【悲報】転生したら暗殺組織の隊員にされた件【戸籍ナシ】 作:星ノ瀬 竜牙
真島さんとの対面は次回です。
「…………やっぱり、妙だな」
「どうした?」
「……この間の、サイレント・ジンと棗の戦っているところを見直してたんだ。
ミカ、これどう考えても普通じゃないだろ」
タブレット端末でドローンで撮影していた映像を何度も見直すクルミ。
その映像は棗とジンの戦いだった。
「……そうだな」
「そうだなって……ミカはなにも知らないのか?」
「ああ。それに……棗くんも知らないだろう」
「……なに?」
ミカのその言葉に訝しむクルミ。当人が理解していない、ということに対して彼女は疑問に思ったのだ。
「棗くんは
「……なるほどな。それを千束とたきなは知っているのかい?」
「いや、棗くんに口止めされている。これを知っているのは私だけだ。ミズキも知らない」
「……そこにボクも加わったわけか」
「そういうことになるな」
クルミは思わず顔を顰めるほかになかった。
傍から見ても、立花 棗という男は異常だ。射撃、格闘そのどれもが一線級であり
近接ともなれば錦木 千束の洞察力を超える速度で行動できる。間違いなく天才のそれだ。
それでいながら、彼はアランチルドレンであるという形跡がない。
「棗は本当にアランチルドレンじゃないのか? ミカ?」
「────私の知る限りではな」
「……その口ぶりだと、知っているヤツが居るようにしか聞こえないが?」
「心当たりは1つある……が、彼がそれに応じるかと言われると分からん、としか言いようがないな」
ミカは、とある男性の姿を思い浮かべながら眉をひそめていた。
その様子を見て彼の言葉に嘘はないと思い至ったのだろう、クルミは困ったように笑う。
「なるほどな……なんにせよ、棗は自分の異常性に気付いているのかは気になるところだが」
「おそらく気付いてはいるだろうな。ああ見えて棗くんは聡い子だ。千束やたきなに気付かれないように振る舞っているんだろう」
「……まあ、あの二人からの認識は驚異的な身体能力を持っている、というだけだしな。
上手く隠してはいるのか」
まあそれも錦木 千束という
クルミはそう考えて、再びタブレットに視線を戻す。
「それで、ミカの依頼はなんだい?」
「ここ最近のうちに数件ほどだが……リコリスが襲撃される事件が起きた。主犯の特定を頼みたい」
「リコリスが? ……それはまた物騒な話だな。分かった、ボクの方で調べてみよう。
……って待て、それじゃあ千束とたきなは危険じゃないのか?」
「ああ、だからしばらく二人には棗くんと行動するように指示を出したさ」
ミカのその言葉を聞いてクルミはなんで? という顔を浮かべた棗を想像したのだろう。
大きなため息を吐いて、ミカをジト目で睨みつける。
「…………ミカ」
「なんだ?」
「お前、たまに酷なことをするよな」
「……そうか?」
ミカのそんな言葉を聞き、再びクルミはため息を吐いた。
棗がリコリコに来たらボクからなんか奢ってやるか。と考えたのは余談である。
────
「リコリスの襲撃ィ?」
「ああ、それでおやっさんから指示があって仕方なく! 俺もここにしばらく泊まることになった」
「なぁんで特定されてんだ~?」
「分からないんですよ、例のラジアータのハッキングと関連性があるんじゃないかとは思われているようですが……」
たきなと棗が千束のセーフハウスにやってきて荷物整理をする。
今まで起きたリコリスの襲撃は単独行動中に起きているからこそ、集団でいるべきという判断がされたのだ。
そのため、たきなと棗は千束のいるセーフハウスに安全が確保されるまで住み込みになることになったのである。
「しばらくは単独行動は控えるように、それと……『今月の検診、昨日までよ』と山岸先生がおっしゃってましたが」
「……は? お前また行かなかったの? なにしてんだ?」
たきなから担当医の伝言を伝えられた千束。それを耳にした棗は何考えてるんだって顔をする。
当然その目を向けられた千束は気まずそうに目を逸らす。
「あ……あぁ……えーっと……だって……」
