アズールレーン二次創作 ~ たとえただの奇跡でも ~   作:ながやん

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第5話「模擬戦」

 北への航海は順調、順風満帆そのものだった。

 だが、島風たちはキスカ島への突入まで遊んでる訳にもいかない。やれることは山積みだったし、新たな仲間たちとの訓練は不可欠だった。

 今、島風たちは艦隊を離れ、模擬戦の真っ最中である。

 波は穏やかで日は高く、島風は自分の性能をフルに発揮していた。

 ――筈だった。

 

「うさうさーっ! うささ!? ど、どうして初霜殿がこの距離に!?」

「ほらほら、ぼやっとしてるんじゃないよ!」

 

 勝負の形式は2on2。島風は響と組んで、初霜と若葉の姉妹に挑戦していた。

 だが、自然と初霜に突け狙われ、追い詰められている。どういう訳か、この救出艦隊に配置されてから初霜にやけに絡まれている気がした。

 しかし、不思議と悪意は感じない。

 それがまた不思議で、島風には不可思議なのだった。

 

「くっ、こうなったら……転舵して応戦ですっ!」

「ふっ、青いねえ。お前さん、本当に重桜最速の島風かい?」

「島風は島風ですっ! 魚雷、模擬戦用……発射です!」

 

 水飛沫を巻き上げながら、急制動から反転する雪風。同時に放たれた魚雷が、四つの雷跡を白く刻んだ。真っ直ぐ放射状に放たれた魚雷が、獲物を求める獰猛な肉食魚となって馳せる。

 しかし、その雷撃範囲に既に初霜はいなかった。

 そして、背後から声が走った。

 

「甘いねえ、甘い! 甘酒みたいにトロトロだよ! 島風!」

 

 いつの間にか、島風の死角に初霜が回り込んでいた。

 その事実に島風は愕然とする。

 重桜で、自分にスピードで勝るKAN-SENは存在しない筈だ。母港でも、互角に勝負できる駆逐艦は数える程度……そう思っていた。

 同時に、今この瞬間の光景が現実だと再認識する。

 瞬時に島風は思考を切り替え、襲い来る初霜に向き直った。

 初霜は魚雷を放つや、着崩した着物を揺らして後退する。同時に、主砲からありったけの砲弾をばらまいた。訓練用の弱装弾だが、直撃すればただではすまない。

 島風は抜き放つ拳銃を歌わせ、放たれた弾丸を追い越す勢いで加速する。

 

「負けませんよっ、初霜殿!」

「飛び込んでくるのかい!? 鉄砲玉みたいな娘だねえ、島風っ!」

 

 初霜が装備している魚雷は、鉄血から供与された磁気魚雷ではない、必定、真っ直ぐ進むだけである、ならば、その合間を縫って走ることが島風には可能な筈だ。

 否、筈……ではない。

 今の島風には可能だ。

 徐々に感覚を広げながら、扇状に広がる雷跡を避け、擦過するような距離ですれ違う。

 その時にはもう、最初に放った弾丸が弾幕となって爆発していた。

 初霜の放った射撃が、次々と炎を咲かせる。

 その下をかいくぐるようにして、島風は抜刀と同時にさらに強く速く踏み込んだ。

 

「ちぃ、ヤな子だねえ! ほっん、とお、にっ!」

「この距離……取りました! 初霜殿、お覚悟です!」

 

 剣気一閃、居合の一撃が振り放たれた。

 だが、初霜は下がりながらも懐へ手を突っ込み、波間に踏ん張って迎え撃つ。

 島風の剣は、初霜が取り出したキセルに弾かれた。

 その反動を利用し、距離を取って下がる初霜。

 必殺の間合いだったが、島風は驚きに目を丸くした。寸止めするつもりだったが、本気で振り抜いていても結果は同じだっただろう、

 そして、同じ驚きをあらわにした表情を、初霜にも見出すのだった。

 

「初霜殿、流石です! 凄い……私の本気の踏み込みを」

「おやおや、お褒め頂き光栄だねえ? でも、島風。なにか忘れちゃいないかい?」

 

 その時だった、遠くから仲間が接近してきた。

 それは、小脇に響を抱えた若葉だった。

 

「やっほー? そっち終わったー? 初霜、島風に意地悪してないよね?」

「やだねえ、姉さん。これは教育的指導ってもんだよ」

「なんにせよ、助かっちゃった。響が孤立してたから、楽勝、楽勝♪」

 

 あうう、と呻く響が島風を見て俯く。

 そして、島風はようやく自分の完全敗北を悟った。

 また、やってしまった。

 パートナーである響を放り出して、夢中で初霜ばかりを追いかけてしまったのである。

 

「ごめーん、島風。追いつけなくてさ、ほんとごめん」

「いっ! いえ! 私こそ申し訳なく! ふええ、またやってしまいましたあ」

 

