五等分の花嫁~盟友と僕は背中合わせ~   作:ケンドラ

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第021話 勉強仲間

「好きな女子のタイプ……?」

 

 夜の勉強会で、まさかの質問。三玖さんに聞かれた風太郎の気持ちが今になって分かった。

 困ったな。でも恋愛クソ食らえ主義のもう1人の家庭教師がきっと──

 

「良い質問だな、一花!

 橙矢、ランキングの紙ならまだあるぞ!」

「ふ、風太郎!?」

 

 計算が狂った。これ以上勉強以外の質問はするな、と言うと思ってたのに!

 答えるのが嫌というよりも……今は大きな問題が。

 

「トーヤ君、どうしたの?

 2階なんか眺めちゃって」

「いや、別に何も」

「はっ……!

 まさか、好きな女子のタイプって……!」

 

 一花さんがニヤニヤし始めたので慌てて「違う」ときっぱり。

 変な勘違いをされる前に説明しないと。僕が騒ぐと五月さんの自習の邪魔になる。それに二乃さんの手前、遊ぶ訳にはいかない。

 

「ま、まじめですねー。宝条さん」

「その気持ちは立派だと思うよ。

 でも、たまには息抜きも必要じゃない?」

 

 もちろんタダで教えろとは言わない、ノートをきちんと埋めるからと手を合わせてきた。

 そこまで言われると弱った。これ以上断ると3人が勉強する機会を無くしてしまう。

 

「……分かったよ。

 人生ゲームにも加わらなかったしね」

「やった! そうこなくっちゃ。

 三玖、四葉、がんばろー!」

「うん」

「宝条さん、らいはちゃんは無しですよ!

 上杉さんと同じ答えにしないでくださいね」

 

 分かってるって、四葉さん。そんなことしたら風太郎からどんな仕打ちを受けるか。

 ずっと勉強させられる終身刑か、最悪だと……いや、それよりも何て書こう。

 

「……う~ん」

 

 そもそも好きな女子のタイプなんて考えたことが無い。

 生きてるだけで精一杯だったし、風太郎と会ってからはますます勉強一筋だったし。

 

「橙矢、早くしろ。

 こいつらノートをもう少しで埋めるぞ?」

「えっ!? あ、うん」

 

 よし、こうなったら──こう書くしかない。どう言われるかは分からないけど、これが僕なりに考えた答えだ。

 しかし、3人ともノートを書くのが速いなあ。普段の何倍のスピードだろう。

 

「よし、できたよっ。

 まずはお姉さんが一番乗り!」

「じゃあ順番に行くよ。

 第3位は……『負けず嫌い』!」

 

 シールを勢いよくはがすと、おおっと3人から声があがる。

 何か少し恥ずかしい。まだあと2回もあるのに。

 

「トーヤ、できた」

「よしきた、三玖さん。

 第2位は『物を大切にする』!」

 

 これまた3姉妹が違う反応を見せてきた。大丈夫だよね、らいはちゃんとか風太郎のことを書いたとか思われていないよな。

 一番答えに困るのが「〇〇のことを書いたのでは?」と言われることだから。

 

「はいっ!

 宝条さん、私も終わりましたっ!」

「よし、これで最後だね。では栄光の第1位!

『ありがとう・ごめんなさいが言える』!」

 

 やった、発表が終わった。これで勉強を再開──

 

「ほほう、なるほどね」

「……これは興味深い」

「宝条さんらしい答えですっ!」

 

 3人の食いつきがすごい。ランキングの紙を手に取って、笑ったりこそこそ話したりし始めた。

 おまけに風太郎も勢いよく迫ってくる。

 

「橙矢、お前まさかとは思うが。

 女子を好きになったことがあるのか?」

「……無いよ」

「むむっ、今の間はあやしいぞ~!」

 

 一花さん、火に油を注ぐのはやめて! 

 風太郎が今にも胸ぐらをつかんできそうなんだよ。

 

「上杉さんこそ、無いんですか?」

「何がだ?」

「もちろん、女の子を好きになったことですよ」

 

 無えよ、とそっぽを向いてしまった。恋愛となると怖いオーラを放つからなあ。

 僕を問い詰めたのも、風太郎らしい反応だ。

 

「えーっ、今だって美少女だらけなんだよ!

 実はドキドキしているんじゃないの?」

「橙矢は知らんが、俺は無い」

「むっ……四葉、チェーック!」

「了解!」

「な、何すんだ! こっち来んな!」

 

 ドタバタと始まった鬼ごっこ。これだけなら笑って見ていられたんだけど。

 僕だけ何も無いなんてことがある訳なかった。

 

「トーヤ君、キミはどうなのかな?

 お姉さんが確認してあげよう」

 

 な、何だ? 手なんか伸ばしてきて……まさか心音を確かめる気!?

 まずいって! 落ち着け心臓。

 

「ど、どいてくれ! 橙矢!」

「ぐはっ!」

 

 走り回っていた風太郎にドンと突き飛ばされ無様に倒れてしまった。逃げようと起き上がったけど、時すでに遅し。

 手首をつかまれて、一瞬助け起こしてくれたと思ったんだけど──

 

「どれどれ……むっ、これは!