「お前なあ……いくら注s「わーっ!! わーっ!!!」モガッ!? んんん!?」
棗がぽろっとこぼそうとした言葉をたきなに聞かれたくなかったのだろう、千束は慌てて棗の口を塞ぐ。
「……どうかしましたか?」
「な、なんでもないよたきな!?」
「はぁ……? とにかく、定期健診は行ってくださいね?」
「うぅ……はぁい……」
たきなにそう言われてしまえば何も言えなくなったのか、千束はしょんぼりとしながら頷く。
「いい加減口から手を離せ!!」
「あ、ごめん」
その間も口を塞がれていた棗はいい加減我慢の限界だったらしく、彼女の腕を掴んで引き剝がしながら息を荒くして叫んだ。
「そういえば、たきなは脚の怪我大丈夫? あ、棗。上の棚からコップ出しといて~」
「あ、はい。幸い掠めた程度の軽傷でしたからもう走れるぐらいには」
「はいよ、白と黒のマグカップでいいか?」
「ん、それでいいよ~。そっかそっか、大事にならなくてよかった」
たきなに怪我の具合を聞いてる横で、千束のお願いを承諾しすぐに棚からマグカップを取り出す棗。
慣れている、としかいえないその様を見てたきなはふと疑問を浮かべる。
「あの……もしかして棗さんは幾度かここに泊まったことが?」
「うん? あー……まあ、何度かな。月に1、2ぐらいか?」
「えー、5回ぐらいじゃない?」
「いやそれはお前が俺の拠点に泊まりに来る頻度な」
千束の言葉にツッコミをいれる棗。そのやり取りから二人が同棲に近いことをしていると感じたたきなはそのまま、ぽろっと二人に問いかけてしまう。
「……お二人って、もしかしてそこまで仲が?」
「「え?」」
千束と棗は揃って顔を見合わせる。何のことかとしばらく考え込み思考が追い付いたのか二人揃って顔を赤く染めて否定する。
「違う違う!? 別にそういう仲じゃない!?」
「そ、そそそうだよたきな!! べ、別にそういう一夜を……いや、共にはしたけどそういう意味ではしてないし!?」
「え、したんですか?」
「してねえよ!! 千束も誤解を生むようなこと言うのやめろ!?」
たきなの困惑する声に即座に否定したのは棗である。
確かに一緒の布団で寝た事はあるが別にそういう事をしたわけではないのだと棗は必死に誤解を解こうとする。
「だってほんとの事じゃん!?」
「真実でも言い方があるだろ言い方が!?」
「お二人の仲が良いのは分かりましたから、その辺りでお願いします」
「たきなお前絶対勘違いしてるだろおい!?」
「ちょ、たきな! なんか色々勘違いしてるから一回情報整理しよ!? ね!? お願いだから!!?」
いつものように始まった夫婦漫才をたきなは軽くあしらいながら持ち込んだ荷物の片づけを済ませようとする。
当然棗と千束は誤解を解こうと必死だったが見事にスルーされたのであった。
「というわけで、しばらくは私も泊まりますから今後は家事は分担して行いましょう」
「……つまんない。というか棗のないじゃん」
「つ、つまらな……? こほん、棗さんは手を怪我していますから、しばらくはお預けですよ。
悪化されても困りますから」
「あー……悪いな、千束もたきなも」
包帯を綺麗に巻かれている左手を棗は見ながら申し訳なさそうに頭を下げる。
軽傷とはいえたきなよりも状態は悪いのだ、なにせナイフを片手で掴んでできた切り傷。
痛みもなくなり血も止まったとはいえ、医者の許可が出るまではダメだと言われているのである。
「まあ、そっか……それなら仕方ないけどさぁ……やっぱりつまらないってこれ~」
一日交替の家事分担のスケジュール表を見てぶーぶー、と文句を言う千束。
彼女らしいといえばそうだがしっかり者のたきなからすれば困ったものである。
「……それなら、じゃんけんでどうです?」
「お! じゃんけん! いいねえ!」
「いや、じゃんけんってお前それたきなにまk「はーい口うるさい棗は黙ってようね」むごっ!?」
千束はどこからともなくガムテープを取り出し、棗の口に貼りつけて黙らせる。
余計なことを言う前に口を塞ぐに限るのである。
