【悲報】転生したら暗殺組織の隊員にされた件【戸籍ナシ】   作:星ノ瀬 竜牙

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リコリコの二次創作もたくさん増えてきてニコニコしてる日々です。
もっと増えろ……そしてもっとリコリコの良さを伝えるのだ……

今日はリコリコ9話の日です。
製作陣が揃いも揃ってやばいという回らしいので皆さん覚悟しましょう。

……怖いなぁ。




Beauty is in the eye of the beholder.

 パァン、と銃撃音がリコリコの地下に響く。

 千束、たきな、棗がそれぞれの銃を使い射撃訓練を行っていた。

 使用していた弾は千束が利用しているゴム製の非殺傷弾だったようで、

 その弾の欠点が露呈するように急所に一発もヒットしない有り様であった。

 

「なんですかこれ」

 

「私もぜんっぜん当たんない」

 

「……だからですか?」

 

 千束の困ったような笑みを見て、たきなはふと彼女の銃の構え方と戦闘スタイルを思い出す。

 Center(センター) Axis(アクシズ) Relock(リロック) System(システム)、通称C.A.R.Systemそう呼ばれる拳銃を斜めに構える特殊な構え方を活かした近接での射撃。それが錦木 千束の戦い方だった。

 

「そう! 近づけば、絶対当たる!!」

 

「私には無理そうですね」

 

 それもこれも、千束の驚異的な洞察力による弾避けあってこそ成立するものであり、少なくともたきなは自分には不可能だと判断した。

 

「この命中率では自分を守れませんから」

 

「右に同じく。千束の弾は当てづらくて仕方ないしな」

 

 弾を従来のものに変えるたきなと麻酔弾に変える棗。

 そしてすぐに実弾による射撃を行うたきな。

 

 結果は全弾中心へのヒット。

 

「すごいねたきな。機械みたいじゃん」

 

 千束の評価は正に言い得て妙だろう。ここまで正確に撃てる人間は珍しい。

 

「ま、実弾でそれだけ当てられたら急所以外を狙っての無力化もできるだろ。無理に俺や千束の使ってる弾を使わなくてもいいと思うぞ」

 

「急所を撃つのが仕事だったんですけど?」

 

「もう違う。でしょ、たきな?」

 

 呆れたように笑うたきなにニシシ、と笑みを返す千束であった。

 そしてふと……たきなは思い出したように棗の方を見る。

 

「そういえば」

 

「ん?」

 

「棗さんの麻酔弾(それ)も不思議ですよね」

 

「ああ、これか? 店長……おやっさんに頼んでな。

 ハッシュパピー対応用のを作ってもらったんだ」

 

「薬莢に工夫されてるんですね、それ」

 

「そ、極細の針がついた超小型の注射器を火薬でぶっ飛ばす。って感じなんだよ。

 相手からするとちょっと蚊にさされたかなぐらいの痛みしかないし……即効性があるわけじゃない。まあ、当たったら強烈な眠気に襲われる代物だけど」

 

「凄いですね……」

 

 改めて棗の使う麻酔弾が従来のモノと比較して最先端の技術を詰め込まれていることに感心を覚えてしまう。

 

「棗ってば不思議な道具いっぱい持ってるからねー、青い狸みたいに」

 

「誰が猫型ロボットだ。まあ、非殺傷で相手と戦う上で必要な代物だよ。全部な」

 

 時々不思議な道具を取り出したりする姿はまさに某猫型ロボットだろう。

 たきなはその一つなのであろう、デッキに置いてあるナイフを見る。

 

「そのナイフもですか?」

 

「そ、ナイフに偽装したスタンロッド。一見するとナイフにしか思えないようにしておかないと……相手を尋問することも、1人を盾にすることもできないだろ?」

 

「CQC、ですね」

 

「そ、近接格闘術。確実に殺せるってことを相手に理解させないと吐いてくれないしな」

 

 ただのスタンロッドであれば殺すつもりはないと相手にバレてしまい逆に不利になる。

 だからこそナイフへの偽装(カモフラージュ)なのだ。ある意味ではリコリスの制服と同じ用途であった。

 

「棗ってばたまにとんでもない動きするからねー、

 棗との近接戦になると私、()()()()()()()()()()()()()()

 

「あの時の棗さんの動きは確かに強烈でしたね……」

 

 ふと、配属されたばかりに受け持った護衛依頼の時の棗の動きをたきなは思い返す。

 驚異的な身体能力で制圧する姿は正しく無双という言葉が相応しいのだろう。

 

「人を怪物みたいに言うのやめない?」

 

「「いや、あれは怪物でしょ(いえ、あれは怪物と言っていいかと)」」

 

「えー……」

 

 二人のツッコミに少しばかりショックを受ける棗であった。

 

 

 ────

 

 

「なあああつぅうううめえええええ!!!」

 

 喫茶リコリコに、1人の少女の怒号が響き渡る。

 

「ぬぉうっ!? なんだ急にっ!?!?」

 

 千束が激昂した様子で駆け寄ってくるものだから、棗は焦って椅子から立ち上がった。

 

「ちょっと棗! あれ!! どぉいうことぉっ!!!? なぁんで、たきながトランクス履いてんのっ!? なんて誑かしたんだごらぁ!!!」

 

「はぁっ!? いやいや、待て待て待て!!! どういう事だ!? たきながトラ……はぁっ!?!?」

 

 身に覚えのないことで怒られた棗は困惑しながら千束に聞き返す。

 たきなの下着がトランクスだという衝撃的な内容なのだから当然ではあるが。

 

「すっとぼけないで!! 棗以外そんな事するヤツ居ないから言ってんの!!」

 

「いやマジで知らねえ!? どういうことだよ!? 俺なんもしてねえから!!」

 

「いーや絶対棗でしょ!! ねえ、たきな!! その下着棗に言われて履いたんだよねっ!!?」

 

「いえ……これは店長の指示で……」

 

「────え?」

 

「…………おい、千束」

 

 たきなに問いかければ、当の本人は棗ではなくミカの指示で履いたという。

 その言葉を聞いて信じられないといった顔をしながらギギギ……と棗の方を見る。

 当然彼は冷ややかな目で睨んでおり……

 

「あーえーっと……ごめんね?」

 

「よしそこ座れ」

 