 ドキドキしていないとは思えませんなー!」

「一花、上杉さんもドキドキしてるっ!」

 

 四葉さんに直接心臓のあたりを確認されている風太郎とは違って、手首の脈なら簡単にバレないと安心したのに。

 補佐役として落ち着かないとダメじゃないか。

 

「ランキング発表で緊張しただけだよ」

「俺も走り回ったから、ドキドキしているんだ!」

「……2人ともあやしい」

 

 三玖さんの一言に風太郎も僕もぐうの音も出ず。だけど、このまま黙っている訳にはいかないと一花さんに手を放してもらったまさにその時。

 ガチャッと2階からドアが開く音がして──

 

「騒がしいですよ。

 勉強会とはもっと静かなものではないのですか」

 

 さっきの風呂場の時とは違って、今度は正真正銘の五月さんが顔を出してきた。

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

「はあ……何やってんだ、僕は」

 

 ただいま、ベランダで夜空を見上げながら後悔中。息抜きが必要だったとはいえ、はしゃぎすぎた。 

 あの後五月さんも「1人で集中したい」と三玖さんからヘッドホンを借りて自室に戻ってしまったし。

 

『五月、お前のこと信頼して良いんだな?』

『……足手まといにはなりたくありません』

『ま、待てよ!』

 

 きっと風太郎は1人で試験勉強できるのか、と心配だったんだ。

 五月さんの答えにも引っかかるところがあったに違いない。

 

「くっ、どうすれば……」

「悩みすぎは良くないよ」

「え!?」

 

 自称お姉さんが陽気に手を振りながらベランダに出てきた。

 まさか、またドキドキチェックをされるのではと身構える。

 

「そんな怖い顔しないで。はいこれ」

「……何、このお金。

 人生ゲームのお札や硬貨にしてはリアルだけど」

「もー、違うよ。

 昨日トーヤ君が渡してきたお金だって」

 

 そういえばパフェ代として財布から出してたっけ。

 あれ……ってことは?

 

「いやあ、本当におごってくるとは思わなかったよ。

 キミのココア代は引いてあるから確認してね」

「何で……?」

「まっ、細かいことはいーから。ねっ」

 

 せっかくのお金なんだから、と笑顔の一花さん。正直、何が何やらさっぱり。

 3姉妹は自分たちで払ったことになるけど。ごほうびが欲しい=おごってほしい、じゃなかったのか?

 

「それよりさ、やっぱり心配?

 フータロー君と五月ちゃんのケンカが」

「……っ!」

 

 気付いてたんだ、とびっくりしたけど……よく考えれば当たり前だ。

 学校で風太郎がバカ呼ばわりしたのを見たんだし。

 

「昨日、私たちの家に来てた理由も分かるよ。

 2人で謝ろうとしてたんじゃない?」

「……さすがだね。

 未来の名女優は全てお見通しなんだ」

 

 言うねぇ、とバシッと肩を叩いてきながらも満更でもなさそうな顔を見せてきた。

 変な言い方だったかと焦っていると──

 

「まあね。オーディションにも受かったしさ」

「えっ!?……お、おめでとう」

「ふふ、ありがと」

 

 そうか、合格できたんだ。心配や不安だらけの出来事が続いていただけに、ほーっと一息。

 映画の撮影は中間試験の後にあるらしい。

 

「おっ、少しは明るい顔になったじゃん」

「そ、そう?」

「ずっと1人で勉強してた時はひどかったよ。

 最後に五月ちゃんが部屋から出てきた時は──」

 

 この世の終わりみたいな顔をしていた、とはっきり言ってきた。鏡が無いから分からないけど周りから見たらバレバレだったのか。

 あまりの悩みように、風太郎より僕と先に話をしなきゃと自称お姉さんは考えたとか。

 

「……行動して2人の力になりたいのに」

「えっ?」

「僕は何もできてないんだ」

 

 学校の食堂や教室の時も、悩んだり見守ったりするだけだった。

 はっきり言って僕がいてもいなくても変わらないのでは?

 

「行動できていない、なんて私は思ってないよ。

 ただキミ自身が気付いていないだけで」

 

 何だ、この一花さんの確信は。それに目が真剣そのもの。

 どう見ても冗談で言ってるとは思えない。

 

「僕が……気付いていない?」

「そうそう。じゃあ、聞くけどさ。

 キミにとってフータロー君と五月ちゃんは何?」

 

 もちろん風太郎は親友だし、僕を救ってくれた恩人でもある。

 それは堂々と質問者に言えた。じゃあもう1人は?

 

「五月さんは──」

 

 僕なりに考えた言葉を伝えると、自称お姉さんが無言でじっと見つめてきた。

 えっ、地雷踏んだ? 変なことを言ったか?

