五等分の花嫁~盟友と僕は背中合わせ~   作:ケンドラ

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 選択授業で橙矢と同じ『情報』にした人物が、今回判明します。


第008話 二乃VS三玖 驚きと涙の料理勝負

「わお、宝条さん。

 もしかして分からないんですか?」

「お、教えてください」

 

 まさか、ここで困ることになるとは。

 

 落ち着こうと深呼吸をしていた時に、思わぬ救いの手が。色々と気になる点があるけど、黙ってやり方を聞こう。

 なぜなら、今は選択授業の説明日ではなく──

 

「難しいことじゃありませんよー。

 私たちの部屋の番号を入れれば良いんです」

 

 数日経った家庭教師の日だ。

 

 5つ子のマンションにあるオートロックについて四葉さんに教えてもらっている。

 ドアの前にある装置で何の番号を押せばと困っていた時にタイミング良く出てきた。

 

「ありがとうございます」

「いえいえ! 先日のお礼ができて良かったです」

 

 なんてまぶしい笑顔なんだ。

 

 選択授業の相談をしたころからこんな感じな気がする。何か良いことでもあったのかな。

 

「そうだ、今日は家庭教師の日なんじゃ──」

 

 四葉さんが笑顔のまま固まった。

 えっ、なにこの沈黙?

 

「すみません、用事があるので失礼します!」

「よ、用事?」

「今日は他の4人を教えてあげてください!」

 

 逃げ去るウサギのように飛び出していった。

 

 何がなんだかさっぱりだ。とにかく急いで部屋に向かわないと。

 ちょうどいい時にエレベーターが来てくれた。

 

「あっ、トーヤ君! はろはろー」

「……! 宝条君」

 

 今度は一花さんと五月さんか。風太郎が先に来ているはずなんだけど。

 

「こんにちは。今日は家庭教師の日じゃ……」

「ごめんねー。お姉さんも今からバイトなんだよ」

 

 悪いけど見逃して、と一花さんが手を合わせてお願いしてきた。

 

「ということは、五月さんも?」

「いえ、私は図書館で勉強するんです」

 

 まずい、何か手を打たないと。このままでは3人もいなくなってしまう。

 引き止められそうなのは──

 

「五月さん、考え直してくれませんか」

「そう言われても……」

「この通りです。前のように騒いだりしないから」

「ほ、宝条君。顔を上げてください」

 

 頭を下げることしかできない。周りでざわざわしているのはマンションの住人だろう。

 子どもの声で「あれ、なーに? 告白?」と聞こえたけど、今はいちいち反応していられない。

 

「まあまあ、トーヤ君。

 気持ちは分かるけど、五月ちゃんが困ってるよ」

「──っ! ごめんなさい。つい……」

 

 他に良い手はないかと考えていると、一花さんがニヤリとしながら五月さんに顔を近づけた。何やら耳打ちしている。

 内容もだけど、五月さんが目を見開いて顔を赤くしたのが気になってしかたない。

 

「……図書館に行くのは今度にします」

「えっ、本当ですか!」

 

 くるりと背を向けて、五月さんはエレベーターの方に向かっていく。

 いったい何て言ったんだろう? 聞きたいけどお礼が先だ。

 

「一花さん、この恩は忘れません」

「あはは、大げさだって。ところでお姉さんが何て言ったか気にならない?」

 

 とても気になる。だけど、このあやしげな笑みは危ない。会ってまだ半月くらいだけど、何回からかわれたことか。

 

「またの機会に教えてください。

 お互いバイトをがんばりましょう」

「えーっ、聞きたいって顔だったのに!

 もう、つれないなー」

 

 その手には乗らない。五月さんを待たせるわけにはいかないし。

 おもしろくなさそうな様子の一花さんから離れて、エレベーターへと急いだ。

 

「宝条君。家で勉強はします。

 でも上杉君から教えは受けません」

「……補佐役として僕が勉強を見ます。風太郎が教える所も見ていてくれたらそれで良いです」

 

 まだ顔を赤くして目を合わせてくれなかったが、こくりと頷いてくれた。

 大丈夫だ、今ごろ三玖さんに日本史を分かりやすく教えているはずだから。

 

 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 なんだ、この修羅場(しゅらば)は。

 

 リビングに入った瞬間に思った正直な感想だ。室内で2人の姉妹が言い争っている。

 風太郎の取り合い……いや、違う。

 

「橙矢、見てないで手伝ってくれ!」

「分かった」

 

 かばんとレジ袋を放り出し、にらみ合う二乃さんと三玖さんの間に割って入った。

 

「2人とも落ち着いてください!

