【悲報】転生したら暗殺組織の隊員にされた件【戸籍ナシ】 作:星ノ瀬 竜牙
ちなみに今日は千束ちゃんの誕生日です。
明日はフキちゃんの誕生日で最終回放送日です。お忘れなきよう。
錦木 千束にとって立花 棗はどういった存在かと言われたら、まずは不思議な人。という印象になるだろう。
リリベルきっての変わり者。自分と同じく人を殺すことを否とできる人。そんな不思議な青年だった。
あの日、セーフハウスで出会った時の印象は面白い人。だったなとふと思い返す。
格闘術が異様に強くて、近づいた瞬間手も足も出せずに捕まった。初めての経験だった。彼が初めて、自分を負かした相手だったのだ。興味を持たないわけがない。
そこで尋問されたときの彼の質問と答えも含めて……興味を持った。殺しを否とすること。
そんなリリベルと出会うのは初めてだったからだ。そうして、彼が死にたくないと言った時……自然と彼女は、一緒に居よう、一緒に行かないか、とそう彼に話していた。
────思えばあの日、彼に手を差し伸べて握ったときから。自分は棗に惚れ込んでしまっていたんだ。
今ならそう自覚できる。多分、一目惚れに近かったんだとは思う。今になって思えばあの時の私大胆過ぎでは? と思えるぐらいには惚れ込んでいたんだと思う。
それから十年以上、彼とは腐れ縁だった。自身の友人であるフキに並ぶぐらいの長い付き合い。
以前飼っていた柴犬のリッキーのリードを私がうっかり手放して、棗が全速力で追いかけて捕まえたり、
私がお店の制服お披露目したら鼻で笑われてうおー! と殴りかかったのを片手で頭を押さえられて完封されたりとか、しょうもない思い出がたくさんある。
いつそれが恋心に変わったか、と言われれば私自身も分からない。
完全に自覚したのはこの前たきなの下着を買いに行った時だけど……
いざ自分の中で彼を異性として見始めたのはいつか、と問われたら答えられない。気付いたら好きになっていた、と言う言葉が正しいのだ。
来る日も来る日もべったりだった時点で既に堕ちてたのかもしれないけど。
そんな彼との初めての出会いは自分のセーフハウスへの襲撃……ではない。
以前、たった一度だけだが……電波塔で、立花 棗と出会っているのだ。
その当時、彼は
印象が違いすぎた……というのもあるし、電波塔事件の時の彼は間違いなく人殺しだった。殺しを是とした返り血に染まった切り裂き魔。あの真っ赤な返り血を浴びた制服、髪、肌……そして血濡れたナイフは印象深いモノだった。
そして何より笑って人を殺す彼に恐怖した。なのに、アッシュに抱いた印象は悲しさだった。
ひとりぼっち。そう感じてしまうほど、どこか彼の姿は悲しかった。
電波塔が折れたあの日、アッシュがどうなったのか千束は知らなかった。生きていてほしいと思ったが、生きていたとしても出会うことはないのだろうと千束はそう思っていた。
彼と自分では思想が違う。殺すことで多くを救おうとする少年と、悪人も等しく救いたいと思っていた自分ではいずれ対立するだろうし道は違えるからと。
────だからこそ、あの真島という男が棗の姿を見て灰色と呼んだ時、驚いた。
生きていたという事実に驚愕し、それが自分が恋心を抱いた相手のことでもあったのだと理解したから当然なのだが。
いったい何が彼を変えたのかもわからないし、それをわざわざ聞くつもりもない。
気にならないと言えばウソになるけど。
棗が好きだ、と自覚した後はなんというかいつもよりはスキンシップを取りづらかった。
前ほどべったりとは引っ付けなかったし、一緒に寝るとかもなかなかできなくなった。
恥ずかしかったのだ、気付かれるのが。それに……たきなのこともあったから棗1人に付きっきりというわけにもいかなかった。
……噓です。正直に言えばたきなに棗を盗られるんじゃないかって警戒してた節はありました。
少なくともたきなは棗のことをそういう風に見てないとはわかってはいたけど、それでもいつ恋心に変わるかわからないと思っていたのはあるのだ。
棗は正直、美形だ。イケメンである。それに面倒見がよくて、家事もだいたいできる理想の男性像だ。ってミズキが言っていたし、納得もできた。実際女性客からの人気は私たちより先生、先生より棗だったからだ。
