豫州の汝南
秋蘭「本当にすんなり通れるとは・・・あれ程苦労したのが嘘のようだ。」
陳珪の根回しが本当に効いたお陰で、豫州の州境は驚くくらいあっさりと越える事が出来た事に秋蘭は驚愕した。
秋蘭「それはそうと、兵糧の量を少なくするなど思い切った事をしたものだな、桂花。」
桂花「今の我が軍の実力なら、これくらい出来て当たり前なんだから。何より、純様が鍛えた兵なんだもの。」
桂花「それに、訓練の報告書と今回の兵数を把握した上での計算よ。これでも余裕を持たせてあるから、安心なさい。」
秋蘭「その辺りの手並みはおいおい見せてもらうとしよう。」
桂花「一刻も早く華琳様と純様の目に留まる働きをして、召し上げていただこうと思ったのだけれど・・・思ってたよりその機が早く来て、良かったわ。」
秋蘭「それで、お二人はどうだったのだ?」
秋蘭の問いに
桂花「思った通り、素晴らしいお二方だったわ・・・。あのお二方こそ、私が命を懸けてお仕えするに相応しいお二方だわ!」
桂花「とは言え、純様には既に軍師が二人いるようだけどね。」
と桂花は答えた。
秋蘭「・・・そうか。香風も、力まずいつも通りやれば良いのだぞ。」
香風「うん!シャン、頑張る!」
その時
春蘭「おお、貴様ら、こんな所にいたか。」
春蘭がやって来た。
秋蘭「どうした姉者。急ぎか?」
春蘭「うむ。前方に何やら大人数の集団がいるらしい。純様がお呼びだ。すぐに来い。」
そう言われ、秋蘭達は本陣に向かったのだった。
本陣
秋蘭「・・・遅くなりました。」
純「ちょうど偵察が帰ってきた所だ。報告を頼む。」
柳琳「はい。行軍中の前方集団は、数十人ほど。旗がないため所属は分かりませんが、格好もまちまちですし、どこかの野盗か山賊だと思われます。」
華琳「・・・そう。さて、どうするべきかしら?桂花。」
桂花「はっ!もう一度偵察隊を出し、状況次第で迅速に撃破すべきかと。」
桂花「将の選抜までお任せいただけるなら・・・純様、春蘭、香風。この三名を中心に据えるのが良いでしょう。」
春蘭「おう。」
香風「まかせて。」
純「・・・成程。」
この人選には、純は何となく察した。
すると
華侖「ええー!あたしも行きたいっすー!」
この人選に、華侖は不満の声を上げた。
それに桂花は
桂花「せめて春蘭の抑え役くらい、してちょうだい。」
と桂花は答えた。
純「柳琳は今戻ったばっかだし、秋蘭と栄華は本隊の指揮があるからな。華侖、今回は諦めろ。」
華侖「ううーっ。純兄が言うなら分かったっすー。」
純の言葉に、華侖はそう答えた。
純「それに、この人選にちょっと納得したしな。」
これに
春蘭「何を納得していらっしゃるのですか!それではまるで、私が敵と見ればすぐ突撃するようではないですか!純様もそれは一緒でしょう!」
と春蘭は言った。
純「お前なぁ・・・俺は戦場の空気を肌で感じて、突撃して良いのか否かを判断してんだよ。」
春蘭「だったら、それは私も同じですよ!」
純「まあともかく、桂花の策で行くぞ。」
華琳「純、任せたわよ。」
純「はっ、お任せ下さい。」
香風「なら華琳様、行ってきまーす。」
すると
秋蘭「・・・姉者、香風。純様にもしもの事があったら、分かっているな。」
栄華「・・・春蘭さん。お兄様に何かありましたら、分かっていますわね。」
稟「・・・私もお二人に同感です。分かっていますね。」
秋蘭と栄華、そして稟が、禍々しい殺気を出しながら春蘭と香風に対してそう言った。
これに
春蘭「う、うむ。分かっているぞ、秋蘭。」
香風「コクコクコク」
二人は青ざめながらそう言った。それを見た
純「やめろ、秋蘭、栄華、稟。」
風「秋蘭様、栄華様、稟ちゃん、ちょっと抑えるのですよ。」
柳琳「秋蘭様、栄華ちゃん、稟さん、抑えよう。ねっ?」
純、風、そして柳琳が抑えたお陰で
秋蘭「・・・はっ。」
