恋姫無双〜黄鬚伝〜(リメイク)   作:ホークス馬鹿

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7話です。


7話

謁見の間

 

 

 

華琳「・・・ふむ。豫州で賊が暴れているという事は理解したわ。しかしそれは、既にそちらの問題ではなくて?陳珪殿。」

 

華琳「・・・そもそも私達は、あの3人の賊を豫州との州境まで追い詰めていたのよ。それこそあと一歩のところで、そちらへと逃げられてしまった。」

 

華琳「そして逃亡した賊の件はそちらに報告し、引き続き追跡の許可も求めたわ。・・・拒絶されたけれどね。」

 

華琳としては、逃げられたという事実は認めても、その非を認めるつもりはなかった。それは簡単で、もしそこで謝ったら、話は謝罪の方向に行くだけになるからだ。

 

燈「重要な物を追っているという情報を隠して?」

 

華琳「・・・どういう事。」

 

燈「南華老仙の残した書物・・・太平要術の書、というそうね。」

 

燈「書物のことはこちらで調べさせてもらったけど、それを追っていることを陳留からは聞いていないと報告があったわ。」

 

華琳「それが?」

 

純(さすが姉上、これは想定内の話か。しかし、相変わらず難しい話は苦手だな・・・。俺が姉上の立場だったら、稟か風に任せようかな・・・。)

 

その時、華琳と陳珪の話を聞いていた純は、そう思っていた。

 

華琳「確かに盗まれた一番の品は、太平要術の書だったわ。けれどそれは、荘周の遺した貴重な古書というだけの話。盗品という点では、金の塊や錦の反物と変わらないわ。」

 

華琳「それとも豫州では、盗品の明細を作らなければ兵一つ動かせないと?」

 

燈「ふふっ。それはないわね。」

 

華琳「それよりもこちらとしては、豫州の州境を越えて兵を動かせなかった事を問題にしたいのだけれど?」

 

華琳「我が軍が領内で賊を捕まえられなかった非は・・・まあ、認めざるをえないわ。」

 

華琳「しかしそちらで捕まえると言ったものを捕まえられなかった事に関しては、こちらに責任を転嫁される謂われはないのではなくて?」

 

燈「あら。ならば、同じ事が逆の立場であったらどうするのかしら。豫州から逃げた賊を追うために、我々の兵が陳留へ踏み入る許可を求めたら?」

 

華琳「通すわけがないでしょう。特に、私の弟はね。その賊には、そちらでの罪の前に、我が領に足を踏み入れた報いを受けてもらう必要があるもの。」

 

華琳「そちらには私の弟が責任を持って、賊の首と盗品だけを送り返させていただくわ。・・・ああ、その時は確かに盗品の明細があると便利かもしれないわね。」

 

すると、華侖が小声で

 

華侖「・・・華琳姉ぇとあの人、ケンカしてるんすか?」

 

と尋ねると

 

栄華「まさか。ただの挨拶ですわよ、あんなもの。」

 

柳琳「もぅ・・・皆さん、お姉様に叱られますよ。」

 

柳琳に注意されてしまった。

 

燈「ならば此度の件、孟徳殿は私達豫州の兵があなたたち陳留の兵を通さなかった・・・そこが問題の全てだというのね。」

 

華琳「ええ。我が領内から賊を逃がした報は、既にそちらには伝えたもの。さらに言えば、責任を持って私の弟が追跡するともね。」

 

燈「なら・・・改めて、賊を逃がした責任を取ってもらう、と言ったら?」

 

華琳「・・・責任?報を伝え、こちらの申し出を断っておいて・・・先程も言ったはずだけれど、既にそれはそちらの問題でしょう。」

 

燈「身内の恥を晒すようで何だけれど・・・残念ながら、豫州には陳留ほどの精兵を持つ郡はわずかなの。特に貴女の弟の子文殿の子飼いの兵と比べたら尚更ね。」

 

燈「今、その連中は何をどうしたのか、手勢を増やして小さな廃城を根城にしているわ。規模は数百か、千に及ぼうとする・・・といったところかしら。」

 

華琳「・・・初めから我々に追わせておけば三人で済んだものを・・・。」

 

華琳「三人を追えというだけならまだしも、そうなる前に手を打たなかった事はこちらの責任ではないわよ。」

 

華琳「それを曲げて頼むというなら、相応の態度というものがあるのではなくて?」

 

純(そうさせるか、姉上・・・。)

 

華侖「華琳姉ぇ、なんとかの書は取り返したくないんすかね?」

 

秋蘭「華琳様のことだ。向こうから出来るだけ良い条件を引き出そうとするおつもりなのだろう。」

 

