【悲報】転生したら暗殺組織の隊員にされた件【戸籍ナシ】 作:星ノ瀬 竜牙
さすがに最終回まで見届けないとこの先書けなさそうなので
今後更新少し遅くなります。
あれから一ヶ月。立花 棗のスマホにクルミからの通知が入る。
「…………結果か」
『僕1人の方がいいだろう? あとで詳しく話す』というメッセージだった。
それは即ち、以前立花 棗が調査を依頼した自らの身体についての謎。それが明らかになったということだろう。
「鬼が出るか蛇が出るか……どっちにせよ、ろくな話じゃないな」
生かされた、ならばこの身体も千束のように何かを弄られたのだというのは明確であった。
立花 棗にとって……それはきっと望む内容ですらないのだろう。
「あ、棗。今日ボードゲーム大会あるんだけど────」
「……そういう気分じゃない」
「あー……あはは、そっか。そうだよねぇ……じゃあ、明日────」
「…………」
「ってぇ……ムリ、だよね……あははは……ごめん」
話しかけてきた千束の声を無視するように、棗は厨房に戻って食器を洗い始める。
……少なくともここしばらく、千束と棗の周囲の空気感は最悪であった。
「なに、千束ちゃん? 棗くんと喧嘩したの?」
「あーいや、そういうわけじゃないんですけど……年頃? というか……色々ありまして────」
そう、別に喧嘩をしているわけではない。話しかければ反応は返すし無視をするというわけではないのだ。
ただ……棗から以前の明るさが抜けてどこか張り詰めたような、切れるナイフのような雰囲気が漂うようになったのだ。きっかけは、吉松 シンジに教えられたあの言葉。
それを知っている千束は何も返せない。彼女にとって吉松 シンジは恩人だ。だからこそ、棗に何か声をかけたくても余計に話が拗れるのが見えている。それを理解しているからか、棗本人も千束とここ最近まともに会話をしていない。
「たきなちゃんは何か知ってるの?」
「……少しは、しかしあの二人の中で踏ん切りがつかない限りしばらくはあのままだと思います」
「そっかあ……棗くんも男の子ってわけね」
色々と勘違いが常連客の間で起きてはいるが、こればかりはあまり明かせない事情であるためたきなは何も触れないことにした。彼女からすれば、時間が解決してくれることを祈るしかないのだ。
────
店の地下の射撃場を利用し、千束やたきな……ミカやミズキの邪魔すら入らない場所でクルミと棗は話始める。
「それで、結果はどうだった?」
「……結論から言うなら、お前の予想は当たってたよ」
「────そうか」
クルミはタブレットの画面を棗に見せる。そこに写っていた自分の身体に関するデータを見ながら彼は大きくため息を吐く。
「傑作だな、まさか…………
「ああ、何世代先の技術になるか……千束の人工心臓ですら現代の技術力では未知の領域なのに、更にその数世代は先の技術だぞ。棗に埋め込まれているコレは」
画像に描かれているクマムシと呼ばれている微小生物のように見える機械の群れを見ながらクルミは眉をひそめる。
ナノマシン、総称としてはナノテクノロジーと言うべきだろう。物質における原子や分子レベルのサイズの極小の機械。それの通称がナノマシンであり、正確にはそれを利用する技術をナノテクノロジーと呼ぶ。
そして何より、このナノマシンを利用した医療技術は現在では理論上の話であり実現不可能なものなのだ。
しかも、棗に埋め込まれていたソレは未だ不可能とされる自己増殖機能すら持ち合わせている。
そしてそれは今尚議論を呼ぶ技術であり、非人道的になるのではないか? と規制すべきという声すらあがっているモノだ。ソレが立花 棗の全身を巣食うように点在しているのだから恐ろしい話だろう。
「俺の驚異的な身体能力、治癒能力……ジンとの戦いで理性を失いかけたのはこれが理由か」
「だろうな。自己増殖機能を兼ね備え、肉体の治療ができるナノマシンだ。身体能力を向上させるのは勿論、防衛機能を使えば宿主の意識を奪うこともできなくはないだろ」
「それだけじゃないんだろ、コイツ」
