純率いる40万の曹軍が劉備の20万の兵を撃破した事は、許都にも届いていた。
華琳「・・・そう。」
曹軍兵士A「はい。曹彰様が、劉備を撃破したとの事です!」
これには
華侖「流石純兄っす!ねえ、柳琳!」
柳琳「フフッ・・・そうね、姉さん。」
栄華「お兄様・・・!」
皆自分の事のように喜んでいた。
桂花「これで、劉備らの力は大いに消耗しましたね。」
華琳「ええ、そうね。」
華琳「近々、天子に上奏して、純を大将軍に昇格させ、大司馬も兼任させるわ。」
桂花「それが宜しいかと存じます。軍事の頂に純様を立たせましょう。」
燈「これで益々、覇道完遂が近付きましたわ。」
華侖「そうっす!純兄は最強っすー!」
柳琳「姉さん・・・」
これに、桂花は勿論、他の皆も賛成の色だった。
華琳「・・・。」
しかし、華琳はその皆の思いとは裏腹に、少し怯えたような顔を一瞬浮かべた。
司馬懿「・・・。」
それを、司馬懿は見逃さなかったのだった。
そして、華琳は霊帝に上奏し、純を大将軍に昇格と大司馬の兼任の許可を取らせ、その事を使者に使わしたのだった。
その日の夜
華琳「・・・。」
華琳は一人、部屋の中で考え事をしていた。
華琳(確かに・・・これまで純は全将兵を任せ、多くの戦に勝利してきたわ・・・)
華琳(けど・・・これ以上あの子に功績が上がり続けたら、私の立場はどうなるのかしら・・・?)
華琳(皆・・・私に付いてくれるかしら・・・?純について行くのではないかしら・・・?)
華琳(私は・・・どうすれば良いのかしら・・・?)
そんな事を考えていると
司馬懿「曹操様。司馬懿です。宜しいでしょうか?」
華琳「良いわ。入りなさい。」
司馬懿「はっ。失礼致します。」
司馬懿が華琳の前に現れた。
華琳「司馬懿。こんな夜に何の用かしら?」
司馬懿「はっ。実は、曹彰様の件でご相談があります。」
そう、司馬懿は言った。
華琳「・・・言いなさい。」
司馬懿「はっ。此度の戦とこれまでの戦で、曹彰様は多大なる功績を挙げております。」
司馬懿「武勇と軍才に溢れ、将兵の統率にも優れ、まさに『黄鬚』の異名に相応しい。」
華琳「そうね。なんたって、あの子は私にとって自慢の弟よ。」
司馬懿「しかし、曹彰様は軍の間でも人望が厚く、曹操様直属の近衛兵以外の全将兵を従えており、数々の特権を持っております。それは曹操様を遙かに凌ぎます。」
司馬懿「このままでは、いずれ曹操様のお立場の危険を招く恐れがあります。」
華琳「・・・何が言いたいのかしら?」
司馬懿「曹操様も何度かご覧になったはずです、曹彰様の覇気を。あのお方の覇気は曹操様を、いやこの大陸中どこを見渡してもあのお方以上の覇気はいないでしょう。」
司馬懿「曹操様は、あのお方を御する事は出来ますか?」
そう、司馬懿は巧言を述べ、華琳に詰め寄った。
華琳「そ、それは・・・」
これに、華琳は言葉が詰まり、何も言えなかった。
司馬懿「曹操様。全ては覇道完遂の為です。曹彰様には、大将軍の昇格と大司馬の兼任はそのままで良いです。」
司馬懿「しかし、軍の統率権を剥奪なさって下さい。」
華琳「軍の統率権を?」
司馬懿「はい。そうすれば、位だけで何の権限もございませぬ。何かあっても、曹彰様は兵を率いれませぬ。」
司馬懿「曹操様のお立場は、安心ですぞ。」
そう、司馬懿は華琳に言った。
華琳「・・・分かったわ。純が許都に戻り次第、軍の統率権を剥奪するわ。」
華琳「その際、何か表向きの理由を作って剥奪させるわ。」
これに、華琳は目を虚ろにしながらそう司馬懿に言った。
司馬懿「流石は曹操様。賢明であらせられます。」
司馬懿は、そう拱手して言った。
その際、司馬懿は黒い笑みを浮かべていたのだった。
そして、純は許都に帰還し、霊帝に挨拶をした後、華琳に呼ばれた。
華琳「純。今回も良くやってくれたわ。」
