【悲報】転生したら暗殺組織の隊員にされた件【戸籍ナシ】   作:星ノ瀬 竜牙

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掲示板回じゃないです


彼岸花vs鈴蘭

『対象はあのマンションに入った。おそらく彼処が拠点だろう』

 

「……了解。これより任務に入る」

 

『失敗するなよ、これは我々リリベルにとって重要な任務であることを忘れるな』

 

「……分かっている」

 

 無線を切り、少年は空を見上げる。月は雲に隠れて少し不吉さを漂わせる夜空だった。

 

「誰が好きで……子供を殺す任務なんぞやるか。本当に腐ってるな」

 

 困ったようにため息を吐き、目的の部屋まで彼は歩く。

 持っていた鞄から、ほぼノーモーションで拳銃とナイフを取り出し

 扉を針金でピッキングして内部に侵入する。

 

「……やはりいない。囮……もしくは、偽装か」

 

 部屋の内部を観察すれば、もの一つない……生活感どころか、人が住んでいる気配すらない。そんな景色が広がっている。そして、この類いが偽装であることを彼はよく理解している。

 そう、この手の部屋にありがちなのは。

 

「ッ──!」

 

「やはりそこか、リコリス!」

 

 ──秘密基地(セーフティハウス)。部屋を偽装し、隠し部屋に必要なものを持ち込んでおく……裏社会ではありがちな事だ。

 その場所から息を潜めていたのだろう、仄暗い街の灯りに照らされ、白い髪が視界に過ぎったのを少年は見逃さなかった。

 遮蔽物に隠れようとする少女を狙い、拳銃の引き金を引く。

 

「あっぶな!? ちょっとー!! 普通の女の子相手に遠慮がないんじゃない!?」

 

「……リコリスが普通の女の子とは、なんの冗談だ?」

 

 無駄口を叩く少女に呆れ、少年は同じように遮蔽物に隠れて銃弾を補充しながら笑う。

 

「ああ、やっぱり君……リリベルだよ、ねっ!!」

 

「ッ……!」

 

 遮蔽物から顔を覗かせて射撃をしてくる少女。

 その射撃を避けながら、少年もまた銃口を少女に向けて撃とうとするが……

 

「……!!」

 

「ちっ……!」

 

 まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()少女に翻弄され舌を打ちながらわざと当たらないように射撃する。

 

「うっそ、今の避けた上で反撃してくる!?」

 

「お前、()()()()()()()

 

「……! やっぱり君、ただのリリベルじゃないよねぇ……」

 

 当然と言えば当然だが、単騎で乗り込んでくるようなやつが普通なわけがないのだ。

 それは勿論、少女の方にも言えるのだが。

 

「しかし驚いたな、射撃のタイミングを予想するとは……どういう洞察力をしてるんだ」

 

「君こそさぁ……今の、()()()()()()()()()()?」

 

「特殊な加工をした弾、不規則な軌道だが……狙いが単純であれば避けられる」

 

「誰が単純だ!?」

 

 むきーっと怒る様子を見せながら、少女は隙を伺う。

 

(当然だけど……リリベルの中じゃファースト級だよね、彼。

 しかも……隙がないし……どうしよっかなぁ……)

 

 狙っても避けられる。かといって遠距離からでは彼女の弾丸は当てづらい。そういう作りになってしまっている。

 であれば……

 

(やっぱり至近距離で撃つしか、ないよね……!)

 

「……!」

 

 当たる距離で直接射撃をする、それ以外に手段はない。

 そう踏み切って、彼女は少年の懐に向かって駆け込んでいく。

 

「そこッ!」

 

「────いや、外れだよ」

 

 少年が一発の弾丸を撃った瞬間を狙って彼女は踏み込む。

 しかし、それを想定していたかのように少年が動いたことに少女は目を丸くした。

 

(うそ、フェイント!? 今の一瞬で!? ダメ、これ分かっても()()()()()()!? 

