陸口
秋蘭「・・・。」
眉間に皺を寄せながら厳しい表情で兵の様子を見ている秋蘭。
その時
楼杏「秋蘭さん!栄華さんが参りました!」
楼杏が秋蘭の前に現れ、そう叫ぶように言った。
秋蘭「本当か!医師も一緒か!」
楼杏「はい!華佗と申す名医もご一緒です!」
これに
秋蘭「直ちに連れて来てくれ!」
秋蘭はすぐに連れて来るよう言った。
程なくして
栄華「秋蘭さん!」
栄華が華佗と共に現れた。
秋蘭「栄華!それと、そこにいるお主が華佗か?」
華佗「ああ!俺が華佗だ!患者は何処だ?」
秋蘭「ああ!案内する!栄華も一緒に来てくれ!」
華佗「分かった!」
栄華「勿論ですわ!」
そして、秋蘭は栄華と華佗を連れ、純が休んでいる部屋に向かった。
純の部屋
その頃
純「・・・。」
純の容態は益々悪くなっていった。
しかし、純は弱気な言葉を吐く事なく、辛い表情を僅かに浮かべながらも平静さを保っていた。
稟「純様・・・」
稟も、そんな純を健気に支え、傍に寄り添っていた。
すると
秋蘭「失礼します!」
秋蘭が栄華と華佗を引き連れて入ってきた。
稟「秋蘭様!それに栄華様も!」
稟は、驚きの声を上げ
純「・・・え、栄華か・・・」
純は、栄華の名前に反応した。
これに
栄華「お兄様!!」
栄華は泣きながら純の傍に近付いた。
稟「それと・・・そちらの方は?」
華佗を見て誰かを尋ねた。
栄華「この方は華佗さんですわ!」
これに、栄華は華佗だと言い
稟「あの神医華佗殿ですか!?」
稟は驚き目を見開いた。
華佗「すまないが、早く診せてくれ!」
華佗はそう言うと、稟はすぐに華佗に純を診せた。
この時
純「・・・お前が華佗か?」
純は脂汗を浮かべ苦しそうに聞くと
華佗「そうだ。曹操殿の命を受けてここに来たんだ。」
華佗は診察しながら言った。
純「成程・・・姉上が・・・」
これに、純は苦しそうにそう答えると
純「よく来たな・・・栄華・・・」
純はそう栄華に優しく言った。
栄華「お兄様・・・!」
これに、栄華は涙が止まらなかった。
少し経つと
華佗「うむ・・・既に毒が骨の髄まで達しているだけじゃない。内臓まで蝕んでいる。」
華佗は診断結果を述べた。
栄華「そんな・・・!」
栄華は、驚き口元を抑えながら絶句した。
秋蘭「助かるのか?」
秋蘭は、冷静に努めて尋ねると
華佗「・・・とにかく、全力を尽くそう。すまんが、外してくれるか?」
そう言った。
秋蘭「分かった。何かあれば、外にいる兵に声をかけてくれ。」
華佗「分かった。」
秋蘭「稟、栄華。出るぞ。」
そう言い、秋蘭は稟と栄華を連れて部屋を出た。
秋蘭「栄華。昼夜兼行ここまで来てくれて、礼を言う。」
そして、秋蘭は栄華にそうお礼の言葉を述べた。
栄華「い、いえ!そんな・・・!」
稟「私からもです。本当にありがとうございます。」
稟も、栄華にお礼の言葉を述べた。
栄華「わ、私は当然の事をしたまでですわ!お、お兄様が心配で・・・心配で・・・!」
これに、栄華は涙を流しながらそう言うと
秋蘭「大丈夫だ・・・栄華。」
稟「栄華様・・・」
秋蘭と稟は、栄華を優しく抱き締めたのだった。
暫くして
栄華「もう大丈夫ですわ・・・」
栄華はそう二人に言った。
それと同タイミングで
華佗「・・・お三方。少し良いか?」
華佗が深刻な表情を浮かべながら現れた。
秋蘭「うむ・・・」
稟「はい・・・」
栄華「ええ・・・」
三人は、非常に真剣な表情を浮かべながら部屋に入った。
華佗「では、率直に言おう。曹彰殿の容態だが、このままでは腕を斬り落としても意味がない。確実に死ぬ。」
これに
稟「・・・やはり、私の解毒薬では駄目でしたか。」
稟は暗い表情で俯かせて言ったが
華佗「いや、郭嘉殿の薬は確かに効いていた。もしこれがなければ、今頃死んでいた筈だ。」
