五等分の花嫁~盟友と僕は背中合わせ~   作:ケンドラ

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第022話 徹夜と本音と復習ノート

「勉強……仲間……」

「うん!」

 

 強く頷くと五月さんは黙り込んでしまった。つい声を荒げて言ってしまったけど後悔はしない。

 たとえ部屋を追い出されることになっても──

 

「よ、よく言えますね!」

「えっ?」

「そんな恥ずかしくなることを……堂々と」

 

 ぷいっと顔を背けたので、再び表情が分からなくなってしまった。

 弱気になるな。苦しんでいる相手を放ってはおけないだろ。

 

『キミにしかできないことがきっとあるから』

『コミュニケーションは大事だぞ?』

 

 勉強仲間、という言葉に笑いながらも勇気をくれた人のセリフがよみがえる。

 考えろ……今、ここで言うことは?

 

「何度でも言うよ。僕は力になりたくて来たんだ。

 五月さんは勉強を教えてくれたから」

「……!」

 

 持っていた復習ノートをそっと差し出すと、ハッとした様子に見えた。

 もっともそれは一瞬だけで、首を振って背を向けてしまう。

 

「対等に教え合う……その考えは嫌ではありません」

「だ、だったら──」

「しかし、あなたは彼の補佐役でしょう。

 私に対して思っていることは同じなのでは?」

 

 もしかして、風太郎が五月さんに言い放ったことが関係しているのか?

 だとすると答え方を間違うわけにはいなかい。

 

「それは、お金や素直に従ってという考えのこと?」

「ええ。実際、上杉君から言われましたから」

 

 お金のために働く気持ちは、何不自由なく苦労も無いお金持ちには分からない。

 確かに僕も5つ子をうらやましく思ったことはあったけど……

 

「お金持ちにだって苦労はあると思ってる。

 5人を金もうけの道具と考えたことも無いよ」

「待ってください。

 あなたもお金が必要なのではないのですか?」

「ど、どうしてそれを……」

 

 上杉君との口論の時に彼が口にしたと、五月さんが言いにくそうに答えてきた。

 なんてこった。だけど今さら責めてもしかたない。

 

「その通りだよ。僕はお金を返したいんだ。

 家族がいない僕を育ててくれた施設の人にね」

「!?」

 

 あまり言いたくないのが本音だ。でも5つ子の母親のことを三玖さんから聞いたからには、僕も何か言わないと公平じゃない。

 それよりも五月さんが振り向いて固まってしまったのが気になる。

 

「五月さん?」

「……い、いえ。何でもありません」

 

 やっぱり施設育ち、というのがあれだったのかな。花火大会で二乃さんに携帯電話の連絡先を見せた時も「施設長!?」って警戒されたし。

 無言の時間にどうしようかと悩んでいると──

 

「お金の件は分かりました」

「う、うん」

 

 意外なことに落ち着いた声。家族がいないとはどういうことだと問い詰めたり、だからどうしたと怒ったりする様子じゃない。

 とはいえ、まだ教え合いや教えを受ける気持ちにはなっていないようだ。

 

「でも、私は許せません。

 黙って言う事を聞けと上杉君に言われたことは」

「…………」

「宝条君が私を見下していないのは分かります。

 でも、彼に従ってとは思っているのでしょう?」

「補佐役としては、そう思ってる」

「やはり……! ならばこれ以上の話は──」

「待って!」

 

 今すぐ出て行って、とばかりに五月さんが迫ってきたので慌ててストップをかけた。

 ここまできて部屋を追い出される訳にはいかない。

 

「僕個人の考えは違うよ!

 五月さんは風太郎と向き合おうとしてるんだ」

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

「どういうことですか?

 私は一花や三玖のように素直には……」

 

 そもそも、あんなデリカシーが無く乱暴な人と向き合おうとした覚えは無いとぷく顔になった。

 はっきり言うなあ。僕が言えないだけか。

 

「五月さんだけなんだよ。

 勉強で正々堂々と風太郎に対抗してきたのは」

「えっ?」

 

 卒業試験の時に真っ先に「受ける」と口にしたのは? 試験の結果が散々でも、復習し直して最初に僕に採点をお願いしてきたのは?