「……? それじゃあ、いきますよ千束!」
「おっけー! やろうやろう!」
千束の行動に首を傾げるも、別に大事なことではないのだろうと判断したたきなはじゃんけんの構えをとり、千束もそれに応じる。
「「さいしょはグー!! じゃんけんっ────」」
…………
「な、なぜ……」
「むっふー! 勝利のぶいー!」
「…………むぐ」
結果はたきなの惨敗。家事当番はしばらくたきなだけになったのであった。
棗はそれを見てだろうな、という顔をしながら呆れて千束の顔を見る。
「あ、ガムテープずっと貼っててごめんね? 棗?」
「いって!? 一気に剥がすのやめろ一気に!?」
ベリ、と一気に口に貼られていたガムテープを剥がされ棗は口元を手で押さえる。
「あ、ごめん!?」
「こ……こんなことが……あるはず……確率……」
「……いってぇ……千束……お前、人の心ないのか?」
「失礼な」
心ここにあらずとなったたきなを見つめ、口元を擦りながら棗は千束をジト目で睨んでいた。
────
「おはよう! 労働者諸君!」
「朝から失礼だろ。……おはようございます、ミズキさん」
「おはようございます」
リコリコにやってきて早々にやかましくなる三人。
「ん、おはよー。聞いたわよ~、えらいことになってるわね?」
「ん~? ああ、私らDA所属じゃないし大丈夫でしょ~」
「可能性はゼロじゃないんですよ、千束」
「警戒するに越したことはないと思うが」
ミズキの言葉を千束は軽く流そうとするが、たきなと棗に咎められる。
更衣室に千束とたきなが入ろうとしたところでふと、ミカがスマホで誰かとやり取りしているのが目に入る。
「────次の被害を防ぐ為にもなるとは思うが……はあ、そうか。分かった」
「ん? 先生、相手は楠木さん?」
「司令は情報をくれそうですか?」
「極秘、だとさ」
「DA様は秘密が多いことで……」
「秘密主義な組織も面倒くさいな。支部ならちゃんと共有すればいいのに」
通話を切ってスマホの電源を落とし困ったように肩をすくめるミカを見て、千束と棗は呆れた顔をする。
組織が一筋縄ではないということは知っているとはいえ、そこを極秘にされるというのも困ったものである。
「勝手に覗いちゃうからよ~ん」
クルミはそう言いながら和室をゴロゴロとパソコンの置いてある押し入れまで転がっていくのだった。
「今は気にしてても仕方ないか、っとそうだ。おやっさん」
「ん? どうした?」
「あとでちょっと相談したいことがあるんですけど、いいですか?」
「……分かった、いいぞ」
ミカは棗の表情を見て何かを察したように頷く。
彼が何を聞きたいのか、それを理解している様子だった。
────
リコリコの地下の射撃場で、ミカは棗と落ち合う。
「それで、話はなんだ? 棗くん」
「そんな今から自首する犯人みたいな面しないでくださいって……ただ少し聞きたいことがあるだけですよ」
「……すまんな」
それが棗なりの心遣いだと理解しているからか、ミカは申し訳なさそうに呟く。
「単刀直入に聞きます、
「…………長く見積もって
ミカはやはり、という顔をして恐る恐るそう告げる。
いつか知ることにはなっただろう現実、それが少し早くなっただけだとはいえミカにとってもう一人の子供ともいえる棗に黙り続けていたことは辛かったのだろう。長い沈黙のあとに出たその言葉は重かった。
「……そう、ですか」
理解はしていた。人工心臓であるならば、そういう事もありえると。
それでも、もしもを連想して彼に問い詰めた。恩人に。親ともいえる人が苦しむと知っていて尚、聞くしかなかった。
「────いつから気付いていた?」
「……人工心臓と言われた時に」
「最初から……か」
ミカはデッキにもたれかかり、頭を抱える。
できることなら、そんな事を知らないまま千束と接して、そして彼女を最期まで幸せにして欲しかった。ミカはそう考えていたのだ。
「……そんなとんでもない代物、そもそもからしてメンテナンスはできないでしょう。