「あ、ちょっ、棗さん? お顔が怖いですよ? ほら、スマイルスマイル?」

 

「ははは、俺は笑顔だぞ。何言ってんだ?」

 

「いやそれは笑顔とは言い難いというか!? 本能的な恐怖しか感じないやつだよ!!」

 

 説得を試みるも時すでに遅し。

 

「ふぎゃああああああっ!?」

 

 棗のアイアンクローが見事に頭に刺さった千束は、絶叫するのだった。

 たきなはそれを見ながら……笑顔とは本来、敵への威嚇に使うものだったと言われていることを思い出していた。

 

 ────

 

「で、どういうことだよおやっさん?」

 

「制服は支給するから下着を持参してくれとは言ったな」

 

「うん、まあそれはわかる。俺もそうだったし。自腹で買ってきたし?」

 

 たきなにもたれかかり涙目ですり寄る千束、その千束の頭をなでるたきな、

 問い詰める棗、答えるミカ。場は混沌としていた。

 

「なんで男物になってるかだよ、俺が聞きたいのは」

 

「どんな下着か分からなかったので……」

 

「「いやだからなんでそこでトランクスになってるのさ!?(トランクスになってるんだよ!?)」」

 

「いえ、店長が……」

 

「うん? ああ、好みを聞かれたからな」

 

「「やっぱ犯人先生じゃん!!(やっぱり犯人おやっさんじゃねーか!!)」」

 

 たきなの言葉に心当たりがあったらしく素直に答えるミカ。

 結論、たきなのトランクス騒動の元凶はミカだった。

 

「それが……これ履いてみると結構履き心地が良くてそれに開放的で……」

 

「お前のトランクスレビューは聞いとらんわ!?」

 

 たきなの感想に当然ツッコミをいれるのは棗だった。

 唯一の思春期男子。居心地の悪さと彼女の言葉の内容に気まずさしか感じていなかった。

 アイアンクローの痛みから復活した千束がそれを見かねて立ち上がり、ぺちん! と自分の頬をはたく。

 

「あーもう仕方ない!! たきな! 明日12時に駅に集合ね!!」

 

「仕事ですか?」

 

「違うわい!! パ、ン、ツ!! 買いに行くの!!」

 

 そう言って店から出ようとして……ふと思い出したように顔を覗かせる。

 

「あ、制服着てくるなよ? 私服ね、し、ふ、く! あとそこの棗!」

 

「そこのってなんだ」

 

「買い物ついてきて!!」

 

「………………は?」

 

 千束のその誘いに耳を疑ったのは棗だった。

 いきなり自分に振られるとは思っていなかったというのもあるが、女子の下着の買い物に付き添わされるかもしれないという現実を受け入れられなかったのである。

 

「……いや、いやいやいや!! おい待て千束!! なんで俺も付き添う必要がある!! 要らないだろ!?」

 

『荷物持ちじゃ!! どうせたきなのことだから他にも買ってないのありそうだし!!』

 

『それはいくらなんでもたきなに失礼だろうが!?』

 

 千束を追いかけて店を出ていく棗、遠ざかっていく二人の声を聞きながらたきなはミカの方を見る。

 

「指定の私服はありますか?」

 

「………………さすがにない」

 

 彼女の言葉に頭を抱えるように天井を仰ぎ見るミカであった。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

地獄を見ている。血だらけの海を見ている。屍の山を見ている。

 

 ────ああ、いつものか。

 

 少年は、見慣れた景色をまた焼き付ける。

 その手はいつものようにに濡れている。

 

忘れるな。どうして殺した。なんで見捨てた。なんで守ってくれなかった。

 

 屍たちが、少年の身体に纏わりつく。

 そして彼の脚を掴み────

 

どうしてお前だけが生きている?

 

 ────血の沼に、引き攣り込む。

 

 そうしていつものように、少年は……立花 棗は目を覚ます。

 

「おはよ、随分魘されてたね。棗」

 

「……ちさと……か?」

 

 自室のソファの上で目を開けた先にあったのは、少女の……錦木 千束の顔だった。

 まだ寝ぼけているのか、棗は彼女が本物なのか問いかける。

 

「そうだよ~、君の千束です! すっごい酷い顔だけど大丈夫? なんか飲む?」

 

「……ああ……水くれ……のどが渇いてる」

 

「おっけ、じゃあゆっくりしててね?」

 

 そう言い、その場を離れる千束を見届けながらゆっくりと起き上がり、棗は思考をする。

 

「……いつまで魘されてた?」

 

「んー? えーっと、1時間前後かなー。それからすぐに目を覚ましたって感じ。はい、水」

 

「悪い、助かる」

 

「いいってことよ~!」

 

 千束から水の入ったコップを手渡され、ゆっくりと飲み干す。

 

()()()()()?」

 

「んぐ……まあ、な。いつものだよ。相も変わらず、変化のない悪夢だった」

 

「そっか……」

 

 そこで会話が途切れる。棗が見る夢を、千束はよく知っている。それが悲しい悪夢であることを知っている。それが棗の罪であることも知っている。

 だからこそ彼女はなにも触れない。ただ、そこで立花 棗にそっと寄り添うのだ。

 

「……買い物だろ、準備しなくていいのか?」

 

「ん~? まだちょっとだけここにいるつもり~」

 

「あっそ……」

 

 隣に座り……こてん、と頭を彼の肩に乗せる千束。それを鬱陶しそうにしながらも、棗は決して払わない。それが彼女の心遣いだと知っているから。

 

「棗、今日は休んどく?」

 

「いや……行くよ。荷物持ちはいた方がいいだろう?」

 

「でも……」

 

「問題ないよ、別に気分が悪いわけじゃないしな」

 

「ん……おっけ、じゃあ予定そのままにしとくね?」

 

 棗の言葉に渋々ではあるが、了承し千束は頷いた。

 

「千束」

 

「なに?」

 

「……そろそろ着替えるから、そっぽ向くか別の部屋行くかしてくれない?」

 

「えー、もうちょっとだけいいじゃんかよー!」

 

「よくねえわ。花も恥じらううら若き乙女の言葉じゃねえだろそれ」

 

 ぶーぶー、と訴える千束に棗は眉間に皺をよせて困った様子でため息を吐く。

 

「ちょっとだけ! ちょっとだけだから!」

 