とある依頼……より正確に言えば、もっと前からの常連客だった女の子も、棗にある程度憧れみたいなものを持っているみたいだったし、私としては少し複雑だった。
好きな人が盗られるかもしれない、って思うとやっぱり嫉妬や警戒はしてしまうのだ。私だって恋する女の子なわけなので。
────もちろん、自分がほかの女の子と違うことも分かってるし、この心臓のこともある。
好きになって、一緒になって、そのあとは……? そう思うと、一歩踏み出せなかった。
だって、私が棗を置いていくことが分かっているから。棗に寂しい思いをさせると理解してしまっているから。だから、最後の一歩だけは踏み出せなかった。
そんなこんなでモヤモヤしていた時に、ヨシさんのことが分かった。
私に心臓を与えてくれた救世主さんで、そして……棗の命も救っていた人。運命だと思った。
ヨシさんがまるで恋のキューピットなんじゃないか、って思えてしまうほど。
……だって、ヨシさんが棗を助けていなかったら、私を救ってくれなかったら……きっと、私は棗と会うこともなかったから。
だけど、棗はそう思ってはいなかった。……でも、よく考えれば普通のことだ。
私は、自分の意思でこの心臓を使うと決めた。この道を選ぶと決めた。けど、棗は?
棗は違う。望まないままに生かされて、望まないままにリリベルになって、望まないままに殺しを命じられた。
────誰よりも、きっとアラン機関を……ヨシさんを恨むだろうと理解できた。
だって、そこに棗の意思はない。強制された道だ。それしかなかったから、それしか生きる道がなかったからそうするしかなかった。棗はあのセーフハウスでの再会でそう言った。
好きでこんなことをしているわけじゃない。と、失敗すれば今度は自分が死ぬのだろう。と
そんな道を進むことしかできなくしたのはアラン機関だ。
……表向き、ヨシさんが、アラン機関が真島にアレを与えるわけがないと言ったけど、心のどこかで納得もしてしまっていた。
だって、棗がそうだから。確かに今は人を助ける側だろう。けど、リリベル時代は殺す側だった。
私はそれを、あの電波塔で見たから知っている。だから、真島がアランに支援されたアランチルドレンだということもどこかで納得していたのだ。
だから、私は……棗の傍にいてはいけないんじゃないか、って思ってしまった。
喧嘩したわけでもないけど、疎遠になったみたいに喋らなくなったし泊まりにいくこともなくなった。
アラン機関を恨む棗にとって、アラン機関に救われた私は憎悪すべき対象なんじゃないか、って思ってしまったから。
とはいえ、それからすぐに棗が謝ってきて……私も目を丸くしながら、それを許して仲直り(?)をしたわけなのだが。
……思えばそれが私の中で覚悟を決める理由になったのかもしれない。
棗は、自分の中である程度踏ん切りをつけてくれたのだ。天秤にかけて、私たちを選んでくれた。
棗がそうやって選んでくれたのに、私ばかり勇気を出さないままでいるわけにはいかないと思った。
棗に告白しよう、断られるとしても。しっかりと、私の想いを伝えよう。
そう覚悟を決める切っ掛けになった。
────
「────というわけで、千束が遊びに来ました」
「いやなにがというわけで????」
「そりゃー色々ですよ、色々!」
「……端折りすぎだろお前」
むふー、と笑う私に、棗は呆れたような顔を向ける。
まあ、何も言わずに彼のセーフハウスにやってきたのだから当然そういう反応にはなるだろうけど。
今の私は気分が良いので、大目に見てしんぜよう。
「……相変わらず殺風景だよねー、棗の部屋」
「いいだろ別に、趣味とかあるわけでもないし……って、あ」
ぐるり、と周囲を見渡していると……ふと、彼の部屋の机の上に何かの箱と皿があるのに気付く。
見間違うはずもない、それはいわゆる紙煙草と言われる代物だ。しかも市販の。
「ん? ……あれ、これ……煙草?」
「…………そうだよ、なんだ? 吸ってたら悪いか?」
「別に悪いとは……いや、身体には悪いけど、そうじゃなくて……全然棗が吸ってるの知らなかったなーって」
そう、私は一度たりとも棗が煙草を吸っているということを教えてもらったことはない。
────というよりは、吸った姿を見たことがないというのが正しいか。
お酒は先生と一緒に飲んでる姿を見たことあるけど、煙草に関しては本当に一回も見たことがなかった。
