華琳の屋敷
司馬懿「曹操様の功績は偉大ですが、臣下は臣下です。」
桂花「しかし劉備は、瞬く間に皇叔となりました。誠に解せませぬ。」
この二人の意見に
華琳「それがどうしたって言うの?私は、皇族になるつもりは無いわ。」
華琳はそう返し気にしてないと言った。
司馬懿「しかし天子は、劉備に宮中に参っても良いと仰いました。天子は明らかに、力を求め動いたのです。ご用心なされませ。」
桂花「私も司馬懿に同感です。華琳様、お気をつけを。」
華琳「私もそれに気付いたわ。警戒はするけど、何事にも一長一短があるわ。今や劉備は皇叔となった。いずれ天子の詔を使って牽制しましょう。」
司馬懿「成程・・・」
桂花「流石は華琳様です。」
華琳「皇叔となってからは、有頂天になっているかしら?」
桂花「いえ、その反対です。皇叔となり、逆に謙虚になっております。客舎に籠もったまま、日がな一日外にも出ません。」
司馬懿「仮に外に出ても、礼節を守り、極めて慎重です。とはいえ、これは恐らく諸葛亮、鳳統の入れ知恵かと。」
華琳「成程。フフッ・・・賢いわ。」
すると
司馬懿「曹操様。私は以前から、申し上げたかった事が・・・」
司馬懿が華琳にそう言った。
華琳「何かしら?」
司馬懿「曹操様の功績は偉大であり、その恩威は天にも届かんばかり。それ故、いつまでも臣下に甘んじてはなりません。」
華琳「司馬懿。帝位に就けと言うのかしら?」
司馬懿「まさしく!」
これには
桂花「あなた、何を言ってるの!?兵馬の数と領地は袁紹には遠く及ばないわ。それに、今の状態で帝位に就けば、たちどころに諸侯が牙をむき、私達は滅ぶのよ!」
桂花は強硬に反対した。
華琳「それだけじゃ無いわ。朝廷の内外には、天子に忠実な者達も少なくないわ。特に一番面倒なのは・・・董承よ。」
華琳「あの頑固爺は、ことある毎に私達に噛みつく。先の袁術討伐でも純を行かせる事を強く止めた程よ。」
司馬懿「では策を講じましょう。誰が天子に忠実で、誰が曹操様に忠実か。」
華琳「成程。なら・・・二日後に、許田で巻狩りをしましょう。司馬懿、あなたは宮殿へ行き天子を誘いなさい。それから朝廷の文武百官も連れて行くわ。」
司馬懿「御意。」
そして、司馬懿はその場を後にした。
宮殿
董承「陛下。お聞きしたいことが・・・」
霊帝「何?」
董承「会われたばかりの劉備に、何故あのような特権を?」
劉協「私もです。何故ですか、姉様。」
この質問に、霊帝は辺りを見渡して
霊帝「曹操が朝廷を牛耳り、朕には何の力も無い。劉備は漢室の末裔で、朕にとっては得難い存在よ。ゆくゆくは、朕や白湯の力に・・・」
そう言った。
董承「成程・・・」
劉協「しかし姉様。劉備さんは領地はともかく、兵馬が少ないのですよ。」
霊帝「それは、何とかなるわ。きっと・・・」
その時
朝廷文官A「申し上げます。司馬懿殿がお見えです。」
そういった知らせが入った。
これに
霊帝「すぐ通しなさい。」
朝廷文官A「はっ。」
霊帝は通すように言った。
そして、司馬懿が入ってきて
司馬懿「司馬懿、陛下に拝謁致します。」
拱手し頭を下げた。
霊帝「楽にせよ。」
司馬懿「恐れ入ります。」
霊帝「何用で参ったのかしら?」
司馬懿「申し上げます。陛下、我が主が『明後日、狩りをご一緒に』と。」
これには
霊帝「司馬懿。狩りに興じるなどとは、天子に凡そ相応しくないわ。それに、朕は身体の具合が優れないわ。故に・・・」
霊帝は行く気が無いと言ったがその途中
司馬懿「陛下。古より聖君は狩りを好まれ、春夏秋冬狩りに出られ、そのご威光を示してこられました。」
司馬懿「主は、陛下をお招きするほか、朝廷の大臣達や将兵も同行させます。皆、陛下の行幸を楽しみにしておられます。」
司馬懿「ああ・・・陛下の御身が優れない事については・・・どうかご再考を賜りますよう。」
司馬懿が遮ってそう言った。
これには
霊帝「そちの話を聞き、朕の具合も良くなった。曹操に伝えなさい。『朕は行く』と。」
霊帝はそう言わざるを得なかった。
司馬懿「承知しました。」
その二日後、許田で巻狩りを始めた。皆馬を走らせ、それぞれの獲物を狩った。
中でも純は別格で
純「うりゃあああっ!!」
ドシュ
虎「ガアアアアアアッ!!」
虎を素手で仕留めたのだった。
霊帝「み、見事だわ曹彰・・・」
純「はっ。ありがたきお言葉!」
これには、霊帝を含め董承や王子服に呉子蘭、そして劉協などは顔を青ざめていた。
董承(な、何じゃあれは・・・!虎を素手で仕留めるとは・・・!まるでかつての飛将軍・李広ではないか!これが・・・『黄鬚』曹彰・・・!)
