【悲報】転生したら暗殺組織の隊員にされた件【戸籍ナシ】   作:星ノ瀬 竜牙

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情報量にあっぷあっぷしてるこの頃。
この小説続ける事できるかな……?


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Welcome to LycoReco!

『はいはーい、こちら貴方の千束でーす!』

 

「……そういうのはいい。任務の内容は聞いてるだろ」

 

 耳につけていたインカムから相も変わらずやかましい声が聞こえてくる。

 

『分かってるよー、リコリスが1人、人質になってるんでしょ?』

 

「そうだ、こっちも出方を伺ってるが決定打がない。って感じだな」

 

 壁際で息を潜めながら青年は状況を把握する。

 人質にされているリコリスが1人、そして待機してるリコリスが3人。1人はファーストのようだが、なにやら通信相手と揉めている様子だった。

 

『現場って何階だっけ?』

 

「あ? 六階だぞ」

 

『マジ? エレベーターは??』

 

「んなもんねえよ。商人が使うようなビルだぞ。非常階段でこい」

 

『棗の鬼畜~!!』

 

 ぶーぶー! と通信越しに聞こえてくる抗議の声をスルーしつつ自分は悪くない、と彼もまた文句をたれていた。

 

「俺じゃなくてミカのおやっさんに言え」

 

『……聞こえてるぞ』

 

 厳格な声が耳に入ってくる。ミカ、と呼ばれた男性の声だ。彼もまた別のポイントから狙撃銃を構えて現場の様子を伺っている。

 

「げっ……ん゛ん゛! そっちからの援護はどうですか、ミカさん」

 

『ダメだな、狙えはするが……武器商人は生かして情報を吐かせたいとの指示だ』

 

「マジかよ、上もめんどくせえ条件叩き付けやがって……とはいえ四の五の言ってられる状況でもないですね。千束が到着次第俺も動きますが構いませんか?」

 

『構わん、それぐらいの無茶は通させる。私たちを使ったんだからな』

 

『うっは先生、悪い事考えるねぇ~!』

 

「千束」

 

『分かってるってばー! ひえー、上が遠いよぉ!! なんでおぶってくれないのさー!!』

 

「現場にいるんだから仕方ねえだろ……」

 

 文句をたれながら必死に走っているのであろう千束の声を聞きため息を吐く。

 

「おら聞こえてんのかァ!! こんなに殺りやがって! 

 十秒だ! そっから出てこい!! コイツぶっ殺すぞ!!」

 

「ちっ……まずいな、相手側の堪忍袋の緒が切れそうです。どうしますか、ミカさん」

 

『……仕方ない、千束。合流次第棗くんに合わせろ』

 

『了っ解! 先生っ!!』

 

「わかりました、仕掛けま……チョイまてまてまて!?」

 

 視線を商人側へ向けようとした瞬間、立花 棗の目の前には信じられない光景が映った。

 

「ばっ!? たきなっ!!??」

 

「たきなっ!?!?」

 

 黒い長髪の少女(リコリス)が、機関銃を手に取って構えていたからだ。そして気付いたときには既に遅し。

 

 カチャリ、というリロードの音と共に────

 

 

 けたたましいまでの銃撃音が鳴り響いたのだった。

 

 

 ────

 

 

「まーじでこっちまで死ぬかと思った」

 

「あっははは、どんまいどんまーい。生きてりゃいいことあるってー!」

 

 黒いバイクに乗りながら、棗はため息を吐く。

 そんな姿を後ろから見て愉快そうに笑いながら千束は棗を励ましていた。

 

「ふつー機銃掃射なんて人質が居る状態でしようなんて考えつくかっての、

 コマンドーやランボーじゃねえんだぞ」

 

「OK! ズドーン! って?」

 

「そうそう、ってあほか。無事だったとはいえなんちゅーこと考えてんだあのリコリス……」

 

「そうかっかしないの! 商人を捕まえられなかったのは仕方ないじゃん? 

 相手も何するかわかんなかったわけだし?」

 

「……まあそうだけどな……ったく、ほらさっさと帰るぞ。

 ただでさえリコリコでの業務終わってないんだ」

 

「はいはーい。あ、安全運転でお願いね?」

 

 ヘルメットを千束に渡し、後ろに乗るように促す。

 彼女はそれに従うように、バイクに跨ると棗の腰に手をまわし……

 

「当たり前だろうが、ほらしっかり掴まってろ」

 

「はーい♪」

 

 ────むにゅん

 

「……当たってるんだが」

 

「あててんのよ~? なんつって!」

 

「走って帰らせるぞ」

 

「わー! ごめんって!! 冗談じゃーん! 