「それはちょっとじゃすまない時のセリフだよ!!」

 

「ちぇー。棗のケチ」

 

「なにがだよ。ほら、さっさと行け」

 

「ぶー……早くしてね?」

 

「はいはい」

 

 千束の言葉を軽くあしらいながら棗は買い物の付き添いの準備に勤しむのだった。

 

 ────

 

 地下鉄の駅前でたきなを待ち青空をぼけーと見上げる棗とスマホを弄る千束。

 

「お待たせしました」

 

「お? お……おぉ……なんというか……独特なセンスだなお前」

 

「問題はないと思いますが……変でしょうか?」

 

「いやまあ……うん、かなり」

 

 棗はオブラートに包もうとしたが流石に無理だったのか目を逸らしながらそう告げる。そのぐらいたきなの衣服は変であった。まあ、普通のTシャツにジャージのズボンで来る少女ともなれば当然なのだが。

 

「まあそれはそうと……たきな、銃持ってきたな貴様?」

 

「ダメでしたか?」

 

 たきなが背負っている鞄がリコリス指定の鞄であることに気付いた千束は頭を抱えるように圧のある笑顔を浮かべる。リコリスの鞄ということはその鞄の中にあるのはマガジンと拳銃と弾丸である。

 棗もそれを察したようで頬を引き攣らせていた。

 

「抜くんじゃねえぞ?」

 

「……ところでお二人のその衣装は自分で?」

 

「衣装じゃねえ……」

 

「人の服を迷彩服みたいに言うなよお前」

 

 リコリスにとって服とは基本的に迷彩服のことだ。故にたきなからはそういう言葉が出たのだろうが少なくとも千束と棗の服は迷彩服ではないしただの私服である。

 

「一枚も持ってないの、スカート?」

 

「制服だけ、ですね。普通そうでしょう?」

 

「んーまあリコリス"は"そうだね」

 

「お前らも大変だな」

 

 千束とたきなの言葉を後ろから聞きながら棗はそんなことをボソッと呟く。

 

「棗はなかったのそういうの?」

 

「あ? あー……俺も制服だったし。私服もなかったな……なんなら着用も許されてなかった記憶がある」

 

「わぁお過酷ぅ」

 

「……棗さんは傭兵だったんですか?」

 

「……まあそんなところだ。いやまあお前らも似たようなもんだろ」

 

「それは確かにそうですね……」

 

 厳密には違うが、大雑把な括りで言えばリコリスの二人と棗に差異はなかった。

 とはいえ、棗は未だ正体をたきなにはぼかしているのだが。

 

「せっかくだしさ、たきなの服も買っていかない? 絶対似合うと思うんだよね!」

 

「まあ……素材はいいしな、お前もたきなも」

 

「素材言うな素材」

 

「……よくわかりませんが、お二人が選んでくれるなら」

 

「え、いいの!? よぉーし! テンション上がってきたーっ!」

 

「お前ほんと元気だな……」

 

 やっほー! とはしゃぐ千束を見ながら呆れた様子で棗は笑う。

 

「千束はいつもあんな感じなんです?」

 

「出かけるとあんな感じだ。子供っぽいだろ?」

 

「ですね。まあ、嫌いではありませんが」

 

「それは同意する」

 

 ────

 

「ねえ、これどう?」

 

「あー……たきな、一回着てみてくれ」

 

「分かりました」

 

 千束のチョイスを見ながらたきなに試着を頼み、試着後の印象を固めていく。

 

「おーこれも似合うね! それにさっきのも悪くないし……! ねえ、棗はいいのないの?」

 

「急に俺に振るな俺に。女性の衣装なんざ専門外だけど、

 そうだな……たきなの普段の印象と……色合いの感じから考えれば……これとかどうだ?」

 

 灰色のシャツと白いスカート、麦わら帽子をワンポイントにしたセットを手に取って棗は見せる。

 それをすぐに受け取ったたきなは即座に試着をして、くるりと一回転して披露する。

 

「どうでしょうか?」

 

「……おお、めちゃくちゃ可愛い……棗のくせにやるな」

 

「一言余計だ貴様」

 

 感心したようにたきなの姿を見つめる千束。確かによく似合っていた。

 

「……似合ってますか?」

 

「え!? あー……そうだな……」

 

 こてん、と首を傾けて棗に似合うかどうか聞いてくるたきな。

 まさかこちらに振られるとは思っていなかったのだろう、少し顔を赤くして言葉に詰まる。

 

「おや~? どうしたんですか棗さぁん? その反応、もしかしてたきなに見惚れちゃった?」

 

「はぁ!? 誰がだ!? 見惚れてねえよ!!」

 

「……やっぱり、似合ってませんか」

 

「いやそういう意味じゃねえ!! 似合ってる! めちゃくちゃ可愛いから!?」

 

 棗の照れ隠しを真に受けたたきなが少し落ち込んだために即座に否定し、彼女を褒める。

 それを聞いて帽子で目元を隠すように深くかぶりながらたきなは顔を赤くする。

 

「……ありがとう、ございます」

 

「え、なに。たきなさん? なんでそこで赤くなってるの? 棗??」

 

「いやまて俺なんもしてねえよ!?」

 

 何した貴様? といった表情で見つめてくる千束になんでだよ、と抗議する。

 

「あ、いえ……その……まじまじと男の人に見られて褒められるという経験が……ないので……すみません……」

 

「やっだたきなさんかわいい……」

 

 すごく可愛らしい理由だったことを知った千束は思わずそんなことを口に出していたのだった。その後、たきなの私服を買い終えて化粧品をチェックする千束。

 

「あ、そうだ! たきな、リップグロス持ってる?」

 

「あの千束……そろそろ本来の目的に戻りませんか?」

 

「え?」

 

 たきなにそう言われて一瞬の硬直が入り……思い出したのか、はっとした顔を浮かべる。

 

「そうだった、下着買いに来たんだった!」

 

「いや忘れんなや」

 

 棗のツッコミはごもっともである。そうしてランジェリーショップにやってきた三名。

 

「……じゃあ、俺は一旦適当に時間潰してくるわ」

 

「おっけー、じゃあ買い終わったら連絡いれるね」

 

「はいよ」

 

「? ……棗さんは来ないんですか?」

 

「行くか!? 誰が好き好んで女性用の下着の店に入らなきゃなんねえんだよ!?」

 

