【悲報】転生したら暗殺組織の隊員にされた件【戸籍ナシ】   作:星ノ瀬 竜牙

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昨日放送のリコリコやばかった。(毎話恒例)
いやこれ拙作どう収集付けましょうかね……頭抱えております。
曇ってる千束ちゃんが見たいとは言ったけどそれ以上のこと起きてませんか???

今日から毎週日曜日はAbemaTVの方で
リコリコ最新話まで一挙放送があるのでそちらもお忘れなく。


Never judge by appearances

「やあ、お店は空いているかな?」

 

 カランカラン、と鈴の音がなり店の玄関が開く。

 そこにはスーツ姿の男性の姿があった。

 

「あれ、吉松さん。今日は早いですね」

 

「シンジ? どうしたんだ、今日は早いじゃないか」

 

「ははは、ミカも棗君も二人揃ってそれかい? そんなに私は夜遅くに来るイメージがあるのかな?」

 

 客人の名は吉松(よしまつ) シンジ、

 身なりも整っておりそこそこ良い職に就いているのであろうことが伺える男性だ。

 

 そして特徴的なのは何よりも……そのスーツにつけられている()()()()()()()だろう。

 知る人ぞ知るアラン機関の人間の証だ。とはいえここではただの客人。それを理解しているからこそ誰もそのことには触れたりはしないのだが。

 

「いや、まあ俺がシフト入ってるときだいたい吉松さん、夜に来るイメージがありますし」

 

「……そういえばそうだったね」

 

「たまには朝早く来てやれ、千束が寂しがってるぞ。入れ違いになったー! ってな」

 

「おっと、それはいけないね。次は早めに来れるようにしよう」

 

 千束がぶー! っと膨れっ面になっている顔が容易に想像できるのか、シンジは困ったように笑っていた。

 

「棗さん、座布団を出し終わりました。……あ、いらっしゃいませ」

 

「やあ、たきなちゃん。お邪魔しているよ」

 

 そこに座布団を出し終えて、カウンターに顔を出したたきながやってくる。

 彼女にとってもシンジは顔見知りの相手だった。なにせ、リコリコに所属した当日に初めてやって来たお客様だったからだ。

 

「ご注文はありますか?」

 

「そうだね、なら……店長のお手製コーヒーを1つ」

 

「かしこまりました。店長」

 

「わざわざたきなを介さなくてもいいだろう」

 

「可愛い看板娘と喋りたいというのは男の願望だよ、ミカ」

 

 困ったように眉をひそめるミカを見て、シンジはにこやかに笑う

 

「……はぁ」

 

「そう妬くなよ、ミカ。ちょっとした冗談さ」

 

「妬いてない。お前も冗談を言うのはやめろ」

 

「ははは手厳しいね」

 

「……相変わらず仲が良いですね、あの二人」

 

「旧友って話らしいしな。積もる話もいっぱいあるんだろうさ」

 

 コーヒーを淹れながら困った顔をするミカと適度に受け流すシンジ。

 傍から見てもとても仲が良いのだ。些か距離感が近い気もするが。

 

「それにしては些か距離が近い気もしますが……」

 

「愛のカタチは様々ってことだよ。

 時代は多様性。あれも一つの愛ってわけだ」

 

「……はぁ」

 

 棗の謎めいた言葉にたきなは首を傾げる。簡潔に彼女の心情を説明すれば「何言ってんだこの人」である。

 

「そういえば、千束さんはどうしてるんです?」

 

「……遅刻だよ。一応起こしたしすぐに来るとは思うけどな」

 

「今日は護衛任務があるのにそんな調子で大丈夫なんでしょうか……」

 

「ま、よくあることだよ。どうせオススメ映画セレクションを決める段階で

 ほかの映画見始めて寝落ちしたってところだろ」

 

 やけに具体的な例え話をする棗を見て、たきなはある種感心した様子で見つめる。

 

「…………」

 

「ん? どした、井ノ上さん」

 

「いえ……千束さんのこと、よく分かっているんだなと……気に障ったならすみません」

 

「あー……まあ5年以上の腐れ縁だしな。アイツのことは割と分かるよ」

 

 たきなの言葉に困ったように笑い返しながら、ふと棗は時計を見る。

 

「……っと、時間だ、そろそろ準備しておけよ?」

 

「分かりました。……店長」

 

「ん? ああ、もうそんな時間か。分かった」

 

「おや、今日は店を閉めるのが随分と早いんだね?」

 

 シンジは着替えにいったたきなと棗を見ながら意外そうな顔をする。

 

「少し所要があってな、夜にはまた開けているから時間があるなら夜に来るといい」

 

「なるほど……それなら私も今日の仕事は早く終わらせておこう」

 

「なんだ、随分と気合が入ってるじゃないか」

 

「はは、まあ今回受け持った仕事……といっても掃除なんだが。時間がかかりそうでね。

 早く終わらせないとリコリコに来れないだろう? だから気合いを入れただけさ」

 

「ふ、そうか」

 