「……まあ基本的にいつも人のいないところで吸ってるしな。お前らに迷惑かけたくないし」
「ふーん、そっかー……」
気遣ってくれているのだろう。それに関しては凄く嬉しい。けど、それと同時に内緒にされていたのが少し惜しいと思ってしまう。一度でいいから彼が煙草を吸っている姿を見たい、と思ってしまうのはワガママなのだろうか。
「それで、わざわざ何の用だよ?」
「やっぱり聞いちゃう?」
「そりゃそうだろ。たきなやおやっさんたちからは何の連絡もないし……用件があるんじゃないのか?」
「いやーありますよ、そりゃありますとも」
だってその用件のために訪れたんだから。でもなんというか雰囲気じゃないというか……いまではないのではなかろうか。だってほら、そういうのって場の雰囲気が大事だって言いますし。
「ただなー……ちょっと落ち着いてから言いたいから……少し待っててもらってもいい?」
「お、おう……?」
私のその言葉に、棗は当然首を傾げる。じゃあ何のために来たんだよ。って顔だ。
そうなるのも分かるし申し訳ないんだけど、やっぱりそういう事を口に出すのは勇気がいるのです。
「ん? 千束、そのキーホルダーどうした?」
「んー? あ、これの事聞いちゃう!? いやーこれにはふかーい理由がありまして!」
棗が私の鞄につけられている犬のキーホルダーを不思議そうに見てくるのだから
私は思わずドヤ顔で語り始める。
「待ったそれ長くなるやつか?」
「長くならないって! ただたきなからハロウィンのプレゼントとしてもらっただけだから!」
「ああ……あのときのたきなの相談はこれか」
なにか納得がいった素振りをみせる棗を見て、私はなんとなく察した。たきなからプレゼント何がいいか相談されたんだなーって。
「どう? 可愛いでしょ、これ?」
「……まあ、そうだな。アクセサリーとしてはいいんじゃないか。その鞄につけるのはどうかと思うけど」
「えー棗ったら風情がなーい、女の子にモテないぞ~?」
「うるせえ、銃弾防ぐための鞄につける方がおかしいだろ」
それはそうである。けど、たきなからもらったプレゼントだしせっかくだから見える場所につけておきたかったのだ。要するに私の自己満足である。だって相棒からのプレゼントですから。
「しっかし、プレゼントか……」
「なーにー? もしかしてたきなからのプレゼント羨ましいのぉ~?」
「そういうわけじゃねえわ。ったく……」
頭をぽりぽりと掻いて、棗は何かを棚から取り出してくる。
はて、なんだろうか。紙袋に入ってるけど……私貸したBlu-rayとかあったっけ?
「……結局先月渡せなかったからな。これ、お前の誕生日に渡そうと思ってたヤツ」
「────え?」
思わず耳を疑った。だって、今の今まで……ケーキは作ってくれたりしたけど、誕生日プレゼントを買ってくれることなんて棗は一度たりともしてこなかった。私も別にそれに関して思う所はなか……いや、ちょっとはあった。一回ぐらいプレゼント買ってくれてもいいんじゃないの? って何度か思ったことはあります。ありますとも。けど、私も特別プレゼントとか渡したこともなかったしお互い様ではある……というか私の場合、棗の誕生日をしっかりとは知らないのが理由なんだけども。
先生に一回聞いてみたら棗自身に口止めされていたし、そのぐらい徹底して黙ってたみたいなんだけど。
まあ、そんな棗が誕生日プレゼントを買ったなんて言ってくるんだから耳を疑うのは当然だった。
そんな困惑する私を気にも留めず、棗は紙袋をポスン、と私の手の上に置く。
「…………開けてもいい?」
「いいぞ。というか、お前のだし好きにしろ」
棗にそう促されて、恐る恐る紙袋の封を切り中身を確認する。
するとそこには、赤い何かの花束を模った髪留めがあって────
「これ……髪留め……? え、ほんとにいいの……?」
「……言っただろ、お前のだって。ほんとは当日渡すつもりだったんだけど……その間に仕上がらなくてな。渡しそびれたんだよ……いらなかったか?」
「いやいるいる! いるよ!! ……つけても、いい?」
私は思わずにやけ面になるのを抑えきれないまま、棗につけてもいいか聞く。
というかしれっと自作みたいなこと言ってたけど棗さんちょっと手先器用すぎじゃない???