 きょとんと不思議そうに聞くたきなに棗は行くか!? と大声で拒否をする。

 さすがに成人済みの男性が歳の近い女子二人と下着を見にランジェリーショップに入るなど精神的な拷問に近い。それは流石に勘弁してほしいためか、棗は即座に否定しその場を去る。

 

「そんなに嫌なことなんでしょうか、ここに入るの」

 

「いやまあ……ふつーは入らないよ?」

 

 心底不思議そうな顔をするたきなに千束は困った様子で笑うのだった。

 

 そのままランジェリーショップ内の下着を見る千束とたきな。色んな色や模様があるため……千束は助け舟を出すように、たきなに問いかける。

 

「どう、好きなのあった?」

 

「好きなもの……を選ばなきゃいけないんですか?」

 

「へ?」

 

「それなら……仕事に向いているものが欲しいですね」

 

「ああ! 銃撃戦向けのランジェリーですか? ってそんなもんあるかぁ!!」

 

 たきなの言葉に乗っかりながら、そんなものはないときっぱり否定する千束。

 

「これ、悪くないんですけどね……通気性も良くて動きやすいですし……さすが店長だなと」

 

「いや先生がそんなこと考えてるわけないじゃん」

 

 どうせ自分が履いてるものか相手に履かせたいものだろ、と千束は当たりをつけてはぁ……と大きくため息を吐く。

 

「だいたいトランクスなんて人に見せられたもんじゃないでしょ?」

 

「……? パンツってみせるものじゃないのでは?」

 

「いざって時どうすんのよ」

 

「いざってどういう……?」

 

「…………」

 

 たきなの言葉に顔を赤くするのは千束であった。そのいざ、は彼女の口から言えるようなことではなかったのである。

 

 そしてなによりも。そのいざの相手に一瞬とはいえ棗の姿を思い浮かべてしまったのだから千束の心境は正常ではなかった。

 

(待って今なんで私棗の姿を連想しちゃったの!? いやいやいや、そんなわけないじゃん!! あんな生意気なヤツのどこが……ど、どこ……が……あ、あれ?)

 

 私をなんだかんだいつも気に掛けてくれる。(1HIT)

 いざって時は助けてくれる。(2HIT)

 不意にドキッとすることがある。(3HIT)

 一番歳が近くて気の合う男の子。(4HIT)

 甘えさせてくれる。(5HIT)

 たまにだけど一緒に寝たり引っ付くぐらいには心を許してる。(6HIT)

 本当に時々、彼の姿を目で追ってしまう。(7HIT)

 

(………………え、うそでしょ。私、ほんとに?)

 

 計7HIT、魔弾の射手もびっくりの的中数であった。

 

『いけない子だな、千束』

 

『だ、ダメだよ棗……』

 

 ほわんほわん、となんとなーくそんな姿を連想してしまったのか。千束は頭をぶんぶんと横に振ってその姿をかき消した。

 

「? どうかしましたか、千束?」

 

「うぅうう……! 知るかぁ!! ってちょぉ!?」

 

 悶々としている千束を見て埒が明かないと判断したのか、たきなは彼女の腕を掴んで試着室に連れ込む。

 

「え、なに……なんですかたきなさん??」

 

「千束のを見せてください」

 

「へぇ!?」

 

「見られて大丈夫なパンツか知りたいんです!」

 

「え、あ、いや、え……た、たきなさん?」

 

 しゃがみ込み、視線を千束の下半身に集中させるたきな。

 当然千束は困惑した様子で彼女を見る。

 

「早く!!」

 

「はいぃっ!!」

 

 たきなに急かされ大慌てで千束はショートパンツを脱いで下着をみせる。

 

「う……うぅ……」

 

「んー……? これが私に似合うかと言われると違いますね?」

 

 その柄と色合いを見ながら、首を傾げてたきなは千束の顔を見る。

 

「その通りだよ! なんで見せる必要があったの私!! 助けて棗!!!」

 

 ツッコミが追い付かない!! と切実な叫びをあげる千束であった。

 

 

 ────

 

ぶぇっくしょい!!? あ、すみません……」

 

 一方その頃の棗は、噂をされたせいか喫煙所で大きなくしゃみをしていた。

 

 ────

 

 

「これで、トランクスとはおさらば! 男物のパンツは全部処理するからね!」

 

「分かりました」

 

「じゃ、棗に連絡かけて……そのままおやつタイムだ!」

 

「目的は完遂したのでは?」

 

「完遂って、仕事じゃないんだからー!? 今日ぐらい付き合ってよー!! 

 あ、もしもしもしもし? 棗~? 聞こえる?」

 

『そんなもしもし言わなくても聞こえてるよ。終わったのか?』

 

 スマホで千束と棗が連絡を取り合う。

 

「そうそう、今終わったよー。店前で合流できる?」

 

『分かった、さっきの場所だな? ちょっと待って────』

 

「お? どした? ちょ、棗? もしもーし、聞こえてるー??」

 

 棗の声が急に遠ざかったことに疑問を抱いたのか、千束は何度か声をかける。

 

 ────

 

「あの緑の髪の男……どこかで……」

 

 棗は喫煙所から偶然見かけた緑のパーマをかけた髪の男性の姿に覚えがあったらしく周囲を見回す。

 しかし、その男の姿は既に人混みの中に紛れて追えなくなっていた。

 

『もしもーし、棗? 聞こえてんの~? おーい、今すぐ答えないと棗の恥ずかしい過去言っちゃうよ~?』

 

「おいまてこら。人の黒歴史を許可なく暴露しようとしてんじゃねえ」

 

『あー! でた! ちょっとー! 人が会話してるときに無視するのはどうかと思うんですけど!! レディーの扱いがなってなくない!?』

 

「うるせえな、出れなかったのは悪かったよ」

 

『……なんかあったの?』

 

「! なんでもねえよ。多分、気のせいだ」

 

 やはりというべきか、千束という少女はこういう時に鋭い。棗は彼女に気付かれないように極めて冷静に振る舞い、なんでもない。と告げる。

 

『ふーん、そっか。じゃあ店前にきてね? よろしく!』

 

「はいはい、分かりました」

 

 ピッ、と通話を切って棗は人混みの中を睨みつける。

 

(気のせいでなければ、あの男。俺は間違いなく知っている。どこだ、俺は……何処で会った?)