 私がいない間にいったい何が──」

「黙ってて。五月には関係ない」

「というか、何で戻ってきてんのよ。

 図書館に行けばって言ったじゃない」

 

 末っ子撃沈。フラフラとよろめきながら、ソファに座りこんでしまった。

 あわてて「五月さんは悪くない。僕が頼んだ」と二乃さんに言うと、ギロッとにらまれた。

 

「チッ、余計なことを」

「二乃……フータローの邪魔(じゃま)をしないで。

 それにトーヤは悪い人じゃない」

「は? こんな冴えない陰キャコンビをかばうとか訳分かんないんですけど」

 

 ひどい言われようだ。

 

 確かに、事情があるとはいえ僕は前髪で顔を隠しているし地味なのは事実だ。勉強とバイトで忙しく、おしゃれにも無関心だったから。

 

 だけど風太郎はとても家族想いだし、厳しくも優しく勉強で向き合ってくれた。時々()()()()発言はあるけど、欠点も含めて良い人だと思っている。

 

「相変わらず二乃はメンクイ」

「三玖、お前も地味にひどいな」

 

 メンクイって何? 後で調べてみようと思った瞬間、二乃さんに押しのけられた。

 

「外見を気にしないとか、マジあり得ないわ。だいたい、学校で上杉と宝条がなんてうわさされてるか知ってんの!?」

 

 風太郎が三玖さんをストーカーして、僕が一花さんをさらっていったというやつだ。

 

「何度も言わせないで。フータローもトーヤも乱暴なことはしていない」

 

 三玖さんの言葉は嬉しいけど、このままでは勉強どころじゃない。買ってきた『あれ』を使おうと、荷物の所に急いだ。

 

「頼むから聞いてくれ。

 俺たちは授業を受けてほしいだけなんだ」

「フン、信用できないわ」

「二乃、いい加減に──」

 

 風太郎の手を振りほどこうとしている三玖さんに「待って」と呼びかけた。

 僕がやれることはこれしかない。

 

「はい、三玖さん。抹茶ソーダでいいですよね」

「え?」

「みんなに差し入れです。

 二乃さんも好きな物をどうぞ」

 

 レジ袋にある飲み物を見て、「は?」と二乃さんが不機嫌そうな声を出した。空気を読めと言われようが断られようがかまうものか。

 何としても風太郎に三玖さんを教えさせて、その様子を他の2人にも見せるんだ。

 

「い、いらないわよ。

 受け取ると本気で思ってるの?」

「聞かないと分かりません。

 それに復習ノートよりはマシでしょう」

「なっ……」

 

 そもそも僕以外の分を買ったから、二乃さんだけ除け者にするわけが無い。えーっと、風太郎が麦茶で五月さんが選んだのはコーヒーか。

 

「トーヤ、これもらっていい?」

「紅茶のほうが良かったですか?」

「違う、私じゃない。二乃、これで文句ないよね」

「ちょっ、まだ話は終わってないわよ!」

 

 紅茶の缶を押し付けられて抗議する姉には目もくれず、三玖さんはテーブルに置かれた僕の物ではない別のレジ袋に手を入れている。

 

「あげる。えんりょはいらない」

「わっ、抹茶ソーダ! 

 ありがたくいただきます」

 

 味はまだ慣れないけど、飲んだ時の感触が気に入ったんだよね。

 まあ、何はともあれ空気が少しなごんだ。これで勉強を始め──

 

 ぐぐうぅぅ……きゅるきゅる……

 

「五月、トーヤ。またお腹すいたの?」

「私じゃありませんよ!

 決めつけるなんてひどいです」

「今回は違います。三玖さん」

 

 当然のように疑われたのは納得いかない。とはいえ僕も五月さんだと思っていたんだけど。

 

「悪い、俺だ。

 そういえば朝から何も食べてなかったな」

 

 風太郎だったのか。確か朝ごはんは食べない主義って言ってたっけ。

 飲まず食わずで勉強を教える気だったとは。

 

「風太郎、かばんに駄菓子があるけど食べる?」

「助かる。じゃあ少しもらってから勉強を──」

「待ちなさい」

 

 む、二乃さんか。

 頼むからおとなしくしていてよ。

 

「三玖、そこまで言うならお望み通り中身で勝負しようじゃない」

「どういうこと?」

「料理勝負でどちらが家庭的か決めるわよ。

 アタシが勝ったら今日の勉強は無しね」

 