 ミカはシンジのそんな余裕のある笑みを見て、微笑み返していた。

 その時、ふとシンジが棗の姿を見ながらぼそり、と呟いたことにミカは気付く。

 

「しかし……彼は、似ているな」

 

「ん? 棗くんがどうかしたのか、シンジ」

 

「……いや、少しね。以前……見た事のある子にそっくりだと思っただけさ」

 

「アランチルドレンか?」

 

「……いや、その子は()()()()()()()()()()()()()

 

 思い当たる節を告げたミカに対してシンジは即座に否定した。

 シンジに限ってそんな話をするというのはミカにとっては意外だったのだろう。目を丸くしていた。

 

「なに……?」

 

「救えなかったんだ。その子に……彼は似ている気がしてね」

 

「……そうか」

 

「アラン機関はどんな天才にも手を差し伸べる。だが……神ではない。

 救えないこともある。ましてや……自ら差し伸べた手を掴まなかった子であれば……ね」

 

「……すまん、余計なことを聞いた」

 

「私が勝手に語っただけだ。気にすることはないよ、ミカ」

 

 そんな話を二人がしていると再び玄関がカランカラン、と鳴る

 

「お待たせ……! 千束が……来ましたぁ……!」

 

「やあ、千束ちゃん」

 

「おー!? ヨシさんいらっしゃい! ひと月ぶりじゃないですか?」

 

「はは、覚えていてくれたんだね?」

 

「まーお客さん少ないお店だし……なーんて嘘嘘! たきなの最初のお客さんだもん! 忘れませんよ!」

 

 千束のそんな言葉にどこか嬉しそうに微笑むシンジ。

 そんな様子をミカは微笑ましそうに見つめながら厨房に戻る。

 

「今度はどの国に行ってたの? アメリカ? ヨーロッパ? あー! 分かった! 中国でしょ!」

 

「残念。ロシアだよ? はい、これお土産」

 

「えーっ、なにこれ!?」

 

 千束はシンジから手渡された、鳥が五羽ほど掘られた木の玩具を手渡される。

 

「クローチカという工芸品さ。たまにはこういうものも悪くないだろう?」

 

「ヨシさん良いセンスしてるよねー! 

 ねえ、先生と出会ったのもロシアだったりするの?」

 

「千束、早く支度をしなさい」

 

「えー! 教えてよぉ~!!」

 

「ははは、それはまた今度ね。それでは、これで失礼するよ」

 

「……ん」

 

「っと、ヨシさん、ありがとうございました、またのお越しを!」

 

 シンジは着替え終わり表に出てきたたきなと棗を見て軽く会釈をしリコリコから去る。

 

「お土産ありがとうございました~!!」

 

 そうして、シンジの気配が完全に消えた後にミカは予め用意していた鞄を二つ置く。

 

「で、どのくらい急ぎの依頼なの?」

 

「現在武装集団に追われている」

 

「まあ、それは大変。……たきな、仕事の話はもう聞いてる?」

 

「はい、一通り」

 

 千束はマガジンに銃弾を補充し、装備の準備をしながら受けた依頼の詳細を聞く。

 

「あ、そうそう! 昨日話してた例のブツ、そこに置いてあるから帰りに持って帰ってねぇ?」

 

【たきなへ♡ オススメ映画《厳選!》~千束セレクション~】と書かれた紙を貼り付けてある紙袋を見つめるたきな。

 本当に棗さんの予想通りだったのでは? と思わず訝しんだ。

 

「あれ、ミズキは?」

 

「張り切って逃走ルート確保しに行ったよ。なにせ、報酬は相場の3倍、一括前払いだからな」

 

「なっるほど~、そりゃミズキも張り切るわけだ!」

 

「危機的状況、という事だろう。敵は5~10人程度のプロ寄りのアマだ。ライフルも確認した。気を付けろ?」

 

「りょーかい! って、あれ? 棗はどうすんの? てかなにその恰好?」

 

 ふと、千束は疑問に思ったのか棗の姿を見ながら問いかける。

 普段の仕事着とは違い、黒い革のジャケットに、長尺バッグを背負っているからこそ出た疑問だろうが。

 

「ライダースジャケットだよ。俺は二人とは別働隊。途中までは一緒に行くけど……

 道中で手配されたバイクに乗り換えて狙撃ポイントに到着次第、お前と井ノ上さんの援護だ」

 

「はー、道理でそのバッグなわけだ。って、普段のバイクは使わないんだ?」

 

「アホ、足がつくかもしれないものを仕事で乗り回すか」

 

「アホって言うな!? てか狙撃できんの棗?」

 

「狙わなくていいんだよ、攪乱用だ。敵に狙撃手がいるって思わせれば相手も下手な行動はできないだろ」

 

「あー、牽制用ってことね。りょーかい。じゃ、行こっか! たきな、棗!」

 

「ったく……じゃあ行ってきます、店長」

 

 千束とたきな、棗は揃って外に出る。

 

『ところでー、お腹空いてるんだけど~?』

 

『時間、ないですよ』

 

『遅刻したお前が悪い、俺はちゃんと起こしたからな』

 

『うぇー! 二人ともケチー!!』

 