 

 靄がかかったように、思い出せない。

 ただ……なにか、嫌な予感がしたことだけは間違いがなかった。

 

 ────

 

「フランボワーズ&ギリシャヨーグレットリコッタダッチベイビーケーキと

 ホールグレイハニーカムバターウィズジンジャーチップスでお願いします!」

 

「いつ聞いても呪文にしか聞こえねえ……

 あ、コーヒーとフレンチトーストでお願いします」

 

「かしこまりました、少々お待ちください」

 

「名前からしてカロリーが高そうですね……」

 

 店員が注文を聞いて厨房の方に向かうのを見届けつつ、たきなは呆れたように千束を見つめる

 

「野暮なことは言わない。女子は甘いモノに貪欲で良いのだよ、たきなくん?」

 

「寮の食事も美味しいですけど?」

 

「あの料理長、元宮内庁の総料理長だったらしいよ?」

 

「は????」

 

 千束が軽く告げた言葉に棗は耳を疑うように見つめる。

 とんでもない情報だったからこその衝撃だったのだが。

 

「……それってすごいんですか?」

 

「いや凄いなんてもんじゃねえよ、マジの天皇陛下とかそういう人に料理振る舞う人だぞ」

 

「なるほど……確かにそれは凄いですね……」

 

 とんでもない名前が出てきたことにさすがのたきなも驚いていた。

 

「でもあの料理長、スイーツ作ってくれないからなぁ。永久にかりんとうだもん」

 

「私はあのかりんとう好きなんですけど……」

 

「そりゃたきなが転属組だからでしょ。10年もずっとかりんとうだと飽きるよ~?」

 

 その言葉は少しばかり実感がこもっていた。

 

「……わかる、俺も数年はずっとレーションだったからな。味が薄くてつらかった」

 

 こちらもまた実感のこもった感想であった。

 

「……今日は私が奢るからいっぱい食べよ、棗」

 

「急に優しくすんなよ、泣いちゃうだろ」

 

 食べ物の恨みは恐ろしいとは言うが、食べ物による哀れみでは人は慈悲深くなれるのだろう。そんな姿を体現した千束であった。

 

「お待たせいたしました、ご注文の三品でございます」

 

 ことん、と注文したスイーツとフレンチトースト、コーヒーが三人の机の上に置かれる。

 

「おほー!! 美味しそぉ~!!」

 

「これは間違いなく糖質の塊ですね……」

 

「たきな!!」

 

「あいたっ」

 

 ゴツン、と野暮なことを再び発言したたきなに頭突きを喰らわす千束。

 

「人間一生で食べられる回数は決まってるんだよ! 全ての食事は美味しく楽しく幸せであれ!」

 

「美味しいのは良いことですがリコリスとして余分な脂肪はデメリットになりますよ」

 

「その分走るし大丈夫! それだけの価値がこのスイーツにはあるんだよ! んむ、おいひぃ~!」

 

「脳筋かよお前」

 

 頬を綻ばせて美味しそうにケーキを頬張る千束を見ながらコーヒーを啜ってフレンチトーストを食べる棗。口では呆れるように告げつつも、フレンチトーストを頬張る姿は童心に帰った少年そのものであった。

 

「ほらほら、たきなも食べなよ~!」

 

Comment puis-je(ここで店員を呼ぶには) appeler le greffier ici?(どうすればいいんだっけ?)

 

Voyons voir(えーっとたしか)……ゴチソウサマ?」

 

「……ちょっと聞いてくる」

 

「はいはーい」

 

 二人の外国人の客が困っているのに気付いた三人。誰かに言われるまでもなく棗は席を立ち、二人の外国人客に話しかける。

 

Qu'est-ce qui se passe?(どうしました?)

 

Toi,(あなた) tu comprends la langue!?(言葉がわかるの!?)

 

Oui,(ええ) peut-être un peu(少しなら)

 

Juste à temps!(ちょうどよかった!)Je ne savais pas comment commander(注文の仕方が分からなかったんだ). Pouvez-vous m'aider?(助けてくれるかな?)

 

Oui,(はい) j'ai compris(構いませんよ)

 

 後ろでフランス語で流暢に話す棗を眺めて、たきなは意外そうな顔を浮かべる。

 

「棗さんも凄いんですね」

 

「ああ見えて結構……色んな言葉喋れるっぽいよ、棗」

 

「意外ですね」

 

「でしょ~?」

 

 千束は自分のことのように、ドヤ顔をしながらそう告げていた。

 

「あむ……美味しい……」

 

「でしょぉ~!?」

 

 パクリと一口、パンケーキを食べて出たたきなの感想にもまたグイグイといきながらドヤ顔をしていた。

 

(たまには、こういう時間も……悪くないのかもしれませんね……)

 

「あ、たきな! 棗! 食べ終わったらいいところ行くから忘れないでね~!」

 

「はいよー」

 

 千束が手を振ってそう告げたのを聞きながら棗は軽く返事を返す。

 そんな仲睦まじい姿を見つめて、疑問に思ったのかフランス人の男性が棗に質問をする。

 

Ce sont vos deux petites amies?(あの二人は君のガールフレンドかい?)

 

「「!?」」

 

「ぶっ!? Non, monsieur!?(違いますよ!?)

 

 フランス語で恋人かと聞かれてさすがに動揺する千束とたきな。二人もまたフランス語が分かるため顔を赤くして棗のいる方向を向いてしまった。当然、棗も大慌てで否定していたが。

 

Non?(違うのかい?) Je pense qu'ils seraient bien assortis(お似合いだと思うんだけど)

 

Ils sont trop bien pour moi,(私には勿体ないぐらい) ils sont trop séduisants(魅力的な二人ですよ)

 

Oups,(おっと) c'était grossier(それは失礼したね). Merci de m'avoir aidé(助けてくれてありがとう)

 

De rien(どういたしまして)

 

 そうして席に戻ってきた棗であったが……

 

「……なんだよ」

 

「いえ、別に……」

 

「な、なんでもないよ!?」

 

 しばらく気まずそうに三人で顔を赤くして逸らすのだった。

 

 

 ────

 

「……いい所って、ここですか?」

 

「綺麗でしょ〜? 私好きなんだよねえ」

 

「いやふつーに水族館じゃねえか」

 