 まず、これ……私、死────)

 

 死を覚悟した。間違いなくヘマをしたのは少女だったからだ。

 

「はぇ? って、ちょいちょいちょおい!?」

 

 だが、次に来るはずの銃弾には襲われず。彼女は拳銃を一瞬で分解され……

 

「動くなよ? 動けば、死ぬぞ」

 

「あははは……あれ、もしかして私、詰んでる?」

 

 拘束されてナイフを首に突き付けられる。どう見ても詰みだった。

 

(やられちゃったかぁ……多分情報吐かせにくるよね……

 さっきの私の銃を手で掴んだり、ナイフと銃を一緒に持っていた変な構えといい……

 最初から私を拘束するのが狙いだったんだなぁこれ……まずったかな)

 

「お前には聞きたいことがあった」

 

「……なに? 言っとくけど、私DAのこととか吐けないよ?」

 

 少年の尋問に少女はそう告げる。吐くほどの内容がないのは嘘ではない。

 彼女はたしかに優秀な暗殺者ではあるが、情報の多くを仕入れられる立場にはいないのだ。

 

「いや、()()()()()()()()()()()()

 

「へ??」

 

「あの電波塔の日、何故お前は非殺傷の弾を使った?」

 

「あー……もしかして、君も居たの?」

 

「リリベルとしてな」

 

 二人には1つの共通点があった。それは電波塔でのテロ事件。

 そこで鎮圧に赴いていた人間であったのだ。

 

「ずっと気になっていた、君は何故非殺傷の弾を使ってテロリストを鎮圧したのか」

 

「あー……えーっと……」

 

(うわあどうしよう! そんなことに興味を持つリリベルがいるなんて私予想してないよぉ!? 

 えーっとなんて言おう!? 誤魔化す? いやいや、目撃されてるし……素直に言った方がいいよねぇ……)

 

「えーっとね、気分が良くないからじゃあ。納得しないよねぇ~……」

 

「……!」

 

「あ、これ本気だよ!? 冗談じゃないからね!? だから怒らないで~!?」

 

「そう、か……気分が良くないから。か……」

 

「はぇ……? え、なんで拘束解くの?」

 

 驚いた様子で少女は少年を見つめる。いつでも殺せる状況だったはずなのに、彼はそれをやめたのだ。驚きもするだろう。

 

「……初めてだ、俺と同じように考えるリコリスと会ったのは」

 

「ほへ? え、じゃあ……君も、なの?」

 

「ああ、俺は……あまり、殺したくない。今更かもしれないけど、それでも」

 

「……そっか、ふーん……そう、なんだ」

 

 少女は少し笑みを浮かべる。今まで出会ってきたリリベルとは全く違う考えを持った彼を見て、彼女は嬉しいと思えたのだ。

 

「もしかして……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……わざと?」

 

「さすがに見抜くか……女の子を痛めつける趣味はないし……殺す趣味もないよ」

 

「そっか……ねえ、君ってリリベルをやめたいの?」

 

「……そうだな、やめたいってのはあるかな。けど、俺はやめられない。やめようとすれば、俺は殺されるしな。死にたくはないんだよ」

 

 だから彼は他者を殺すしかない。自分が生きるために、他人を殺すしかないのだ。それが地獄への道だと分かっていても。

 

「でも……私を撃たなかったの、危なくない?」

 

「あー……そうだな、俺死んじゃうかもな。いやだなぁ……でも、子供を殺すよりはマシか……」

 

「君も子供じゃん」

 

「……そういえばそうか」

 

 少女のツッコミにそういえば、と思い返す。彼は少なくとも異質な人生を歩んでいるがゆえに、自分が肉体的には子供だったということがすっかり抜け落ちていたのである。

 

「これからどうするの?」

 

「さて、どうしようか……このまま帰っても死にかねないしなぁ……どうしたもんか。

 死なずにどうにかする。って約束したんだよなぁ……」

 

 床に座り込み、銃を投げ捨てて困ったように笑う。

 どうやっても詰みだ。ここからの打開策、いざ彼らと決めた事とはいえ。案がないのだ。

 

「そうだ! それならさ、私のところに来ない!?」

 

「……は? お前、何言って……?」

 

「いやー私ね、リコリスの中でも問題児でさ! 事実上のさ……えー……させ……?」

 

「左遷?」

 

「そうそれ! それだから私はDAにはあんまり関わってなくてさ! だから、君の事も匿えると思うんだよね!」

 

「……いや、それだとお前にも迷惑が」

 

「お前じゃなくて、千束(ちさと)! 私の名前は錦木(にしきぎ) 千束(ちさと)! 君の名前は?」

 