 こっからリコリコまで遠いんだからお慈悲を~! 棗お代官様~!!」

 

 からかってくる千束に少しイラッとしたのか、無慈悲にそう告げる。さすがの千束もそれだけは勘弁してほしいのか、大慌てで謝罪をした。

 

「なら無駄口叩かずさっさと掴まってろ」

 

「はーい……」

 

 バイクを出して、都会の道路を走る。

 

 こんな日々が、彼らにとっての日常であり……一般市民にとっての非日常であった。先ほど起きたビルでの一件もこの国では当たり前のように事故にすり替わるのだろう。

 それが、()()()()()()()()()

 

 全ては事故、事件などいっさい存在しないのが当たり前なのだ。

 

 

 ────そんな日々を作っているのが、リコリスと呼ばれる少女たち。

 

 そしてこれは、そんなリコリスの変わり者の少女と、

 それを支える少年や大人たちのちょっと変わった日常の物語。なのかもしれない。

 

────

 

Welcome to LycoReco! (リコリコへようこそ!)

 

────

 

 

「転属ゥ?」

 

「ああ、今日付けでうちに配属されるリコリスがいる。

 千束には少し前に伝えておいてあとは棗くんにだけだったからな」

 

 喫茶店のカウンター前でミカに急に振られた話題に棗は驚いた様子をみせる。

 当然だ、ここにリコリスが来ることは基本的にない。

 そしてなにより、ここ所属のリコリスといえば究極の問題児だ。左遷扱いされているほどの。

 そんな場所に配属されるリコリスがまともであるはずはない。と早々に予想をたてる。

 

「いえ、まあ別にそれはいいんですけど随分早急ですね?」

 

「色々とな。要はとかげのしっぽ切りではあるんだろう」

 

「しっぽ切り……ちょっと待ってください、まさかその配属されるリコリスって」

 

「そのまさかだ、私や千束より……記憶に新しいだろう?」

 

「あの黒髪少女か……」

 

 正しく記憶に新しい相手だった。

 なにせ、機銃掃射なんぞというとんでもない独断行動をしたリコリスだったのだから忘れるはずもなかった。

 

「千束だけでも大変なのに問題児追加させますか普通?」

 

「その辺りの扱いは君に一任するよ、棗くん。私よりもよっぽど千束の扱いは手馴れているだろう?」

 

「……千束だけで手一杯なんですけど? はぁ……まあいいです、分かりました。

 こっちも匿ってもらってる身ですし、やれることはしますよ」

 

「すまんな。午前中には到着するはずだ。

 私はしばらく厨房を見ているからその間に来たら色々と説明や案内をしてやってくれ」

 

「分かりました。……店長、そういえば千束は?」

 

「野暮用で外だ。まあ、少しすれば帰ってくるだろう」

 

「把握しました。それじゃあそのリコリスが来るまでの間……一応、テーブルとか拭いときます」

 

「助かるよ、棗くん」

 

 そう言い、厨房の方へと潜ったミカを尻目にしながら台拭きでカウンターや机を拭いていく。

 その時、ふとテレビの方から気になるワードが耳に入ってきた。

 

『速報です、フィギュアスケートの山田選手がアランチルドレンであるということを発表されました』

 

「ん? またアランチルドレンですか……最近多いですねこれ」

 

「そうねー……クソッここにも結婚という障害に阻まれている女がいるってのに……!」

 

「ソーッスネ……」

 

 ニュースを見ながらくたくたになるまで読み漁られたゼク〇ィらしき本を地面に叩き付け、僻む眼鏡の女性を見て、棗は面倒くさいやつだと判断しスルーを決め込む。

 僻んでいる女性の名は中原(なかはら) ミズキ。棗同様、喫茶リコリコの従業員の一人である。

 

 ここ数年、よく耳にするようになったアランチルドレン、並びにアラン機関の話。

 良い事ではあるのだろうが彼らと話したあとだとどうも裏があるように思えて仕方がない組織だ。

 

「アラン機関ってなんとなく不思議な組織ですよね」

 

「そぉ? それを言うならDAやリコリス……棗くんのいたリリベルだって謎ばかりでしょ」

 

「うーん、言えてますね。改めてここほんとに法治国家日本なんですか? めちゃくちゃ謎組織跋扈してますよ??」

 

「それは知らないわよ。まあ法治国家なんて名ばかりなのは否定しないけど」

 