稟「・・・分かってますよ、純様、風、柳琳様。一応念を押しただけです。」
栄華「・・・お兄様、風さん、柳琳、分かっていますわ。」
何とか殺気を収めたのだった。
偵察隊
純「春蘭、今回は偵察が第一だ。通りすがりの商人とかその護衛とかだったら、後が面倒だからな。」
春蘭「分かっております純様!そこまで私も迂闊ではありません。」
純(いや、その迂闊がありえるから俺が付けられたんだよ・・・。)
すると、
香風「春蘭様、あそこー。」
春蘭「よし!と」
純「突撃禁止だぞ!」
春蘭「わ、分かっております・・・!と、とりあえず、とりあえず・・・、私は何を言おうとしたのでしょうか、純様!」
純「お前なぁ・・・。しかし・・・、何だ?ありゃ、行軍してる感じじゃねーぞ?」
春蘭「何かと戦っているようですね。」
すると、
香風「あ、何か飛んだー。」
純「ありゃ、人だな。」
人が高く飛んでいった。
春蘭「何だ、あれは!」
兵士A「誰かが戦っているようです!・・・その数、1人!それも子供の様子!」
春蘭「何だと!?」
すると、その報告を聞いた春蘭は、馬に鞭を当てて、一気に加速させてその集団へと向かっていった。
純「おい、春蘭!」
すると
香風「純様は、後で来て下さい。」
そう言った香風も、春蘭が向かった方向へ馬を走らせたのだった。
兵士A「曹彰様・・・。」
純(ったくあいつら、何しに来たんだよ・・・。)
純「しょーがねー。お前は二十騎程率いて春蘭達の援護に行け。ただし、全滅させるな。一部は逃がし、そいつらを残りの俺が追跡する。恐らく敵の本陣かもしくは本隊に逃げ込むはずだ。」
兵士A「はっ!承知しました!」
そう言って、その兵士は二十騎程率いて、春蘭達に向かったのだった。
??「でえええええいっ!」
野盗A「ぐはぁっ!」
??「まだまだぁっ!でやあああああああっ!」
野盗B「がは・・・っ!」
野盗C「ええい、テメェら、ガキ1人に何を手こずって!数で行け、数で!」
野盗D「おおぉぉ!」
??「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。もぅ、こんなにたくさん・・・多すぎるよぅ・・・!」
その時
野盗E「ぐふぅっ!」
1人の野盗が倒れた。
??「・・・え?」
それと同時に
春蘭「だらぁぁぁぁっ!」
野盗F「げふぅっ!」
香風「はぁぁぁぁぁっ!」
野盗G「ぐはぁあっ!」
春蘭と香風が賊を殺した。
春蘭「大丈夫か!勇敢な少女よ!」
??「え・・・?あ・・・はいっ!」
春蘭「貴様らぁっ!子供1人によってたかって・・・卑怯というにも生温いわ!てやああああああっ!」
野盗C「うわぁ・・・っ!退却!退却ーっ!」
春蘭「逃がすか!全員、叩き斬ってくれるわ!香風、回り込め!」
香風「了解。」
するとそこへ
兵士A「夏侯惇様!徐晃様!お待ち下さい!」
先程の兵士が止めに入ったのだった。
春蘭「ばっ・・・!貴様、何故止める!」
兵士A「我々の仕事は偵察です。その子を助けるために戦うのは良いですが、敵を全滅させるのが目的ではありませんっ!」
香風「桂花、流れ次第で全滅させて良いって・・・。」
春蘭「そうだぞ。敵の戦力を削って何が悪い!」
兵士A「それは確かにそうですが、もっと良い作戦があります。」
春蘭「・・・例えば何だ?」
兵士A「逃がした敵をこっそり追跡して、敵の本拠地を掴むといったのです。」
春蘭「・・・おお、それは良い考えだな。誰か、おおい、誰かおらんか!」
兵士A「・・・曹彰様が既に偵察に向かわれました。」
香風「さっすがー、純様。」
春蘭「うむ、そうだな。」
兵士A「はぁ・・・。」
一方純達は
純「よし、一部を逃がすことは出来たようだな。あの集団を追うぞ!」
兵「「「はっ!!」」」
そう言って、純達は逃げた敵を追い、盗賊団の本拠地を見つけ、引き揚げたのだった。