 到着したのは水族館であった。棗はだろうな、と思いながら苦笑する。

 

「ここにはよく来るんですか?」

 

「ふふーん、年パスゥ~。気に入ったらたきなもどうぞ?」

 

 どや顔で水族館の年間パスポートを見せる千束。随分と気に入っているのが伺えた。

 

「棗さんは?」

 

「……こいつに買わされたから持ってるよ」

 

「棗ってば年パス持ってるのに全然来ないじゃん? こういう時にでも来て元を取らなきゃ? ね?」

 

「俺はそんなに行かねえって言ったのに無理矢理買わせたのお前だろうが!?」

 

「てへ?」

 

「てへじゃねえ!」

 

 舌を出して可愛い子ぶる千束にうがー! と怒る棗であった。

 実際、彼は基本的に外に出かけることがほとんどないため、年間パスポートがあってもそんなに行く機会がないのだ。

 

「タツノオトシゴって魚なんですね……」

 

「マジで? ウオだったのかこいつ……」

 

「この姿になった合理的な理由があるんでしょうか……」

 

「ご、合理……え? 理由?」

 

「なにかあると思いますよ」

 

「生命の進化の謎ってやつだな……」

 

 タツノオトシゴを見て意外な知識を身に着けたり、

 

「これも魚なんですね」

 

「ああ、チンアナゴな。名前の通りアナゴの仲間みたいだけど」

 

 砂から顔を出してゆらゆらと揺れるチンアナゴの群れを眺めるたきなと棗。

 

「ところで千束はなにを?」

 

「ん? チンアナゴの真似!」

 

「人が見てますよ、目立つ行動は控えた方が……」

 

「どうして?」

 

「どうしてって……私たちはリコリスですよ?」

 

「制服を着てない時はぁ、リコリスじゃありませぇん!」

 

「……はぁ」

 

「だとしても公衆の面前でやるな公衆の面前で」

 

 千束の言葉はその通りなのだが、視線が集まるのはそれはそれで気まずいものがあるのだ。

 

「そういえば、千束はあの弾。いつから使ってるんですか?」

 

「ん~? どうしたのさ急に?」

 

「旧電波塔の時ですか?」

 

「そうだよ~、あのとき先生に作ってもらったんだ」

 

「そうだったのか」

 

 棗もそれは初耳だったらしく、驚いた様子で千束を見る。

 

「あれ、棗にも言ってなかったっけ?」

 

「いやふつーに聞いてねえな」

 

「あ~……それはごめんね?」

 

「まあ別に怒ってないしいいけども」

 

「……なにか、あの弾を作ってもらったことに理由が?」

 

「なぁに~? たきなぁ~、私に興味あるの~?」

 

 たきなと棗が座っていたソファに同じように腰かけて千束はニヤニヤとたきなを見つめる。

 

「まあ……タツノオトシゴよりは」

 

「チンアナゴよりも~?」

 

「……茶化すならもういいです」

 

「あーん、ごめんってたきなぁ~! じょーだん冗談! 

 でもまあ理由って言っても凄く簡単だよ? ただ、気分が良くないからだし。

 誰かの時間を奪うのは気分が良くないから、それだけだよ」

 

「気分……ですか?」

 

「そ、気分。悪人にそんな気持ちにされるのは

 もーっとムカつくから、死なない程度にぶっ飛ばす! 

 あれ当たるとめちゃくちゃ痛いんだよ~? 死んだ方がマシって思えるぐらい!」

 

「まあ基本当たらんけどな」

 

「そこ、うっさい!」

 

 棗の注釈にピシッと指を差してむくれる千束。実際彼は、千束の弾を全弾避けた実績があるため言い返せなかっただけである。

 

「ふふ……」

 

「なんだよぉ? 私、そんなに変なこと言ったぁ?」

 

「いえ、もっと博愛的な理由かと思っていたので。千束は謎だらけですね」

 

Mysterious(ミステリアス) girl(ガール)!? そんな魅力もあったか私~」

 

「ハッ」

 

「あ、棗! 今鼻で笑ったな~!? うちで一番謎めいてるくせに~!」

 

「……そういえば」

 

 一番リコリコで謎めいている人物といえば、隣に座る立花 棗その人だ。

 そのことを思い出したたきなはふと、棗を見た。

 

「……言っとくけど、そんな教えることないぞ? 俺も非殺傷弾に変えたの、千束と同じで嫌だったからってだけだし」

 

「……そうなんですね、意外です」

 

「悪かったな、意外で」

 

「いえ、でも……優しい棗さんらしいとも思います」

 

「う……そ、そうか……」

 

 クスリ、と微笑むたきなに不意をつかれたのかドキッとして棗は顔を逸らす。

 

「お? なに~? 棗くぅん、たきなちゃんに褒められて嬉しかったのかなぁ?」

 

「うっせえ」

 

「あいたぁ!? デコピンはすんなデコピンはぁ!?」

 

 カウンターとばかりに額を指で弾かれた千束はぶーぶー! と棗に抗議する。

 

「ま……こいつの場合は、俺以上に難しい話じゃないしな。覚えてるだろ、こいつの座右の銘」

 

「……『したい事、最優先』?」

 

「お、たきなも覚えてるねぇ?」

 

 座右の銘を覚えていてくれたことに千束は嬉しそうに笑う。

 

「DAを出たのもそれが理由ですか?」

 

「ほへ?」

 

「殺さないだけなら、DAでもできたのでは?」

 

「あー……それ、かぁ……」

 

「それも、そうしたいと思った……それだけなんですか?」

 

「えーっと、それは……」

 

 千束は顔を逸らして言いよどむ。

 

「────探したい人がいるんだよ、コイツ」

 

「あ、ちょ! 棗ぇ!」

 

「探したい人……ですか?」

 

「そ、コイツの命の恩人ってやつ。知ってるだろ、アラン機関。

 そこの人なんだよ、コイツが探したい人は」

 

「いやー……あはは……」

 

 棗に言われて少し恥ずかしそうに隠していた()()()()()を千束は見せるのだった。

 

 

「……確かに、ニュースになっているアランチルドレンの人たちがつけているモノと同じですね……千束には何の才能が?」

 

 たきなはスマホでアラン機関に関するニュースを調べながら不思議そうに首を傾げる。

 

「わからなぁい?」

 