大型機械でもないからパーツ交換なんてことも不可能。そうなれば、人工心臓を取り換えるでもしない限り千束の心臓はいずれタイムリミットを迎える。そして、人工心臓を作れる人ともコンタクトが取れないであろうことも。まあ、それぐらいは思い至りましたよ」
「そう、か……すまない……棗くん。君には、知らせておくべきだった」
「……気にしてませんよ、千束の事を考えてそれを選んだのなら、俺は恨みません」
「……すまない」
「世の中、本当に理不尽なことだらけですね」
謝罪をするミカの顔を見た後、棗は天井を仰ぎそんなことを呟く。
ああ、本当に全くもって理不尽だ。死んだ己には第二の人生が与えられ、今を幸せに生きようとする少女は満足に生きることができない。本当に理不尽な世界だ。
「……棗くん」
「言いたいことは分かります。けど、俺には無理ですよ」
「何故だ? 千束は君のことを────」
好いている、異性として。そう告げようとするミカの声を遮るように棗は拒絶する。
「だからこそですよ。人殺しの人でなしが彼女の幸せの中にいちゃいけないでしょう」
「…………それは私だって同じことだ」
棗の言葉を聞いて、ミカはそう思う。人殺し、人でなしという面で言えば自分だって同じなのだと。
「違いますよ、俺とおやっさん……ミカさんは違います」
「棗くん……?」
「同じ人殺しでも、楽しんだやつと義務でやった人間、どっちがより人でなしなのかは自明の理でしょう?」
「君は……」
「どこまでいっても、俺は人殺しです。どれだけ絆されても、俺はくすんだ灰色だ」
屍の山は確かに望んだものではなかった。そんなものは要らないと思ったのは本当だ。
────だが、それでも彼はあの日。狂った時点で、殺しを楽しんでしまったあの瞬間に。
「って、まあそんなことを話すために聞いたわけじゃないんですけどね。
すみません、暗い雰囲気にしちゃって。千束のこと教えてくれてありがとうございます」
「……構わんさ。いずれ話すべきことだった。棗くん、千束のことを頼む」
「……できる範囲なら、幾らでも」
ミカの頼みを彼はすんなりとは聞き入れなかった。ただ、それでも錦木 千束の幸せを望んでいる。だからこそ、立花 棗はあいまいな答えを返していた。
────
「お、おかえり棗、先生。何の話してたの?」
「ん? ……ああ、まあちょっとした男の秘密だ」
「えー、なにそれ! 棗、何話してたの!?」
「お前が聞かん坊になることでお互い苦労するなって話だ」
「ちょ、なんだそれはー!!」
千束は棗の心にもない言葉に、抗議するように襲い掛かる。
しかし、ひらりと棗に躱されて転びかけていた。
「で、お前らはなにしてんの?」
「うん?」
クルミと机でボードゲームをしていたのであろう痕跡を見て、棗はそう問いかける。
休憩時間中だから別に構わないのだが、気になってしまうのは仕方ないことである。
「ああ、例のリコリス襲撃犯の調査のために情報をダウンロードしてるんだよ。
あとでゆっくり調べるためにな」
「……DAをハッキングしてんのかよ」
「さすがはクルミさん、やばいねぇ」
クルミの言葉に棗は頬を引き攣らせ、千束は感心したようにあくどい笑みを浮かべる。
「ふ、ちょろいね。あ、たきな、杏仁豆腐おかわり!!」
「…………むぅ」
杏仁豆腐をかきこみ、たまたま廊下を通ったたきなにクルミはおかわりの要求をする。
「ああ、そうだ。たきな、千束。買い物、行くぞ?」
「お?」「……買い物、ですか?」
その時ふと思い出したように声掛けする棗に千束とたきなは揃って首を傾げていた。
────
「いやーすまんすまん、セーフハウスの冷蔵庫調べたら思った以上に、食材なくてな」
「まあ、私だけだと基本そんなに要らないからねー」
「そういうことなら、予め言ってくださればよかったのに」
スーパーで三人、一緒に歩きながら棗は笑う。
千束一人暮らしのセーフハウスではあるが、三人でしばらく同棲するとなれば食料品周りの在庫の補充も必須なのだ。なので、こうして買い込むためにスーパーにやって来たのである。
「買うものは何か決まっているんですか?」