「……やれやれ」

 

 3人のやり取りが耳に入ったのであろうミカは少し呆れた様子で笑みを浮かべるのだった。

 

 

 ────

 

 

「────逃走手順は以上です。羽田でゲートに潜ったところでミズキさんに交代……って聞いてますか?」

 

「んー、いらいぬひ……すごうでハッカーなんでひょぉ? どんなひとかなぁ?」

 

「飲み込んでから喋れよお前……」

 

「んぐ……やっぱり眼鏡で痩せて小柄な男とか? カタカタ、ッターン! って!」

 

「映画の見過ぎですね」

 

「うんうん」

 

 駅弁を食べながらしゃべる千束に、ツッコミを入れたたきなと横で頷く棗。

 そうしてすぐにたきなと棗は予め駅内のコンビニで買っておいたものを取り出す。

 

「……二人とも何それ?」

 

「ゼリー飲料です」

 

「カロリーメイトとプロテイン」

 

「いやいやいやお二人さん? 今の状況分かってるのかなあ?」

 

「依頼人に会うために特急に乗っていますが?」

 

「そう! その前にお昼食べとかないとじゃん?」

 

「だから今食べてるじゃねえか。あ、井ノ上さん。こっちいるか?」

 

「はい、いただきます」

 

「ん、はいよ」

 

 棗は2つ買っておいたうちの片方のカロリーメイトをたきなに手渡す。

 軽食で済ませるつもりなのだろう二人に千束は信じられないモノを見るような表情を浮かべる。

 

「えー? それがぁ?? 特急だよっ!? 駅弁食べようよ~! 

 あ、ちょっと食べる?」

 

「結構です」

 

「パス、要らねえ」

 

 千束の誘いに即答で返す。この場合千束が軽すぎるのが悪かったりはするのだが、そこはご愛嬌である。

 

「まあまあまあ! そう言わないで!! 煮卵とか美味しいから! ほら、あーん!!」

 

「あー……んむ……」

 

「どう? 美味しい?」

 

「……美味しい……です」

 

「はあい! 美味しい!!」

 

 グイグイと押されて根負けしたたきなは千束に渡された煮卵を一口食べて味の感想を返す。

 呆れたようにその様子を見ながら棗はカロリーメイトを頬張る。

 

「なにしてんだ……」

 

「棗も食べよ? ほら、煮卵あと2つあるからちょうどいいし!」

 

「いいっての。俺はいらねえ」

 

「いいからいいから! ほら、あーん!」

 

「い・ら・ね・え」

 

「あーん!!」

 

「ぐぐぐ……」

 

「ぐぬぬ……」

 

 お互い意地っ張りなのだろう、互いに譲らず膠着状態であった。

 そうしてしばらくして棗が諦めたようにため息を吐き……

 

「あむ……」

 

「どぉ、美味しいでしょ?」

 

 彼女から渡された煮卵を一口で平らげた。

 

「……悪くはねえよ。ただ人目のある所でこんなことするなバカ」

 

「お? …………えっ!? あ、いや! べ、別に他意はないよ!? やっだなー、意識しちゃうとかお年頃なんですかぁ!?」

 

 棗の言葉に一瞬疑問符を浮かべたが、千束は自分の行動を振り返り顔を赤くする。

 今自分がしたのは、異性に対してのあーんである。傍から見ればそれは恋人のやり取りでしかなく……

 恥ずかしくなった千束は誤魔化すように、冗談を口にする。

 

「知ってるわ……お前の場合悪意も他意もないから恥ずかしいんだよ」

 

「……いつも二人はその、こんな風に夫婦(めおと)漫才を?」

 

「「誰が夫婦(めおと)だよ!?」」

 

「……仲良いじゃないですか」

 

 息の揃ったツッコミに対してのたきなの返しはごもっともであった。

 そうこうしているうちに車内アナウンスが流れ、目的の駅に到着する報せが入る。

 

『ご乗車ありがとうございました。まもなく、北千住……北千住です』

 

「降りますよ」

 

「はぁ……はいよ」

 

「え!? もう!?」

 

「10分足らずで乗り換えだからゼリーを選んだだけです」

 

「右に同じく。だからカロリーメイトを買ったんだよ」

 

「そうなのぉ!? 早く言ってよぉ~!!」

 

「やっぱり聞いてないじゃないですか……」

 

「お前なぁ……俺はここで降りてバイクで移動するって今さっき言ったところだぞ……」

 

 千束の文句をたれる姿に呆れてたきなと棗は肩をすくめるのだった。

 

 ────

 

「さてと……」

 

 棗は高層ビルの屋上に座り込み、背負っていた長尺バッグを開けて狙撃銃を取り出す。

 ミカお手製の改造銃、非殺傷の麻酔針を利用したモシン・ナガンだ。

 

「さすがおやっさん。しっかり仕上げてくれるな」

 

 流石の腕だ、と感心しつつサイレンサーを取り付け、狙撃銃を構えて息を潜めるように地面に伏せる。

 そのタイミングでインカムから無線のコールがくる。

 