華佗はそう言い、稟をフォローした。
稟「そうですか・・・」
これに、稟は少しホッとした表情を浮かべた。
華佗「だが、勿論完治したわけではない。毒を体内から取り除かねばならん。」
そう言い、華佗は表情を引き締めた。
秋蘭「具体的には?」
華佗「患部辺りに、毒に穢された悪い血が溜まっている。それを抜かねばならんが、その為に患部を切開する必要がある。」
これには
稟「患部を・・・」
栄華「せ、切開・・・」
稟と栄華は顔を青ざめてしまった。
華佗「勿論だが、その分激しい痛みを伴う。その為に、麻沸散を使う。」
秋蘭「麻沸散?」
聞いた事ない言葉に、秋蘭は首を傾げた。
華佗「施術の間に眠って貰う薬だ。それだけの痛みなのだ。」
華佗「そして、血を抜き取ったら、骨を削り取る。」
これには
「「「・・・!!」」」
稟と栄華は勿論、流石の秋蘭も顔を歪めた。
華佗「そして薬を塗り、針と糸で傷口を縫合し、また薬を塗る。」
秋蘭「成程・・・」
華佗「ああ。もうこれ以外に手立てはない。さもなくば、腕どころか本当に命を落とす。」
その時
純「成程・・・相当・・・難しい事だと分かった・・・」
純がそう苦しそうに言うと
純「か、華佗・・・頼む・・・」
そう華佗に言った。
華佗「無論だ。俺も全力を以て、あなたを完治させよう。」
華佗も、しっかり頷きそう言った。
純「そ、それと・・・く、薬は・・・いらねー・・・」
これに
華佗「馬鹿を言うな!!堪え難い痛みを伴う施術なんだぞ!」
華佗は驚きのあまりそう言ったのだが
純「ふっ・・・華佗・・・。お、俺は・・・あ、姉上の・・・為に・・・か、数え・・・切れねー戦に・・・身を投じ・・・い、命を懸けて戦ってきた・・・」
純「い、痛みなんか・・・恐れねーよ・・・」
純は笑みを浮かべながら言った。
華佗「し、しかし・・・」
これに、華佗は戸惑ったが
秋蘭「純様・・・華佗に従って下さい。」
秋蘭は、純にそう言った。
純「し、秋蘭・・・き、気遣い無用だ・・・」
秋蘭「純様。今は戦時故、急を告げている最中ではありますが、だからこそしっかり治さなければなりませぬ。」
純「・・・。」
秋蘭「純様なら確かに耐えきってみせるでしょう。しかし、万が一激痛のあまりに華佗が施術をしくじったらどうなさいますか?」
すると
稟「秋蘭様の言う通りです。ここはどうか・・・」
栄華「私からもお願いします!お兄様・・・!」
稟と栄華も、そう純に言った。
純「・・・分かった。意見に従おう・・・」
これに、純はそう言い、三人の手伝いで横になって目を閉じた。
秋蘭「では華佗。お願いする。」
華佗「承知した。」
秋蘭「では、私達は出るぞ。」
そう、秋蘭は言い
稟「はい。」
栄華「分かりましたわ。」
稟と栄華もそれに続いた。
そして、翌朝・・・
華佗「ふぅ・・・」
華佗が部屋から出てきた。
秋蘭「華佗・・・どうだ?」
稟「華佗殿・・・」
栄華「華佗さん・・・」
これに、秋蘭と稟、そして栄華は、華佗に詰め寄ると
華佗「ああ。確かに毒が内臓を蝕み始めていたが、流石『黄鬚』の異名で鳴らした猛将だな。無事、施術は済んだ。」
華佗は、そう三人に言った。
稟「良かった・・・!」
栄華「はい・・・!」
これに、稟と栄華はそう涙を浮かべて言ったが
秋蘭「良かった・・・純様・・・本当に良かった・・・!」
とりわけ秋蘭が一番嬉しそうにしており、口元を抑えながら涙を流し、嗚咽を漏らしながら膝を付いた。
華佗「暫し、養生は必要だがな。」
そう、華佗は笑みを浮かべ言った。
そして、その日の夕方に、純は目を覚ました。
秋蘭「ご気分はどうでしょうか?」
純「まだ腕に違和感はあるが、気分は良い。」
