純達が駐留してから十日が経った。
凪「稟様。昨日同様董車騎将軍様が言うには、『策はワシの胸の内にある』と。それ以上は答えませんでした。」
この報告を聞いた稟は
稟「もう十日ですよ。まだそんな事を言っているのですか?」
眉をひそめながらそう言った。
凪「後はもう自慢話ばかりで、口を開けば漢への愛国心を云々と熱っぽく語ったり、天子様への忠誠を誇ったり。それは、王子服様と呉子蘭様も同じでした。だがどうも、本心は隠しているようでした。」
これに
稟「やはり、愚物共ですね。」
と稟は言い
凪「全くです。一緒にいるだけで吐き気がします。」
凪も同調した。
稟「凪。この事は、純様には伏せておいて下さい。純様は、今回の対袁紹の総帥と秋蘭殿の一件で董承らに対して怒りを抱いております。この事を知れば、董承達に何をするか分かりません。もしこの事を袁紹側に知られたら、大変な事になります。」
凪「しかし、それもいつまで隠し通せるか・・・」
これには、稟も眉をひそめるしか無かった。
剛「兵達は食糧を調達するために、近くの山に野草を採りに行っています。しかし、それもすぐに尽きるでしょう。」
哲「兵達は皆、空腹にあえいでいます。」
楼杏「このままでは、皆飢え死にしてしまいます。」
純「・・・ああ。」
そして、純は空腹で意気消沈している兵の肩を叩いた。
曹彰軍兵士A「曹彰様・・・」
純「すまないな・・・」
これには、純はそう言うしかなかった。そして、周りの兵の顔を見た純は
純「何を自慢げに策略などと・・・!駐留してもう二十日経つ。俺達は戦をしに来たんだ。飢えるためじゃねー!兵達は虎だ。野良犬じゃねー。俺の命の次に大事な兵をこんな目に遭わせやがって!」
怒りを浮かべてそう言った。
純「董承はどこだ?」
剛「この数日、董車騎将軍様は王子服様と呉子蘭様と共に、幕舎で酒宴を行っているかと。」
これを聞いた純は
純「何、こんな時に酒宴だと!?」
ただただ驚き、いてもたってもいられず、そのまま本営の幕舎へ足を運んだ。
董承「この酒は格別じゃ!」
王子服「そうですな!」
呉子蘭「全くです!」
その頃、董承らは酒を飲みながら楽しんでいた。
そこへ、純が入ってきた。しかし
王子服「いやぁ、美味い!」
呉子蘭「うむ!」
董承「ははは!」
彼らは酒に夢中で気付かなかった。
純「・・・。」
その様子を、純は呆れつつも董承のもとへ歩いた。
そして、董承に近付くと腕を組んで
純「車騎将軍殿。」
と呼んだ。
董承「おお!『黄鬚』殿か!」
これに気付いた董承は、純を異名で呼んだ。
純「お辞め下さい。俺は将軍です。陛下から大命を受け、逆賊袁紹を打ち破るために出陣した。」
純「それなのに、戦にも行かず、酒を飲み宴とは!こんな事をして陛下に、民に申し訳が立つのですか!」
そう言い、純は器の中に入っている酒を投げ捨てた。
董承「ははは!曹彰殿、落ち着かれよ。曹彰殿は、いち早く官渡まで駆けつけ、袁紹の軍を破りたいのだろう。」
董承「しかし、いくら7万の将兵全てが最精鋭とはいえ、袁紹の軍勢は70万じゃ。とても太刀打ち出来ぬ。よって、ここは戦わず、袁紹軍が現れ我らに攻撃してきたら、それを耐え凌ぎ、袁紹軍が疲労困憊になったその隙に攻める。そうすれば必ず勝てる。」
董承「つまり、今は動く時では無いのじゃ。武器を持って戦場を駆け回り敵を殺す事においては、ワシは曹彰殿に遠く及ばない。だが、軍営から全体を見て策を練るのは、曹彰殿よりもワシの方が上じゃ。」
董承はそう純に言い
董承「さあさあ、酒を・・・」
王子服と呉子蘭に酒を勧めると
純「俺にとって家族同然の兵達は飢えてるんだぞ!!」
純はそう董承に怒鳴った。
董承「戦が、苦しいのは当然じゃ!それはそなたも分かっておるはず!苦しみに耐えられぬなら、戦に勝てるはずが無い!」
これに、董承はそう怒鳴り返した。
純「例えそうでも、車騎将軍殿。アンタは、日夜酒を飲み、王子服殿と呉子蘭殿と一緒に享楽に耽っているだけです!」
純「兵達が苦しんでいるのを何とも思わねーのか!」
しかし、純も負けじとそう言い返した。
董承「曹彰殿。陛下はこの重要な役目をワシに任されたのであって、曹彰殿に任せたのでは無い!日夜酒を飲んでいるのは、享楽に耽っているのでは無く、結束を強める為じゃ!」
董承「確かに、兵達の中には、寒さと空腹を訴え、不満を持つ者もいる。だがそれは、気合と漢室への忠誠心、そして愛国心が十分で無いからじゃ!」
董承「フッ・・・曹彰殿。そのような兵達は、将軍が適切に罰するべきじゃ。頼んだぞ。」
それに、董承はそう言い、最後に馬鹿にしたような笑みを浮かべながら
董承「さあ。遠慮せず飲もう!」
王子服「いただきます。」
呉子蘭「どうも。」
王子服と呉子蘭と再び酒を飲んだ。
これに、純は言い返す気力も失せ、ただ呆れ笑いを浮かべながら
純「ごゆっくり!」
純「皆様も!」
そう言い残し、幕舎を出たのだった。
董承(フンッ・・・宦官の孫が、調子に乗るでないわ!漢室に、お主のような穢れた者など必要ない!)
董承(必要なのは、ワシらのような心の清い者だけじゃ・・・!)
純の後ろ姿を見てそう心の中で呟きながら、董承は酒を飲んだのであった。