「うん? ああ、まあ……セール中の野菜と肉に魚……あと卵のパックだな。
メインはその辺。他も必要そうなのはチラシにチェック入れてるよ。ほれ」
「確認します」
チラシを渡されたたきなはチェックされている部分を確認していく。
しっかりと必要なものを決めている辺り、棗は几帳面なところがあるのが伺えた。
「結構な量ですね……」
「いつも通りなら、俺だけでも良かったんだけどなー。流石に三人分となると量が多くなるし……あ、これ俺だけじゃ全部は持って帰れないわ。ってことで手伝ってもらいたかったんだよ」
「なるほど、それで私と千束を……」
合点がいったようにたきなは頷く。つまり荷物持ち要員の人手が欲しかったという話で合った。
「なんか今度奢ってやるから、それで許してくれ」
「マジ? なら仕方ないなぁ。千束さんがしっかり選んでしんぜよう」
「いやお前は余計なもの籠の中にいれるからいい。たきなに全面的に任せる」
「なんでよ~!! 贔屓だー!!」
「お前が買わないモノ入れようとするからだろうが! 普段の信用度の差だ!! 甘んじて受け入れろ!」
「……子供ですか、千束」
訴える千束に対して、父親のように怒鳴る棗。それを見ながらたきなはそんな感想を抱いていた。実際、やっていることが小学生低学年ぐらいの子供と同じなのでそういう感想を抱くのは普通の事である。
「あ、棗さん。お肉は左です」
「おっと、悪い悪い」
話していたから通り過ぎかけていたのだろう、肉のコーナーをたきなが指差す。
そうしてたきなと棗が二人で食材を買い込み、相談しているところを見て千束はすっと姿を消す。
「…………そーっと」
「千束」
「げっ……」
こっそりと、どこからともなくお菓子を持ってきたのだろう千束はバレないようにお菓子を籠の中に入れようとするが、まるで後ろに目があるように棗に名前を呼ばれて再びすっと、姿を消した。
「……これなら」
「ダメですよ、千束」
「げっ、たきな!?」
次はアイスとスイーツを入れようとして、たきなに咎められる。
傍から見れば、
「…………よぉし、じゃあこれを」
「ダメだぞ、千束」
「ぐえっ、なんでよー! ちょっとぐらいいいじゃんかー!」
「経費でおもちゃ付きのお菓子を買おうとするな子供かお前は!!」
「まだ未成年ですー!!」
「17だろうが! 歳を考えろ歳を!!」
食玩を買おうとする千束の制服の襟を掴み、引きずりながら棗は怒る。
「ママ、あれなに?」
「若い子の嗜みよ、見てはいけないわ」
「「…………」」
それを見た子供に指を差され、母親にそんな事を言われているのが耳に入ったらしく。
棗と千束は急に静かになって顔を赤くするのだった。
「恥ずかしいならやらなければいいのでは……?」
ごもっともな意見である。
────
「棗さん、調味料ってどこでしたっけ?」
「ん? ああ、コンロ下の引き出しの……あー、左から二つ目」
「左から二つ目……あ、ありました、ありがとうございます」
たきなが料理を作っている間、千束と映画を見ている棗だったが
調味料や食器の場所を聞かれる度に、しっかりと返答している。
「ねえ、たきな」
「なんですか、千束」
「……たきなはなんで家主の私じゃなくて棗に聞いてるわけ?」
「それは……千束の説明が些か抽象的すぎるので……」
千束は不服そうな顔をして問いかけるが、たきなから困ったような顔でそう返されて目を丸くする。
「え、そんなにひどい?」
「ええ、その……かなり……なので、棗さんから聞いた方が早いなと……」
「うそー!?」
「ボキャブラリーのなさが災いしてんなお前」
ショックを受ける千束の尻目に麦茶をストローでずずー、と啜る棗。
実際、たきなからすればより正確に情報を伝えてくれるのは千束より棗という認識であった。
「……やっぱり俺も手伝おうか、たきな」
「いえ、これはじゃんけんで全敗した私が悪いのでお構いなく」
「……そうか? まあ、たきながそう言うならいいけど」
「……むー」
やっぱり、と棗はキッチンの方に向かうがたきなにそう言われて渋々と引き下がる。
それを見て千束は妙に面白くなさげな顔をする。
