五等分の花嫁~盟友と僕は背中合わせ~   作:ケンドラ

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第019話 「負けない」と「教えない」

「……なかなかやりますね」

「はっきりさせよう、五月さん」

 

 風太郎の手帳や僕の採点などのドタバタがあった日から数日後。ある『勝負』に白黒がつこうとしていた。

 昔の5つ子の写真で、僕が誰を当てたか──の勝負ではない。

 

「望むところです!

 次の一戦で決着を──」

「はい、タイピング勝負はそこまでー。

 パソコンの電源を落とすんだよ」

 

 チャイムと同時に聞こえた先生の声にガクッとなってしまった。

 何でだ、せっかくいいところだったのに。

 

「むむむ、引き分けですか」

「次も僕が勝つよ」

 

 5教科の勉強をしたいくらいな情報の授業。でも最後の早打ちを競う時間だけは別だった。

 久しぶりに中間テストや写真の件が頭から吹き飛んだ気がする。

 

「……負けませんから」

 

 パソコン教室を出て廊下を歩いていると、五月さんがポツリと一言。

 さっきの勝負のことかと思ったら……お互いに単語帳を取り出していた。

 

(僕だって負けない)

 

 そう、中間テストで5つ子よりも低い点数を取ると家庭教師をクビになる。でも五月さんには他にも負けられない理由があるんだ。

 前に注意しながら単語帳で勉強していると──

 

 ガラッ!

 

 教室のドアが開いて、次々に生徒が出てきた。

 ぶつからないように立ち止まった瞬間。

 

「五月! それに宝条さん!」

 

 見覚えのある形のリボンと共に四葉さん登場。しかも、ぬっと後ろから現れたのは──

 

「風太郎」

「……! お前らか。

 移動中も勉強とは感心だな」

 

 そりゃどうも、と僕は笑ったけど姉妹は違ったらしい。

 四葉さんは僕と五月さんを、五月さんは風太郎と四葉さんをじっと見ている。

 

「五月、もしかして──」

「い、行きますよ! 四葉!」

 

 何を思ったのか、五月さんが姉の手を引いて先に行ってしまった。

 いったい……待てよ? 風太郎たちが出てきた教室って……

 

「風太郎って『工芸』だったんだ。

 それも四葉さんと」

「お、お前こそ五月と同じじゃねえか」

 

 もしかして今日の授業でペアを組んだのか、と聞いたがムダだった。

 むすっとした表情のまま歩くだけ。黙秘権を使ってきたよ。

 

「それより、お前大丈夫なのか?」

「な、何が?」

「最近ボーッとしてることが多いぞ。

 五月との勉強で悩んでるのか?」

「まさか。もしそうなら言ってるよ」

 

 ば、ばれてた。来週から始まる中間試験もだけど、例の5つ子写真が気になって。

 誰を当てていたのか確かめていれば、という後悔もあるけど……この変な感じは何だ?

 

「ならいいが、明日は図書室で勉強会だろ。

 しっかりしろよ、橙矢」

「そうだね」

 

 パンとほっぺたを叩いて気合を入れながら歩くうちに、自分の教室に着いていた。

 五月さんは席で教科書やノートを眺めている。

 

「とはいえ、お前以上に心配なのはあいつらだ。

 特に五月と二乃は……」

 

 腕組みをしながら五月さんを見る風太郎。何となく考えていることは分かる。

 その2人が勉強会に来ないと全員そろわない。

 

「……! 橙矢、俺に良い考えがある!

 放課後付き合ってくれ!」

「えっ、いいけど」

 

 この時の僕は知る由もなかった。勉強ではなく、風太郎の『予想外の特訓』にたっぷり付き合わされることに。

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

「よし、作戦決行だ。

 特訓の成果を見せてやるぜ」

「その意気だよ」

 

 翌日、授業終了を告げるチャイムの音と共に風太郎が席を立った。

 僕は邪魔にならないように廊下に出て、ドア越しに待機。

 

(うまくほめるんだよ)

 

 いや、失敗はしない。放課後の屋上や風太郎の家でしっかり特訓したんだ。

 勉強では鬼のように厳しいけど、その分良いところを見て──

 

「やっ、トーヤ君。何してるのかなー?」

「教室に入らないんですか?」

 

 び、びっくりした。急にポンと肩を叩かれたから何事かと。

 何か前にも似たような場面があった気がする。

 

「いま、ちょっとね」

 

 ドア越しに教室の中が丸見えなので、一花さんと四葉さんに隠せない。

 しょうがないと風太郎と五月さんを指さした。

 

「ほほう、これはこれは」

 

 思った通り、一花さんが食いついたような反応を見せた。

 そこまでは良いとして携帯電話を取り出したのは見過ごせない。

 

「ダメだって、一花さん。後で怒られるよ」

「トーヤ君こそ良いの?