「「それじゃねーな(それではないのは分かりますね)」」

 

 後ろの壁にあるポスターと色っぽいポーズをとる千束に対して即座に否定する二人であった。

 

「むぅ……たきなと棗は自分の才能が何か分かるの?」

 

「いえ……何かあればいいとは思いますけど」

 

「ね、ふつーはそんな感じでしょ?」

 

「……少なくとも、たきなの射撃のセンスは技術を磨いたのも含めて才能だし、千束の弾を避けるのも、誰かを笑顔にできるのも才能だと俺は思うが」

 

「お、おお……珍しいね、棗がストレートに褒めるの」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 手放しでの賞賛に思わず千束もたきなも照れくさそうに頬を赤く染める。

 

「……もう絶対褒めねえ」

 

「あーうそうそ冗談だって! 褒めてくれて嬉しかったよ~!」

 

 千束の言葉に、棗はムスッと拗ねるようにメロンソーダを飲む。

 ごめんってばー! とあやすように千束は棗に謝罪をする。

 

「それで、見つかったんですか? これをくれた人」

 

「んー、全然かな」

 

「10年も探して?」

 

「……もう、会えないかもね。ありがとう、って言いたいだけなんだけどさ」

 

 寂しそうに水槽を眺める千束を見て、複雑な顔を浮かべるたきなと棗。

 とくに棗は、千束の会いたい人にだいたいの当たりを付けているからこそ何とも言えない顔になっていた。

 

「……お、たきな? どうした?」

 

「……さかなー!」

 

 千束の悲しそうな顔を見て、励まそうと思ったのかたきなは立ち上がって不思議なポーズ……魚の真似をする。

 

「お、おぉ……! さかなか~! ふふ、チンアナゴ~!」

 

「何してんだお前ら」

 

 千束もたきなに合わせるように先ほどのチンアナゴのものまねをし始める。それを見て棗は呆れた顔をしていると……

 

「ほら、棗も!」

 

「え、まて俺はいいって」

 

「ほーら! はやくはやく!」

 

 千束に腕を引っ張られて、隣に立たされる。

 

「ほら、ほーら!」

 

「あーもう、ペンギン! クワッ!」

 

「ぶふっ……! に、にてないっ……!」

 

 絶望的に似ていなかったのか、千束はツボにハマったらしく腹を抱えて爆笑しはじめる。

 当然そうなれば棗はぷるぷると顔を赤くして震え……

 

「おまっ!? せっかくやってやったのになんだその言い方ァ!!」

 

「あいたた、ごめんってー!!」

 

 千束を裸絞にしてこめかみを拳でグリグリとする。しかし本気で怒っているわけではないようで、千束も棗もお互い笑い合いながらじゃれついているようにしか見えていなかった。

 

「ふふ……! それ、隠さない方がいいですよ?」

 

「おん?」

 

「ほえ? そう?」

 

 たきなの言葉を聞いてするりと拘束を解く棗。

 

「ええ、めっちゃ可愛いですよ?」

 

「あー! コイツゥ! ほら、棗に台無しにされたけどペンギン島に行くぞー!」

 

「ペンギンッ♪」

 

「おー。っておい、今のどういうことだ千束! こら!!」

 

 ペンギン島にウキウキしながら向かう千束とたきな。それを棗は見守るように微笑み……ふと、千束の言葉の意味を問い詰めるように走って追いかけ始めるのだった。

 

 

 ────

 

 

「いやー遊んだ遊んだ! ……って、ん?」

 

「……ん? どうした千s……たきな」

 

「はい、リコリスがこんなにいるのは……少し妙ですね」

 

 デパートでの買い物も終わり、夕日が沈みかけている黄昏時に外に出た三人。しかし、その三人にとっては紛れもない違和感を見つける。

 リコリスの数だ。一般人にとっては放課後にいる女子高生がいつもより多いなという認識程度にすぎないのだろうが、千束、たきな、棗にとってはこの数はあまりにも異常だった。

 

「……まさか……悪い、ちょっと先行ってる」

 

「あ、ちょ。棗!」

 

「追いかけましょう、千束!」

 

「うん! ってちょっと二人とも待ってよ~!!」

 

 棗が荷物を持ったまま走っていく姿を見て、千束とたきなは追いかける。

 そして走った先の駅……昼に待ち合わせに使っていた場所が封鎖されていた。

 

「……ビンゴか」

 

「はぁ……はぁ……棗さん……あし、はやいです……」

 

「ぜぇ……ぜぇ……こっちは、なつめほどあしはやくないの……わすれないでよ……」

 

 棗の全速力に追いつこうと必死だったからか、千束とたきなは息切れを起こしながら呼吸を整える。

 

「あ、すまん……それより、見ろ二人とも」

 

「……! あれ、は」

 

「ぜぇ……ぜぇ……はぇ? え、うわ。駅閉鎖されてんじゃん!?」

 

 棗の視線の先を見た二人は驚愕した様子をみせた。当然だ、駅が封鎖されていればそういうリアクションにもなるだろう。そしてなにより……

 

「あの黒服、DA管轄だな?」

 

「おそらくは……数人ですが、見覚えがあります」

 

「マジ? じゃあ……」

 

「地下にはテロリスト、ってところか」

 

「「…………」」

 

 棗の言葉はあながち間違いではないのだろう、千束とたきなも駅の方向を見て表情を硬くする。

 その直後のことだった。

 

 大きな爆発音のようなものと同時に地面が揺れ、駅入り口からは土煙が噴き出はじめた

 

「っ!?」

 

「これ、爆発ッ……!?」

 

 当然、周囲の住民はパニック状態に陥り場が混沌としていく。

 

「ッ……!」

 

 その混乱に紛れて、棗は現場に向かおうとするが千束に腕を掴まれて妨害される

 

「ダメだよ棗ッ! 今行ったら棗がこの騒動の原因の1人と勘違いされて殺されちゃう!」

 

「けど……!」

 

「わかってる……分かってるから……ね? お願い、今は……帰ろ?」

 

「! ……悪い、冷静じゃなかった」

 

 その手が震えていることに気付き、もどかしいと感じているのは自分だけでないことを棗は察する。

 

「……千束、棗さん」

 

「ごめんね、たきな。……帰ろ? ほら、制服じゃないと私たち逮捕されちゃうし……戦利品もいっぱいあるから、ね?」

 