 ヨヨヨとその場に島風はへたりこんだ。

 そのまま沈んでしまいたい気分で一杯である。

 一方の響も、若葉の手から解放されるや……ぺしゃーんとその場に崩れ落ちた。

 初霜だけが得意げに鼻を鳴らして、姉の若葉とハイタッチしていた。

 そして、耳に痛いリザルトの講釈が始まる。

 先程のキセルで一服し始めた初霜に代わって、若葉が今回の模擬戦を総括して話し始めた。元気と勢いが売りの若葉だが、意外にも理知的に状況を説明してくれる。

 

「はいはーい、まずは島風! 駄目だよっ、相棒を放り出して突出しちゃ」

「面目ないですぅ~、うううう」

「島風、どうして初霜がキミと互角にスピード勝負できるか、わかる?」

「それがサッパリ……」

 

 腰に手を当て、グイと若葉が身を乗り出してきた。

 思わず島風は逆に、のけぞって恐縮してしまう。

 

「島風、キミの脚ならパワーで振り切っていいんだよ? 教本通りにジグザグ回避とか、大きく舵を切るから追いつかれるの」

「ほへ? それは」

 

 見かねた初霜が、ぷはーっと煙を吐き出した。その丸い輪っかに彼女は、そっと突き立てた指を入れる。空中で煙の輪の内側に、初霜が小さな円を描いた。

 

「簡単な話さね、島風。あんたは速度が速いが、動きが大雑把だ。ぐるっと大きく回るその内側を走れば、あたいでも追いつける。走ってる距離が違うからねえ」

「なんと! そうでありましたかあ」

「お前さんは速いんだ、逃げる時は直線で全力疾走、これさね」

「はいですぅ~」

 

 正直、落ち込んだ。

 しかも、今回の敗因はそれだけではない。

 その現実を若葉が突きつけてくる。

 

「それと、響と連携しなきゃ駄目だよー? 響は、島風が飛び出しちゃった時、一生懸命フォローに回ってたんだから」

「う、ううんっ! それは…雷や電の面倒見るので慣れてたし。でも、流石に島風には追いつけなかったなあ」

「島風が突っ走るから、響があとを追わざるを得ない。そうなると動きが読みやすくなるからね? だから私たち初春級でも楽勝だったって訳」

 

 きっと、以前の艦隊で蒼龍や飛龍が言ってたことも同じだろう。つまり、島風はまた同じミスをしてしまったのだ。

 しょぼくれ耳をだらりと下げて、思わず島風は俯いてしまう。

 だが、そんな彼女の頭を意外な人物がポンポンと撫でた。

 

「まったく、これくらいで落ち込むんじゃないよ? 自分の弱さ、至らなさがわかるってのはいいことさね」

「あうう、初霜殿ぉ~」

「情けない声出すんじゃないよ、気持ち悪い! ふふ……弱さを知ったら、強くなんな? いいかい、島風」

「は、はいです! 島風、もっと強く! もっと速くなってみせます!」

「はいはい、よろしくやっておくれ? あたいたちにしょげてる余裕なんてないからねえ」

「初霜殿、そして若葉殿! 響殿も! 御教授、ありがとうございました!」

「ばっ、馬鹿な子だねえ! やめとくれよ、恥ずかしい……言葉じゃなく行動で返してほしいもんさね。期待させてもらうよ、島風」

 

 何故か感極まって、うるうる瞳を潤ませながら響が島風に抱き着いてきた。島風も強く抱き返せば、結束が強まる気がする。気がするだけで充分、二度と同じ過ちは繰り返さない……ここにきてようやく、島風はこの救出艦隊に呼ばれた意味を痛感していた。

 SGレーダーを装備しているからではない。

 指揮官は、仲間との連携、艦隊運用の中での立ち回りや振る舞いを島風に教えたかったのだ。姉妹館もなく、島風級の一番艦にして唯一の艦、島風……そんな彼女に、自分が変われば居場所は無限に広がると伝えたかったのかもしれない。

 そう思っていると、不意に遠くから声が近付いてくる。

 

「みなさーん! 訓練は中止、中止ですー! 至急、艦隊に合流して阿武隈さんの艦に集まってください! 至急ですー!」

 

 息せききって駆けてくるのは、副官の長波だ。

 彼女は四人の前まで来て、膝に手を当て身を屈める。よほど急いできたのか、彼女が息を整え顔を上げるまで、島風たちは数秒待たねばならなかった。

 そして、再び声を発した長波が、一瞬で現状を変えてしまった。

 

「皆さん……先ほど母港の気象台から入電です。キスカ島、晴天! 霧は出ていません!」

 

 島風の脳裏を、竜骨に刻まれた記憶がリフレインする。キスカ縞撤退作戦は、この季節特有の濃霧が必要不可欠だ。そして、過去の大戦においても……一度目の出撃時は、霧が出なかったために失敗することになったのだった。

 そして、再現ならざるセイレーンとの戦に今……この艦隊の旗艦に決断の時が訪れるのだった。

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