「我が剣を越えてみよ」
160cmはある大きさの剣を形に担ぎ、全身は黒の西洋風な鎧。兜が顔を隠しているが、声からして恐らく男。そして現代社会ではあまり見ない威圧感。
肌で感じる強者の覇気。それを、有り得ないことだがNPCから感じた。
言葉を失う僕らだが、中には覇気にアテられて武器を落とす人まででてきたので、ガゼルさんが叫んだ。
「大丈夫だ!奴はNPCだ!そしてこれはゲームだ!死にはしない!自由にやろうぜ!」
ゲームだと思い直した何人かは平静を取り戻したが、帰ってこれないで立ち尽くす人も多くいた。
コメント
<・・・生きてないよな?プレイヤーだってことは・・・>
<ありえる>
<画面越しでも分かる威圧感ってマ?>
<死ぬ気でいかないと勝てないよ、3人とも! by黒玉>
「沙耶!お前の火力が頼りだ!」
「させんよ」
黒騎士が剣を担いだまま突進してきた。そして薙払い。160cmの大質量な鉄塊が迫ってきた。
すかさずキズナさんが割って入って大剣を流したが、キズナさんの手元にあったナイフが両方砕けた。耐久値が全損したらしい。
切り返しての、黒騎士の2撃目。僕は何とか『銀麗の宝剣』を迫ってくる大剣にぶつけた。
直後クリティカルの文字。独特なエフェクトと共に、黒騎士の大剣が大きく後ろに飛んだ。どうやら押し切ったらしい。
飛んでいく大剣を握ったまま、黒騎士は流れに合わせてバックステップ。僕らから距離を離すと、大剣の勢いを殺して再び肩に担いだ。
「・・・とてつもないな、貴様の攻撃力」
黒騎士が語りかけてきた。
「面構えはまだまだだが、いい人材を手に入れてるではないか。あの愚王は」
「愚王?」
「知らないのなら良い。いくぞ」
黒騎士が腰を落とし、再び突撃してきた。
キズナさんはすでに予備のナイフに持ち替えているし僕の『銀麗の宝剣』は耐久値が∞なので打ち合っても問題は無いが、どうしてもダメージを与えるには至らない。どうしたものか。
「下がってろ2人とも!」
ガゼルさんの声で僕らがある程度引くと、ガゼルさんが突進してくる黒騎士に突っ込んだ。そのままの勢いで拳を振りかぶり、黒騎士の胴体に右ストレートをかました。
しかし効果は無し。体を捻って距離感を調整した黒騎士は、ガゼルさんに大剣を振った。
「ガゼルさん!」
しかし、何も無かった空間に突然紫色のバリア(?)が現れて、大剣を防いぐと割れた。
「何?」
黒騎士が呟く。
「へっ!俺の覚醒skill《魔力盾》だ!そして俺の魔力は4桁を超える!」
4桁を超える?
「そんじょそこらの攻撃じゃ効かねぇんだよ!」
ガゼルさんは黒騎士に抱きつくと、しがみついた。
「何のつもりだ?」
「沙耶!俺ごとやれ!」
うぇ!?
「チィッ!」
剣を握っていない左手でガゼルさんを殴りつけようとする黒騎士だが、紫色のバリアに阻まれて引き剥がすことができないでいた。
「この野郎!」
しかも地面に足をつけたガゼルさんは、そのまま押し倒そうと力を込めたりと、妨害を続けた。
コメント
<ガゼル、お前・・・>
<良い奴だった・・・>
<結構カッコイいぞ、ガゼル>
<胸熱な展開!>
<いけ沙耶!ガゼルの死を無駄にするな!>
「うん!」
僕が突っ込もうとすると、僕を押し退けるようにして女の人が前に出た。
「私だって戦える!」
彼女は剣を握り、重そうな騎士鎧を着たまま突撃した。
「何やってんだお前!」
「姫様!」
「姫様!!!」
「お止め下さい!」
ガゼルさん、そして背後で待機していたNPCの騎士達が止まるよう叫んだ。
僕を押し退けて前に出たのは、今回の護衛対象だったお姫様だった。
愕然とする僕を含めたプレイヤー達。
コメント
<は?>
<草>
<な に そ れ>
<無能>
<キモッ・・・>
「愚王の娘もまた愚かだ」
右腕だけで剣を持ち上げた黒騎士は、そのままお姫様に振り下ろした。
「シッ!」
キズナさんが割り込んで剣を逸らしたが、お姫様はそこで足を止めなかった。
「バカ!おい!」
「姫様!」
「私はいい!今は、」
「沙耶ぁ!!!」
ガゼルさんの声とともに僕はお姫様を追い抜き、先に接近して黒騎士に斬りかかった。これで先に僕を対処するしかない!