 五月ちゃん、取られちゃうよ?」

「何の話……」

 

 変に思われても困るので、作戦について話すことにした。

 作戦といっても、五月さんをほめて放課後の勉強会に参加してもらう流れだけど。

 

「なーんだ。お姉さんがっかり」

「うまくいくと良いですね、上杉さん」

 

 大丈夫、と教室のドアを少しだけ動かした。狙い通り、風太郎の声が聞こえてくる。

 

「──それに、昨日も単語帳を使ってただろ。

 勉強に対する姿勢は俺たちにも負けてねえ」

「……どうも」

「俺だけじゃなく橙矢もお前をほめてたぞ。

 姉妹で一番真面目で頑張り屋だとな」

 

 そんなこと言ったの、と一花さんがささやいてきた。しまったな、この場面は想定してなかったよ。

 だけど五月さんも嫌ではなさそう。いける、いけるぞ!

 

「自信を持って良いのでしょうか」

「ああ! ただ『馬鹿』なだけなんだっ!」

 

 あっ、と一花さんと四葉さんが同時に声を出すまでもない。どう考えてもほめ言葉じゃない単語が僕らの耳を貫いた。

 五月さんが聞き逃しているようにと願ったが──

 

「五月、意地張ってないで勉強会に……」

「そうですね。

 なぜもっと早く気付かなかったのでしょうか」

 

 手を差し伸べた風太郎を素通りして、五月さんは教壇にいる先生に近づいていく。

 

「この問題を教えてもらっても良いですか?」

「わかりました。後で職員室に来なさい」

「はい、先生。ありがとうございます!」

 

 ガクリとひざをつくしかなかった。何で……風太郎ってすぐ『馬鹿』って言ってしまうん?

 さっきとは違う感じでポンと両肩を叩かれるのが分かった。

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

「フータロー、大丈夫?

 冷やしたほうがいい」

 

 放課後、少し遅れて図書室に現れた風太郎に三玖さんがかけたのがこの言葉。

 さっきまで普通だった風太郎のほっぺたが──

 

「トーヤ君、ダメだよー。

 腹が立ったからって、ビンタはよくないな」

「ええっ!?

 宝条さんが、やったんですか?」

「いや、僕じゃないって!」

 

 手の大きさが違う、と必死にアピールするしかない。そもそも一花さんに言われるまで叩かれた跡だとすら思わなかった。

 確かに赤くはれている所はパーの形に見えなくもないけど。

 

「風太郎、誰にやられた?」

「……五月じゃない、と言っておく」

 

 張り手を食らわした人物が分かった気がした。

 かたき討ちと行きたいけど、またバカ呼ばわりした可能性もあるのが悲しい。

 

「上杉さん、元気出してくださいよ。

 気晴らしにクイズでもどうですか?」

「今はそんな気分じゃない」

「では問題ですっ!

 今日の私はいつもとどこが違うでしょーか?」

 

 ほんの一瞬、風太郎が出題者を見つめた。勉強以外の問題に答えるのは、なかなかレアな場面だぞ。

 どう答えるのか、と思った瞬間。

 

「お前ら、分かってるのか?

 もうすぐ何があるのかをな」

「林間学校だよね、フータロー君」

「無視!?」

 

 答える価値無し、とでも言わんばかりのスルーっぷり。

 四葉さんには気の毒だけど、風太郎らしい反応ではある。

 

「うーん、上杉さんには難しすぎたかなー。

 じゃあ……宝条さん、5秒以内にどうぞ!」

 

 か、解答者チェンジだと!? 完全に不意を突かれた。

 別にいつもと同じに見えるけど。かといって「分からない」と答えたくないな。

 

「か、髪伸びた?」

 

 どう見ても苦し紛れの答えだ。制限時間があったとはいえ、これはない。

 四葉さんにも「そんな1日で伸びませんよー」と言われるに決まってる。

 

「うーん、残念!

