アズールレーン二次創作 ~ たとえただの奇跡でも ~ 作:ながやん
仲間たちは皆、一人、また一人と退院していった。
勿論、島風も最後には全快した。怪我は一番軽傷だったのだが、本来あり得ないスピードを出した影響が心配され、精密検査を受けさせられたのだった。
救出艦隊の仲間とは、今も連絡を取り合っている。
同じ重桜の仲間である以上に、強い絆で結ばれているから。
そして、司令官が率いる母港のKAN-SENたちは、新たな戦局へと挑み始めていた。
「あー、島風せんぱーい。ソナーに感あり、セイレーンの潜水艦ですねー」
「了解であります、風雲殿はそのまま直進で! 島風、回り込みまーすっ!」
今も島風は、風雲と共に任務にあたっていた。
あれ以来妙に懐かれて、今ではコンビを組んでの仕事が増えている。風雲はぼんやりしててマイペースだが、決して見せてはくれないやる気を確かに持っている娘だった。
最近は指揮官の命令で、潜水艦狩りの毎日である。
セイレーンは今、かなり多くの艦隊を割いて母港を探している。
その尖兵を片付けるのが島風たちの使命だ。
「島風先輩、魚雷注水音! 四つでっす!」
「了解! 爆雷投下用意であります!」
「こっちもヘッジホッグ、いきまーすよー」
ほどなくして、敵の潜水艦から魚雷が発射された。
雷跡は、四。その全てが、前方に回り込む島風へと向けられている。セイレーンが実戦配備している魚雷は、ホーミング性能の高い未知の技術が使われていた。
だが、島風は群がる鉄の鮫を引き連れ加速する。
そのまま風雲と前後から挟み撃ちにするように、交差しすれ違うポイントに爆雷を投下。
そして、スピードで強引に魚雷を振り切り離脱する。
一拍の間を置いて、巨大な水柱が大洋にそそり立った。
「やったであります!」
「まーだですよー、島風先輩。30秒くださいって。音がクリアになったら、ソナーで撃沈確認しますから」
「手応えはあったんですが、ここで逃がすと面倒ですからなあ」
「そゆことです」
いくらセイレーンの潜水艦といえども、今の爆雷攻撃から逃げられるとは思えない。
既に手慣れたもので、今月に入って既にこれで五隻目だ。
そんな中、静かに海中が落ち着くのを待ちながら、風雲がぽつりと零した。
「先輩、来週……結婚式、なに着てきます?」
そう、来週は結婚式に招待されている。
また一人、指揮官に嫁ぐKAN-SENがいるのだ。その人は島風にとっても、勿論風雲にとっても大切な仲間である。
不思議と母港では、指揮官と結婚するKAN-SENが後を絶たない。島風はまだよく知らないが、指揮官はそれだけの器を持った立派な人だということだ。だから、求婚を断ったKAN-SENの話は聞かないし、今後もずっとそうだろう。
「うー、和装か洋装かで迷ってるでありまして」
「そこからですか、先輩……あ、艦体破壊音確認。敵潜水艦、撃沈です」
「よーしっ! ではでは」
「はいはい、いつものやつですねー」
「同じ海の勇士に、黙祷であります!」
いつもそうするように、島風は胸に手をあて祈りを捧げる。やれやれといった様子だが、風雲もそれに習った。二人はいつも、セイレーンの潜水艦を撃沈した時はこうしている。例え量産型の潜水艦だったとしても、同じ海で戦った者には間違いないから。
やがて、青い海に汚れたオイルや浮遊物が上がってきた。
それもやがて、波間に洗われて見えなくなってゆく。
今日も、蒼き航路は戦いの中でも澄んで広がっていた。
「よしっ! 黙祷終わりっ! 風雲殿、次に行きましょう!」
「うーい。……っと、母港からエマージェンシー。セイレーンの偵察艦隊見ゆ、急行せよ」
「ラジャーであります! ではでは、ウサッと片付けにいきましょー!」
「母港からの迎撃艦隊、出てます。先行されたし、だそーでーす」
島風はぐっと身を屈めて、そのまま波濤を蹴り上げ走り出す。
だが、風雲を置いてはいかない。あくまで、二人で加速可能な領域へと踏み込むにとどめる。もう、一人で血気にはやって先走る島風はどこにもいなかった。
同時に、そんな島風を信じるこその仲間もいてくれる。
すぐに風雲は横に並んで、母港との通信を確認して頷く。
「先輩、先輩、島風ぱいせん」
「はいっ! 風雲殿、島風ぱいせんはちゃんと隣にいますですよ!」
「さらに増援、セイレーンの二個艦隊が接近中だそーです。なので、先行してください」
「と、いいますと」
「風雲のことはいいんで、マッハで急行してください。母港に接近する前に会敵、迎撃艦隊到着まで足止めしてくださいって感じですね」
ポン、と風雲が背を叩いた。
隣を振り向けば、全面的な信頼が頷いてくれる。
「ではでは……島風、いっきまーす! ウサウサウサウサーッ!」
即座にトップギアを叩き込むや、島風は疾風になる。
文字通り、島々を渡る海風の如く疾駆する。
あの時の戦いが、島風に限界の先を見せてくれた。そして今、そのさらに先を目指して日々限界を更新している。過去の自分はもう、遠く遠くへと置いてきたのが今の島風だ。
あっと言う間に海域を移動して、指示があった方向へとターンする。
その時にはもう、母港からの迎撃艦隊、その先遣隊が背後に合流してきた。
「重桜の島風さん、ですよね! ぼくはユニオンのモーリーです!」
「はじめまして、ごきげんよう。私はアイリスのル・ファンタクス級、ル・トリオンファンですの。お噂はかねがね」
自然と島風は、合流した二人と艦隊を組んで整然と歩調を合わせる。
速力に秀でた駆逐艦は、どんな時も艦隊の切り込み役、悪い言葉を使えば特攻隊長だ。そして、島風も二人のことを知っていた。それぞれの陣営が誇る、快速自慢の高速艦である。
ならば、信じて託せると感じた。
無責任な甘えではなく、相手を知って信頼できると感じたのだ。
そういう気持ちを持てるのも、島風が成長した証かもしれない。
「重桜所属、駆逐艦島風であります! ではでは……お二人とも、いいでありますか!」
「勿論です! 誰が一番槍になっても、恨みっこなし、ですよね。ぼくも、実はお二人と御一緒するのが以前から楽しみで」
「私もですわ。では、疾く疾く馳せましょう……指揮官を信じて、皆のために!」
三人の乙女が、同時に加速した。
その速度は、舞い上がる波飛沫に雲を引く。
もう、島風は一人じゃない……一人になることなんて、ない。周囲に合わせて連携を取ることも、仲間のために最大船速を振り絞ることも完全に理解していた。
だから、今日も島風は母港と指揮官のために、そしてなにより仲間のために走る。
その先に続く蒼き航路が、必ずや眩しい未来に繋がっていると信じているから。