「鋭いな。そこまで深く調べることはできなかったけど……それでもコレが治療技術、自己増殖機能以外のものも持ち合わせているのは確認できた。触れた機械へのハッキング機能、衝撃の吸収機能とかな」
他にも内臓機能を一時的にあげるものや、即座に増殖して武装生成すらできるような機能性になっていた。
まさに万能の機械、そう言って差し支えないものなのだから技術者としての視点も持っているクルミからすれば頭を抱えたくなる話である。その気になれば他者の命すら掌握できる代物だ。当然ではあるが。
「俺がたきなを庇って下敷きになった時、怪我をしなかったのはそれが理由か。……アームストロングかよ」
棗はクルミの言葉に心当たりがあるのか思わずつぶやく。それは彼がよく知るゲームキャラの名前であったのだが、この世界にそのゲームとキャラクターは存在しない。だからこそ、クルミはいったい誰のことなのかと首を傾げた。
「? アームストロング……?」
「ああ、いやこっちの話だ。それで……コイツ、どうなんだ? 外から弄れるか?」
「可能ではある……けど、少なくとも僕ですら半年かかってようやく一機掌握できるか、ってところだな。しかもそれが親機でない限り乗っ取り返されるか自己防衛機能が働いて壊されると思う。なにせ原子レベルの代物だ。一機壊れた程度じゃ人体に影響はでない」
「クルミでそのレベルか……スパコンレベルのモノならどうだ?」
「どうしてそれを聞くのかは気になるが……休まず並列稼働させて一ヶ月だな」
「────なら、二週間か。上等だな」
棗はなにかに当たりをつけるようにそう呟く。クルミの耳にも入らない程度の小さな声で。
「? まあいい。これほどの技術を与えられたってことはそれだけお前の才能が欲しかったんだろうな、アラン機関は」
「────だろうな。なんでもできるようなモノを埋め込まれてるんだ。殺しだろうが、命を救う行為だろうが連中は許容できる……ってことの証明か、イカれてる」
そう言いながら棗は別の画像も確認する。
そこには孤児院の焼けた写真と、犠牲者の写真が写っていた。
「これ……は……」
「さすがに顔までは弄れなかったみたいでな、お前の顔も照合できたよ。棗」
「────本名、
幼い自分、それらしき顔を見て棗はその名前を口に出す。本当の名前。
妙にしっくりくるのはそれが原因なのか。名前すら偽りのモノだったのだから笑える話だ。
「火事で死んだ連中の中には、テロリストとして手配されていたのもいたらしい。
何が理由かはわからないが、この孤児院には襲撃される価値があったんだろうな」
「────あの夢はそういうことか」
火の海の夢、それはこの孤児院の火災の回想だったのだろう。棗はようやく合点がいったように頷いた。
「そこで俺は運良く生き残って、ナノマシンを埋め込まれ……戸籍の全てを消されて殺し屋になったわけだ」
「そうなるな……ってお前、それ」
タブレットを持っていない左手が焦げたように黒くなっていることにクルミは驚愕する。
「あ? ああ、それぐらいはできるみたいでな。鉄より硬いぞ。これ」
黒く硬化させた左手を素肌に戻す棗の姿を見てクルミは顔を顰める。これではまるで歩く兵器だ。
もし今なおリリベルのままであったなら……ゾッとする話だろう。
「……まあ、戦いに使うっていうの今までは無意識的にしてたみたいだし、しっかり使いこなそうと思うと少し時間はかかりそうだがな。ああ、これありがとな。クルミ」
棗は自嘲気味に笑いながら、タブレットをクルミに返す。
その表情がどこか儚げで諦めたような顔だったからか、クルミは思わず棗に話しかける。
「棗!」
「うん? なんだよ急に」
「……血迷うなよ。千束やたきな、ミカやミズキも悲しむぞ」
「────────忠告、受け取っておく」
ひらひら、と手を振り棗はそう返す。
聞こえない程度の声量で、さすがはうちのハッカー、それぐらいはお見通しか。と呟いていたことにクルミは気付かなかった。
────
「はあいおまちどう! 千束スペシャルでい!!」