純「全ては皆の働きのお陰であり、俺はこの太刀を振るったにすぎません。」
華琳「・・・そう。それで、大将軍の昇格と大司馬の兼任なんだけど・・・」
純「有難き事です。その位に恥じぬお働きをしてみたく存じます。」
華琳「そう。けど・・・少し難しい事があるのよ。」
純「・・・如何様な事ですか?」
華琳「ある者が言ったのよ。聞けば、劉備の軍を撃破し、追撃してると関羽率いる1万の騎兵を見るや交戦せずに引き揚げたと。」
純「あれは今無理に攻めれば、被害が拡大する危険があったのです。我が軍も決して被害が無いわけでは無く、一旦戦力を立て直し、整えてから侵攻するおつもりでした。」
華琳「まだあるわ。己の地位を守る為に、敢えて関羽と戦わずそのまま侵攻せずに退いたと。」
華琳「そうせねば、己の重用もあり得ないからってね。」
それを聞くと、純は目を見開き
純「姉上!俺は決してそのような事・・・!」
跪いて拱手して言うと
華琳「まだあるわ。全将兵を従え、大いなる力を持っている為、それを利用して私を引きずり下ろし実権を握り、自ら大軍を率い天下を争うのでは、とね。」
そう、華琳は純に言った。
それを聞いた純は
純「・・・姉上。そんなの・・・断じてありませぬ!俺はそのような事、全くございませぬ!」
純「讒言に惑わされないで下さい姉上!!どうかご明察を!!」
そう、頭を下げて言った。
華琳「純。こんな出鱈目、私は一切信じないわ!例えこの命が尽きても信じないわよ!」
これに華琳は、純の手を取ってそう言った。
この言葉に
純「そうです!!流石は姉上です!!」
純は顔を上げ、華琳に言った。
華琳「けどね純、いくら私でも失態は見過ごせないのよ。」
純「全ての責任は俺にあります。どうかこの俺の命を以て謝罪の意を示します!」
華琳「馬鹿な事言わないで!私にとって、あなたは可愛い弟なの!守りたいの!位はそのままにするわ。」
華琳「ただし、軍の統率権を剥奪するわ。暫くは、ゆっくり休みなさい。」
これに
純「っ!?」
純はショックを受けた表情を浮かべ
純「ははは・・・」
涙を流しながら乾いた笑い声を上げた。
そして
純「・・・結構です。よく分かりました。」
純「陳留に戻ります。そこで、暫く休みたく存じます。」
そう、華琳に言うと
華琳「いいえ、その必要は無いわ。許都の屋敷にてゆっくり休みなさい。」
華琳は純の手を離し、後ろを向きながら言った。
これに
純「・・・仰せの通りに。」
純は拱手してそう言い、立ち上がってその場を後にした。
その際、あまりにもショックだったのか、ふらつきながら出て行ったのだった。
華琳「・・・これで良いのね、司馬懿?」
すると、華琳はそんな事を言うと
司馬懿「・・・はい。それで宜しいです。」
司馬懿が突然部屋の一角から現れた。
華琳「これを聞いて、劉備らは攻めてこないかしら?」
司馬懿「それは杞憂かと。劉備は先の戦の大敗で力を大いに失っております。立て直しには時間がかかります。」
司馬懿「その間、我らは更に力を蓄え、将来のために曹操様の下一枚岩に纏めねばなりませぬ。」
華琳「そう・・・それじゃあ、国境にいる十万の兵に、私の命を伝えさせなさい。」
華琳「ただちに許都へ引き返し、待機せよとね。」
それを聞いた司馬懿は
司馬懿「曹操様。それは難しいかと存じます。」
そう発言すると
華琳「・・・何故かしら?」
華琳の目の色が変わった。
司馬懿「先日申した通り、曹操様直属の近衛兵以外の全将兵が従うのは曹彰様ただ一人。たとえ曹操様のご命令でも、思い通りには動かぬかと・・・」
それを聞くと
バンッ
華琳は傍の机を叩いて
華琳「曹家を継いでどれだけ経つの!兵の主は私なのか純なのか!」
司馬懿「っ!」
華琳「伝令を送りなさい・・・軍を引き返させるのよ!命に従わないなら、斬りなさい!!」
そう怒鳴ったのであった。