 待って、さらっと勉強できるかできないかの勝負になっている。笑えない。

 でも三玖さんが受けなければいいんだ。

 

「フータロー、すぐ終わるから座ってて。

 トーヤも抹茶ソーダ飲んで待ってて」

「お前が座ってろ!」

「三玖さんが待ってください!」

 

 勝負を止めたいけど、あの火花バチバチの台所に行こうものなら包丁を向けられそう。

 こうなったら作戦変更。料理勝負が終わるまで何もしない訳にはいかない。

 

「風太郎、五月さんと勉強しよう」

「同感だが、どう説得する? 俺の授業を受けたくないから図書館に行こうとしたんだぞ」

 

 それに今のあいつは勉強に集中できる状態じゃない、と首を振る。

 なぜだと思ったけど、すぐに納得した。目を輝かせて身を乗り出しながら台所を見ていたから。

 

 勉強より食欲か。なら僕にも考えがある。

 

「大丈夫、食べ物ならこっちにもある」

「おい……抹茶ソーダで脳みそが溶けたのか?

 金持ちのお嬢様に庶民の味は分からないだろ」

 

 やってみないと分からないよ。

 目には目を、食べ物には食べ物だ。

 

「五月さん、料理ができるまで勉強タイムです!

 今なら駄菓子の詰め合わせが付いてきます」

 

 ピクリと動いた。さあ、どうなるっ!?

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

「終わりましたよ、宝条君。

 約束はちゃんと守ってくださいね!」

「さ、採点するから少し待ってくれませんか」

 

 今すぐご褒美(ほうび)が欲しいですと言わんばかりに迫ってくる。

 すごい、風太郎が用意したプリントの問題をやる気満々という感じで終わらせた。

 

「やった……風太郎の問題を解いてくれたよ」

「俺より橙矢、橙矢より食べ物なのか」

 

 ボソッとつぶやいた家庭教師の言葉が的確すぎて、吹き出しそうになった。

 幸い、五月さんは聞こえていないみたい。

 

「待たせたわね、できたわよ」

「……わ、私も」

 

 あっ、料理勝負をすっかり忘れてた。五月さんのやる気に驚いていた風太郎もハッとしたような顔になっている。

 それより、二乃さんは笑顔で三玖さんは沈んでいるようだけど。

 

「もう我慢(がまん)できません。

 私に味見させてください!」

「何言ってんのよ、五月。

 アンタは宝条のお菓子でも食べてなさい」

 

 明らかに狙っている五月さんからかばうように、対戦者の2人が料理をテーブルに置いた。

 どんなメニューを作ったのかな。補佐役としては三玖さんを応援──あれ?

 

「じゃーん。旬の野菜と生ハムのダッチベイビー」

「オ……オムライス」

 

 こ、この差はまずい。二乃さんの料理が食材の色合いや香りで食欲をそそってくる。

 三玖さんの料理は──な、何か良い所があるだろ。諦めず作った努力の跡が分かるとか。

 

「やっぱりいい。自分で食べる」

「せっかく作ったんだから食べてもらいなよー」

 

 あのニヤニヤ笑いは勝ちを確信している。うつむいている三玖さんが気の毒でならないけど、黙って見ているしかない。

 

「いただきます」

「あっ」

 

 料理を下げようと手を伸ばしかけた三玖さんを止めるように、風太郎が試食を始めた。

 そわそわと料理を狙う1人を除き、全員の視線が審査員に集まっている。

 

「うん、どっちも普通にうまいな」

「はあ!?」

「……っ」

 

 ひ、引き分け!? 見た目は大差でも味は互角だったのか。

 三玖さん良かったね。表情は見えないけどきっとうれしいはずだ。

 

「そんなわけないじゃない!

 アンタの舌どうなってんのよ!」

「まずいと思わなかっただけなんだが」

 

 ホッとしたのも束の間、二乃さんがガタッと立ち上がり風太郎に詰め寄った。

 今度はこの2人のケンカという展開はやめて。

 

「風太郎、引き分けってことでいいの?」

「ああ、二乃の料理は見た目に違わずうまかった。三玖のオムライスだっていくらでも食えるぞ」

 

 これはウソついてないや。勉強させたいから三玖さんを勝たせようと考えた顔には見えない。

 

「くっ、納得いかないわ。アタシだって……」

 

 二乃さんがブルブルと体を震わせている。さっきの笑顔が完全に消えてるよ。

 爆発に備えていたが、急にこっちを見てきた。

 

「アンタも食べ比べてみなさいよっ!」

「えっ……僕が?」

「他にいないから仕方ないじゃない!」

 

 色々な意味で断るとやばそう。

 

 念のために三玖さんに聞くと、すぐに「構わない、思ったことを正直に言って」と返された。

 よーし、じゃあ2人の料理を──あれ?