その頃
華琳達本隊がやって来た。
華琳「春蘭。謎の集団とやらはどうしたの?戦闘があったという報告は聞いたけど?」
春蘭「私と香風の一当てで総崩れしました。一部は逃がし、追跡させているので、本拠地はすぐに見つかると思います。」
華琳「あら、なかなか気が利くわね。恐らく純の指示でしょう?」
春蘭「はい、そうです。」
するとそこへ
秋蘭「ところで姉者、香風。純様と一部の騎馬兵はどうした?」
栄華「そう言えば、見当たりませんわね。」
稟「どこに行ったのですか?」
秋蘭達が春蘭らに尋ねた。
春・香「「・・・。」」
春蘭と香風は沈黙の後、しまった!と言う顔をし、少し青ざめた顔をした。
秋蘭「姉者、香風・・・。」
栄華「春蘭さん・・・。」
稟「皆さん・・・。」
すると、秋蘭、栄華、稟が禍々しいオーラを出したので
兵士A「そ、曹彰様は、自ら一部の兵を率いて、本拠地を探っておられます!」
代わりに春蘭達を止めた兵が答えた。
秋蘭「姉者!香風!純様にもしもの事があったらどうするつもりだ!」
栄華「秋蘭さんの言う通りですわ!お兄様にもしもの事があったらどうするつもりですの!」
稟「皆さん・・・何かあったら私が許しませんよっ!」
すると、秋蘭達は語気を荒げ春蘭達にそう言った。
春蘭「秋蘭、栄華、稟!純様は『黄鬚』と呼ばれし我が軍最強の武人だぞ!この程度の連中に遅れを取るものか!」
秋蘭「しかし・・・。」
栄華「そうですわ・・・。」
稟「純様・・・。」
華琳「貴女達、純の事を慕っているのなら、信じなさい。春蘭の言う通り、そう簡単にはやられないわよ。」
華琳がそう答えたので、
秋蘭「・・・御意。」
栄華「・・・分かりましたわ。」
稟「・・・はっ。」
秋蘭達は怒りを静めた。
??「・・・!」
華琳「この子は?」
??「お姉さん、もしかして、国の軍隊・・・っ!」
春蘭「まあ、そうなるが・・・ぐっ!」
その時、春蘭と一緒に戦っていた少女は鉄球なぎ払い、春蘭に攻撃した。もし春蘭じゃなかったら、そして春蘭の剣が彼女の攻撃を打ち返してなかったら、間違いなくその場にいた全員が吹き飛ばされてしまっただろう一撃だった。
春蘭「き、貴様、何をっ!?」
??「国の軍隊なんか信用できるもんか!僕達を守ってもくれないクセに、税金ばっかりどんどん重くして・・・ッ!」
??「てやあああああああっ!」
春蘭「・・・くぅっ!」
??「僕は村で一番強いから、僕がみんなを守らなきゃいけないんだっ!盗人からも、お前達・・・役人からもっ!」
香風「・・・。」
春蘭「くっ!こ、こやつ・・・なかなか・・・っ!」
華琳「・・・。」
柳琳「・・・お姉様。」
??「でえええええええええええええいっ!」
春蘭「ぐぅ・・・!仕方ないか・・・いや、しかし・・・。」
するとそこへ、一人の影が二人の間に立った。
数分前
純「よし、敵の本拠地も割り出せたし、姉上の本隊に合流すっか。」
そう言い、引き揚げると
純「ん?あの少女、さっき野盗の集団と戦ってた子じゃねーか。本気が出せねーとは言え、あの春蘭を押すとは・・・。とは言え、止めなきゃな。」
春蘭が鉄球を持った少女と戦っており、苦戦していた。
それを見た純は後ろを振り返り
純「俺、あいつらを止めるから、お前らは後で来い。」
そう言って、純は二人に向かって行ったのだった。
現在
純「お前ら、そこまでだ。」
純は、春蘭と少女の間に立った。それぞれ大小の刀を向けながら。
??「え・・・っ?」
春蘭「純様!」
純「武器を引け!そこのお前も、春蘭も!」
??「は・・・はいっ!」
純の覇気に当てられて、少女は軽々と振り回していた鉄球を、その場に取り落とした。
純「・・・。」
その様子を見た純は、刀を鞘に収め、華琳の傍に立った。
華琳「・・・春蘭。この子の名は?」
春蘭「え、あ・・・。」
季衣「き・・・許褚と言います。」