少々顔色は悪いが、以前のような苦しそうな程ではなかった。
稟「良かったです・・・!」
栄華「お兄様・・・!」
楼杏「本当ね・・・!」
霞「ホンマに良かったよー!!純!!」
剛「良かったですよ・・・閣下。」
哲「そうだな・・・」
稟に栄華、楼杏、そして霞に剛と哲はそれぞれ涙を流しながらも喜びの表情を浮かべ
春蘭「じゅんざまー!!よぐぞごぶじでー!!」
春蘭は、顔が涙と鼻水だらけの状態で喜びを爆発させながらそう言うと
翠「ああ、そうだな・・・本当に良かったよ、純殿・・・」
翠も、涙は出てないが嬉しそうな表情でそう言った。
華佗「毒に侵された箇所は全て取り除いた。その後で、これを使って気を送ったから、後は回復を待つだけだ。」
華佗は、気を送るために使う針を取ってそう言った。
秋蘭「華佗。純様は回復するまで如何程かかる?」
秋蘭の問いに
華佗「そうだな。本人次第だが、百日ほど安静にすれば、完全に良くなるだろう。」
華佗はそう言い
華佗「曹彰殿。その間、無闇に怒ったり、気を昂ぶらせたりするのは禁物だ。無論、武器を振るって戦場を駆けるのもだ。」
華佗「そうしなければ、傷口が開き体調が悪くなる。だから、一度引き揚げた方が良いと思う。」
華佗「曹操殿も、俺と同じ考えだ。」
純にもそう言った。
これに
純「・・・俺は武人だ。姉上の為に敵に対し命を懸けて臆する事無く勇猛に戦い、勝つ事が役目であり、忠義だ。」
純「俺達は陸口で死んでいった友であり、家族に等しい仲間の御霊に仇の首を捧げる事すら叶っていねーんだ。」
純「陸口を奪還したその勢いに乗じて、一気に江東を平定すべきなんじゃねーのか?」
純はそう反論すると
純「姉上の元に戻り、こう伝えてくれ。『許都にて、姉上は吉報をお待ちになって下さいませ。俺は戦場にて目の前の敵を斬り殺し、姉上の為に勝利をお捧げ致します。』とな。」
華琳にそう伝えるよう華佗に言った。
しかし
華佗「曹彰殿!あなたは・・・姉である曹操殿を蔑ろにするつもりか!」
華佗「あなたが死ねば、ここにいる夏侯淵殿達を中心とした全軍将兵だけじゃない!曹操殿他、皆が悲しむ!ましてやあなたは、曹操殿が最も大切に思われている血を分けた、たった一人の弟なんだぞ!」
華佗にそう言われると
純「っ!」
純は何も言えず
純「・・・。」
目を閉じ、沈黙した。
そして
純「・・・分かった。俺は江陵に戻るとしよう。」
純は目を開けると、江陵に一旦戻ると言った。
華佗「それが良いだろう。それを聞いて安心した。」
これに、華佗はホッとした表情を浮かべた。
純「稟。机の上にある兵符を、秋蘭に渡してくれ。」
すると、純は稟に兵符を渡すよう命じた。
稟「御意。」
これに、稟は兵符を取り、秋蘭に渡すと
純「秋蘭。全軍の統率と指揮権を暫くお前に譲る。何かあれば、万事全て任せるぞ。」
秋蘭に全軍の統率と指揮権を暫く譲ると言った。
秋蘭「御意!」
秋蘭は、兵符を持ち跪いて拱手した。
純「春蘭、楼杏、翠、そして稟。」
春蘭「はっ!」
楼杏「はい!」
翠「おう!」
稟「はっ!」
純「お前達は秋蘭をしっかり支え、秋蘭の言葉は、全て俺の言葉と思い行動しろ。」
そう、四人に命じると
春蘭「御意!」
楼杏「承りました!」
翠「ああ!ちゃんと秋蘭を支えてやるぜ!」
稟「御意!」
四人は跪き拱手した。
純「秋蘭も、この四人の意見にしっかり耳を傾け行動しろ。良いな。」
秋蘭「はっ!」
純「では、俺は江陵に戻って、暫く養生する。霞、剛、哲、そして栄華、頼むぞ。」
霞「任しとき!純には指一本触れさせへんで!」
剛「霞の言う通り、もし襲われたら任せてくれ。」
哲「御意!」
栄華「お任せ下さいまし!」
そして、純は霞と剛に哲、そして栄華を連れて一万程の将兵と共に江陵に戻ったのであった。