 今も単語帳や参考書、問題集などを使って風太郎や僕が知らない所で「負けない」と努力しているのは?

 

「向き合っていない相手にできることじゃないよ」

「……ち、違います。

 自分の力で彼を見返そうとしただけです」

「そうだとしても、お礼を言いたいんだ」

 

 テストでいつも満点の風太郎に、僕は心のどこかで「敵わない」という気持ちが大きくなってたんだ。

 でも目の前にいる人は……違う。たとえ点数の差が歴然でも白旗を上げなかった。

 

「ありがとう。風太郎の良い所も見てくれて。

 それと、負けない気持ちを思い出させてくれて」

「…………」

 

 あ、あれ。うつむいてしまった。素直じゃなくても風太郎と向き合っている、それに僕にも良い影響を与えてくれたと伝えたかったんだけど。

 もっと他に分かりやすく相手に寄り添った言い方があったんじゃ……?

 

「宝条君、あなたは大切なことを忘れています」

「た、大切なこと?」

「私と上杉君が口論した所を見たでしょう」

 

 ぐっと言葉に詰まった。僕が駆け付けた時に、2人が互いに勉強を教えない・教わらないと大声で口にしていたのは忘れたくても忘れられない。

 家庭教師クビの危機、という理由で風太郎があせっていたと言うのは言い訳だ。

 

「風太郎は……その……」

 

 勉強を教えないと言い放った本人は本気で後悔しているし、何度も謝ろうとしていた。

 風呂場では声まねをした二乃さん相手とはいえ「悪かった」と言ってた……と伝えられないのが悔しい。

 

「分かっています。

 昨日もマンションの入り口まで来ていましたね」

「えっ!?」

 

 部屋番号を押した時に何か反応があった気がしたんだけど、やっぱりいたんだ。

 ほんの少しだけど希望が見えて──

 

「私に非が全く無いとまでは言いません。

 でも、勉強を教えてとは……」

 

 口が裂けても言えない、ときっぱり。ショックだけど気持ちは分かる。僕でも、太るだのバカだの勉強を教えないだのと言ってきた相手に「勉強を教えて」なんて言えない。

 五月さんが1人で頑張りたいのも、教えを乞う=負けた気になると考えているからなのかも。

 

「じ、じゃあ言い方を変えてみるってのはどう?」

 

 例えば僕に言ってくれたように「ここが分からない」とか。

 とにかく「教えて」と言えないのなら風太郎に別の言い方をすれば……

 

「せっかくの提案ですが、彼に言うのは嫌です。

『こんな事も分からないのか』と見下してくるかと」

「保証するよ。風太郎は絶対にそう言わないから」

 

 確かに勉強に厳しい時には言うかもしれないけど、今の五月さんにバッサリ言うほど風太郎は血も涙もない人じゃない。

 もし言って来たら、僕もそれなりの罰を受ける覚悟はある。

 

「分からない所がある事は恥ずかしくないよ。

 それをバカにする方がよっぽどだと思う」

「…………」

 

 さすがに、今から風太郎と謝り合ったり勉強をしたりするのは難しいか。

 かといって無理強いもできない。五月さんの返答に全てがかかっている。

 

「宝条君は笑いませんか?」

「何を?」

「……分からない所がたくさんあると言っても」

 

 笑わない、と頷きながら復習ノートに視線を向ける。さすがに目元に手を当てる相手を直視することはできなかった。

 これほどまで自分を追い込んで頑張ってたんだ。

 

「分かりました。

 解けなかった問題や解説文を……教えます」

「……! うん」

 

 部屋の電気を点けると移動する五月さんに、へなへなとその場に座り込みそうになるのを何とかこらえた。

 だけど、まだまだこれからだ。風太郎と仲直りするまでは気を抜けない。

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 ありがたいことに、五月さんは5教科のテスト範囲で分からない所を全部教えてくれた。これは徹夜でまとめる価値がある。