「千束ちゃん、飲み屋じゃないんだからさぁ……」
店内で、千束が豪勢なパフェを出しながらそう叫ぶ。まるで飲み屋さんの店主のような掛け声だった。
「お? 昼から飲めるのかい?」
「ん? ありますよー? ミズキの飲みかけなら!!」
「阿部さん、勤務中ですよ」
刑事がなにしようとしてるんですか、と後輩に叱られる常連客の阿部刑事。勤務中に飲む非常識な人ではないし、さすがに冗談ではある。
「今日のはまた一段と大きいね?」
「千束
「食べる!!」
「はーい俺もー!」「俺もいいかな?」「私も頼むよ」
「はーいスペシャル一丁、二丁三丁四丁ね!! 棗ー!!」
「んな贅沢で作るのに時間かかるものを頼ませるなァ!!!」
厨房から聞こえる少年の怒りの雄叫びを聞いて常連客は苦笑いをする。
「しかし、仲直りしたんだね二人とも」
「え? ああー……まあ、はい。棗がごめんー! って。私も悪かったですし、お互い様ってことでチャラにしたんですよー」
実際は色々あったが、棗が謝ってきたというのは本当のことだ。ズルズル引きずりすぎた、と。そして千束も千束で一歩踏み出せていなかったし、申し訳なさそうに謝罪し返しお互い様、ということで話を付けたのも事実である。
「うんうん、やっぱり二人はこうじゃないとねー。せっかくの漫画のネt……お店の明るい雰囲気に似合わないもの」
「おい漫画家、今ネタって言おうとしてなかったか?」
「サー、ナンノコトカシラー」
決して主人公とヒロインのパートを棗と千束を参考にしながら描いているとかそんなことはない。と漫画家の常連客、伊藤は誤魔化す。
「棗さん……まずいです」
「あのやろ、謝るんじゃなかった! 大人しくして……あ!? なに!?」
厨房でパフェを必死に用意しながらグチグチと文句をたれる棗にたきなは話しかける。
「このままでは────」
赤字です。
「────マジで?」
たきなのその言葉に、頬を引き攣らせて固まる棗であった。
その後、全員でたきなが弄るパソコンの画面を見る。その画面には彼女の言葉通りの内容が書かれていた。
つまり、赤字である。
「見事に赤字だな……」
「依頼の報酬を合算してもこれですよ? 銃弾や仕事にかかる経費はどうしてるんですか?」
「DAからの支援金があるのよ。千束のリコリスとしての活動費って名目でね」
「完全に足出てるじゃないですかそれ」
ミズキからの証言で発覚する。本部からの支援金のおかげであった。
「────何なら俺のポケットマネーでいくつか補ってるしな」
「………………店員のお金使うってどうなんですか」
「………………悪いとは思っているんだがな」
更に言えば棗の持っていた所持金からも援助されていた。装備の新調ぐらいは当人のモノだから問題はないが、まさかの維持費にも出されていたとなると話が変わってくる。
「え、棗そんなにお金持ってんの? 私聞いてないんだけど!?」
「投資ぐらいしてもいいだろうが!? それで増やした金から差し引いてここに出してんの! どのみち俺はここがなくなると困るからな!」
棗のポケットマネーは依頼の報酬の分から投資で増やしたものである。なにかあった時のため……というのは勿論、世話になってるリコリコへの援助のためという目的でもあったのだが……
これのために彼の「なんでもできる」という才能が発揮されているのはなんというか目も当てられない状況であった。
「そもそもコイツが高い弾を乱発するからよ!!」
「
「えっ、あのちょっと?」
「…………独立していると言いながら、お金はDA……それに棗さんにも頼っていた、と???」
「う、うぅ……楠木さんみたいなことをぉ……だってぇ……」
ミカを除く全員からジト目で睨まれていじける千束。彼女の自業自得故に同情の余地はない。
「…………はぁ、わかりました。以後私がリコリコの経理を担当します!!!」
「俺も手伝うか……」
たきなはそう堂々と宣言するのであった。目指せV字回復。目標は黒字である。
────
その後しばらく現場で無駄撃ちさせないように千束を拘束したり弾を没収するたきなの姿を見ることになる。