『聞こえますか、こちらβ(ベータ)です』

 

「……聞こえている、こちらΔ(デルタ)。どうした?」

 

『護衛対象との接触が完了、現在目標ポイントに向けて移動を開始しました』

 

「了解、564……15-24のホワイトで間違いないな?」

 

 狙撃銃のスコープ越しにそれらしき軽自動車を確認してβ……たきなに確認をとる。

 

『はい、問題ありません』

 

「こちらでも確認した。……後ろに、一台大型車が着いてきている。確認できるか?」

 

『……確認しました。一台、確かに着いてきています。どうしますか?』

 

「大きな通路での狙撃は騒ぎになりかねない。付近に公園が確認できるか?」

 

『はい、カーナビでも確認できます』

 

「よし、近くの十字路を使ってくれ。そこで攪乱のために狙撃する」

 

追い込み漁、というわけか?

 

 インカムに機械的な加工した声が入ってきた。聞き覚えのない声に困惑したタイミングで……

 

「その声は……」

 

ウォール

 

「ナット。把握した、その通りです。

 下手に騒ぎにはできません。だから罠にはめます」

 

了解した、ならその十字路に向かおう

 

 合言葉を返したことで声の主が護衛対象だということを棗は把握する。

 そのまま合図をして車を大通りから十字路の奥の方へと移動させていく。

 

「助かります。聞いたな、α(アルファ)、β」

 

『はいはーい、聞いてますよΔさん』

 

『分かりました、私たちはどうすれば』

 

「依然、護衛のままでいい。迎撃には向かうなよ? 下手に動くと相手に狙われるぞ」

 

『……了解しました』

 

「カウントはそちらに任せる。そちらのタイミングに合わせて射撃する」

 

『分かりました、では武装集団の車両と思わしき大型車が十字路に入って十秒でお願いします』

 

「了解。奴らが十字路を曲がり次第この回線を繋げたままカウントを開始する。ゼロで射撃するぞ、合わせろよ?」

 

承知している

 

 護衛対象と千束たちが乗った車を追いかけて大型車が十字路に入ってくる。

 

「カウント開始、10」

 

「9」

 

「8」

 

「7」

 

 狙撃銃に弾を装填しリロードしそのまま大型車に照準を向ける。

 

「6」

 

「5」

 

「4」

 

「3」

 

 深呼吸をし、手ぶれを抑える。そして……

 

「2」

 

「1」

 

 大型車から少し射線をずらし────

 

「ゼロ」

 

 棗は引き金を引いて、大型車のボンネットに銃弾をヒットさせる。

 

『ウォールナットさん!』

 

分かっている

 

 武装集団が車を止め狙撃者を警戒し始めたタイミングに合わせて、軽自動車を全速力で出し振り切っていく。

 

「……まだ動いてもらうわけにはいかないな」

 

 当然ではあるが相手もそれを逃がすまいと追跡しようとする。

 棗はそれを阻止するために被弾させない程度に狙撃をしていく。

 

「そうだ、警戒しろ。俺はここにいるぞ……!」

 

『こちらβ! 相手の姿が見えなくなりました!』

 

「了解、そこで車のナンバーを偽装しろ。しばらくは時間稼ぎができる」

 

『分かりました! α!』

 

偽装ナンバーは後ろの座席に置いてあるはずだ。頼んだぞ

 

『分かってるってば! ってこれ私がするの!?』

 

「お前しか暇なやつがいないからな」

 

『ちっくしょぉ! 私だって護衛頑張ってるのにぃ!』

 

 文句たらたらな千束に呆れてしまうが、

 実際のところ護衛側の狙撃担当であるたきなや護衛対象にやらせるわけにはいかないため千束にやってもらうのが一番最適解なのだ。

 

『α、β。聞こえているな? 以後この周波数での無線はカットする。

 相手側が盗聴している可能性もあるからな』

 

『分かりました、Δはどうしますか?』

 

「作戦通りに目標ポイントに移動する。気を付けろよ、α、β。オーバー」

 

 武装集団が警戒し続けているのを確認し、無線を切り……そのまま新たに無線をかける。

 

『こちらγ(ガンマ)、どうした?』

 

「Δ、現在作戦は想定通りに遂行中」

 

『了解した、Δはその場で待機だ』

 

「りょうか……待ってくれ、γ」

 

『……どうした?』

 

 棗はスコープで千束達の乗る車を確認する。そこには確かに想定のルートと違う移動をしている姿が確認できた。そしてその後ろにぴったりと張り付いているドローンの姿も。

 

「対象がルートを外れた。おそらくドローンによるハッキングを受けたと思われる。どうする?」

 

『分かった、プランBだ。Δはこちらに合流してくれ。合流ポイントはCを使う。

 道中のポイントAに例のブツを用意してある。それを使うように』

 

「了解、今から合流する」

 

『Δ、耐えろよ。今回はそういう任務だ』

 

「……承知してます」

 

 γと名乗った通信相手に釘を刺されて口を閉じる。そして命令通りに、棗は狙撃銃をバッグに仕舞う。

 

