荊州のほぼ全てを平定した純達曹彰軍は、本拠である江陵に入った。
純はいつも戦で着る白き羽織と籠手、そして武骨な軍靴を身に纏い、腰に太刀を帯びながら歩き、主君の間に入ると、部屋の中にいる将兵全員ズレる事無く揃って跪き拱手し
霞「これで荊州攻略したも同様やな、純!」
春蘭「おめでとうございます、純様!」
翠「流石だぜ、純殿!」
霞と春蘭、そして翠はすぐに純を褒める発言をした。
純「まだ気がはえーぞ、お前ら。新野には、劉備、諸葛亮の残党が立て籠もって抗戦の姿勢を見せている。」
純「奴らを倒して、本当の荊州平定だ。」
しかし、純はまだ敵がいるため、荊州は平定していないと返しながら太刀を抜いて右手に持って椅子に座った。
この頃になると、純には髭が生え、まさに『黄鬚』の異名に益々相応しい勇壮な雰囲気と貫禄を身に纏わせていた。
純「稟!」
稟の名を呼んだ。
稟「はっ!新野に劉備、諸葛亮の残党五千の逆賊が立て籠もって、抗戦の構えを見せております。」
稟「彼らを討ち取って、初めて荊州平定したとなります。」
稟は、新野を攻略してこそ真の荊州平定だと言った。
純「そうだな。誰が新野を守っている?」
純のこの問いに
稟「密偵によりますと、姜維と申す者が守っております。」
稟はそう答えた。
これに
楼杏「姜維・・・確か涼州の天水郡出身の者ですね。」
翠「ああ・・・あたしも聞いた事がある。劉備らに仕えていたんだな。」
楼杏と翠が、姜維の名を聞いてそう言った。
純「二人とも、姜維を知ってるのか?」
楼杏「はい。彼は天水郡の出身。姜一族は代々『天水の四姓』と呼ばれる程の豪族でした。」
翠「槍に長けてて、頭も良いと聞いたな。」
二人がそう答えると
純「成程・・・戦の経験は?」
純は加えて実戦経験を尋ねると
稟「これまでの戦において、そこまで参加しておりませんね・・・益州平定の時と先の北伐の時くらいかと。」
稟は戦の経験は然程無いと答えた。
純「成程・・・けど、力は侮れねーな。俺自ら出陣するか。」
そう純は言ったが
稟「お待ちを。純様はここ最近、戦続きでお疲れだと思われます。ここは誰かにお任せになるのが宜しいかと。」
稟が止め、誰かに新野攻略を任せるべきだと進言した。
純「俺はそう疲れてはいねーんだが・・・」
純は、疲れは感じないと言ったが
稟「純様は生まれながらの勇猛な総帥であられました故、御身は常に戦場にあられました。その為、戦疲れは感じなくてもお身体は分かりませぬ。」
稟「ここは一つ、御身を大切になさりませ。」
それでも稟は、出陣を控えるよう言った。
純「・・・分かった。お前の言う通りにしよう。」
これに、純は稟の意見を受け入れた。
稟「ありがとうございます。」
そして
純「命令を下す!秋蘭、前に出ろ!」
純は立ち上がると、秋蘭を呼んだ。
秋蘭「はっ!」
秋蘭は純の前に跪き拱手し
純「新野に籠っている劉備諸葛亮残党の首魁、姜維の討伐をお前に任せる!」
純は、左手に持ってる太刀を秋蘭に差し出した。
それはつまり、文字通り純が持ってる軍事権を全て秋蘭に委託される事とほぼ同じだった。
秋蘭「謹んでお預かりします!」
秋蘭は、手を差し出し純の太刀を受け取った。
純「頼むぞ、秋蘭!何かあったら、俺が全責任を取る!思う存分武を奮え!」
この純の檄に
秋蘭「はっ!」
秋蘭は気合の入った表情を浮かべ、太刀を持ちその場を後にした。
稟「純様。秋蘭様を選んだ理由は?」
稟の質問に
純「アイツは幼少の頃から俺と常に一緒だった。その実力もよく知っている。」
純「猪突猛進で頭も悪くすぐカッとなる俺と違って冷静に戦況を見極める力がある。だから、俺はあいつを選んだ。」
純はそう答えた。
稟「成程・・・」
純「俺は秋蘭を信じる。大切な家族を、仲間を信じず誰を信じるか。」
そう、純は答えると
ザッ!
周りの将兵全てが、全員跪き拱手し
「「「我らは、いつ如何なる時も、常に大将軍と共にあり!」」」
「「「心を一にして共に戦い、同年同月同日に生まれる事を得ずとも、同年同月同日に死せん事を願わん!」」」
声を揃えてそう答えた。
純も
純「お前ら立ってくれ!俺もお前らに誓おう!同年同月同日に生まれなくても、同年同月同日に共に死ぬ事を!」
そう拱手し、将兵の前で誓ったのだった。
新野
新野では、姜維率いる五千の将兵が武装していた。
するとそこに
「申し上げます!曹彰軍がこちらに向かって進軍しております!その数、凡そ五万!」
敵が攻めてくるという知らせが入った。
姜維「曹彰自ら参ったのか?」
この問いに
「いえ!曹彰の副将夏侯淵が率いております!」
兵士はそう答えた。
姜維「・・・分かった。下がれ。」
これに、姜維は兵を下がらせると
姜維「曹彰め・・・劉備様と諸葛亮様の仇を討ってみせる!」
姜維「その前に、夏侯淵を血祭りに上げてそれから曹彰を討ち取ってやる!」
姜維「劉備様。諸葛亮様。必ずや、曹彰の首を取って御霊に捧げます・・・」
そう、狂信的な目で天に向かって拱手したのであった。