黒騎士は右手から剣を離すと、僕に手の平を向けてきた。
「!?」
直後僕は強烈な斥力を受け、後ろに吹っ飛んだ。そして背後にいたお姫様を巻き込み、少し離れた場所で転がった。
「お前もいつまでくっつ付いているつもりだ?」
黒騎士はガゼルさんを殴ろうと拳を振るい、しかしバリアに阻まれる。そのバリアを掴み、黒騎士は押した。そしてバリアが押されたのでガゼルさんが引き剥がされた。
「な!?」
黒騎士はヤクザキックを繰り出した。それもバリアで阻まれるが、ヤクザキックは押し込むキック。バリアに受けた押す力で、ガゼルさんは吹き飛んだ。
「畜生!」
「やってやるよ!」
今まで固まっていたプレイヤー達が突撃をしかけたが、大剣で蹂躙されていった。
VRMMOでは肉体的なダメージを感じないので僕は立ち上がったが、僕に巻き込まれたお姫様はまだ立ち上がれなそうだった。
「お姫様!大丈夫!?」
駆け寄ると、お姫様は足を怪我したようだった。
足か・・・。
「・・・騎士様」
動けないで下を向くお姫様は、か細い声で言った。
「・・・弟のために、勝って下さい」
絞り出すような、何かに葛藤しているような、そんな語気だった。
・・・弟のため、か。
「分かった。任せて」
僕はお姫様を放置して再び立ち上がると、蹂躙する黒騎士を観察した。
特筆すべきは、プレイヤーに休みを与えない剣技。断続的な攻撃というものをゲームであまり経験したことが無いプレイヤーは、回復の隙ももらえず狩られている。死にゲーにアリガチなやつだ。
そして大剣の大きさもネックだ。薙払いを初見で対応できるのは、多分キズナさんぐらいだろう。僕も連続は無理だ。
防御力が0なので攻撃を当てられれば勝てるが、しかし。
ステータスは、
ネームドモンスター『火炎将ガジン』。
《解説》→竜の子孫だがその力は竜の100分の1にも満たない落伍者。今は人間界で庸平をしている。
HP 10000
STR 1000
DEF 0
Dex 200
SPD 100
INT 0
MDF 1000
LUCK 0
そして僕の攻撃力は1600。バフ無しなら7発だ。あまり現時的ではない。
ならもう、打ち合っての武器破壊しかない。
ウェポン『竜刈の大剣』。
《解説》→凡庸な大剣だが、火炎将ガジンによって立派な大剣に成り上がった。
STR+200
耐久値 400/2000
一回打ち合ったので、耐久値の残りは400。一撃で壊せる。行くか!
僕はワザと目立つように、黒騎士の正面から突撃した。黒騎士が反応し、周りで動き回るプレイヤーを無視して僕に斬りかかってきた。低姿勢で、大剣を引きずりながらの突進。前傾姿勢なので頭が無防備に見えるが、狙ったらヤバい。接近してくるが、ただ待つ。相手も僕も、SPDは100。同速なら、焦った方が負け!