 ある程度、テーブルを拭き終えてカウンターに座り込み雑談をする棗とミズキ。

 そんな中で、カランと来客を報せる鐘がなる。客かと思い振り返るが、その姿がとても見覚えがあった事で客ではないと察する。しかし棗はわざと知らないフリをして問いかけた。

 

「いらっしゃいま……ん、君は?」

 

「……本日配属になりました井ノ上(いのうえ) たきなです」

 

「ああ、君が例の……」

 

 知ってはいるが、現地に居たことを悟られるわけにはいかない棗はある程度すっとぼけながら頷き返す。

 そんな棗をまじまじと見つめてたきな、と名乗った少女は問いかける。

 

「貴方が千束さん……ですか?」

 

「いや違う違う。俺そもそも男だからリコリスじゃないし。俺は立花 棗。

 ここの従業員で……まあ、バックアップ担当ってところか? 

 あ、ついでに言っとくとそこのゼクツィ読んでる基本吞んだくれの従業員も千束じゃないぞ。ミズキさんだ」

 

「誰が吞んだくれじゃい!! ぶっとばすわよ棗!!」

 

言動どうにかすれば美人なんだけどなぁ……

 

「あの、それでは千束さんという方はいったい……」

 

「ん? ああ、ちょっと待ってろ、そこ座って寛いでていいから。

 店長ー! 例のリコリス来ましたよー!!

 

「分かった、そっちに行く少し待ってくれ」

 

 カウンター席に座るように促されたたきなはちょこんと座り棗の姿を観察する。

 

(隙がない……リコリスではない、とは言っていましたが……彼は……?)

 

 疑問符を浮かべながら観察しているところに、厨房から顔を出したミカがやってくる。

 

「来たか、たきな」

 

「貴方が千束さん……?」

 

「いやおっさんでしょーが!!」

 

 少しずれた発言をするたきなにミズキからツッコミが入る。

 まあさすがに厳格な男性がリコリスだというのはおかしいので当然だが。

 

「私はミカ、ここの管理者だ。まあ、この喫茶店の店長とでも考えておいてくれ」

 

「井ノ上たきなです、よろしくお願いします」

 

 ミカから差し伸べられた手を握り返し握手をする。

 

「二人の紹介は……」

 

「はい、一応は棗さんから」

 

「そうか、なら私の方から改めて……彼は立花 棗くん。

 訳あってリコリコで働いている従業員で……現地協力者といったところだ。

 そして、彼女は中原 ミズキ。元DAだ。所属は情報部だった」

 

「よろしくな、井ノ上さん」

 

「現地協力者と……元DA……?」

 

 ミカに紹介され改めて会釈をする棗とミズキ。そして紹介された言葉の中に引っ掛かりを覚えたのか、たきなは首を傾げる。

 

「あー……嫌気がさしたのよ。孤児を集めてあんた等リコリスみたいな殺し屋作ってる組織に」

 

「俺は、ちょいと訳ありでな。裏の事情もある程度は知ってる。

 件のリコリス……千束に救われてここで働かせてもらってるんだ」

 

「……そうですか」

 

 ミズキの言葉と棗の言葉にひとまずは納得をしたのか、頷くたきな。

 そんな中、喫茶店入口の方から少しやかましい声が聞こえてきた。

 

「ほぉらやかましいのが来たぞー?」

 

 カラン、と鐘の音が聞こえると同時に千束がビニール袋を二つ持って入ってくる。

 

「先生たいへーん! 食べモグの口コミでこの店ホールスタッフが可愛いって!!

 これ私のことだよねー?」

 

「私のことだよ!!」

 

「「冗談は顔だけにしろよ酔っ払い(してくださいミズキさん)」」

 

「棗くんまでなによぅ!!」

 

 冷静に二人にツッコミを入れられたミズキはいじけるように文句をたれる。

 

「ってあれ、リコリス? どうしたのその顔?」

 

「おい、千束。店長の話すっぽ抜けてんじゃねえよ」

 

「例のリコリスだ」

 

 ミカの言葉に千束とたきなはお互いに驚いた様子を見せる。

 片や信じられないように、片や目を輝かせながらだが。

 

「え!? この子が!!?」

 

「この人が……ですか?」

 

「今日からお互い相棒だ、仲良くしろ」

 

 ミカにそう言われ、千束は即座にたきなの手を握って自己紹介を始める。

 

「よろしく相棒! 錦木 千束でぇす!!」

 

「あ、ど、どうも……井ノ上 たきなです。よろしくおn────」

 

「たきな! 初めましてだよね!?」

 

「は、はい。去年京都から転属になったばかりで────」

 

「おおぉおお……! 転属組……! 優秀なのね、歳は!?」

 

「え、16ですけど……」

 

「私が1つお姉ちゃんかー! あ、でもさん付けはいらないからね!