「しくじるなよ、千束、たきな」

 

 見届ける暇もなく、彼は高層ビルから降りて行った。

 

 ────

 

「たしか例のブツはここに……あったあった、2808……ってこれ、アイツの隊員番号じゃ……まあいいや。ここにこのバッグを入れてこっちの鞄を取り出してっと……」

 

 地下通路に設置されているコインロッカーの中からガサゴソと鞄を取り出し、中身を確認する。

 

「おおう、本格セット……おやっさんいくら何でも気合入りすぎでは?」

 

 中身を見て少し苦笑いをしながら合流ポイントCに棗は向かう。

 

「って、この上はコンビニ前……いやまあ、自然に振る舞うならここが良いのは確かだけど……やれやれ……仕方ないか」

 

 頭を抱えつつも作戦に支障がないように棗は覚悟を決める。

 そうして彼は人気のない地下街から外に出る階段の中で、鞄の中から手早く例のブツ……つまりは衣装を取り出し、即座に着替える。

 

 そうして、外に上がったところに立っていたのは……

 

「よう、こっちだ」

 

「あ、どーもっす。センパイ。お昼は何買えば良かったんでしたっけ?」

 

「適当におにぎりと飲み物買って来てくれたら良いって言っただろ?」

 

「っと、いけね。そうでした。じゃあ、そこのコンビニで軽く買ってくるので待っててください!」

 

 どこからどう見ても、勤務中の救急隊員であった。

 そのまま棗は救急隊員に変装した状態で、コンビニに駆け込む。

 

「えーっと、おにぎりと……あとは飲み物っすね。水分補給は大事ですし。

 店員さん、すみませんこれお願いしまーす!」

 

「はいはい、お勤めご苦労様です」

 

「ありがとうございます。いやー近頃事故が多いもんで結構張ってないといけないんすよね。

 なんでしばらくこういうお店に、他の隊員共々世話になると思います」

 

 いけしゃあしゃあと嘘をつきながら棗は本当の救急隊員のように演じる。

 立花 棗という青年は演技がとても上手い。なにせ自分のあれこれを偽り続けているのだから当然のことではあるが。

 そしてその演技力をこうして仕事に応用している。例えば喫茶リコリコでの従業員としての顔とか。

 

「そうねぇ、最近物騒だもの。あ、おにぎり温めたりする?」

 

「あ、大丈夫っす。最近暑いっすからね。おにぎりぐらいはひんやりしてても罰は当たらないっすよ。

 あ、袋もつけといてくださいっす。それと支払いはふつーにカードで。領収証はなしで大丈夫っすよ」

 

「はいはい、カードね。レジ袋の分も合わせて750円だよ」

 

「ざっす。ありがとうございました!」

 

「レシートはいる?」

 

「あ、じゃあお願いします!」

 

「はい、じゃレシートね。ご購入ありがとうございました。お気を付けて」

 

「うっす! ありがとうございます!」

 

 コンビニの店員に見送られて元気そうに出ていく救急隊員の好青年を

 棗はさも当たり前のように演じ切ってみせた。

 

「お疲れ様ですセンパイ! おにぎりと飲み物買ってきたっす!」

 

「すまんな。ほら、乗れ」

 

「うーっす!」

 

 先輩を名乗る救急隊員に促されて棗は救急車の助手席に乗る。

 

「いやー、暑いっすね。というか……」

 

 ドアを閉め、窓も締めて誰からも聞こえなくなったタイミングで明るく元気な好青年の仮面を外してただの、立花 棗に戻って問いかける。

 

「こんな暑い日によく着込みますね、()()

 

「変装は基本だ、それに相手を騙すならこれぐらい本格的な方が良いだろう?」

 

「まあ、一理あるのは否定しませんけど」

 

 運転席に座っていた先輩の救急隊員がマスクを外す。そう、その救急隊員の正体はミカだった。

 合流ポイントCで待ち合わせていたγとは、ミカのことだったのだ。

 

「それで、動きはどうです?」

 

「さっきたきなから連絡があった、あの付近の廃屋になったスーパーに隠れたらしい」

 

「……となると、どのみち俺は援護できなかったですね。室内を正確に撃つのは俺にも無理ですし」

 

 お手上げ、といった手振り素振りをみせて棗は背もたれにもたれかかって先ほど買ったスポーツドリンクの蓋を開けて飲み始める。

 

「そうだな」

 

「それで、ここからは?」

 

「千束たちが上手く騙されてくれることを祈って待機だ」

 

「了解です」

 

「それと、千束もたきなも護衛対象もケガはないそうだ」

 

「……! わかりました」

 

 ミカの言葉に、ピクッと棗は反応しつつほっとしたように頷いた。

 

「ふ、相変わらずわかりやすいぞ。棗くん」

 

「うぐ……だって、心配なのは心配なんですよ……」

 

 ミカの指摘に顔を赤くし恥ずかしそうにしながら、視線を逸らしていた。

 

『────こちらβ、聞こえますか! γ!!』

 

「「!」」

 

 そうしていると、β……たきなから通信が入る。

 

「どうした?」

 