「なんだよ千束」
「べっつにー……なんかたきなと棗がいい感じだなーとか、夫婦みたいだなーとか思ってませんしー?」
「「…………?」」
不貞腐れる千束を見て二人は顔を見合わせて首を傾げる。
そんな気は一切なかったらしい。
「おい!? 無自覚で夫婦やんないで!?」
無意識にお互いの距離が近かったらしい。それを見て千束は更にツッコミをいれる。
「いえ、まあ……千束が子供っぽくて、そう考えると棗さんが父親みたいだなーと思うことはありますけど」
「あー……いや、それを言われるとたきなもそうとう母親っぽいところあるぞ?」
「そうでしょうか?」
「うん、ある」
「…………やっぱり私もたきなと料理するー!!」
たきなと棗の会話を聞き蚊帳の外……仲間はずれにされた感覚を覚えたのか、千束も立ち上がってキッチンに向かうのであった。
その後痴話喧嘩をしながらも食事を済まし、食器を片付け終えた後
たきなが食後のコーヒーを机に持ってきた段階で千束のスマホに警報が鳴る。
「……千束、それは?」
Intruder alertという文字が浮かび上がる千束のスマホを見てたきなは首を傾げる。
「お……チンピラがまた来たかー。なつめー」
「はいはい……」
「はい? あの……お二人とも何を……?」
よっこらせ、と千束と棗が立ち上がる姿を見て更に困惑するたきな。状況が一人だけ呑み込めていなかった。
拳銃を手に取りセーフハウスの隠し扉をこっそりと開け、千束と棗は上層の様子を伺う。
「おい、いねえぞ!」
「でも、確かにさっきこの部屋に入ったはずだ!」
「どこだ、クソッ!」
侵入者と思わしき二人の男が何もない偽装されている側の部屋をうろついているのを確認した二人。
「おーおー、いるねー……」
「敵影は二人だな、どうする?」
「んーそれじゃあ……ジャケット着てる方をお願いね♪」
「はいよ」
そのまま顔を見合わせてニヤリと笑うと────
「「うぎゃあああああ!?」」
「ほれほれ、逃げないと死んじゃうぞー?」
チンピラ二人を拳銃を構えて撃ちながら追いかけ回していく。
「こいつら狂ってる!?」
「棗! お・ね・が・い・ね!」
「はい、よっと!」
千束に蹴飛ばされた男をそのまま棗が掴まえ……
「てめ、なにをぉおお!?!?」
「おま、こっちくんじゃ────うげえっ!?」
もう一人の男の方に投げ飛ばして、窓に勢いよく叩き付け
その衝撃で窓が割れると同時に二人の男はベランダからそのまま下のゴミ捨て場に突き落とされる。
「さぁて……」
「どうしてやろうか?」
そのままベランダに顔を出した千束と棗は悪い笑みを浮かべて、拳銃を突き落とされた二人の男に向ける。
「ひ、ひぃいい!! ころされるぅうう!!?」
「助けてくれええええ!?」
それを見た男たちは必死に千束の拠点であるマンションから逃げ去っていくのだった。
「あー、また窓注文しなきゃ……」
「俺が払うよ、今回は俺が割ったみたいなもんだしな」
「マジ? 助かるぅ! あ、それと……ナイス連携」
「へいへい、お前こそな」
コツン、と千束と棗はお互いの拳を重ね合わせるのだった。
「────このためのセーフハウスですか」
「ん? まあねえ……ああいうチンピラ程度なら良いんだけど、昔は
「…………悪かったって」
意味ありげに、棗をニタニタと笑いながら見つめる千束。
棗自身も流石にあの時のことは罪悪感を覚えているらしく、気まずそうに謝罪をして視線を千束から逸らす。
「リリベル……?」
「あれ、棗言ってなかったの?」
「え? ……いや、お前かおやっさん辺りがたきなには説明するもんかと思ってたんだが」
たきなの困惑する声に、千束は首を傾げて棗に問いただそうとする。
しかし、棗も同じような考えだったのか千束に向けてそんな言葉を口に出していた。
「え?」
「……え?」
「待ってください! リリベルってなんですか!? それと棗さんはなにを知ってるんですか!?」
情報に食い違いがあったらしい。が、それを聞いていたたきなは再び置いて行かれかけたのか声を荒げて二人に問い詰めようとする。