 よく頑張ったと言いたい所だけど、それを言うべきなのは僕じゃない。

 

「もう夜も遅いですよ」

「よし、ここまでにしよう」

 

 最初は言いにくそうな感じだったけど、僕が分からなくて五月さんが分かる所を聞いたのが良かったのか。

 次第に「ここが分からない」と言ってきたし、最後には「教えてください」と静かに口にした。

 

(これなら、風太郎にも言えるかも)

 

 希望が見えてきて嬉しいけど、うとうとしている五月さんの前ではしゃぐ訳にはいかない。

 夜遅くまでごめん、後は任せてと伝えて部屋を出ようとすると──

 

「宝条君」

「何?」

「……いえ、何でもありません。お休みなさい」

 

 何だったんだろうと気にはなったけど「お休み」と返して部屋を出た。とにかく五月さんにやれるだけのことはやったと思う。

 後は復習ノートにまとめて風太郎に渡すだけだ。

 

「あれ?」

 

 1階に移動するとリビングには誰もいない。他の姉妹は部屋に戻っただろうけど、風太郎はどこだ? てっきりソファで横になっているだろうと思ってたんだけどな。

 まあこれだけ広い家なんだし、客室かどこかで寝てるのかも。

 

(見てろ、必ず朝までに仕上げてみせる!)

 

 パンッとほっぺたを叩いて気合注入。もうとっくに午前零時を過ぎてるけど、そんなこと関係ない。

 まずは理科からだ。次は僕も苦手な数学……その次は……次は……

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

「宝条っ! 何してんのよっ!」

「ふがっ!?」

 

 突然の大声にガバッと身を起こした。目の前のテーブルには2冊の復習ノート。

 そして僕のそばにいたのは──

 

「まったく信じらんない!

 あんた、ここにずっといたの!?」

「おっはー、トーヤ君」

「おはようございまーす、宝条さん」

 

 腕組みしながら仁王立ちしている二乃さんに、こんなおもしろい光景は無いと言わんばかりの笑みを浮かべている一花さんと四葉さん。

 あいさつを返したいところだったけど、ハッとして復習ノートをパラパラとめくる。

 

「よかった……できてた。

 あ、おはよ。一花さん、二乃さん、四葉さん」

「おはよう、じゃないわよっ!

 その目……ずっと起きてたとか言わないわよね?」

「うん、起きてたよ。時々うとうとしたけど」

「うっわ、マジ?」

 

 道理で目の充血やクマがひどいだの、睡眠不足は美容とお肌の大敵だのとわめく二乃さん。

 うー、寝不足の頭にこの大声はきつい。

 

「まあまあ、二乃。そんなに怒らなくても」

「はあ、最悪の目覚めね。

 上杉に起こされた朝と同レベルよ」

 

 寝ている姉妹の部屋に入った証拠を見つけたらタダじゃ済まない、とにらみつけながら二乃さんは台所に向かっていく。

 きっと朝食を作るんだろうなと考えていると──

 

「ごめんね、トーヤ君。

 二乃もあれで動揺してるんだよ」

「動揺?」

「同年代の男の子が家に泊まるなんて初めてだから」

 

 元はと言えば自分が提案したことだけどね、と笑ってるけど僕としては「出ていけ」と言われなかっただけでもありがたい。

 もっとも風呂場に突入されたり、クビ危機がバレたりしたのは喜べないけど。

 

「そういえば、風太郎は?」

「上杉さんなら三玖の部屋で寝てますよっ」

「えっ!?」

 

 少し眠気が吹き飛んだ。客室じゃなくて三玖さんの自室? よく許可してくれたなあ。

 まあ風太郎がよく眠れているなら、それでいいか。

 

「あれえ、どうしたの? トーヤ君」

「べ、別に」

「もしかして私たちの誰かの部屋で寝たかった?」

 

 お姉さんのベッドを使っても良かったんだぞ、といたずらっぽく笑う一花さん。

 すみませんっ! 『あの部屋』だけは本当に勘弁してください!