「俺は……俺の名前は……(なつめ)立花(たちばな) (なつめ)だ」

 

 彼女の笑顔を見て、自然と返していた。まるで、引き込まれるかのように。

 

「棗! うん、すっごくいい名前じゃん!! よろしくね、棗!」

 

「……君は、不思議な子だな。本当に」

 

 雲が去り、月光に照らされて輝く白い髪は何処までも美しく、こちらを射抜くように見つめる紅い瞳はまるで宝石のようで。少年は、彼女に見惚れてしまったのだろう。

 そんな美しく、可愛らしい彼女の差し伸べた手を少年は握り返していた。

 

「……うん、それじゃあ……死んだフリ、しないとな」

 

「そうじゃん、どうしよっか?」

 

「あー、ならさ……こいつ、使ってド派手にやるか?」

 

「お、血糊じゃん。もしかして、棗くんってこれ最初から狙ってた?」

 

「……さて、どうだろうな」

 

 少年……立花 棗が鞄から取り出した血糊を見てクスクスと少女、錦木 千束は笑う。案外抜け目のない彼に好感を持ったらしい。

 

「それじゃあド派手に……演技してね?」

 

「……善処するよ」

 

 そうして、サイレンサーを外した拳銃を千束は手に取り……

 

 

 ──パァン! 

 

「ぐわああああああ!?」

 

 

 そんな大袈裟な銃撃音と、悲鳴がマンションの一室に鳴り響いた。

 

 

 ───

 

「というわけで! 早速なんだけど先生! この子、匿ってくれない!? お願いッ!!」

 

「……随分急だな、しかもリリベルのファーストクラスか」

 

「俺からも、お願いします……都合のいい話だとは分かってます。けど、俺は……もう、誰も殺したくないんです」

 

 頭を下げる二人の子供に、褐色の男性は頭を抱える。

 急な話だというのもあるし、自分の教え子……そして自分の所属していた組織と敵対していた組織の少年が対象なのだから無理もない話ではあるが。

 とはいえ、そこで断れるほど……彼も非情な人間ではなかった。

 

「顔を上げてくれ。確認だが……君は本当に私たちに、そして……千束に危害を加えるつもりはないんだな」

 

「はい、そのつもりです。もし、危害を加える素振りを見せたなら……その時は撃ってくれても構いません」

 

「ちょいちょーい!! 棗くん! 死にたくないんでしょ!? だったらそこで撃っていいなんて言っちゃダメだって!!」

 

「だが、こうでも言わないと安心できないし確約できないだろう?」

 

「でもさー!」

 

 棗の言葉に、千束は膨れっ面になる。

 そんな姿を見兼ねて、先生と呼ばれた男性は困ったような表情を浮かべ……

 

「……分かった、その代わりの条件として君には……私たちの経営する喫茶店で働いてもらいたい。働かざる者食うべからず、というだろう?」

 

 そんな風に笑って了承した。

 

「はい! ありがとうございます……! ……え? 喫茶店……?」

 

「ありがとう先生ー!! うひひひ! 棗くん、これからよろしくね!」

 

「店長のミカだ。従業員は他にもあと1人いるんだが……

 その辺りは追々な。よろしく頼むよ、棗くん」

 

「……うそーん」

 

 それは朗報なのか悲報なのか。一人の少年は喫茶店の従業員になる事になった。

 ……後に「喫茶LycoReco」の「イケメン店員」などと立花 棗は呼ばれることになるのだが、それは余談である。




イッチ(立花 棗)

安価通りに殺さないように立ち回ってた。
仲良くなるという安価は達成できてないのだが、
千束ちゃんの距離感が近すぎて実質的に達成してしまっている。

戦闘スタイルは
CQC(Close Quaters Combat)である。
愛銃はとくにないがMk-22が手に馴染むらしい。

錦木 千束

おなじみリコリス・リコイルの主人公。
クッソ強い女の子。
明るく元気で、やりたいこと最優先がモットーである。
物珍しいリリベルであるイッチに興味津々である。

戦闘スタイルは
C.A.RSystem(Center Axis Relock)と呼ばれる射撃スタイルが主軸。
愛銃はM1911を改造したデトニクス・コンバットマスター
銃弾は非殺傷のゴム弾を利用している。

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