しかし、それでも黒字にならない。いったい何が悪いのか。その後もしらみつぶしに問題点を炙り出して解決に導こうとするたきな。with棗。
「…………って、おいミズキさん!! 冷蔵庫開けっぱなしじゃねえか!!!」
「ミズキさん!!」
「ひぇっ、メンゴ……」
原因その1、ミズキが厨房にいる時に冷蔵庫を開けっぱなしにしていたことによる電気の無駄使いであった。
「えー、1……3……7……?」
「店長、交代します」
「お、おお……そうか?」
ミカの会計の遅さに見ていられなくなったたきなが担当しささっと終わらせたり。
片付けを手伝っていたクルミが皿を落としかけて……
「おお……ナイスキャッチ」
「そう思うならはやく回収してくれませんかねぇ……!!」
それを足と手でキャッチしたせいで変な体勢になった棗から皿をちゃちゃっと回収するたきながいた。
「棗さんはそのままでいてくださいね」
「アッハイ」
唯一の良識人。というか一番真面目でまともな棗にはそう語りかけるたきなであった。現状リコリコの従業員で唯一真面目に黒字経営を目指してくれている人物を手放したくはなかったらしい。
「皆さん、実は最後の二本を残してありますので、後はご自分でどうぞ?」
「……容赦がねえ」
爆弾解除の依頼では、報酬を払う素振りをみせなかった依頼主を脅していた。
「分かった! 払う!! 払うから!! 解除してくれぇええ!?」
「どうもー! 見た! たきな! 棗! 私撃ったの一発だけだよ!!?」
「はいはい、よくできました」
「えー雑ー!! たきな、たきな!!」
「そうですね……合格です」
「いよーっし!」
「おい、コイツ甘やかしすぎると調子乗るぞ。たきな」
褒めて褒めて、とアピールする千束を適度に褒める棗とたきなの姿があった。
────
「新メニューについて俺も考えてきたんだけど、どうだこれ?」
「おお、これって……パフェ……?」
「そう、とりあえず全員の色からとってみた。五種類のパフェだ」
新メニュー提案の議会にて、千束とたきな、ミズキが座る中
棗はどこかの誰かさんたちとの
ミカのイメージカラー紫と茶色を組み合わせたサツマイモのクリームとチョコソースを組み合わせて、ブルーベリーなどを飾り付けたものや
千束の色を意識した、ショートケーキ風のシンプルな王道パフェ、たきなの色を意識したソーダを使ったブルーハワイなパフェ、
クルミの黄色からはレモンやオレンジといった柑橘系多めのパフェ、ミズキの緑からは、チョコと抹茶のパフェである。
「って、あれ? 棗さんのは?」
「おん?」
「そうね、アンタのないじゃない」
「……俺いる?」
「「「
えー、といった顔をしながらも渋々と普通のクリームパフェにコーヒーソースをかけて作った白黒パフェも用意し計六種類のパフェを机の上に置く。
「はいよ、これで全員分。コンプを目指すもよし、友達と一緒に何種類か頼むもよしの王道かつ、品揃えも増やせるそれなりのものができたと思うぞ」
「アンタ、たまにはやるのね」
「それ普通に失礼っすよ、ミズキさん」
「これは採用して良さそうですね……客足も増えそうですし」
「今時の若い子には人気でそうだもんねー! あ、カナちゃんとか喜びそう!!」
「「「あー」」」
ザ・今時な中学生の常連客の少女を思い浮かべる四人。棗の提案した六色パフェは今度来た時感想を貰ってから採用するか決めることにしたらしい。
「あの……私も考えてみたんですけど、出してもいいですか?」
「お? たきなの? 見たい見たい!」
「わかりました、すぐ持ってきますね!」
そうして持ってきたものは────
「「うんっ!?!?」」
「しーっ!!?」
「……うん……?」
強烈な形とデザインのパフェだった。思わず千束とミズキはその形から連想させるモノを口に出しかけ、棗に慌てて口を塞がれる。
そのリアクションにはて、とたきなは首を傾げる。
「あの、なにかまずかったでしょうか……これから寒くなりますし、温かいモノを食べられるようにと……たっぷりのホットチョコを乗せてみたパフェなんですが……」