純(やっぱ俺、こういうのは嫌だなぁ・・・。天幕で作戦を聞いてた方がずっとマシだ・・・。)

 

そんな時、純はそう思い聞いていた。

 

燈「ふむ。まあ、どうしてもと言うなら、頭を下げても閨で尽くしても構わないのだけれど・・・。」

 

燈「陳留の太守殿は、私ごときの頭と安い懇願一つで機嫌を良くなさるお方なのかしら?」

 

華琳「・・・。」

 

燈「私としては、正直、どちらでも良いの。貴女が動いても、動かなくても。」

 

陳珪は、今でも穏やかなという名のポーカーフェイスを浮かべたまま表情を変えず、それがハッタリなのか事実なのか分からず、ただ空恐ろしく感じるのであった。

 

燈「ただ、一度逃がした賊を再び捉える機会をあげようと思っただけ。・・・孟徳殿が、こちらに賊が逃げた報を送ってくれたようにね。」

 

華琳「・・・。」

 

燈「孟徳殿の助けが借りられないなら、我が豫州の東方、徐州にいらっしゃる陶謙殿に礼を尽くすという手もあるし・・・。」

 

燈「ここからさらに北上して、南皮の・・・何と言ったかしら。いま頭角を現わしつつある、汝南袁氏筆頭の・・・」

 

それを聞いた純は

 

純「・・・麗羽か。」

 

と呟き、華琳に至っては

 

華琳「・・・まさか。袁紹を頼るにしても、南皮から豫州に兵を入れるなど・・・どうするつもり。」

 

と思わず息を飲んで言ったのだった。

 

燈「あのあたりの相や太守にはいろいろ貸しがあってね・・・済陰に寄る前にあちこち足を伸ばして、既に話は通してあるの。まだ袁紹殿ご自身には持ちかけていないけれど。」

 

華侖「あちゃー。袁紹の名前が出てきたっすよ。」

 

栄華「ええ。お兄様はともかく、お姉様とは仲が悪いですからね。」

 

燈「・・・いずれにしても、太平要術の書は取り戻すつもりなのでしょう?今なら、貴女達に優先的にさせてあげると言っているの。」

 

華琳「・・・貴女、国を売るつもり?」

 

華琳「義理にうるさい陶謙はまだしも、袁紹は野心の塊よ。その提案を受け入れるのは間違いないけれど、その後にどうなるか分からない貴女でもないでしょうに。」

 

燈「あら。それこそ他国の話など、陳留太守の曹孟徳殿には関係ないでしょうに。」

 

燈「それとも・・・先に買っておきたいのは貴女だったかしら?」

 

華琳「・・・。」

 

純(さすがにこんなに分かりやすい挑発には乗らねーか。)

 

燈「言ったでしょう。逃がした賊を再び捉える機会をあげる、と。それに、貴女の弟の子文殿は黄鬚という異名で通る猛将。この程度の賊、容易いはず。」

 

それを聞いて

 

純「コイツ・・・。」

 

純は小さい声でそう言った。

 

華琳「助けてあげるのはこちらよ。それと、私の弟を見くびらないで欲しいわ。」

 

燈「・・・。」

 

華琳「・・・。」

 

そして、時間だけがゆっくり過ぎていき、

 

華琳「・・・いいわ。同盟という事なら、引き受けてあげる。」

 

華琳「それと、遠征にかかる費用はそちらに出してもらうわ。賊を千人も余分に退治してあげるのだから、当然よね?」

 

これには

 

陳珪「・・・。」

 

陳珪も流石に面食らってしまったのだが、小さくほぅっと息を吐き、

 

燈「・・・ええ。その条件で結構よ。」

 

華琳「半月保たせなさい。それで、その賊とやらは、私の弟が一人残らず駆逐してあげるわ。」

 

燈「準備に半年かかると言われなくて助かったわ。こちらも州内の根回しをもう少ししておきたいから、その時点で改めて遣いを送るわ。」

 

華侖「・・・終わりっすか?」

 

秋蘭「・・・みたいだな。」

 

華侖「ぷはー。息が詰まったっすー。」

 

栄華「ほら、もう少しですから、静かにしていなさい。」

 

燈「さて、なら私は帰るわ。今日は実のある話が沢山出来て光栄だったわ、曹孟徳殿。」

 

華琳「あら、会食の支度をしておいたのだけれど。」

 

燈「申し訳ないのだけれど、辞退させていただくわ。・・・戻ってすべき事が、山のようにあるの。」

 

華琳「そう・・・。そういえば、その子は?」

 