 

「んんーっ、どちらもおいしいです……あっ」

 

 オムライスとダッチなんとかが無い。まさかと五月さんのほうを見ると、リスのようにほっぺたをふくらませた口元を手で押さえている。

 

「この『肉まんおばけ』! 

 今すぐ食べるのをやめなさい!」

「に、にくっ!?」

 

 もう少しで吹き出すところだった。二乃さんが料理を取り上げたけど、9割近くが消えたよ。

 

「アンタがお菓子をあげなかったからよ。

 こうなった以上、断るなんて許さないわ」

「わ、分かったから。いただきます」

 

 じゃあ、三玖さんのオムライスから……あれ、こげ味に慣れればおいしい。ライスの味付けも濃さが違うけど、決してまずくも下手とも思えないな。

 

「三玖さん、自信を持っていいです。こげている所もライスの味の濃さが違う所もおいしかった」

「……良かった」

 

 次は二乃さんの見たことも聞いたこともない料理だ。「ドイツ風のパンケーキよっ!」と不機嫌そうではあったけど教えてくれた。

 パンケーキか、なつかしいな。どれどれ──

 

(……っ!)

 

 風太郎が言ってたっけ。見た目に違わずうまかったと。全く同感だよ。

 トマトや緑の野菜の食感、チーズと生地の組み合わせも文句の付け所がない。

 

「橙矢、お前……」

 

 ハッとして周囲を見ると風太郎だけでなく、3人の姉妹がぎょっとしたように目を見開いていた。

 何をびっくりしているのかと思った瞬間、ほっぺたに何かが流れた感じがした。

 

 あれ、どうして止まらないんだろう。よだれじゃなく涙が。

 

「そ、そんなにうまかったのか?」

「野菜もだけど、生地の食感が心地いいんだ。

 僕も自炊はしてるけど、こんなの作れない」

 

 話している間にもポロポロと涙が出る。不思議なことに恥ずかしいとは思わなかった。

 他人の料理を口にして泣いたのは1年前の『あの日』以来だ。

 

「僕の負けです、二乃さん」

「な、何言ってんのよ……アンタ」

「二乃さんの勝ちだと言ってるんです」

 

 服の(そで)でぐいっと涙をぬぐい、ごちそうさまと手を合わせた。

 しーんと静まり返っている。五月さんでさえ空になった皿を見ていない。

 

「風太郎、後は頼んだよ」

 

 テーブルを離れた僕に風太郎が「帰ることないだろ」と止めてきた。

 

「無責任でごめん。だけど食べ比べて二乃さんの勝ちと言った以上、約束は守らないと」

「だからって、お前……」

「少なくとも僕の今日の勉強は無しになったから」

 

 もう時間はあまり無いけど、少しの時間だけでも三玖さんに教えてほしい。そして、五月さんとできれば二乃さんにも見てもらってほしい。

 

 全員に頭を下げて、部屋を飛び出した。エレベーターは……だめだ、5階から降りたところだ。階段で行くほうがいいだろう。

 

 勢いよく階段を駆け下りていく。上るよりは楽だと思っていたが30階から下りるのもきつい。カンカンカンと響く足音がやけに耳に響いた気がする。

 

 やっと1階に到着し、荒い息をつきながらエントランスに出た。

 出る時は教えてもらわなくても大丈夫なはず──

 

(えっ……なんで)

 

 目がおかしくなったのかと思った。

 ここにいるとは思わなかった人物がいたからだ。

 

 あの時といっしょじゃないか。数日前、情報の授業説明で僕がパソコン室にいた時に声を掛けて隣に座ってきた時と。

 もっとも今ははっきりと目を見てくれているのが違うけど。

 

「風太郎の授業はどうしたんですか──五月さん」




 風太郎だけでなく、五月と橙矢も料理対決の審査員にしました。そして、最後に判明した『情報』を選んだ人物の正体。他の姉妹や風太郎が何を選んだのかも、次回から明らかにしていきます。

 次回は5つ子裁判です。これまで前髪で顔を隠していた橙矢が風太郎のためにまさかの行動を起こします。裁判で橙矢の役割が何になるのかもお楽しみに。
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