 だけど見て欲しい場所は近いですよ!」

「……あ、もしかしてリボンの柄?」

「お見事っ! 正解です」

 

 確かに言われてみればはっきり分かる。四葉さんいわく「チェック柄が流行っている」そうだ。

 柄に気付かなかったなんて一生の不覚──

 

「ようし、お前ら歯を食いしばれ」

「えっ……わ~っ!」

「い、いたたたっ!」

 

 風太郎の手が四葉さんのリボンをつかんだのが見えた瞬間、僕の頭にもグリグリと痛みが走る。

 一花さん、笑ってないで止めてよ!

 

「四葉ぁ……柄にこだわるのは結構だがな。

 お前の答案も『チェック』が大流行だぞ」

「あ、あはは」

「橙矢ぁ……問題に答える心構えは良いけどな。

 もっと向き合うべき問題があるだろ?」

「うっ、返す言葉もないよ」

 

 四葉さんのリボンを整えながらも、風太郎は落ち着かない様子だ。

 やっぱり五月さんたちの説得に失敗したのが響いているのかな。

 

「一花も笑ってないで聞け!

 そんなもの楽しみにしてる場合じゃねえぞ」

「えーっ、何で?」

「中間テストを乗り越えないと話にならねえ!

 今のままだと林間学校は夢のまた夢だっ!」

 

 頭の痛さが気にならなくなった。自分の点数ばかり気にしてる場合じゃない。

 5人の点数を少しでも上げるよう努力しないと意味ないじゃん。

 

「まあまあ、お姉さんも頑張るから。

 でもテストまでまだ1週間あるんだよ?」

「何言ってるんだ、あと1週間しかないんだぞ。

 5科目の勉強を徹底的にやるから覚悟しろ」

 

 えーっと悲鳴をあげながら自称お姉さんが机に突っ伏した。

 四葉さんも苦笑い、三玖さんは……んん?

 

「み、三玖……英語の勉強してるのか?」

「うん」

「苦手科目のはずじゃ……大丈夫か?

 熱があるなら勉強しないで休んだ方が──」

「平気。少し頑張ろうって思っただけ」

 

 今の聞いたか、というような驚きの目で風太郎がこっちを見てきた。

 ばっちり聞いた。これは僕も負けてられないぞ。

 

「トーヤ」

「な、何?」

「後で復習ノートを貸して。

 もう一度、卒業試験の問題をやってみたい」

「良く言ったぞ、三玖!

 橙矢、一花と四葉にも渡してやれ」

 

 カバンに素早く手が動いたのは言うまでもない。3冊のノートにそれぞれ張り付いたカード──ジョーカー・クラブ・ハート──がいつもより輝いているみたいに感じた。

 

「よーし、みんな頑張ろー!」

 

 何だ、やる気十分じゃないかとホッと安心。きっと大丈夫と思っていた。

 3姉妹から「ごほうびが欲しい」と帰り道で言われるまでは。

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

「お待たせしましたー。

 フルーツパフェと抹茶パフェです」

「わあ、おいしそー!

 いただきまーす!」

 

 初めてパフェという食べ物をお店で見た……って驚いてる場合じゃない。

 お、お金足りるか自信無くなってきた。

 

「トーヤ君も頼めば良かったのに。

 本当にそれでいいの?」

「う、うん。大丈夫」

 

 確かに3人の豪華なパフェに比べると、僕のホットココアが地味に見える。

 あーあ、花火大会で散財するんじゃなかったな。

 

「上杉さんも来れば良かったのにねー」

 

 本当だよ、と口元にクリームを付けた四葉さんを見ながら思った。

 ごほうびが欲しい、に対する答えが「帰る」だからなあ。

 

「四葉、急用なら仕方ない」

「あれー、本当にそう思うの?