『……失敗です、護衛対象が死亡しました』

 

「……分かった。すぐに緊急車両が到着する。遺体と荷物を回収して現場を離脱しろ」

 

『……了解しました』

 

 気落ちしたような声が無線と共に途切れる。

 

「……相当落ち込んでますね」

 

「仕方ないさ、あの二人には本当に死んだように思わせているからな」

 

「はぁ……怒られるのとひっぱたかれるのは俺がするので……店長は甘いモノでもあとで作ってあげてくださいね」

 

「……わかった、そうしよう」

 

 ミカと棗はマスクをつけなおし、救急隊員に変装しなおして現場に向かうのだった。

 

 

 ────

 

 

 緊急車両のなか、気まずく重い空気が流れる。

 そこには護衛対象であったウォールナットと思わしきリスの着ぐるみの遺体が運び込まれていたからだ。

 

「すみません……」

 

「たきなのせいじゃないよ」

 

(……い、居づらい!)

 

 明らかに落ち込んでいる千束とたきなを見て罪悪感を感じているのは隣に座る棗が扮する救急隊員だった。

 種明かしをするタイミングがない。というのもあるがあんな顔になっている二人に対してどう声をかければいいのか……棗にはわからなかったのである。

 

あー、こほん。もう良い頃合いじゃないか?

 

 そんな気まずい空気を破ったのは先ほどまで聞こえていたウォールナットと思わしき人物の加工された声だった。

 

「「え?」」

 

(ナイス! ナイスウォールナット!!)

 

 棗は内心でそんな風に叫びガッツポーズをする。

 そうして困惑する二人の少女の隣で死んでいたはずのリスの着ぐるみがのそり、と起き上がり……

 

「むっっはぁあ!!」

 

 スポン、と頭の部分を外すとそこからは……なんと、中原 ミズキが現れたのである。

 

「うぇえ!?」

 

「え!?」

 

「あっつぅ……棗君、ビールあるぅ?」

 

「……そこで俺に振らないでくださいよ。買ってますけど!」

 

 手でぱたぱたと扇いでいたミズキに話題を振られた救急隊員(棗)は困ったように肩をすくめながら

 ヘルメットとマスクを外し正体を明かし、クーラーボックスに入っていた缶ビールを取り出して彼女に投げ渡す。

 

「え、ちょミズキに棗!? え、あ、え、な、なんでぇ!?」

 

「落ち着け千束」

 

「う"えぇええ!? 先生っ!?」

 

「んぐんぐ……ぷっはああ! あ、これ防弾性よ? 派手に血が出るのがミソね! マジでクッソ重いけど!!」

 

「それ、千束は見覚えがあるんじゃないか?」

 

「んんん? ……あー!! これ()()()()()()!?

 

「That's right! 俺が作った特別製の血糊の改良版だ」

 

 千束は思い出したかのようにミズキが着込んでいる着ぐるみから出る血糊を指差して叫ぶ。

 そう、これはかつて千束が棗と初めて出会ったときに棗が使った血糊の改良版だったのである。

 派手に血が出るように見せかけられるのは彼の作った血糊の特徴だった。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!? ウォールナットさん本人はどこへ!?」

 

「そうだよ! どこいったの!?」

 

ここだ

 

「「うぇ!?」」

 

追手から逃げ切る一番の手段は死んだと思わせること。そうすればそれ以上捜索されないからな……お? おお? 真っ暗だ」

 

 スーツケースがぱかっと開き、そこから金色の髪をした少女……幼女が現れる。

 彼女が喋る言葉が全て、着ぐるみの頭の部分から加工された声として発せられていることから彼女こそがウォールナット本人だということを認識させられる。

 

「では、わざと撃たれたと?」

 

「……それ、内側から開けられたのか」

 

「ああ、彼のアイデアだ」

 

 ウォールナットの視線が運転席に座るミカに向かったことからこの作戦がミカ立案のものだということが千束とたきなの二人に伝わる。

 

「あーあ、最後はハリウッド並みの大爆発を用意したのに無駄になっちゃったわねー」

 

「ま、予算浮いたしいいんじゃないですか?」

 

「そうだな、早く終わるのはいい事だろう?」

 

「想定外の事態にキチンと対処をして見事だった」

 

 仕掛け人三人衆(ミカ・ミズキ・棗)はお気楽そうに喋り、それを聞き流しつつウォールナットは振り向いて、その水色の瞳を千束とたきなに向けて手放しで賞賛していた。

 

「ちょ、ちょーっと待って!? 色々聞きたいことはあるんだけど! つまり、その予定通りで……誰も、死んでない……ってこと……?」

 

「そうよぉ?」

 

「あ……はぁぁぁ……良かったぁ……みんな無事でぇ……!」

 

 千束の問いかけに肯定したミズキ。

 それを聞いてへにゃへにゃ、と脱力しながら千束はほっと一息つく。

 

「この娘、めっちゃ金払い良いから命賭けちゃったわ♡」

 

「俺が着ぐるみの中身になる案もあったんだけど、それだとお前らが気付くだろうってことになってミズキさんがな」

 