「い、いやぜんぜん!! いいデザインだよな! 奇抜で独特なセンスが光ってて!! な!!!」
「そうだね!! ぜんぜん変じゃないよたきな!! むしろいろんな意味でバズりそうでいいんじゃないかな!?」
「そうね!! と、とってもいいと思うわ!!」
「! そうですか! ありがとうございます!!」
三人はたきなに慌ててフォローするように褒め倒す。彼女もそれを真に受け目を輝かせる。
早速、商品化にこぎつけられたとワクワクするたきなを尻目に三人はひそひそと小声で喋る。
「ちょっと、なんで誤魔化しちゃったのよ!!」
「だってたきなが真面目に考えてきてくれたやつ蔑ろにはできないだろ!?」
「そうなんだけどあれはダメでしょ棗!!」
見た目的に色々とアレだったおかげなのか────その後、しばらくお店が大盛況になったのは余談である。
────
「ここ数日……地獄だったな……」
「色々買いそろえて、落ち着いたわね……」
棗は数日ぶりにゆっくりとしていた。ロボット店員(通称ロボリコ)を買って人手不足を補ったり、お店にオシャレな雰囲気を出すためにミカがかねてより欲しがっていたレコードプレーヤーを購入したり、食器洗いを楽に済ませるために食洗機を買ったり。
黒字に戻ったおかげか、リコリコもかなりの余裕ができたらしい。
「しかし……大丈夫なのか、アレ?」
『ヤッホー、ご注文どうぞ』
「まあまともに機能してるし大丈夫だとは思いますよ?」
千束の店員制服を着たロボリコを眺めながらミカと棗はそんな会話をする。
そしてしばらくして休憩し終えた棗がたきなを呼びに戻ろうとすると……
「っと、たきなー、そろそろ……ん、どうしたクルミ?」
「いやー……えっと、な……」
「────」
「…………あっ」
棗はたきなの見ている方向、クルミのパソコンのデスクトップ画面を見て彼女が絶句している理由を察する。
画面にはリコリコの客のSNS反応一覧が写っており……『ウ〇コ持ってて草』や『見た目はすごいけどおいしい』などの感想が載っていたのである。
そう、無自覚に作ったホットチョコパフェのデザインの凄惨さに気付いてしまったたきなであった。
「もう……パフェやめます……」
「あー……いや、売れ筋商品になったし……な? 味も美味しいんだから気にすんな……な?」
トボトボと歩くたきなを棗は慰め、フォローする。
ちなみに棗の提案した六色パフェはそこそこの売り上げになったためそのまま続投しているため……傍から見れば追い打ちをかけているようなものであった。
「いいですよね……棗さんのパフェ……好評ですし……カナさんもすごく喜んでましたし……」
「あ、いや別にマウントとったわけじゃ……ごめんて……」
中学生の常連客、カナと呼ばれているある依頼で知り合った少女にすごく喜んでもらっていた棗のパフェを思い出し、たきなはぷくーと頬を膨らませる。
なんというか全面的に棗に負けていることがたきなは悔しかったらしい。
そうして落ち込むたきなをどうフォローしたもんかとあわあわしていたところに電話が鳴る。
「おっと、はいはい今行きます!」
棗は気まずい空気から逃げ出すために受話器をとる。
「はい、こちらリコリコで────」
『山岸よ』
「あ、山岸先生。どうも。千束、そっちちゃんと行きました?」
『それで話があんのよ。千束、そっちに居ないの?』
「え……? いないですし、今日行くよう言い聞かせたんですけど……」
棗はん? と山岸の言葉に疑問符を浮かべる。当然だ、確かに彼女は病院を嫌がるタイプだがちゃんと約束すれば渋々でも行く少女なのだ。
今までもそうだったし、サボるなんてありえない。棗はそう思いながら山岸の言葉を聞き、厨房にやってきたたきなに視線を送り千束に連絡するように促す。
『それが、来てないのよ。携帯にも出なくてよ』
「……わかりました、こちらからも千束を探してみます。お手数をおかけしてすみません」
たきなは棗のアイコンタクトを理解して、すぐに千束の携帯に連絡をかける。