 

「むむっ、何か失礼なこと考えてない?」

「な、無いよ……あふっ」

「あっ! あくびでごまかそうとしてるなー」

 

 す、鋭い。あくびが出たのはわざとじゃないけど、寝不足のせいかごまかすのが下手すぎたか。

 ドキドキチェックを今されたら、完全に詰みだ。

 

「おはようございます」

 

 タイミングが良いのか悪いのか、2階から五月さんが階段をおりてくる。

 表情はまだ暗そうだけど、僕みたいに目の充血やクマは無い。

 

「おはよう、五月さ──」

「トーヤ君、ちょっとタイム!」

「な、何?」

「洗面所に行ってきたほうが良いよ」

 徹夜明けの顔を見せちゃうの?」

「あ……」

「じゃあ私も行きますっ!

 三玖を探さないといけませんから」

 

 朝から元気な四葉さんに背中を押されて洗面所に着いた。鏡を見ると……うわ、確かに二乃さんが騒ぐのも無理ない顔をしてる。

 顔を洗い終えるのに手間取ったにも関わらず、四葉さんが来客用のタオルを渡してくれた。

 

「ありがとう」

「いえいえ! さっぱりしましたか?」

「うん、お陰様で。

 ところで三玖さんを探すって、何の事?」

「実は──」

 

 結論から言うと、夜中にトイレに行ったきり三玖さんの姿が見当たらないらしい。

 それまでは一花さんの部屋で部屋主と2人で寝ていたとか。

 

「宝条さんはリビングにいましたよね。

 三玖を見てませんか?」

「悪いけど見てないよ。

 短時間だけど、うとうとしてたから……ごめん」

 

 三玖さんを探すのを手伝おうかと言ったけど「私1人で十分です」と笑顔で手を振ってきた。まあ泊めてもらったのに、ずかずかと家探しするのもな。

 先にリビングに戻ると3姉妹が朝食中。だけど様子が変だ。

 

「ほら、機嫌直しなって。

 私の分あげるから」

「……ありがとうございます、一花」

 

 ぼんやりと突っ立っていると、二乃さんが「あんたの分なんか無いわよ」とべーっと舌を出してきた。

 別に「朝ごはんちょうだい」なんて言わないよ。寝不足で食欲ゼロだし。

 

「トーヤ君、四葉は三玖を探し中?」

「うん、洗面所とか風呂場を。

 だけどどこに行ったんだろうね」

「それなら心配無いよ。

 三玖なら、ここにいるから」

 

 じゃーん、と声を上げながら一花さんが隣に座る人物を両手で指し示した。

 それなら安心、と声をかけようとしたけど……ん?

 

「三玖さん……じゃないよね?

 もしかして、五月さん?」

「……っ!?」

 

 この反応は図星みたい。あっぶな、目を反らしたから変だなと思ったんだ。

 三玖さんはもっと無表情だし……さっき五月さんを見ていなかったら間違えてた。

 星形の飾りと跳ねっ毛が無いだけで、ここまで分からなくなるとは。

 

「ちっ、引っかからなかったわね」

「すごいすごい!

 フータロー君もトーヤ君も正解なんて」

「風太郎も、ってどういうこと?」

「ああ、実はさっきね──」

 

 どうやら僕が顔を洗っている間に、姉2人に変装させられた五月さんが風太郎がいる部屋に向かったらしい。ドアを開けた風太郎も「どうした、五月」とちゃんと見破ってきたとか。

 でも、それにしては五月さんの顔が明るくない。

 

「フータロー君が強引に追い出しちゃったんだ」

「風太郎が?」

「……一瞬でも彼を見直した私が愚かでした」

 

 変だな。五月さんに謝るまたとない機会だったのに、らしくない。部屋に入られるのが嫌な事情でもあったのかな?