「……いいぞ」
恐る恐る、私は左側の赤いリボンを解き……そこに髪留めをつけてみる。
うぅ、いざこういう事すると恥ずかしいな……!
「えっと……似合う……?」
「────────」
「ちょ、何か言って!? そこで黙られると恥ずかしいから!?」
棗が絶句したようにこちらを見つめてくる。そんなに致命的に似合ってなかったのか私!?
いや、というかダメだやっぱ恥ずかしすぎる! 沈黙が恥ずかしすぎるってこれ!!
「ああ、いや……うん、思った通りだ。よく似合ってる。……すごくかわいい、千束」
「うぇっ!? あ、えっと……あ、ありがとう……ございます……」
真っすぐそう言われると私も恥ずかしいというか……いやうんホントに恥ずかしい。棗からそんな風に言われるとは思ってもみなかったから真面目に顔見れない。うぅ……これじゃあ落ち着けないよ……
でも、ここまで……お膳立てしてもらったんだ。やっぱりこのままなあなあで終わらせるわけにはいかない。改めて、私はそう考える。きっと、ここで言えなきゃ後悔するんじゃないかってそう思って。
「棗!」
「なんだ、千さ────っ!?」
名前を呼ばれ、こちらを見た隙を逃すまいと……私は棗の唇を奪う。ああ、やっちゃった。私。
────恥ずかしい。すごく恥ずかしい。棗の鼻息が近い、声が近い、顔が近い。頬が熱くなる。驚いた姿は少し意外で、何処か愛おしくて。……その澄んだ蒼い瞳は海のように綺麗で、吸い込まれそうになって。少し名残惜しさも感じながら私は唇を離す。
「ぷは……」
「千束……おま、なにを……」
困惑したように私を……私の唇を見る棗。この後に出る言葉は多分わかる。だから、私はそれを言わせないように少し食い気味に告白した。
「棗、大好き。私は、棗のことが大好き」
「────────……千束」
ああ、言っちゃった。告白しちゃった。貴方が好きですって、言っちゃった。顔が熱い。鳴らないはずの心臓がドクドクと鳴っているように錯覚してしまう。ホンモノの心臓だったなら、ほんとに今バクバクしてたんだろうなって思ってしまう。
棗が返答に困った素振りをみせているのは、すぐに気付いた。まあ、そうだよね。いきなり言われても困惑するよね。普通はそうだもん。
「俺は────」
「いいよ、すぐには出さなくても」
「千束……」
「えへへ、ごめんね? いきなり、こんなこと言われてもびっくりするもんね。だから、ずっと待ってるよ。棗の中で整理付けて……それから返事を聞かせてほしいな」
「………………わかった。時間はかけるかもしれないけど、絶対に返事するから待っててくれ」
「────うん、待ってる」
棗のその言葉が聞けただけでも満足だった。この後振られたとしても棗が考えて出した答えなら大丈夫だと思ったから。……ウソ、少し怖い。振られたら、棗をまともに見れなくなるかもしれないから。
「棗」
「……なんだ?」
「もっかいだけ、してもいい?」
「────好きにしろ」
私はそんな不安を誤魔化すように、もう一度だけキスをせがむ。棗はそれを何も言わずに受け入れてくれた。これが最後になるかもしれない。そう思うと少しだけ深く……それでいて長くしたくもなるけれど……それはできない。まだできる権利を持っていないから。
「んーっ……」
────ただそれでも、今この時……私は幸せだった。本当に私は恵まれた。
いろんなところで、恵まれた。友達にも親にも……そして、好きな人にも。唯一恵まれなかったこの心臓も……ヨシさんという恩人に恵まれて救われた。その幸せを嚙み締めるように、私は棗に抱きついてキスをする。
初めてのキスは煙草の味────なんて言うけれど、少なくとも私の初めてのキスはとても甘くて、幸せなものだった。
だから、きっと……この先で起きたことが、なんであっても。私は後悔をすることはないと言えるだろう。
たとえ……
赤い花束の髪留め
それは少年が1人の少女に渡した髪留め。
少年のお手製らしい。
模った赤い花の名前はカランコエ。
その意味を理解しているのは捧げた彼のみだ。