華琳「そう・・・。」
そして華琳が取った行動は、
華琳「許褚、ごめんなさい。」
季衣「・・・え?」
許褚に頭を下げたのだった。
これには
桂花「華琳、様・・・?」
春蘭「何と・・・。」
純以外の皆は、華琳の行動に驚いていた。
華琳「名乗るのが遅れたわね。私は曹操。あなたを止めたのは、弟の曹彰。山向こうの陳留の地で太守をしている者よ。」
季衣「山向こうの・・・?あ・・・それじゃっ!?こ、こちらこそごめんなさいっ!」
春蘭「な・・・?」
季衣「山向こうの噂は聞いてます!向こうの太守様は凄く立派な人で、悪いことはしないし、税金も安くなったし、後、その太守様の弟様のおかげで、盗賊も凄く少なくなったって!」
季衣「・・・あ!もしかして行商のおじさんが言ってた、陳留の太守様がこっちの悪い賊を討伐に来るっていうのが・・・!!」
華琳「・・・。」
許褚の言葉を聞いた華琳は、黙って頷いた。
季衣「そんな・・・。そんな人達に、僕・・・僕・・・!ごめんなさい!僕達を助けに来てくれた人に・・・本当にごめんなさい!!」
華琳「・・・構わないわ。今の政事が腐敗しているのは、太守の私が一番よく知っているもの。官と聞いて許緒が憤るのも、無理のない話だわ。」
季衣「で、でも・・・」
華琳「だから許褚。あなたの勇気と憤り、この曹孟徳に貸してくれないかしら?」
季衣「え・・・?僕の・・・?」
華琳「私はいずれこの大陸の王となるわ。けれど、今の私の力はあまりに小さすぎる。」
華琳「だから・・・村の皆を守るために振るったあなたの力と勇気。この私に貸して欲しい。」
季衣「曹操様が、王に・・・?」
華琳「ええ。」
季衣「あ・・・あの・・・。だったら。曹操様が王様になったら、僕達の村も、治めてくれますか?盗賊も、やっつけてくれますか?」
華琳「約束するわ。陳留だけでなく、あなた達の村だけでもなく・・・この大陸の皆がそうして暮らせるようになるために、私はこの大陸の王になるの。」
季衣「この大陸の・・・みんなが・・・」
桂花「ああ、曹操様・・・。」
華琳「ねぇ、許褚。」
季衣「は、はいっ!」
華琳「これから、あなたの村を脅かす盗賊団を根絶やしにするわ。まずそこだけでいい、あなたの力を貸してくれるかしら?」
季衣「はい、それならいくらでも!じゃない、僕の方こそお手伝いさせて下さい!!」
華琳「ふふっ、ありがとう。純。」
純「はっ。春蘭、香風。許褚はひとまず、お前達の下に付ける。分からないことは教えてあげろ。」
香風「はーい。」
春蘭「了解です!」
季衣「あ、あの・・・ええっと・・・」
春蘭「既に華琳様には謝ったのだろう。ならば、それで良い。」
香風「それより・・・ごめんなさい。」
季衣「ほぇ・・・?どうして君が僕に謝るの?」
香風「シャンも、前は都の役人だった。・・・何も出来なかった。」
季衣「あはは。僕は悪い役人は大嫌いだけど、曹操様みたいに良いお役人様は大好きだよ。それより、さっきは助けてくれてありがとう。これからよろしくね!」
香風「うん。シャンは、香風だよ。」
春蘭「ならば、私の事も春蘭でいい。」
季衣「えええっ!?でもそれって、真名じゃ・・・僕なんかが、畏れ多いです!」
春蘭「あれ程の使い手なら、名を預ける価値もあると言うものだ。先程の猛攻、恐れ入ったぞ。」
香風「うん。今度、シャンともやろう。」
季衣「は・・・はいっ!なら、僕のことも季衣って呼んで下さい!春蘭様、香風、よろしくお願いします!」
春蘭「うむ。季衣、その力、華琳様のためにしっかり役立ててくれよ。」
季衣「はいっ!もちろんです!」
純「姉上、偵察した結果、盗賊団の本拠地はすぐそこです。」
華琳「そう。分かったわ。・・・では総員、行軍を再開するわ!騎乗!」
純「総員!騎乗!騎乗っ!」
そして、盗賊団の根絶やしに向かったのであった。