「沙耶ぁ!!!」
コメント
<おいおい・・・>
<キズナ様はフォロー無理な距離か>
<ヤバくねぇか?>
<頑張れ!>
<頑張れぇ! by黒玉>
黒騎士が先に動いた。右肩を前に出し、勢いをつけての斬り上げ。僕から見たら、右下からの斬り上げ。僕は両手で剣を握ると、大剣が来る位置に細剣を置いた。
ガキィンッ!!!、と金属が打ち合う音とともに、忌々しい大剣が折れた。
「よっし!」
しかし気を抜いた一瞬で、黒騎士は僕の隙だらけな細剣の刃を手で掴み、捻り上げた。攻撃しないと僕のSTRは100なので抗えず、そのまま取り上げられた。
手ぶらになった。
ならもう、頼るのは慣れ親しんだ喧嘩作法のみだ。
「喧嘩の時間だ!」
僕は拳を固めると、そのまま取り上げることに必死だった黒騎士の腹に一撃を食らわせた。
武器が無くとも、一発1600ダメージ!
そのままラッシュ。腹、腹、慌てて防御しようとする黒騎士の画面に2発、ガードしてきたが構わず2発。
全てでクリティカルのエフェクト。骨の折れる音。
黒騎士が拳を突き出してきたので流し、その流れでもう一発腹に入れた。
ズガンッ!!!
黒騎士の鎧が砕け、そのまま黒騎士は倒れ伏した。
直後レベルアップの音楽。視界には『Level Up』の文字。
・・・どうやら、勝ったらしい。
`^`)/
あまりに色々なことがあったため、今日はこのまま夜営するらしい。リアルの時間を見ると、15:30。あと30分で今日の分のイベントは終了だ。
なので僕は、2人のスパチャ読み(スーパーチャット、投げ銭してもらった人の名前を呼んで感謝を伝える時間)に混ぜてもらった。
「いやー、喧嘩の時間だ、かー(笑)」
「カッコ良かったですよ」
「忘れてよホントに!」
僕は散々にイジられていた。
「喧嘩の経験があるのか?」
「ほんと止めてよね!?一応僕にもイメージがあるんだから!」
「で?実際どうなんだ?あのパンチ。素人じゃ説明がつかないぐらい綺麗だったぞ?」
「・・・」
「言って下さい。おねがいします(ハート)」
キズナさんが上目遣いでおねだりしてきた。これ、断ったら帝国民(キズナさんのリスナー)に殺されないかな!?
「・・・喧嘩は、したことがあるよ」
「何回だ?」
「嘘は良くないですからね」
「・・・100以上」
「すっげ」
「番長か何かだったのですか?(笑)」
コメント
<童顔で、裏ではバリバリの喧嘩屋か>
<すこ>
<すこか?>
<普通に殴り合いは格好良かったな>
<渾名は『番長』だな>
「止めてよ本当に!本当にそんなのじゃないから!」
「じゃあどんなのだったんだよ」
「いや、ほら、社会を舐めた奴とかいるでしょ?そういうのと、いや本当に止めて!この話は終わり!」
コメント
<悪質陽キャを滅ぼしてたってこと?>
<神じゃん>
<天使か?>
<普通に凄いな。ボランティア並みの社会貢献だぞソレ>
「終ーわーりー!!!」
「分かった分かった(笑)」
僕が騒ぐので、ガゼルさんは笑いながら止めてくれた。
「それじゃあ、最初の趣旨どおり残存戦力について説明していくぞ」
「残りは、私達を含めて26人ですね」
コメント
<減ったな・・・>
<最初は数百人いたよな?>
<残ってる奴って誰なんだよ>
<プロ級だろうな>
<それか『青髪番長』みたくリアルファイト経験者>
「番長じゃないから!」
夜営なので野原にそのまま座っての配信なので、僕は手をブンブン振って抗議したが、ガゼルさんにスルーされた。
「イベントは明日の10時~16時で終わり。1日目がドラゴン一体だったから、明日もモンスター1体とかだろうな」
「分かりませんよ?ここで数に頼られたら、ゲームとして面白くなりませんか?」
数に頼った戦法。囲まれる僕ら。お姫様を守るのが絶対条件(恐らく)。うん。秒で死ねるね。
「うんちだね」
「おい止めろ!」「止めて下さい!」
「あ、ごめん」
うんちもダメなんだ・・・。