「…………千束? どこですか? 定期健診行ってないんですか?」
『あー、ごめんごめん。急用でさー……チョイ遅れるー……って、山岸先生に言っといて?』
「あ、ちょっと千束?」
千束はすぐにそう告げて、通話を即座に切る。
その声を聞いてたきなは思わず眉をひそめる。千束らしくない。一言で表すならそういう会話だった。
「……どうだった、たきな?」
「それが……変なんです、千束にしては通話が短くて……私、千束を探してきます」
「……わかった、セーフハウスはお前に頼む。俺は他の場所を探してみるよ」
「お願いします」
たきなも棗もすぐに服を着替えて、千束の捜索に向かう。
その後すぐに、真島が千束のセーフハウスに訪れていたことが判明し……たきなが仕留めそこなったと悔しそうに告げていた。
「…………あのチンピラ共が来た時点で察しておくべきだったな。俺の不注意だ、特定されたって想定してなかった。すまん」
「いや、いいの気にしない! それ言ったら私だって、想定が甘かったわけだし?」
「私もです、目の前にいたのに仕留めきれませんでしたから」
「それで、真島はなんて?」
「────アイツも、これ持ってた」
「「「「「は!?」」」」」
千束は恐る恐る、梟の首飾りを手に持ちそう呟く。つまり、それが事実なら真島もアランチルドレンということで……
「いやいや、あんなやつにどんな才能があるのよ?」
「凶悪犯も支援されるものなんですか!?」
真島がアランチルドレンであるならばアラン機関は善悪見境なく支援する組織ということになる。
「なあ、ミカ。お前恋人からなにか────」
「どせえい!」
「ぐえ────」
不躾な質問をしたクルミにミズキから素早い首への手刀が入り、そのまま気を失う。
「どっかで拾ったんでしょ! ヨシさんがあんなやつ助けるわけないじゃん! ね、先生!」
「…………」
「先生?」
「ん? あ、ああ。そうだな」
千束たちから見れば、それはあり得ないことだ。だが……ミカと棗からすればおかしな話ではないのだ。
棗はその人生を狂わされ、人殺しとしての人生を肯定させられている。だからこそ棗は納得したように無言で目を閉じ……
そして、千束と棗の才能のことを……アラン機関を知るミカは難しい顔を浮かべていた。
「……?」
「千束!」
「あっはい!?」
「私からの電話は3コール以内に出てください!! 出ない場合は危険と判断して次のワン切りですぐに向かう通知とします!!」
ミカと棗の表情を見て首を傾げる千束に、たきなは食い気味に話しかける。
「え、あ、は……はい……」
「嫌ならすぐ出るように!!!」
「つまり、何処にいても来てくれるってこと!!?」
千束はそう解釈して、手をパンと叩く。その目はどこか輝いているあたりポジティブ思考だ。
「……それと、他のセーフハウスに移ってくださいね?」
「えー……あそこ一番気に入ってるのにぃ……」
さすがに、その指示にはむすーっとする。実際、棗を泊まらせる時も……たきなが泊まった時もあのセーフハウスを利用していた。
一番思い入れがあって気に入っているのは事実なのである。
「あと、棗さんもですよ!!!」
「ヴェッ!? 俺もか!?!?」
「あなたもです!!」
二人のやり取りをぼーっと見ていた棗は急に矛先が向いたことで困惑する。まさか自分まで対象に入るとは思っていなかったらしい。
「とくに! 棗さんは無茶を良くするんですから!! 絶対に出てくださいね!」
「いやさすがにそれは────」
「いいですね!!!?」
「はいよろこんで!!!」
たきなの圧に耐え切れずに棗は了承してしまった。多分、というか確実に三人の中でヒエラルキーが高いのはたきなだ。
そう確信したミズキは
「……コイツ、最終的には尻に敷かれるタイプだな」
棗の姿を見てそうボソッと呟いたのだった。
葦花 イチカ
由来 蘆薈 花一華 → 葦花 一華
花言葉
蘆薈(アロエ)/苦痛・万能 等
花一華(アネモネ)/儚い恋・見放された・見捨てられた 等