、五月さんたちの動きにもおかしな所はない。

 少し心臓のドキドキがおさまってきた。

 

「そういえば……上杉さん、五月に何か謝りたいみたいでした」

「えっ!? どうして四葉さんが、それを?」

 

 一瞬、足が止まった。一花さんは双眼鏡から目を離し、「何それ、教えて」と食いついている。

 

「落とし物を届けた時に上杉さんが頼んできたんです。『俺が謝っていたと五月に伝えてほしい』って。でもそういうのは本人に言わないとって断りました」

 

 頭のリボンを揺らしながら、四葉さんはえっへんと胸を張る。

 

 風太郎、一花さんに言った男らしいセリフは何だったんだい。いや、よく考えろ。時間が無くて追い詰められていたのかも。

 

 学校でたった1人の親友が悩んでいたのに、僕は……

 

「──君。トーヤ君!」

「へっ? な、なんですか?」

「もう、考え事しながら歩いてたら危ないって。

 それより見てごらん、あれが私たちの家だよ」

 

 一花さんが指さす方を見た瞬間、心配事が頭から吹っ飛んだ。

 どれだけ高いんだ、あのマンション。見上げただけで首が痛い。

 

「部屋は最上階で広いですよ。宝条さん、寄っていきますか?」

「いや、さすがに家庭教師の仕事のジャマに……はっ、風太郎は!?」

 

 僕としたことか、一番の目的を忘れていた。

 高層マンションに見とれている場合じゃない。

 

「あー、まずいね。

 二乃と三玖に通せんぼされてる」

 

 双眼鏡でのぞきながら一花さんが答える。まずいという割に口元が笑っているのはなぜなんだ。

 

「あれ、五月さんがいない」

「二乃と三玖が代わりに話を聞いてあげるつもりなんだよ、きっと」

「でも、風太郎が今度も頼むとは思え……あっ!」

 

 風太郎、強行突破したよ。どんなやり取りをしたのかはさっぱりだが、マンションに向かって全速力だ。四葉さんに言われて決心したのかな。

 

 残念だけど僕はここまでだ。このマンションには入れない。

 

「一花さん、四葉さん。色々とありがとうございました。後は風太郎しだいなので、もう帰ります」

「本当に寄って行かないんですか。残念ですね」

 

 家庭教師と教え子のジャマになるだけだ。それにさっきの強行突破を見て確信した。きっと謝れるって。だけど……

 

「トーヤ君、良いの? ここまで来たのに。本当は優等生くんと五月ちゃんが心配なんじゃない?」

 

 うっ、一花さんは鋭いなあ。何でもお見通しなのか。隠せている自信があったのに。

 

「正直、そうです。特に五月さんが許してくれるかどうか。でも風太郎は仕事で来ている。部外者が勝手に入る訳にはいきません」

 

 勉強を教えてと頼んだ相手に冷たく断られ、「太るぞ」とトドメの一撃を食らったんだ。そんな相手の教えを五月さんが受けたいと思う可能性は低い。

 

 それでも五月さんの心を動かすことができるのは、僕の余計な手助けじゃない。良くも悪くも真っすぐな風太郎の言葉と行動だ。

 

「親友として、勉強を教わった者として僕は風太郎を信じます」

「言うねえ。お姉さん、じーんときちゃったよ」

「上杉さん、友達がいないと思っていたけど違っていたんですね」

「あはは。じゃあ、僕はこれで失礼します」

 

 忘れずに双眼鏡を返してもらい、2人に背を向けて歩き出した。

 しばらくして何となく振り返ると……

 

「あれ?」

 

 四葉さんが、さっきの場所にまだ立っていてこっちを見ている。ぶんぶんと手を振ると振り返してくれた。見送ってくれたのかな。

 

 安心したのと同時に疲れがどっと押し寄せてきた。風太郎がうまくいったかどうかは、また学校で聞こう。

 

 この時、僕は気づいていなかった。風太郎が勉強を教える相手、それが五月さんだけではないということを。




 原作でもし一花と四葉が風太郎の後をつけていたら、と考えてオリ主の橙矢を加えたやり取りにしてみました。

 橙矢の宝物ですが、これで3つ登場しました。まだまだ増えます。

 次回、声だけですがついに「あのお方」が登場します。
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