燈「ああ、この子は私の娘よ。見聞を広めさせるために同行させたの・・・。喜雨、ご挨拶なさい。」

 

喜雨「・・・姓は陳、名は登、字は元龍と申します。」

 

陳登は居心地が悪かったのか、形式に沿った挨拶をしたが、どこかぶっきらぼうな物言いで名乗り、ぺこりと頭を下げたのだった。

 

華琳「陳元龍・・・最近、沛の米や麦の生産が大幅に増えた話を聞いた時、その名が出てきたわね。」

 

燈「あら、お耳が早い。この子は政事よりも、そちらの方が好きなようなのよ。」

 

華琳「そう。私の弟は武が好きだし、ある意味同じね。」

 

喜雨「・・・土と水は、正面からちゃんと向き合った者には誠実に答えてくれるから。腹の探り合いも化かし合いもないし、その方がずっと気楽だよ。」

 

この発言に

 

純「ほほう、お前、中々素晴らしい才能じゃねーか!それが出来るなんて、立派だな、俺は尊敬するよ!」

 

純はそう言って、陳登を褒めたのだった。

 

喜雨「そ、尊敬だなんて・・・。『黄鬚』と呼ばれ戦に勝つ曹彰様と比べたら、僕は大した事してないよ。」

 

これには、普段鉄仮面のように表情を崩さない陳登は大慌てでそう言った。

 

純「そんな事ねーよ、胸を張れ!その考えが、どれだけの民を救えるか!」

 

それに対し、純はそう言って陳登を更に称えたのだった。

その時

 

華琳「純、まだ話の途中なのだけど・・・。」

 

と言い、華琳は純をたしなめた。

 

純「ああ、申し訳ございません。姉上。」

 

それを聞いた純は、そう言って下がった。

 

華琳「弟の非礼、お詫びするわ。」

 

燈「いえ。こちらこそ、娘の非礼をお詫びするわ、曹孟徳殿。」

 

華琳「その知識、いつか私の所でも役立ててほしいものね。」

 

燈「あら。それは人質ということかしら?」

 

華琳「まさか。同盟国を相手にそんな無粋な真似はしないわよ。」

 

華琳「正式な依頼よ。我が陳留にも、これから手を付けなければならない土地がそれこそ山のようにあるの。」

 

華琳「沛で振るった手腕を生かしてくれると光栄だわ。むしろ、純は絶対に快く迎えてくれるわ。」

 

喜雨「・・・曹彰様からの依頼だったら、考えておくよ。」

 

そして2人は頭を下げ、静かに、謁見の間を出て行った。

 

 

 

 

栄華「・・・お疲れ様です、お姉様。」

 

華琳「この程度、大したものではないわ。」

 

純「まあ、朝廷は魑魅魍魎の跋扈する蠱毒壺と同様ですからね。」

 

柳琳「ですが、あのお方・・・どこまでが本心だったのでしょうか。いくら戦力が心許ないとは言え、他国の兵を自領に引き入れるなど・・・。」

 

華琳「さあね。けれど、これで貸しを作っておくのも悪くはないでしょう。もちろん、向こうに良いようにされないよう、色々と根回しは必要だけれど。」

 

華琳「猫にも爪の一つくらいあるものね。それよりも栄華。」

 

栄華「はい。お風呂は用意させてありますわ。ゆっくり、汗をお流し下さいませ。」

 

華琳「それと、遠征に出す兵の支度は純、あなたに全て任せるわ。既に城下の商人には話を付けているし、費用は向こう持ちだから、その点に関しては栄華と相談しなさい。」

 

純「はっ。」

 

栄華「はい。お兄様と一緒に、他国に見られても恥ずかしくないよう、万全整えさせていただきます。」

 

 

 

 

一方

 

 

 

 

喜雨「・・・なるほど。本当に、手の入れがいがありそう。」

 

燈「あら。曹子文から誘いの依頼が来る前に、もうこちらに来る気になっているじゃない。」

 

喜雨「僕は母さんとは違うよ。考える必要があるから、考えるって言っただけ。」

 

燈「そう。・・・けれどあの曹孟徳と言う子、噂に聞くよりずっと自制の効く子だったわね。その弟の曹子文も、血気盛んで気性が荒いと聞いていたけど、意外と大人しかったし。」

 

燈「袁家の名を出せば、もう少し楽にこちらの誘いに乗ってきてくれるかと思ったのに・・・」

 

燈「おかげでこちらの仕込みが台無しだわ。」

 

喜雨「・・・。」

 

燈「もっとも、これなら・・・ふふっ。」

 

喜雨「・・・そういう所が嫌いなんだよ。政治家って。」

 

そんな会話をしていた親子であった。

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