 さすがに身体能力でバレる、という話になって棗が入るということは没になったらしい。

 

「……たしかに硬いなこれ」

 

「もぉおう……死なせちゃったと思ったし、あぁぁもおぉう! 良かったあああ!!」

 

「うぉおう!?」

 

「良かったああ! 無事で良かったああ! ほんと……ほんとにぃ……! うぇえええん……」

 

 ウォールナットに千束は抱き着きながら号泣して喜んでいた。

 それを少し不服そうにたきなが見つめていたことに気付いたのは、棗1人だけだった。

 

 ────

 

「いててて……いい加減機嫌治せよ千束……」

 

「ふーんだ……」

 

 見事に左の頬に赤い紅葉を作った棗が、頬を擦りながらカウンターに突っ伏す千束に向かって話しかける。

 案の定といえば案の定ではあるが、棗は思いっきり千束に頬を引っ叩かれたのである。

 

「事前に教えてくれても良かったじゃんか……」

 

「だってアンタ、芝居下手くそだしぃ? 寧ろ、たきなと自然なリアクションをしてもらった方が良いじゃない? ほぉら、こういうさぁ?」

 

「ん? あ!? ああああ!? ちょ、なに撮ってんの!? いつ撮ったの!? ミーズーキー! 消ーしーてー!!」

 

 千束の大号泣した顔写真をミズキはスマホに撮影していたらしく見せびらかす。その姿は美少女というにはあまりにも不細工な顔であった。

 

「ほぉ……こりゃまたよく撮れてますね」

 

「でしょぉ?」

 

「棗は見んな!!」

 

「理不尽ッ!?」

 

 千束に蹴飛ばされてぐえっ。と床に叩き伏せられる。良い所に入ったらしく、蹲っていた。

 

「やっぱり、命大事にって方針……無理がありませんか?」

 

「「ん?」」

 

「おごごご……んぁ……?」

 

 千束とミズキ、棗は呟いたたきなの方向に視線を向ける。

 

「あの時、キチンと二人で動けば今回のような結果にはならなかったはずです」

 

「でもぉ、そうされると私が困ったのよねぇ?」

 

「目の前で人が死ぬのは放っておけないでしょ」

 

「私たちリコリスは()()()()()()()()()()()! 敵の心配なんて……!」

 

 少し剣呑な空気になりかけたところで、棗がのそりと起き上がる。

 

「あたたた……はいそこまで。言っただろう? ここではここの命の向き合い方があるって。

 今回の連中も……たまたま今日は敵だっただけだ。()()()()()()()()()()

 

「っ……どういう」

 

「まあまあ、昨日の敵は今日の友。ってことわざもあるんだ。全部が全部敵だ。って考えるのは辛いだけだぞ?」

 

「……そうだね。誰も死ななかったのは本当に良かったことだよ」

 

「そういう話じゃ……ないと思います……」

 

 やはりというべきか、たきなと千束の考え方は徹底的に違うらしい。

 棗は困ったように肩をすくめて、ミカに視線をやる。

 

「はぁ……ほら、二人とも、もうやめなさい。私たちも騙すような作戦を立てて悪かった」

 

 ミカは謝罪をしつつ、試験管に入れたお団子という映えなスイーツをカウンターに置く。

 

「あ~! さては先生、甘いモノで買収するつもりぃ~?」

 

「ははは、要らないか?」

 

「あぁ~ん、食べますぅ♡」

 

 猫撫で声で媚びるように千束は団子を貰おうとする。

 

「あ、そうだ。たきな。座敷に座布団出してきて~?」

 

「はい、わかりました」

 

「相変わらず切り替えが早いわねぇ~?」

 

 千束にそう頼まれすぐに向かう辺り、私情を滅多に挟まない優秀な店員なたきなであった。

 少しして、たきなが座布団を出し終え……襖を閉める辺りで────

 

「ん?」

 

「ん!?」

 

 千束の見間違いでなければ押入れの上に誰か……見覚えのある金髪の少女が居たように見えて……? 

 

「ねえ! ちょっと!? 何かいたよ今!? ねえ、なんか居たー!! 

 んぬぬぬ! ふんぎぃ……どっせーい!!」

 

「わぁあ!?」

 

「っ!?」

 

 力任せに襖を開ければそこには、確かに先ほど護衛したはずのウォールナットが椅子に座ってパソコンを触っていたのだ。

 

「ああ、そうだ。言い忘れてた。ソイツ、うちで匿うことになったらしい」

 

 ニョキ、と顔を座敷の方に覗かせて棗が告げる。

 ウォールナットは死んだことにするために、ここで匿うという話になったようだ。

 

「そうなの!? なに!? なんで!? 座敷童子かなんかかと思ったー!!」

 

 カランカラン、と再び入口のベルが鳴る。

 やってきた来客は早朝の時と同じ吉松 シンジであった

 

「やあ、ミカ」

 

「おお、シンジ。いらっしゃい。本当に夜に来るとはな」

 

「はは、約束は守るさ。それにしても、賑やかだね?」

 