 フータロー君が居なくて残念なんじゃない?」

「な、何言ってるの」

 

 一花さんの言葉に三玖さんはぷいっとそっぽを向く。もっと勉強したかったと思ってくれたなら嬉しいなあ。

 実際、風太郎にほめられていた時は喜んでたし。

 

「ふう……」

 

 大丈夫だろうか、とココアを飲みながら息をついた。お金のことではなく……実は「帰るなら五月さんに謝ってから」と風太郎に言ってある。

 気が進まない感じで学校に戻って行ったけど。

 

「宝条さん、どうかしましたか?」

「やっぱりパフェが欲しいんじゃない?

 それとも美少女に囲まれて緊張してるとか」

 

 あわてて「どっちでもない」と否定しようとした時だった。

 

 プルルル!

 

 タイミングが良いのか悪いのか携帯電話が鳴り出した。

 かけてきたのは……あっ。

 

「中野さんからだ」

「えっ?」

「風太郎と僕の雇い主の」

 

 ポカンとしていた3人だったけど「すぐに出たほうがいい」と全員の意見が一致。

 嫌な予感がする。急用以外で連絡するな、と言われてたのに。

 

「もしもし」

『宝条君。娘たちが世話になってるね』

「……っ!?」

 

 一瞬、この場を見られているのかとあたりを見渡した。

 よく考えれば仕事で忙しい人だそうだから、それはない。

 

「中野さん、お久しぶりです」

『家庭教師の調子はどうかな?』

「も、問題ありません。

 5人ともやる気十分ですから」

『……そうか』

 

 何だろう、今の間は。どもったから、ごまかしたのがバレたのか?

 店にいることに気付かれないように外に出てはいるけど。

 

『連絡したのは中間試験の件だ。

 急な話だが……成果を見せてもらいたい』

「成果、ですか?」

『時間が無いので結論から言おう。

 娘たち5人のうち1人でも赤点だったら──』

 

 じわっと汗が出てきた。頼む、最悪の事態だけは勘弁してくれ。

 

『君と上杉君には家庭教師を辞めてもらう』

「なっ!?」

 

 そんな……いくら何でも急すぎる。夢なら今すぐ覚めてほしい。

 ほっぺたをつねったけど、痛い。現実だ。

 

「ま、待ってください」

『何だい? これは雇い主として当然の条件だ。

 達成してもらわないと、娘たちを任せられない』

 

 だからって、このタイミングでハードルなんてと言えたらどんなに楽か。

 うう……だけどここはこらえるんだ。

 

「中野さん、上杉君にはこのことを?」

『ああ。ついさっき連絡したよ。

 2人とも健闘を祈る』

 

 ブツッと電話を切られてしまった。なんてこった、風太郎にも電話していたのか。

 待てよ? だとしたら、まずい!

 

「トーヤ君、どしたー?」

「わっ!……一花さん」

 

 肩をたたかれて振り返ると、自称お姉さんが店から出ていた。

 事情を説明したいけど頭が全然回らない。

 

「だ、大丈夫? 汗びっしょりだけど」

「ごめん! 急用ができちゃって。

 悪いけど支払いはこれでっ!」

 

 震えながらもお札を数枚、財布から取り出して一花さんの手に握らせる。

 驚いたような声を聞く前に学校に向かって自転車発進。

 

『風太郎、帰るならお願いがある。

 五月さんに謝ってからにして』

『……どうしてもか? しょうがねえな』

 

 風太郎が五月さんに謝って、別れてから電話を受けたのならまだいい。だけど、もし電話の後に五月さんと会ったとしたら?

 頼む、これ以上悪い状況にならないでくれっ!

 

「おい、何だあれ? ケンカか?」

「うるさいわね」

 

 通行人の声にまさかとあたりを見渡して目を細める。いたっ、風太郎だ!

 

「……俺の言うこと……橙矢……聞け……」

「私は……言い方……お金……」

 

 大変だ、と自転車を乗り捨てて風太郎と口論しているもう1人の人物に猛ダッシュ。

 かすれ声で名前を呼びながら近づいたけど──

 

「お前にだけは絶対に教えねー!」

「あなたからは絶対に教わりません!」

 

 一番聞きたくない言葉が僕の耳を直撃した。 




 お久しぶりです! 前回のアンケートに協力してくださった方々には本当に感謝申し上げます。学園祭もキリが良い所で1話投稿しますので、なにとぞよろしくです。

 今年も1年ありがとうございました。来年も『五等分の花嫁~盟友と僕は背中合わせ~』をよろしくお願いいたします!
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