 ち・さ・とでオッケーだから!!」

 

「は、はぁ……」

 

 グイグイと押し続ける千束にタジタジになっているたきなを見ながら、棗は呆れたように笑う。

 

「一気にやかましくなりましたね」

 

「あら、妬いてるの? お姉さんが慰めてあげましょっか?」

 

「あ、そういうのはいいですし妬いてないです」

 

「やだ棗くん塩対応!」

 

 そんな姿を見てからかってくるミズキを適当にあしらう。

 一方千束は興奮冷めやらぬ様子で、少し前のたきながやっていた機銃掃射の時のポーズをマネしながら質問していた。

 

「いやーこの前のアレ、すごかったねー! その頬の怪我は名誉の負傷?」

 

「あ……いえ……」

 

「お……?」

 

 気まずそうに目を逸らすたきなを見て困惑する千束。

 間違いなく地雷を踏んだのは彼女だった。

 

 ────

 

「だーかーらー!! 何も殴るこたないでしょ!?」

 

「想像と違ったか?」

 

「いえ、そんなことは……」

 

「まあ、アイツほど不思議なリコリスはいないからな。困惑するのも無理ないさ。

 俺もリコリスっていうともっと物騒なイメージ持ってたし」

 

「司令司令ってちょっとは自分で考えなさいよ!! うっせえアホ!!」

 

 千束は電話越しに知り合い……おそらくはたきなと揉めたであろうリコリスとひとしきり喧嘩したあと通話を切る。

 

「よぅし! 早速仕事に行こうたきなぁ!」

 

「はい!」

 

「あ、先生のコーヒー飲んでからでいいよ? すっごく美味しいから! 

 じゃあ、私着替えてくるからごゆっくり~」

 

 そう言い厨房から消える千束を見届け座ろうとしたところで

 千束がすっと戻ってくる。

 

「あーたきな!」

 

「はい!」

 

「リコリコへようこそぉ~! うひひひっ!」

 

 いい笑顔を浮かべながら千束はすーっと厨房から消えていく。

 困惑したような表情を浮かべるたきなを見て、棗は苦笑する。

 

「な、やかましいだろ?」

 

「それは……そうですね」

 

 否定できなかったのか、たきなは棗の言葉に頷いていた。

 千束というリコリスはまさに台風といった言葉が良く似合う人物だろう。

 

「ふ、コーヒー、飲んでいいぞ?」

 

「あ、はい。いただきます」

 

「……美味しい」

 

「だろ、先生のコーヒーは別格だからな」

 

「褒めすぎだ、棗くん」

 

「事実を述べただけですよ」

 

 棗はミカのコーヒーを飲みながら、淡々と告げる。

 事実、彼のコーヒーはとても美味しい。リコリコの看板メニューの1つなのだから当然ではあるが。

 

「あの、私はこのあとは……」

 

「ん? ああ、千束について行けばいいよ。もし必要になったら、こっちに連絡してくれ。

 まあ最初はアイツが色々サポートしてくれるとは思うけどな」

 

「分かりました。改めて……よろしくお願いします、棗さん。ミカさん」

 

「ああ、よろしく井ノ上さん。改めて……リコリコにようこそ。歓迎するよ」

 

 ぺこり、とお辞儀をするたきなに棗とミカは笑顔で出迎えるのだった。

 




立花 棗(イッチ)

喫茶リコリコの従業員、千束は言わなかったが
食べモグでは「イケメン店員」と呼ばれているらしい。
本人は知らない。


錦木 千束

リコリコの看板娘。めちゃくちゃ人気が高い。
スレでも人気の女の子。メインヒロインかもしれない。

棗が食べモグで好きとか素敵!って言われてるのは
ちょっと複雑らしい。

井ノ上 たきな

本日付けで喫茶リコリコの従業員になったリコリス。
まだ不愛想だしちょっと表情が硬い。
いわゆる黒髪枠。


中原 ミズキ

酔っ払い。残念美人。元DA情報部。
実は棗の好みの顔なのだが、言動がその魅力を失わせている。


ミカ

リコリコの店長。
スナイパーもやれる凄腕傭兵だった過去があるとかなんとか。
リコリスの教官をやっていたこともあるらしい。
脚がちょっと不自由。

ミカのコーヒーや和菓子はリコリコの看板メニューであり大人気の品。
とっても美味しい。

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