「あー分かった分かった! 説明するからちょっと落ち着けって!?」
たきなにグイグイと押され、棗は一から順に説明する。
リリベルという、男版のリコリスのような暗殺組織があること、そこに所属していたこと。
そして、ここで千束に襲撃をかけたことがあったこと。それらを罪に問われる犯人のように自供するのだった。
「……私、聞いてないです」
「すまんたきな。本当に知ってると思って言ってなかったんだ……」
「ごめんってたきな! そういじけないでー!?」
ムスーと頬を膨らませるたきなに棗は正座をして、千束は彼女によりかかりながら謝罪をする。
「というより……それだとリリベルって普段はなにしてるんですか? 棗さんを例にはできないと思うんですが」
「失礼だなたきな!?」
「え? あー……私も詳しいことは知らないかなー。え、なに? もしかしてたきなってば男の子に興味あるの!?」
「そういうことじゃないです」
千束にそう聞かれて食い気味に否定するたきなであった。彼女にとって気になることといえば棗のことぐらいである。
「しっかし……誰の依頼で連中、つけてきたんだ?」
棗は割れた窓ガラスを見ながら訝しげに外を睨む。千束とたきなを狙っての犯行だったのか、それともこちらを狙ってだったのか。
「棗ー! なにしてんの~? 早く降りてみんなで映画見ようよ~!」
「はいよ、今行く」
千束に呼ばれて棗は下のセーフハウスの方に向かう。
すぐに戻ったからだろう、棗は空中からこちらを監視していたドローンに気付くことができなかった。
────
「なんだこいつら……これ、見せたら真島は興味を持たないか……!?」
あるマンションの一室で、ドローンで撮影した今の映像を見ながら、ロボットのような頭の被りものをした男が声に漏らす。
「ひぃ!?」
「おい、ハッカー。もう三日経ったぞ?」
そこにドアを突き破り、二人のガタイの良い男と、緑のパーマの男性がやってくる。
「ど、どうしてここが……?」
「そんで?」
「あ、いやちょっとまっ」
「そ・ん・で・?」
「待ってくれ! リコリスが────」
ガタイの良い男二人に、ロボットの被りものをした男は拘束され、
パーマの男に拳銃を突きつけられる。
「リコリス、じゃねえよ」
「待って! 待ってくれ! 見てほしいものがあるんだよ!?」
「他の仲間は死んでんだよ。なあ……」
「ほんとにすごい映像があるんだ! だから────」
「バランス取らなきゃなあ!?」
「頼む! お願いだ! ビデオ見て!! 嫌だ死にたくない! 頼────」
男が叫び、引き金を引こうとした直後にロボットの男のデスクトップパソコンの画面から
先ほどの千束と棗がチンピラと戦っていた映像がループで流れ始める。
「あ……? こいつは……」
「こ、こいつがトップのリコリスだ! 横の男の方は分からないけど……!
DAを襲撃前にこいつらを殺しておかないと! お前らは全滅させられるぞ!」
パーマの男は拳銃を降ろすと、ロボットの男の部屋から部下の二人を引き連れて去っていく。
「あ、お……おい!?」
「…………明日、こいつらを倒しに行く。すぐに作戦を考えろ」
最後に振り向き、ロボットの男にそう告げて姿を消す。
「────まさか、生きてたとはな。……なあ、
彼はあの日出会った血濡れの怪物……立花 棗の姿を思い出してケラケラと笑った。
それは……大きな騒動を引き起こす、一人の男の計画の始まりでもあった。
立花 棗
同棲させられてる現在絶賛怪我人なリリベル(元)
百合に挟まれてるので離れたい。
リリベルってことを黙ってたのはほんとごめん……
錦木 千束
たきなと棗と同棲できてウキウキしてるリコリス(1st)
楽しい!んだけど、たきなと棗が自然と距離が近くてちょっと嫉妬気味。
私も構ってよー!
井ノ上 たきな
同棲を自ら決めたリコリス(2nd)
千束って、妙に子供っぽいですよね……棗さんと話してると特に。
……リリベル……そんな組織があって、
しかも棗さんがそこ所属とは……予め言っておいてくださいよ……