王子服(『黄鬚』曹彰・・・!恐ろしや・・・!)
呉子蘭(何と恐ろしい・・・!虎を素手で仕留めるとは・・・!まさに『黄鬚』だ・・・!)
劉協(し、信じられません・・・!)
それに対し、周りの将兵は
曹軍兵士A「流石曹彰様だぜ!!」
曹軍兵士B「ああ!この程度、曹彰様なら当然だ!!」
春蘭「おお!流石は純様!!」
秋蘭「フッ・・・」
季衣「すっごーい!流琉、純様本当に素手で仕留めちゃったよ!」
流琉「み、見てるよー!季衣、落ち着いて!揺らさないで!」
まるで自分の事のように喜び、中でも秋蘭は表面上クールに振る舞っているが内心は非常に嬉しそうだった。
華琳(この程度・・・私の弟なら当然よ・・・)
華琳も当然という反応だったが
華琳(でも・・・怪我してないわよね・・・お姉ちゃん心配だわ・・・!)
華琳(もし怪我してたら、あの虎・・・八つ裂きにしてあげるわ・・・!)
やはり心配?はしており、死んでるにもかかわらず、物騒な事を考えていたのだった。
霊帝「朕も仕留めねばな・・・!」
霊帝も矢を放ったのだが、矢は外れてしまい、鹿は逃げてしまった。
華琳「陛下に成り代わり私が。」
その時、華琳は霊帝から弓矢を借り、構えた。
そして、矢を放つと、矢は鹿に命中した。
純「お見事です、姉上!」
春蘭「お見事です、華琳様!!」
季衣「凄いです、華琳様!!」
桂花「万歳!!」
司馬懿「万歳!!」
「「「万歳!!!万歳!!!万歳!!!」」」
これを見た純は万歳の声を上げ、それに続いてその他の将兵達も、皆揃って万歳を合唱した。
それに華琳は、霊帝の前に行き万歳を受け止めた。
これを見た董承や王子服、呉子蘭といった者は怒りで顔を赤らめた。
劉備も、怒りの表情で馬を動かし華琳に向かおうとしたが
関羽「桃香様・・・」
劉備「愛紗ちゃん・・・!」
関羽「・・・。」
関羽に止められた。そして関羽は
関羽「曹操殿の腕前は、まさに神業です。」
そう華琳に言った。
華琳「それは違うわ関羽。あなたは先の袁術討伐で弟の弓の腕を見た事があるでしょう。」
関羽「はい。城攻めをしてる折、曹彰殿は矢を三本纏めてつがえ、一斉に放ち敵兵三人を射殺しました。」
華琳「ええ。我が弟こそ、真の神業の持ち主よ。私なんか、一本放つので精一杯よ。これも帝のご威光の賜物ね。」
華琳「陛下。宝雕弓をお返し致します。」
そして、華琳は宝雕弓を霊帝に渡そうとしたが
霊帝「これは取っておきなさい。」
霊帝は不機嫌そうな表情でそう返した。
華琳「ありがとうございます。」
純「姉上、万歳!」
「「「万歳!!!万歳!!!万歳!!!」」」
そして、再び万歳の合唱が始まったのだった。
狩りを終えた華琳達は、屋敷に戻った。
華琳「純。」
純「はい。」
華琳「先の狩りで虎を仕留めた褒美よ。受け取りなさい。」
そう言い、華琳は宝雕弓を純に渡した。
純「姉上。これは柔らかすぎて戦場では全く役に立ちません。」
華琳「なら捨てなさい。」
純「ああ・・・いえ、あの・・・頂戴します。」
その声を聞き、華琳は屋敷の中に入った。
華琳「司馬懿。桂花。」
司馬・桂「「はっ。」」
華琳「さっきの様子を見ていたかしら?将兵達の万歳という声に、誰が不満そうだったかしら?」
司馬懿「董承などは怒りで顔を赤らめました。」
桂花「劉備が、華琳様に詰め寄ろうとしました。怒りを堪えていた大臣達も少なからずおりました。」
華琳「そうね。これで分かったわ。朝廷に忠実な者が少なからずいるわ。まして群雄が割拠して覇を競っている今は、帝位の話をする時では無いわ!」
司馬懿「・・・はっ。」
桂花「御意。」
そう、華琳は二人に一喝して中に入ったのであった。