「……はい、わかりました」

 

「すまない、千束……」

 

「ううん、大丈夫だから気にしないで、棗」

 

 それぞれがモヤモヤとしたものを抱えながら、リコリコへの帰路につくのだった。

 

 

 ────

 

「ハイ捨てます! 捨てます! これも! はい、これも!」

 

 翌日の朝、千束は宣言通りに更衣室のたきなのロッカーにあったトランクスをゴミ袋のなかに入れて処理していく。

 

「これも捨て……」

 

『これいいんですよね、通気性も良くて動きやすいですし……』

 

 ふと、千束はたきながランジェリーショップで言っていた言葉を思い出す。

 それはきっと、魔が差した。というやつだろう。

 

「お……おぉ……これは……なかなか……!」

 

 そう、トランクスを履いたのである。そうするとどうか、意外と履き心地が良くちょっと気に入りかけた千束。くるくると上機嫌に小躍りしていると────

 

「千束~? サボってないd────」

 

「あ、いや、えっとこれはその」

 

 更衣室にやってきたミズキに見られ、少しの間時が止まる。

 

いやああああああ!! ハレンチィイイイイイッ!?

 

「わああああ!! 違う違う違う誤解だってえええ!?」

 

 ミズキの勘違いによる絶叫と共に千束もまた悲鳴を上げる。

 

「棗くんのところに泊まってきたなさては!? 私への当てつけか貴様ぁ!!」

 

「違う違う違うちが! いや一昨日(おととい)は違わないけど!!」

 

「ほらやっぱり!!!」

 

「あああ! 違うってぇ!! 棗は関係ないしぃいい!!」

 

「ガキのくせに不潔よ不潔! 不純異性交遊!!」

 

 ミズキに裸絞にされて抵抗する千束。それをちょうどお店にやってきたたきなと棗が何事かと見つめる。

 

「違うこれたきなの! たきなのだから!!」

 

「ふーん!?」

 

 千束のその言葉にミズキは眼鏡を光らせて、急接近する。

 

「え、あのミズキさ────」

 

「ぶっ!!??」

 

 ぺらり、と制服のスカートを捲られ下着のチェックをされるたきな。

 

「可愛いじゃねえか」

 

「いやだからそれは昨日買ったやつでぇ……!」

 

 再び千束の方へ向かってお仕置きを再開するミズキ。

 当然捲られたたきなは思考を停止させたまま顔が少しずつ赤く染まっていく。

 

「…………た、たきなさん? おーい?」

 

 ぶんぶんとたきなの目の前で手を振る棗。その手を見てはっ、とした後に再び羞恥心に苛まれたのか、たきなは顔を赤くし棗を見る。

 

「み……みました……?」

 

「ヴェッ!? ああ、いや見てはないぞ、ウン……」

 

「白の下着……」

 

「え、いや黒の……あっ」

 

 白、と告げるたきなにあれ見た色と違う……と思わず棗はツッコミを入れてしまったことでボロを出す。

 

「やっぱり見たんじゃないですか……!」

 

「アッ、イヤ、エット……不可抗力ですすみませんでしたァ!!」

 

 顔を真っ赤にして涙目で睨むたきなにさすがにいたたまれなくなった棗は全力で土下座をかました。

 

「あ、ちょっとミズキどこに────」

 

「みなさーん! このお店に裏切り者の嘘つき野郎がいますよお!!」

 

「うああああああああ!! ひぃいい、やめろやめろやめろぉ!!」

 

 ミズキのチクりを阻止しようと大慌てで捕まえようとする千束。

 

「ひらりっと、いらっしゃいませー」

 

「うぉおおお!!? やめろぉ!!?」

 

 しかし、それを華麗に躱したミズキは逆に千束を捕まえて、スカートを捲り彼女が履いているトランクスを見せびらかす。

 

「クルミ! 扇風機持ってきて!」

 

「はいよー」

 

「はい、確保!!」

 

「ちょ、何する気ってうぉあああ!? なんじゃこれぇっ!?」

 

 ミズキに羽交い締めにされ、クルミの持ってきた扇風機で風を当てられスカートを捲られる。簡易マリリン・モン□ーの完成であった。

 

「うひぃいい!? こんな辱め受けるぐらいならいっそころしてぇ……!」

 

「ほれ、たきなの団扇ね」

 

「え、私もするんですか!!?」

 

 クルミに団扇を手渡されて困惑するたきな。

 

「ほれほれ」

 

「ちょいちょい! ちょーい!!」

 

「見ました皆さーん? 男物の下着ですよぉ?」

 

「だからたきなのだから! だいぶ前に先生の指示で────」

 

「幼いくせにやる事やったハレンチめ!」

 

 ミズキと千束、クルミのやり取りを見てじわじわとツボに入ったのか、たきなは普段はしないような満面の笑みで爆笑する。それに釣られて棗もまた腹を抱えて爆笑しはじめる。

 

「ふ……ふふふ……あははははっ!!」

 

「く、くく……はははははっ!」

 

「ややこしい人に捕まっ……だから違うんだってえ!! 

 棗もたきなも笑ってないでたーすーけーてーよぉー!!」

 

 千束は必死に助けてを求めてくるが、二人とも爆笑して聞こえていない様子だった。




立花 棗

買い物に付き合わされた冤罪男。
実は色んな言語を喋る事が出来るやべーやつ。
下着は特に拘りははない。
ブリーフでもトランクスでも構わない。

時々だが、千束とは家に泊まったり泊まられたりする関係。
しかし付き合ってはいないし恋愛感情は(多分)ない。

未だ覚めない悪夢を見ている。


錦木 千束

たきなと棗とダブルデート!
いざって時を棗くんで連想して困惑中。
……もしかして本当に私って棗のこと好き?

トランクスで冤罪をくらった。
私のじゃないんです!!本当だから!!

ただ貴方の隣で支えられたらいいな。


井ノ上 たきな

多分元凶。しかし自覚はない。
天然が入ってるんじゃないかってぐらいにはポンコツ要素が多い。
トランクス……意外と快適だったんですけど……

男の人に褒められたりする機会があまりなかったらしく
ちょっと恥ずかしかったらしい。

最近下着を見られることの羞恥心を会得した。
……棗さんに見られてしまいました。
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