 

「ぷっ、あははははっ!」

「なっ!?」

 

 真剣な表情が一瞬で笑い顔に。あまりの声に部屋にいる風太郎たちの声が聞こえなくなった気がした。

 僕なりにまじめに考えたんだけどな。

 

「ごめん。まさか、そう返すとは思わなくてさ。

 友達とか親友って言うかなーって考えてたから」

 

 そっかそっかと笑いながら星空を見上げている。一花さんの質問の意図は何なんだろう。

 泊まりこみでの勉強を提案してきたことといい、考えが読めない。

 

「考えが聞けて良かったよ。

 ふふ、花火大会のフータロー君を思い出すねえ」

「……?」

「まっ、とにかく自信持ちなって。

 あの2人は頑固で不器用だけど……」

「だけど?」

「トーヤ君なら苦しんでる2人に寄り添えるよ。

 キミにしかできないことがきっとあるから」

 

 2人に寄り添う……僕にしかできないこと……?

 考えろ。風太郎にも5姉妹にもできなくて、僕だけ可能なのは何だ?

 

(……! もしかして)

 

 当たって砕けろ、じゃないけどやってみよう。見ているだけ、勉強で現実逃避するだけはもう嫌だ。

 今動かないでどうする、とペンダントをにぎる手に力が入る。

 

「一花さん、色々ありがとう。

 お陰で気が晴れたよ」

「よし、なら良かった。

 コミュニケーションは大事だぞ?」

 

 一花さんが片手をグーにして突き出してきたので、僕も同じくコツンとぶつけた。

 確かに、あのまま1人で復習ノートと格闘してたら何も状況は変わらなかったと思う。

 

「あ……トーヤ君」

「何?」

「フータロー君とも話すけどさ。

 何が、とは言わないけどお願いね」

 

 任せて、としっかり頷いて部屋へと歩く。不思議なことに長く外にいた割には全然寒くなかった。

 室内では風太郎たち3人が勉強中。

 

「風太郎、一花さんが呼んでるよ。

 ベランダに行ってあげて」

「え……何だ、いったい……」

 

 ブツブツ言いながらも、立ち上がって窓の方へと向かっていく。

 一花さんのことだから怒って説教はしないだろう。

 

「宝条さん。上杉さんにも聞いたんですけど。

 今夜はどこで寝るんですかー?」

「大丈夫、僕が寝る場所はいらないから」

「……どういうこと?」

 

 ずっと起きてる、と宣言すると「えっ!?」と三玖さんと四葉さんが顔を見合わせた。

 今夜だけは、のんきに寝る訳にはいかない。

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

「五月さん、橙矢だけど」

 

 この部屋のドアをノックするのは、卒業試験の答案用紙を返しに来た時以来か。

 事前に「用があるので部屋に行く」とメールはしたけど……緊張するな。

 

(頼む、出て来てくれ)

 

 前回は5人全員に答案用紙を最終的に返せば良かったから後回しにできたけど、今度はそうはいかない。

 何時間かかろうともドアが開くのを辛抱強く待つしかないんだ。

 

 ガチャッ

 

「……何の用ですか」

「勉強のことで、話をしたいんだ」

 

 復習ノートを持つ手にぐっと力が入る。うつむいていて表情はよく分からないけど、五月さんの様子は予想以上に深刻だった。

 話なんてしたくない、という雰囲気しかしない。声もさっきはしっかりしてたのに。

 

「話の内容次第では、出て行ってもらいますから」

「分かった……おじゃまします」

 

 部屋が暗かったから、一瞬もう寝ていたのかと思ったけど違った。勉強机の明かりだけがついている。

 まさか……こんな状態で1人で自習を?

 

「それで、話というのは?

 先に言っておきますが、教えは受けませんよ」

「強引に教えに来たんじゃないんだ。

 分からない所を僕に教えてほしくて」

 

 キッと五月さんが顔を向けてきた。自分1人で頑張ると言ったのに、と言わんばかりの表情で。

 今にもノートを引っつかんで投げてきそうだ。

 

「必要ありません。

 1人で自習すると伝えたはずですが」

「……分からない所なんか無いってこと?」

「私だって参考書や問題集を買ったんです!

 自分の力でやれますから、放っておいて下さい!」

 

 確かに机の上にあるのは教科書やノートだけじゃない。五月さんだってメガネをかけているから本気モードなのも分かる。

 だけど、顔がよく見えることではっきりしたこともあるんだ。

 

「断る。だって泣いてるじゃないか」

「……っ!?」

 

 花火大会で迷子になってた時とは比べものにならない。涙を流していなくても、目元や鼻が真っ赤だからはっきり分かる。

 一花さんに「ひどい顔だった」と言われた僕が思うのも何だけど。

 

「か、関係無いじゃないですか!

 私がどんな気持ちで勉強していようと」

「五月さん……」

「どうして、ここまで関わろうとするのですか!?」

 

 お金や上杉君のためなのか、と五月さんが鋭い視線で見てきた。確かに家庭教師の補佐役としてはそうかもしれない。

 じゃあ、僕個人としては……?

 

「…………んだ」

「えっ?」

「放っておけないんだ!

『勉強仲間』が1人で苦しんでいるのをっ!」

 

 つい少し前に口にしたことを、自分でびっくりするぐらい大声で叫んでいた。   




 長くなったので、ここで区切ります。5つ子の皆さん、ハッピーバースデー! 
 次回は徹夜をしてまでの橙矢の行動に注目です。
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