 座敷の方から聞こえる千束や棗のわいわいがやがやとした声に耳を傾けて、くすりとシンジは笑う。

 

「まあな。しかし……最近よく来てくれるね」

 

「君のおはぎは旨いからね。前はコーヒーもまともに淹れられなかったのに」

 

「ふ、10年も経てば慣れたものさ。……忙しいんじゃないのか?」

 

「ようやく仕事がひと段落したところだよ。掃除に少しばかり手間取ってね。

()()()()()()すばしっこいやつだったよ。まったく。ああ、おはぎとコーヒーを頼むよ、ミカ」

 

「コーヒーとおはぎだな。分かった。少し待ってくれ」

 

 シンジは困ったように笑いながら、注文し……

 その裏で、ウォールナットと千束が会話する。

 

「それで君、ここに住むの?」

 

「お前らの仕事を手伝う条件でな。言っとくけど格安なんだからな?」

 

「あ、それなら……この写真の男を見つけて? あ、手前のピースしてる男の人じゃなくて奥のビルに写ってる人ね?」

 

「意外とちゃっかりしてるよな、お前」

 

 千束の行動に関心したように、棗は見つめる。

 

「千束ちゃーん」

 

「お?」

 

「ん、この声ヨシさんじゃないか? ヨシさん、いらっしゃいませー」

 

「ああ! ヨシさんいらっしゃーい! 今ちょっと忙しいからあとでねー!!」

 

 シンジの呼びかけに答えつつもウォールナットと話すのを優先したい千束は申し訳なさそうに断って、カウンターの方から座敷に戻る。

 

「うん? ……ふふ、すっかりレディじゃないか」

 

「あれが?」

 

 シンジの言葉にまさか、とミカは笑う。その姿はまさに父親そのものだった。

 

「ミカ」

 

「うん?」

 

「君は千束とここで……()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……!」

 

 シンジのその踏み込んだ発言がいったい何を指すのか。

 それに気付いたのはきっと、ミカ本人だけだったのだろう。

 

 

「ふむ……解像度は補完できたな」

 

「今日から仲間ね、名前は?」

 

「ウォールナッ────」

 

「ちょいちょいちょい! それは死んだ人の名前でしょ!? 本当の名前を教えて?」

 

「……クルミだ」

 

 ウォールナット、改めクルミはそう自己紹介をする。

 

「日本語になっただけじゃん!! そっちの方が可愛いし良く似合ってるよ! よろしく、クルミ!」

 

「よろしく、千束」

 

「……この一瞬でここまで解像度を上げられるのはすごいな。あ、俺は立花 棗。よろしくな。

 って言っても無線越しじゃデルタって名乗ってたけど」

 

「ああ、君か。よろしく棗。君の采配も見事だった」

 

「お褒めにあずかり恐悦至極。伝説のハッカーに褒められるのは悪い気はしないな」

 

 合点がいったらしくクルミは頷き、棗に挨拶をする。

 

「出といでよ、クルミ! 一緒にお団子食べよ! たきなも────」

 

 そうたきなに呼びかけ千束が振り向いた直後。

 

「いったっ!?」

 

「あいてっ!?」

 

 2HIT。たきなが飛ばしたヘアゴム弾は、棗とクルミに命中していた。

 

「え?」

 

「え?」

 

「「え?」」

 

「いや、なんで撃ったの……?」

 

 棗は赤く腫れた額を擦りながら、涙目でたきなに訴える。今日一番踏んだり蹴ったりの男である。

 

「いや……その……すみません……」

 

 さすがのたきなも申し訳なさそうに謝罪をするのだった────




立花 棗(イッチ)

狙撃手担当。Δ。
踏んだり蹴ったりだった。
変装は大の得意。何せ毎日やってるので。
おでこと頬がしばらく真っ赤だった。

くっそ痛い。


錦木 千束

護衛(遊撃)担当。α。
別に棗にあーんしたけど恥ずかしいわけじゃないから!
……なんだけどなぁ。なんかムズムズする。

みんな死んでなくて良かった。


井ノ上 たきな

護衛(狙撃)担当。β。
相変わらず夫婦漫才してますね。お二人とも。
……悪人は、悪人なんですよ。

おでこにヘアゴムを当てたのはすみませんでした。


ミカ

救急隊員変装。γ。
作戦の立案者。甘いもので買収。
まだたきなは打ち解けなさそうか……

シンジ、気付いているのか?


中原 ミズキ

着ぐるみの中の人、囮。
死んだフリ大変だったわー!あとくっそ暑いし重い!!
千束の変顔も撮れたし満足。
あとで棗くんのスマホに送っといてあげましょ。


クルミ

ウォールナット、護衛対象。
リコリス、さすがの腕前だな。
……しかし、棗はいったい何者だ?

なぜおでこに僕はヘアゴムを当てられたんだ……


吉松 シンジ

アラン機関の人。常連客。
千束のことを知っていたり棗に似た人物を知っているようだが……?
クローチカ、いいデザインの玩具だと思わないかい?

ミカ、彼女の才能をこうして活かしているのかい?

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