 まさか、おねしょでもしたんじゃ……

 

「よう」

 

 着替えを済ませた風太郎が2階からゆっくりとおりてくる。

 今度こそチャンスだ、とばかりに五月さんに視線を向けたけど……

 

「私は、これで失礼します」

 

 階段ですれ違う風太郎には目もくれずに、五月さんが2階の自室に向かいドアを閉めてしまった。

 テーブルに空っぽになった朝食の皿を2つ残して。

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

『ずっと家で勉強するのもつまらない』

『じゃあ、気分を変えて図書館で勉強しよう』

 

 一花さんと四葉さんの意見が採用され、勉強するにはうってつけの場所に来た。

 もっとも三玖さんの姿は見えないし、二乃さんと五月さんも来ていない。

 

「風太郎、渡したいものがあるんだ」

「……! お前、これ……」

 

 復習ノートを受け取ってページをめくる風太郎の手が止まった。

 まじまじと僕の目元のあたりを見てきたけど隠すことも視線を反らすこともしない。

 

「使ってよ。

 教えるのにきっと役立つと信じてるから」

「……使うかどうか分かんねえぞ」

 

 口ではそう言いながらも、ブツブツとノートに書かれていることをつぶやきながら先に歩き出す。

 ホッとしたとたん急に体がふらっとしたけど、何とかこらえた。

 まずいな、顔を洗った効果が切れてきたか。

 

「大丈夫? フータロー君に渡せたんだね?」

「うん。一花さんのお陰だよ」

 

 四葉さんと何か話している風太郎の後ろ姿を眺めながら、ふっと息をつく。

 今回の件では自称お姉さんに大きな借りができてしまったな。

 

「お礼を言ってくれるのは嬉しいけど、まだ早いよ。

 五月ちゃんとフータロー君を2人きりにしないと」

「……僕に考えがある」

 

 僕が図書館で一花さん・三玖さん・四葉さんの勉強を見るんだ。そうすれば、風太郎の手が空いて5つ子のマンションに戻らせることで五月さんに教えることができるかもしれない。

 今の僕がやれるかとか、二乃さんが妨害をしてきたらとか考えてる場合じゃないんだ。

 

「それはキミ自身やフータロー君のため?」

「いや、勉強仲間のため」

「うんっ! 良い答えだっ!」

 

 バシッと肩を叩くと、一花さんは前を歩く2人に近づいていった。何事か話していたけど、風太郎は頷いて図書館の入り口から急いだ様子で出ていく。

 ブイサインをしてくる自称お姉さんをポカンとしながらただ眺めるしかなかった。

 

「ど、どうやったの?」

「忘れ物を取ってきてって言っただけだよー」

 

 なんてこった。そんな簡単なことで……僕だったら逆立ちしても思いつかないよ。

 敵わないなあと思いながら、一花さんと四葉さんと共に席に座る。

 

「あっ、三玖からのメッセージ……。

 すぐに図書館に着くから待ってて、だそうです!」

「分かった、四葉さん。

 じゃあ先に2人に勉強を──」

「おーっと、ちょっと待って。トーヤ君」

「どうかした?」

「私たち、昨日の内容を復習するからさ。

 三玖が来るまでゆっくりしてなよ」

 

 そういう訳には、と口では言っても眠気がもう限界だった。とてもじゃないけど、今のままでは教えられるものも教えられない。

 ここはお言葉に甘えるしかなさそうだ。

 

「……分かった。少し寝るよ。

 三玖さんが着いたら悪いけど起こして」

「うん、分かった」

「任せてくださいっ!」

 

 ガバッと腕に頭を乗せると一気に意識が遠のいていった。

 次に起きた時には、吉報が届いていますように……

 

「頑張ったね」

「お疲れ様です」

 

 ぼんやりと聞こえた声は夢か気のせいか、それとも現実か。

 覚えているのは頭にふわりとした感触があったことだけだった……




今回は、いつもより長めになってしまいました。
次話はテスト直前の話にしようかと考えています。
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